ただの薬売りの弟子ですよ   作:WATAHUWA

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苦しむ男の声に合わせて部屋が崩れていく。お蝶はショックを受けたように「やっと、掴んだ、新しい……人生が、崩れていく」と言う。佐々木家の家庭内暴力を受けていたため、そうなっても無理もない。しかし薬売りは「こんな偽物。全て貴方を騙すためにモノノ怪が仕組んだ【芝居】だったのですよ」と言う。わざわざ【面】を被り、凝った芝居をうってまでして、お蝶から何を“隠したがっている”のか

 

「それじゃあモノノ怪が隠したがっているの見ようかね」

「【表】を忘れた、モノノ怪 形を、表せ」

 

苦しみ、地面に倒れた男の顔から……ずるりと、【面】が落ちた。

 

 

「はっはっは――貴様らの思い通りになってたまるか」

 

落ちた面がパカパカ動きながら喋る。お蝶の事を想うあまりそう簡単にいかないようだ。

 

「むう、しぶといなぁ。………師匠の邪魔」

 

常世は面をガシっと掴む。

 

「しないで!!」

 

上へ投げる常世。薬売りも「【本当の形】を、見せぬ気ならしばらく大人しくしておいて、もらいましょう!」と札を包帯の様にしたものを放つ。その為、面はグルグル巻きにされ、薬売りの手に収まった。

 

「やれやれ、仕方がない」

 

薬売りはうんざりしたような表情をしたかと思えば、その手にあった面をお蝶に渡した。

 

「常世。札を」

「はい」

 

常世は大量の札を出す。

 

「モノノ怪の【形】を成すのは、人の因果と縁 人の情念や怨念に、“アヤカシ”がとり憑いた時……アヤカシは【モノノ怪】となるのです」

 

薬売りの言葉に合わせ、大量の札は3人を囲む壁になっていく。お蝶の過去を見るためにだ。

 

 

「“お蝶の一生”、第一番」

 

薬売りの言葉によって始まった。

 

『おい酒だ! 酒を持って来い!!酒を持って来いと言っておるのに何をやっているのだ!』

 

男の怒鳴り声を聞き、お蝶はばっと耳を塞ぎガタガタ震えだす。

 

「師匠。佐々木家のやつですね」

「ああ。そうだ」

 

佐々木家の者達の声を聞きお蝶は怯えていく。

 

「ふっ、モノノ怪がとり憑くには、絶好の情念具合――」

「出来るのは無理もないですねェ」

「笑い事では、ありません……!!」

 

お蝶は怒鳴る。確かに本人からすれば笑いごとではない。そんな彼女にとって唯一の癒しは台所から見える【空】だった。

 

「母上、様……」

「お前は私の若い頃に生き写しだ。お前ほどの美しさがあれば、必ず武家の奥方になれますよ。」

 

(母親?)

 

いつの間にか幼いお蝶と母が現れる。

 

「こいつは……しぶとい」

 

様子からして佐々木家が原因ではなさそうだ。

 

 

「私は、母上様が好きでした」

 

お蝶は話し始める。母は器量が良いから女の嗜みとして箏や花などを教え込んだ。

 

「……はい、母様」

 

お蝶が応えると母は「おぉ、良い子じゃ良い子じゃ」と喜ぶ。

 

「だから、喜んでもらおうと……」

 

「耐えたのか」

「だから逃げなかった」 

「……え?」

 

薬売りと常世の言葉にお蝶は驚く。そう…お蝶が佐々木家の家庭内暴力に耐え、逃げなかったのは母の存在があったから。

 

「何度言ったら分かるのです!!」

「っ、ごめんなさい!!」

「そこは何度も稽古したでしょう!」

「ごめんなさい、ごめんなさい……っ」

「もう一度、最初からやり直しです!」

 

お蝶の母はいわゆる毒親。幼いお蝶に「あなたのため」と言い聞かせながら強圧的に言動を束縛し、自分の思い通りの道を進ませることに執着していた。

 

 

「見ろ」

「まあそうなりますね」

 

