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真冬
ひらりひらりと降る雪の中、薬売りと常世は歩いていた。
カタカタ
箱に仕舞った退魔の剣が2人に伝える。
「近いか」
「近いですねぇ」
二人が着いたのは大きな屋敷だった。薬売りと常世はいつものように勝手に屋敷へ入る。すると
「おやおや」
「これはたくさん」
本来、見事に手入れされているはずの庭が墓石だらけだった。モノノ怪による犠牲者だろう。そんな庭が見えるはずなのに男性3人が縁側でお話をしていた。
「死んだことに気づいていない か」
「今回の【形】と【真】と【理】は彼らから聞くぞ」
薬売りは常世を連れて、彼らの下へ行く。服装からして公家出身らしき男が言う。
「香は“嗅ぐ”とは言わしまへん。香は“聞く”と言うでおじゃる。」
なんでもお香とは“香りを聞く”雅な物。いろんな流派があるらしい。この屋敷もそのうちの一つ、笛小路流の家元で長らく途絶えておるものと思われていたが家元のお嬢様である瑠璃姫が守っていたそう。そして笛小路流を再び盛り立てたいとのことで四人の婿候補に【組香】(香りの異同を当てるもの)で決めることを提案したそうだ。
(つまり墓石の主たちも婿候補だった。……にしても四人?)
常世は疑問符を浮かべる。薬売りと常世の傍にいるのは3人。1人足りない。とりあえず今いる3人の婿候補について紹介しよう。
「おじゃる」口調で話す公家。
気性が荒く、直情的な東侍。
廻船問屋を営んでいる商人で、香道では有名人。
「あと一人は……」
薬売りと常世は座礼(すわっている時の 礼儀作法)をしている。
「はて……
四人目の婿候補・実尊寺じゃなく、薬売りと常世だった。隣に座っている大澤は薬売りと常世の事を聞く。その問いに答えるために薬売りと常世は丁寧に頭を上げた。
「ただの……薬売りで、ございますよ」
「ただの薬売りの弟子でございますよ」
「「「?」」」
薬売りと常世の答えに3人は疑問符を浮かべる。
「薬屋を商うそなたらがどうしてここに?」
その問いに薬売りと常世は答える。
「【モノノ怪】が、出るようなので」
「師匠が斬りに来ました」
その答えが冗談に聞こえたのか「ほほほほ! 面白いことを言うでおじゃる」と大澤は笑った。
「モノノ怪とな? しかし、貴殿は“ただの”薬売りではないか」
室町が言うと退魔の剣が入っている箱がひとりでに開いた。
「「………。」」
「………違う、のか?」
「言ったでしょ?斬りに来たって」
そう話していると「……ごめんやす」と使用人らしき老婆が現れた。
「炭の用意がそろそろできますよって……」
「おぉ! 左様でおじゃるか!では、実尊寺はんは遅刻言うことで……」
「来ぇへんっちゅうことは、瑠璃姫様の婿となる意思を捨てたと解釈するべきでんな!」
「――ぎゃいっ!」
老婆についていく3人。薬売りは常世に言う。
「彼らの後は俺がついていく。お前は見廻ってくれ」
「わかりました」
二人は一旦別行動することになった。