羅針盤に細工した犯人は源慧。そのことに驚く加世。
「どうして、こんなことを……!」
「加世。この人には“龍の三角”に行かないといけない理由があるんだよ」
常世が言う。源慧は「お嬢さんの言う通りだ」と言う。
「皆を、巻き込むつもりはなかった。しかし漁師達に、この“龍の三角”まで乗せてくれと頼んでも、誰も引き受けてはくれなかった」
だから近くを通る船の羅針盤を細工し、“龍の三角”に行くようにさせたのだ。
「……震えて、いますね」
薬売りの言う通り、彼が合わせている手は大きくがくがくと震えている。
“何か”に、怯えているようだ。
「そこまで貴方を恐怖させながら、この海にまで来なくてはならなくなった理由……海座頭、問うがいい!」
べん
琵琶の音が、今までで一番大きく響く。
「お前が本当に恐ろしいことは、それはなんだ」
海座頭の問いに源慧は答える。源慧が恐ろしいと思うもの。源慧曰くそれがアヤカシの集う“魔境”に変化させたらしい。それは一体何なのか
べんべんべん
「――五十年前に私の“妹”が乗って流された、【虚ろ舟】」
全員が自分の問いを答えたことのに満足したのか海座頭と鬼火は去っていった。
「……海座頭は消えたのか」
胃の中に入っていた物すべて吐いたのかげっそりとした顔で幻殃斉は言う。
「【虚ろ舟】ってなんですか……?」
加世の問いに幻殃斉は説明した。
「それはな、元々は大木をくり抜いて作られた舟のことだ」
「中が空洞? そんな船に乗ったら出られないじゃない」
「そう、出られない……そういう舟なのだ」
本来、虚ろ舟とは浜辺で見つかった異国の女性が乗った謎の船等諸説が色々ある。(皆は知らないが数百年後の未来では江戸時代の未確認飛行物体(UFO)飛来事件と呼ばれることになる)
「そんな舟に、源慧さんの妹さんがどうして……」
「決まっているでしょ。出られない船に乗せられた。つまり当然逃げられない。妹は生贄にされたって事」
「えぇ!?」
常世の説明に加世は驚く。 金属の擦れるような音が、どこからか鳴り響く。その音を聞いた源慧は、突然目を大きく見開いて怯え始める。
「鎖の音が……! 【虚ろ舟】を縛った鎖の音が……!!」
源慧は両耳を抑え、ぐっと目を閉じる。また一度、鎖の音が鳴ったかと思うと生簀の色が真っ赤に染まる。音の原因だろう細い鎖が空から現れ、生簀の中にある何かを引っ張り上げる。やがて生簀から現れたのは、鎖に巻き付かれ、貝や苔が張り付いた古く大きな大木。おそらく……いや間違いなくこれは源慧の妹を乗せた【虚ろ舟】。周りが驚いている一方、薬売りと常世は静かにしていた。
「師匠。【真】と【理】が見えてきましたね」
「ああ」
そんな騒がしい彼らをよそに、薬売りは【退魔の剣】を構えた。
「あのモノノ怪の【真】と【理】、お聞かせ願いたく候」
「……許しておくれ、【お庸】」
源慧は妹、お庸に謝る。
「よもや、よもやここをこのようなアヤカシの集いし魔境に変えるほどの怨念を持ち続けようなど、どうして、思えよう……っ」
「モノノ怪の形、来たれり」
カチン