デスゲームに花束を(改定)   作:らふ

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第10話1人と一人

「同情はいらないです。」

 

とマユリが言ったのはあの告白から何分間経った頃だろうか。余白を埋めようとして、何も言う事が出来なかった俺はいつまで彼女の言葉を待っていたか

 

きっと今俺の顔を鏡に映しでもすれば、一層腐った瞳に生涯の嘆きを込めて、「なんて酷い顔だ」と呟くだろう。

 

「と、言っても八幡くんは同情なんかしないですよね。」

 

予想通りの言葉に、あぁこの子は俺の事を見透かしているんだなと漠然とした考えを持つ。

 

俺は同情なんかよりも………身近にあって、無視し続けて、卑近にある事すら気づかない、"何か"を背負っている。

 

「そう、その目です。諦めて、妥協して、冬の訪れのように枯れ始めて、尚しげる緑の草花ような……私はその目をもつ人を探し続けて居たんだと思います」

 

「….何を言っているのか、分からない」

 

口から出る言葉は嘘と欺瞞に満ちている。もしもう一人の俺がいるならばすぐさま俺の口を切り落とすだろう。あんなに嫌った建前を、場を整えるためだけに使ったのだから。

 

マユリは尚も変わらず、おっとりとした様に、俺の瞳を覗き込むように距離を詰める。

 

俺達の距離は本当に近づいているのか?そんな疑問さえ、浮かぶ事はなかった。

 

「あ……怖がらせるつもりはないの。それは本当に…ないから」

 

俺の額から汗が零れ落ちる。どうやら怖がっていると思っているのか、マユリはシュンとして、すとんとその場に座った。

 

俺は怖がってなんかない。俺の不甲斐なさ、言い様のない感情がもどかしくて、見えない俺の表情がそうさせただけだ。

 

「私は、八幡くんが傷ついて欲しくないの。だから、戦いに出て欲しくない……です」

 

そう言われて俺の脳裏によぎったのは悲しむ小町の顔だった。泣いている小町に「美容に悪いから、泣き止め」と宥める俺。今の小町には泣くのを止める存在がいない。きっと小町なら「気がすむまで泣けるからスッキリしたよ」とか言って泣いた跡を隠すだろうが。

 

それでも、俺は小町のそばに居たい。全ての原動力は小町の為で、その僅かを戸塚に注いできた。

 

だが、死んでしまえば元も子もない。

 

「安心しろ、俺は妹の為にも死ぬ訳にはいかない。あくまでその他大勢でいるに限る」

 

「そう言うと思った。ほんと重度のブラコンだね」

 

きっと彼女は笑っているだろう。

 

幻想と遠い景色を見つめて、彼女の顔は伺わないけれど。

 

「うっせ」

 

「私ね、男性恐怖症だから男の人が近づくと悲鳴あげちゃったり、後ずさりしてしまう」

 

過去に大きな男性関係のトラウマを抱えた女性は傷が癒える事なく症状として根付く事があると聞くが、彼女がそうなのだろうか。

 

……………つまり、俺は男性として見られてないってことね。わかります。

 

「ち、違います。八幡くんを男性として認識してないってことじゃなくて……だから、そんなに落ち込まないで」

 

マユリは心配したように宥めてくれる。

 

落ち込んではいない……です。

 

小町、俺はやっぱりお前の理想にはなれないようだ。許しておくれ……

 

マユリと二人だけの空間は意外にも緊張や、緊迫はなく、包まれる緩やかな空気感は、弛緩さえ充満している。

 

「その、八幡くんはお父さんみたいです」

 

「お父さん?」

 

マユリが言った当然の言葉は、彼女の悪意は一つもないようで、ニュアンスが違うのだと感じた。

 

父親。両親。家族。言葉の数々を連想するにつれて、嫌な記憶しか流れてこない。

 

家族なんて、妹しかいらない。あとは何も、いらない。しかしマユリはそうではないのだ。両親が殺された、と告げた彼女は家族の重要性が俺よりも遥かに高い。いや、彼女が普通で、俺が異常なのかも。しかし、それは議論の余地さえなく

 

「小さかった頃を思い出すと、大きな背中と優しげな瞳、柔らかく開ける口、「大きくなったな、マユリ」と言って頭を撫でてくれる、そんなお父さんの姿を思い出すんですよね。」

 

立派な父親だったのだろう。マユリの口から出るのは全て褒め言葉で、彼女の語る父親は素晴らしい親だ。

 

全ての親が彼女が語る親のようであれば、この世界も少しは救われるんじゃないだろうか。

 

