ただの薬売りの弟子ですよ   作:WATAHUWA

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婿候補三人は薬売りと常世に説明する。彼らが執着している【東大寺】とは天下第一の名香と謳われる香木【欄奈待】のことだ。室町曰く手にした者は“天下人”になるとのこと。実際、正倉院にある【欄奈待】は、足利義政公と、織田信長公が切り取った跡があるそうだ。

 

「ほう……? しかし、正倉院にあるはずの【欄奈待】が、なぜここに?」

「まさか盗まれた?」

 

「【欄奈待】は二つあったのでおじゃる。風の噂で瑠璃姫がその一方を持っていることが分かり――」

「“わてらが”なんで、東大寺を求めるのかもうよろしいでんな?」

 

大澤の言葉に、半井がかぶせる様に言ってきた。

 

「では、夜が明けぬうちに……」

 

室町のその言葉が合図だったかのように、三人は去った。

 

「常世。紙を一枚」

「はい。」

 

常世は紙を一枚渡す。薬売りは長い爪で自分の肌をひっかき、少しだけ出た血をその紙につけた。

 

「次は髪の毛一本」

「はい。」

 

常世は櫛にわずかについた髪を渡す。

 

「組香は“竹取の香”をする。幻覚香を嗅がせた後、夾竹桃を入れた物を用意してしまったと言うぞ」

 

“竹取の香”とは、まず【試しの香】という二つ香を用意する。それらをかぐや姫と翁に見立て、その二つと別の三つの香をさらに用意して、一つずつ順番に聞いていく。香を聞いた後、それをかぐや姫か、翁か、それ以外の香であったかを述べ、不正解ならその場で負けという組香だ。薬売りは幻覚香を嗅がせた後、薬にも毒にもなる夾竹桃を入れた香を出し、どれがそれなのか分からなくなったと言うつもりなのだ。ただし

 

「師匠ったら意地悪ですねェ。高価な夾竹桃持ってないのに」

 

常世の言う通り、夾竹桃は高価なもの。流石の薬売りも持っていない物だ。

 

「ふ…。彼らの場合、これくらいやらないと死んだと気づかないからな」

 

精神的に過激な方法で自分は死んでいると理解させるつもりのようだ。

 

「さて、香は彼らがいる場所で用意するか。常世、焚いた香はお前が持って行ってくれ」

「分かりました。」

 

***

 

 

三人が集まっている部屋で香の用意する薬売り。

 

キィィィィィ

 

(また虎鶫)

 

また虎鶫の鳴き声が聞こえた。婿候補三人は不気味な鳴き声にごくりと息をのんだ。その為、話題は自然と【鵺】になる。

 

「モノノ怪は、【鵺】、なんだろうか」

 

不安げに言う室町

 

「さぁ。未だ、その形を得ては、いませんので」

「ホント早く形を見せてほしいですよねぇ」

 

薬売りと常世が言うとだ。

 

「もう、現れておったりしての」

 

大澤が冗談の様に言った。しかしこの場にいる者達からすれば恐ろしいこと

 

「洒落にならん」

「……すまんでおじゃる」

 

大澤はしょんぼりと謝罪した。しばらくして薬売りは香の準備を終えた。

 

「試しの香、かぐや姫。焚き上がりました」

 

常世は幻覚香を彼らの下へ持っていく

 

「どうぞ」

 

丁寧に大澤の前に置く常世。大澤は香を聞くが怪訝そうな顔をした。室町と半井も同じくである。

 

(よしよし。)

 

少しすれば幻覚香の効果が出るだろう。

 

「翁、焚き上がりました」

 

先ほどと同じように、香を大澤の元へ持っていく常世。香を聞いた大澤は焦ったような表情になっていた。

 

(流石師匠。そう簡単に分からなくしている)

 

「……では、本番。一の香、焚き上がりました」

 

常世は大澤の下へ持っていく。自分の前に置かれた香を聞こうとした時だった。

 

「おっと」

 

薬売りはワザとらしく言った。

 

 

 

 

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