(これでも無理か)
今まで話してくれない。しかも「さっさと抜け」と文句を言う者達には「抜けないのはお前らのせい」と言って来た常世。いつもなら最後は怯えながら話すのにご隠居達は話さない。
「まだ奥に、逃げられる」
そう言ったのは、伊國だった。伊國はご隠居の後ろの壁に何かをする。すると壁に描かれた木の絵が見る見るうちに女の絵に変わる。そして、その壁は地鳴りのような音を立てて開く。
「隠し通路(……まさか珠生さんを)」
階段があり、奥には部屋があった。さらにだ
「あ――――――――これさっきモノノ怪が着てた花嫁衣裳」
加世の言う通りモノノ怪が着てた花嫁衣裳があった。
「あんたたちのせいよ……あんたたち男共が……あ、これモノノ怪を呼び寄せたのよぉおぉお!!!」
さとの言葉。「男共のせい」。そのことに薬売りと常世はわかった。
「化猫の真は、【あんた】だ」
薬売りが言った瞬間、カチンと退魔の剣が鳴ってくれた。しかしご隠居は話してくれない。
「アレを為したのは、あんたなんだ。あんたは、話す義務がある」
「……義務?」
「お前のせいで嫁さんに息子夫婦、下働きに家来が死んだ。みんなのために話さないといけないの」
薬売りと常世の言葉でご隠居は話した。ずっと昔の坂井家は周りが恐れるほどの権力があった。その為、当時のご隠居は伊國のようにやりたい放題だ。そんな雪が降るある日、馬に乗っていると前から嫁入り道中の輿が来た。当然、お輿を持っている男たちは避ける。先を進もうとするご隠居。お輿には花嫁衣裳を着た綺麗な娘。彼はその娘をバカなことに誘拐した。
「娘が……珠生が、悲鳴を上げたら……すぐに帰してやるつもりだった だが……」
娘は怯える様子もなく、この隠し通路の奥の部屋でも大人しいまま、ただ微笑んでいたそうだ。
「ほとんど、抗う様子もなく……まるで――進んで儂に、もたれ掛かるような態度で……それで、どうしようもなく……今更、家に帰しても可哀想なだけだと」
なのでご隠居はこの隠し部屋で珠生を匿った。綺麗な着物や料理を用意したり、寂しくない様に仔猫を連れてきたりした。しかしある時、死んだそうだ。
「この屋敷から花嫁が出ていくのが、許せなかったんだろうよ」
奥の部屋の扉の前にいる伊國が言う。
「さても……女の恨みとは、度し難いことだ」
「お前が言うのか! お前が!」
階段の途中で座り込んでいたさとが、立ち上がり伊國様に怒鳴り散らす。
「師匠!まさかこれは嘘!?」
「何!?」
「だって自分を攫った奴に甘えないです!それに奥さんと下働きが異様に怯えています!」
珠生に優しく接していたなら絶対に怯えない。逆に怯えているのなら珠生にやらかしたという事だ。
「非道い、非道い、非道い話よぉおお!!」
発狂した里の言葉が合図だったかのように、ついに化け猫が本格的に暴れだした。加世はさとを連れて奥へ逃げようとしたがさとに首を絞められた。
「いい加減にしなさい!!」
ザシュ
「あああああ!!」
常世がかんざしでさとの手を突き刺した。
「加世!加世!」
「げほ!…し、死ぬかと思った」
加世はなんとか助かった。
「お前もだお前も死ねぇ!!私を馬鹿にして! お前も地獄に落ちるのさぁああ!!」
「自業自得!!」
ドス!!
今度は蹴りを入れる常世。
「頼む……頼む、頼む、頼む……!何とかしてくれぇえええええ!!!」
常世が強いと言っても相手は発狂した大人。何をするか分からない。小田島は叫ぶ。
「小田、島様の……頼みとあっちゃあ、仕方ない……」
「え!?師匠!?」
薬売りが退魔の剣を抜こうとしていたのだ。周りは当然固まる。
「え?薬売りさん示したの!?」
「示してない!真なんて嘘だった!師匠駄目です!」
常世は薬売りの下へ走る。
「真と、理によって――剣を解き、放つ!!」