迫り来る彼らのレベルは大したことなく、簡単に倒す事ができそうだ。
「マユリ待ってろ。今助けるから」
目の前の男は華奢で周囲に浮いて若い。20代か?分からないが、目の奥に光る色にゾッとする。
目奥に光る色は寂れた青と、妖しく濁る紫、深淵のように虚空に空いた黒。
彼らの抱く感情は殺意とも違う、染み付いて、ねちゃねちゃして本当に気持ち悪い感情。
彼らの全部がそれで埋め尽くされているのだとすれば本当に吐き気がする。
「悪いがお前には死んで……くっ………ぁ!」
首元に刃を当てた所で例の発作が起こった。頭味噌がぐるぐる掻き回されたような酔いに満たされて、その場に蹲る。
身体中の血液が脳に集中して集まって行くような、焦りと、不安がより一層脳をぐちゃぐちゃにした。
くそっ、なんでこんな時に………
「ぅ………」
「何こいつ。いきなり蹲ってんだけど。うける」
やばい……早くマユリを助けなくては。間に合わなくなる前に……はやく。動け……俺の体。
意思とは反して全く動かない自分の体と嘔吐。その全部に嫌気がさしてくる。
「こいつは殺す必要ねぇな。俺達と同種みたいだし」
同種?ふざけるな。お前達と同じにするな。俺はマユリを殺そうとしたりなどしない。今日、マユリの秘密を聞いて、悲しそうに笑って、それで改めて一緒に居たいと思ったんだ。
そうだ、マユリに反撃の意思があれば、男性を自己の力で退けぞける意思があれば………
やっと吐き気が収まり、マユリの悲鳴が聞こえる。「やめて、やめてください!」と涙声で訴えているのが聞こえ、力を入れて立ち上がる。
今、待ってろ、こいつらをどうにかして……
数人とマユリの姿形を見て俺は再度理解した。こいつらは狂ってる、後にあったのは驚く程の絶句。開いた口は塞がる事なく開き続ける。
彼女は両手両足を縛られて服を破られて、今にも犯されようとしている。
……………ス
今まで生きてきた中で、今までにないほどの絶望に満ちていた。
深淵の淵で更に深淵を覗き込み、先を憂えむような、虚無。
これから先、俺はどうなってしまうのだろうか、こいつらにマユリが犯されているのを見ながら下卑た目を向けられ殺されてしまうのか。
何故俺がこんな目に会うんだ。俺はこいつらに何もしていないし、マユリだって何もしていないだろう。過去に何かあったのかもしれない、俺が何かしたのかもしれない。だが、マユリは?あいつは無関係だろ。
ふざけんな。お前らがマユリを汚して言い訳がない。その汚い目を向けるな。
ふとすると、身が軽くなったように立ち上がれた。
重い重圧も、背負ってきた荷物も、脱ぎ捨てて仕舞えばただの皮。
こいつらは絶対に殺してやる。
「死ね…」
血は出ない。こんな時、血が吹き出れば気分が爽快になるのに、どうしてだろう。晶彦さんは何故血のエフェクトをなくしたのかな。
これじゃあ彼らも殺しを楽しめないんじゃないかな。呆気なく終わったんじゃつまんないよ。
「死ね……」
彼らは今どんな目つきで俺を見ている?絶望?それとも恐怖?それとも、今の俺のような、虚無なの?
はぁ…….どうでもいいよね
「しね……」
三人目。踏み込んでしまえば後の祭り、仕事作業のように殺せる。
今までなんでこんなクズを殺せなかったのだろうか。
相手の目をアンダーラインからするりと視界の死角へ潜り込み、姿形を捉えなくなった所へ首に切り込みを入れる。
「シネ……」
四人目。後何人?後何人殺せる?殺したりない。まだ、埋まってない。俺の胸にある虚無は埋まらない。
それよりも、血…出ないかなぁ。
「し……ネ」
「や……めて……やめて、八幡くん……」
後ろに温度が加わる。俺の体はどこまで冷えついていたのか、それともマユリの体温が高いのか、どちらでもいいか。
はやく、殺さねば。
「やめて。八幡くんは……私の知っている八幡くんのままでいて………ください」
止めないでくれ、後一人、殺さなければ…まだ足りないよ。まだ、後一人、いや、後二人、できればそれ以上。
「お願いだから。やめて」
マユリを払う訳にはいかないし……投げナイフがあったっけ。これだと殺した感覚が損なわれるが、充足感を得るには丁度いい。
ナイフを4つほど出し、その全てを目の前の、あ、腕を切り落としていたのか、俺が腕を切り落とした男、そうして蹲る男に首にナイフを投げる。
現実なら呼吸器官や、細い血管を狙って投げて致命傷を与えず何本もさして殺すのだが、場所が悪いのかな。
ナイフを当てると、ポリゴンとなって男が消えた。これで五人目。あっさりしてたな。もう少し手応えが欲しかったんだけど。
「もう………やめて」
そういえば、Pohはどこに行った?あいつもこの手で…….
と考えた所で思考が止まる。いつもと何か違う感覚に戸惑ってよく分からない"何か"が脳を支配する。
言葉にしてしまえば官能的で、体験すればそれは甘く、ふわふわしていて、幸せなのだろう。
だが、俺に満たされたのは悲しみや、後悔。
ん??ん????!
唇に暖かくて、湿っぽい、温度のあるものが当たっている。
気づくと、マユリがキスをしていた。
こうして俺のファーストキスはまだ年端もいかない少女に奪われてしまった。