母に必死に謝るお蝶。するとお蝶から魂だけがひとり歩きしてしまっているように“もう一人のお蝶”が現れた。そして襖の模様である鞠を取り、鞠つきして遊び始める。

 

 

「嘘……嘘よ……」

 

お蝶が言うのは無理もない。母に喜んでもらおうとお稽古を頑張ったのに心は年相応に遊びたかったと伝えているからだ。

 

 

こうして大人になったお蝶は佐々木家に嫁入りした。しかし佐々木家は酷い奴らである。

 

「父を早くに亡くし、家禄を召し上げられ、全てを失った母にとって……私を武家の家に嫁がせる事だけが、母の“生き甲斐” だったのです」

 

そんな母の目に留まったが佐々木家だったのだ。

 

「……だから貴方は、【母の願い】を叶える為の“道具”になったと」

「あんたのことを愛してなかったんだねぇ」

「っ、違います!!」

 

お蝶は声を荒げる。そんなお蝶に常世は言う。

 

「本当のことじゃない。あんたを愛しているなら、たとえお偉いさんの家でもあんな家に嫁がせないはずでしょ?あんたは師匠の言う通り【母の願い】を叶える為の“道具”だったの」

 

「そして“あれ”はなんだ」

 

花嫁姿のお蝶からまた“もう一人のお蝶”が現れた。壁に入り込む“もう一人のお蝶”。彼女の前に現れたのは面の男。二人は仲睦まじい恋人そのものだ。

 

「【母の願い】の為に、自分の心を失くし。【母の願い】のために、自らを“道具”と化した貴方は、恋をした。その恋をした相手は……【誰】だ?」

 

お蝶は誰を殺したのか

 

「やめて……やめて、やめて」

しゃがみこみ、ガタガタと震えだす蝶。きっちりとした髪は解かれ、長く綺麗な黒髪が垂れる。

 

(もう少しで【真】と【理】が示される。)

 

「モノノ怪が、その“面の男”を操り、貴方を欺き、あの家に“縛り付けた”」

 

それが【真】

 

カチン

 

【真】が示された。

 

「そして母親の、歪な愛情を受け止めようとして」

「……違う」

「貴方の心は病み」

「違う、違う、違う!!」

「モノノ怪が、とり憑いた」

「ちがぁあああぁああう!!!」

 

「……それが、【理】」

 

 

 カチンとまた、退魔の剣が一度鳴る。

 

「師匠。初めて【形】が最後になりましたね」

「確かにそうだな」

 

いつも【形】が最初に示された。でも今回は最後である。

 

「私、頑張ったの……」

 

するとお蝶が病んだ。母はお蝶の声に耳を傾ける気配はなく、会話にもならない。必死に母に向かって泣き虫な子供の様に叫ぶお蝶。そして

 

「……私 私……」

 

 

 

 バッカみたい。

 

お蝶はとうとう母のために行動した自分の事をバカだと自覚した。

 

「お蝶 お前が殺したのは、誰だ?」

「誰か分かる?」

 

「私が、殺したのは?」

 

彼女が殺していたのは、旦那とその一家ではなかった。常世はお蝶が持っている面の札を解く。お蝶は薬売りの手鏡で【形】が分かった。お蝶が持っている面は獣面ではなかった。

 

「モノノ怪は……【私】?」

 

お蝶が持っている面は“お蝶の顔”。モノノ怪の【形】。それは

 

「己の【面】を忘れた【のっぺらぼう】」

 

常世が言うとカチンと退魔の剣が鳴った。

 

「解き 放つ」

 

姿が変わる薬売り。しかしいきなりお蝶に斬りかからない。

 

「のっぺらぼうは、何故……私を助けてくれたのでしょう」

 

お蝶の問いに薬売りは答えた。

 

「強いて言うならば、【恋】でも、したんじゃないですかね。貴方に」

 

 

 

ズパン

 

 

 

 

 

「モノノ怪も恋するんですねぇ」

「常世も恋をしたいのか?」

 

からかう様に聞く薬売り。その問いに常世は答える

 

「師匠がいてくれたら充分です!」

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