「ちょっと、しくじってしまいました」
「うん? 何を、しくじったと申すか?」
「いやぁ、手持ちの薬の中で、これは使ってはいけないとよけておいた“夾竹桃”をつい、混ぜてしまいました」
「まあ!師匠ったら!」
薬売りは三人に夾竹桃をどれかに入れてしまったと嘘をつく。
「もう!師匠ったらうっかり屋さん!」
「いやぁ、うっかり、うっかり」
当然室町と半井は怒るが大澤が「こなたは、続けようぞ」と続ける。
「これはかぐやでも翁でもない」
その様子を見ていた二人も、静かに席に座りなおす。半井も香を聞き、次は室町の番。ただし彼は疑問符を浮かべていた。
(あ。師匠の血か私の髪か)
「おや、なにも香りがしませんか?それは“襖”。血のたっぷりしみ込んだ、襖の切れ端なんですよ」
「……?」
「貴方の為に、用意しました……実尊寺さんを殺した、貴方の為に」
そう言った瞬間だった。
「わ……わぁぁああああああ!!来るな! 来るな! 来るなぁああ!!」
室町は実尊寺がいた部屋から後ずさり、悲鳴を上げ、更に刀を振り回す。
(うん。効果テキメン)
「来るな、来るな……来るな!! うわああああああああああ!!!!」
そう叫んだ瞬間、室町は【消えた】。呆然とする大澤と半井。
「二の香、焚き上がりました」
薬売りと常世は普段通りだった。思わず無言のまま見合わせる大澤と半井。
「どうぞ」
二の香を大澤の前に置く常世。大澤は緊張気味に二の香を聞く。そして
「は~~~…」
胸を撫で下ろした。これも夾竹桃入りの香じゃなかったようだ。
「これも、違うでおじゃる」
「は~~~…」
次は半井の番。二の香を聞いてみる半井。でも
「ん?なんやこの人の髪の毛を燃やしたような」
(おお。言い当てた)
香道で有名なのは伊達ではなかった。薬売りも「流石半井さん」と言う。
「さて…誰の髪の毛でしょうね」
疑問符を浮かべる半井。ただし段々冷や汗を流す。
「ま、まさかぁ!!」
大声を出した瞬間、半井は【何か】を持ち上げる
「あんたが!!あんたが悪いんや!!」
半井は何かを突き刺しているように動く。そして一通りやると自らの手のひらを見て
ぶしゅううううううう
彼の背から血が噴き出し、倒れた。
「ひい!!」
怯える大澤。そして半井も【消えた】。目の前にいるのは普通に座る薬売りと常世。
「三の香、焚き上がりました」
「ほら、早く座って」
当然大澤は嫌がる。しかし
「東大寺はいらないのですかな」
東大寺をちらつかせられたため続きをすることにした。
すぅ…
三の香を聞いた瞬間だった。
「あぁ!」
声を上げる薬売り。夾竹桃入りはそれだったのだ。
「ど、毒消し!毒消しはおじゃらんか!!」
「確か……水を沢山飲めばよかったような……違ったような……」
「庭に池ありましたよねぇ」
薬売りと常世の言葉を聞き、走る大澤。ただし派手に転び
ゴキィ!!
死んだ。こうして三人はやっと自分の人生はとっくに終わっていると自覚出来た。そして今回のモノノ怪は
「ねえモノノ怪の【鵺】」
瑠璃姫が座っていたところに居たのは仮面をつけた女の姿をしたモノノ怪【鵺】。『平家物語』によると、その姿顔は猿に似て、胴は狸、足は虎、尻尾が蛇。ただし『源平盛衰記』には、頭は猿、背は虎、尾は狐、足は狸とある。いわば見る場所によって違う正体不明の妖怪と呼ばれている。今回のモノノ怪【鵺】は瑠璃姫、老婆、童男、童女と見る場所によって姿が違う。
「いや今は東大寺とお呼びする方が良いのですかな」
「まさか正体が香木だったとはねェ」
【形】を示したため、カチンと鳴る退魔の剣。夜な夜な終わる事のない組香を行わせるのが【真】。ただの木を価値のある物と言ってくれる人が必要。それが【理】。
「だからといってこれはやりすぎですね」
「師匠の言う通り、沢山殺したねェ」
「ほんならどうする?お前らも皆の仲間になったらええ」
鵺の言葉に合わせて婿候補四人を含めた犠牲者が苦しそうに現れた。でも薬売りと常世は気にしていない。
「【形】【真】【理】。三つによって剣を解き、放つ!!」
入れ替わった。
「ガアアアアア」
「師匠の邪魔しないで」
常世は金色の札で防御した後、札を長方形の箱にして鵺を閉じ込める。
「師匠!」
薬売りは札の箱ごと鵺を斬る。残った仮面が襲い掛かるが気にせず退魔の剣を突き刺す。
そして
カコン
東大寺ごと斬った。切り口が燃える東大寺。すると
「わあ…。いい匂い」
常世の言う通り、とてもいい香りが漂う。確かに天下第一の名香と謳われるほどだ。色づく景色。しかしそれは少しの間だけ。屋敷は本来の姿である廃屋に戻った。