ぺん
ぺん
目の前にはたどたどしく琴を奏でる少女。顔立ちからして少女時代のお蝶だろう。それを見守る母らしき女性。
「お前には、生まれついての器量があるんだ。この器量に、十分な嗜みを身につければ、いかに浪々の育ちとは言え……いずれは“
「……はい、
「やめろ……それを見せてはならん!!」
元の衣服に戻った男は声を荒げる。お蝶も元の衣服に戻ったのだが両手で顔を覆い隠して小さく泣いていた。
「そろそろ頃合いだな」
「面を外すんですか?」
薬売りは頷き、面を外す。常世が描いたへのへのもへじが現れた。薬売りはワザと天秤たちを鳴らす。
「めでたしや、めでたしや。いやぁ、いい芝居でした。楽しませてもらいましたよ」
「まさか人外が人間に求婚するとはねぇ。驚き驚き」
薬売りと常世はワザとらしく手を叩いた。
「貴様……その面は」
「【面】、ですか」
自分が倒した薬売り。顔はふざけた落書きだから無理もない。
「私はこの方の弟子。すぐにこの顔を描いたの。理由はコレ」
面の字を書いた薬売りは、そのまま自分の顔を隠すように片手で覆う。
「所詮人の顔など、“表”に現れている【形】に過ぎない。私がこの面を“表”と認めれば……いとも容易く、私の顔となるのです」
薬売りの顔は元の色男に戻った。
「私がいる限り、師匠の顔を消しても元通り。意味が無いよ」
男は自分の羽織で顔を隠したかと思えば、青く怒りの表情をしている面に変えていた。
「おや、また【顔】が変わった」
「お前の仮面は面白いねェ。道化神楽で養うというわけだ」
シュンシュン
退魔の剣が飛んできた。しっかり掴む薬売り。いつもの様に構える。
「お前の本当の【顔】はどこにある?」
「っ、はああああ!!」
男は怒りの形相の面のまま、常世に襲い掛かる。常世がいる限り薬売りは復活するからだ。しかし
ガキン!
常世はかんざしで弾く。その隙に薬売りが攻撃を仕掛けた。
ガキン!
キン!
(こいつ出来る!)
薬売りといい勝負だ。 やがて三人は間合いを取り、互いに鋭い視線でにらみ合う。
「常世 下がれ」
「はい」
薬売りの指示に従い、下がる常世。薬売りは手鏡を用意する。男は煙管を面にくわえさせ、ふ……と紫色の煙を蒸す。おそらくあの煙が薬売りの顔を奪った物だろう。薬売りは鏡を、その煙に向けてまっすぐ男に放り投げた。途端、その鏡は彼らの身の丈ほどの大きさに変わり、紫の煙を男に向けて返した。
「しまった……!」
男が着けている面が、怒、笑、悲、おかめ、翁とぽんぽん変わっていく。そして、その全ての面に罅が入り……男は苦しみだした。
「ぐぁあああああ!!!」
その苦しみに続いて景色が変わっていった。