家族、家族と、その言葉を想起する度に空気に似つかわしくない、苦しげな影が、俺の脳裏に覗く。

 

「お父さんの雰囲気と八幡くんの雰囲気が不思議と重なって……だから、怯えずに関われたんですよ?」

 

「ふーん。安心……か」

 

マユリから「パパ」とでも呼ばれた日には卒倒するだろう。後アスナからはリニアを食らって説明を求められるのは想像がつく。念のために後で釘を刺しておこう。間違いが起こらないように

 

「ねぇ…八幡くん。私は信用できない?私は八幡くんが思っているような人じゃないよ」

 

信用しているかそうでないかで言われれば、信用している。

 

マユリと過ごした時間は長くはないが決して短い期間ではない。一生のうちの一か月として考えればとても短いが、そんな無粋な考えはできない。

 

ここは偽物の空間でも、流れる時間は本物なのだ。

 

だから、今の俺は到底好きになれないだろう。

 

「すまん。」

 

と、答える事しか出来ない、マユリの期待に応える事ができない、情けない俺は好きになれない。

 

「そっか」

 

陽は沈み、やがて星が煌めく夜になる。数多く光る星々は幻想であれど凄く綺麗だ。

 

この世界にも月がある。夜空に柔らかく光る月は絶えず俺達を照らし続ける。

 

虚像やイミテーションも全てが作り物のこの世界では何の価値もない。

 

ただ価値があるのは時間、人と人とが関わり合って繋がって、広がっていく時間。

 

その貴重性を俺は理解することができない。頭で分かっていても必ず理解出来るわけじゃない様に、理解できていても必ず分かるわけではない。

 

その事を考えた時、俺の孤独は全てが作り物のこの世界であっても薄れることは無いのだと気付かされる。

 

「ねぇ、私達の間に何があるのかな」

 

マユリが言った言葉を漸く理解した。彼女が含むニュアンスは俺とマユリとアスナ。

 

俺達の間に何があるのか。

 

暗然として、確かにある空白と欠陥は、絶対的な孤独。

 

その答えを俺はやっと理解できた。

 

「変なこと喋っちゃいましたね。さっ、帰りましょう!」

 

涙声で響くマユリの言葉は辺りの星々に悲しく響いた。

 

立ち上がって、やっとマユリの方を見た。

 

俺達の距離は2メートル程離れていたが、目を凝らして見る必要もない。

 

しかし、この時ばかりは目を凝らした。今までの経験ですっかり凝ってしまった目を更に凝らして

 

「Pohぅ……マユリを離せ」

 

いつの間に現れたのかマユリはPohに腕を抑えられ、身動きが取れなくなっている。が、彼女はそれどころではない。

 

男性恐怖症。恐らくPohと最初にあったころ反撃もできずに迫られていたのはそれが原因だろう。

 

「家が大火事、涙が洪水なぁんだァ?」

 

マユリはすでに涙を枯らしているが、尚潤んだ目で俺に訴えている。肩は僅かに震え、唇はぷるぷると揺らし、怯えたようにPohの腕を払おうとする。

 

「離せ。」

 

言葉は自分でも驚く程冷えている。今の心境は毛虫を取り払うような時の心境に似ていた。苛立ちとともに、今までの恨みが湧いてくる。

 

「Hey bro俺を見てくれてるのは嬉しいゼェー、だがなァ外野にも一瞥くれてやったらどうだ?」

 

Pohの発する言葉に僅かな違和感を覚えるものの、こいつの考えていることはわかる。恐らく周囲には敵が数名。それも囲むようにいるのだろう。Pohのことだ暗い部分に慣れた連中。それも極悪だろう。人を殺さずとも条例に引っかかりそうな奴らだ。

 

「くそっ、」

 

周囲の連中は何か話し合っている。彼らの目つきは心底気持ちの悪いもので、下卑た目を此方に向けている。俺の目もこんな感じなのか?

 

こそこそと、何か話している。彼らの目の先は俺ではなく、マユリの方へと向けられているのに気づき、下卑た目の含む感情が分かった。

 

気持ち悪い………なんなんだこいつら

 

「威勢がいいねぇー、お前ら、イッツショーターイム!!!」

 

くそくそ…くそくそくそ!クソ!!いつのまにかマユリは縛り付けられ、Pohは離れた所で見ている。

 

ぐへへへ、とまた何かを呟きながら彼らはマユリの方へとたむろする。ぞろぞろこちらにやってくる数人の男。

 

今はこいつらの相手をする事が先決だ。恨みはないが、マユリを殺そうとしていることは分かっている。

 

殺される前に、殺す。それが今俺がやるべき事だ。

 

 

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