先程まであった陰鬱とした空気が一変し、少し暖かみを帯びた日差しが照らす街中になっていた。街は中世のような木製の家であったり石造りの家であったりバラついていたが一見して何処かで見たことがあるデジャブを感じさせる。
中身の無い、CPU達が街中を忙しく行き交い、気にならない程度の喧騒に包まれている。
コマンドを出現させ、コンソールを慣れた手でつつき、ステータスを開く。
名前はβ版と同じくハチマン。当時使っていた武器、防具、レベル、熟練度は初期のものへと変わっていた。
初期装備、所持品なし、1000コル。
一度クリアした作品をリセットしてまた楽しむような言い様のない喪失感に包まれる。ファミコン本体に掃除中のお母さんの掃除機がぶつかり冒険の書が消えてしまった昭和の子供達はこんな苦痛を味わったのか…………
ともあれ、このままでは戦えない。素手で戦うには、2層でエクストラスキルの取得が必要であり初期は必ず武器を買わなければならない。
武器屋へ出向き、片手剣を買う。武器屋での用事を終えた俺はイノシシ狩りへ出かける。
俺自身突出した能力や、PSはない為、敵の攻撃のパリングとヘイト集めを得意としたAGI集中型だ。その為地形把握や、敵の特徴を正確に捉える事が大切になる。
一人で戦うには敵の攻撃を防ぎきる面での重要性が出てくるだろう。上層に行けば行くほどその光を帯びる。だから、人間観察を趣味としている俺は魔物観察へとシフトチェンジしただけだ。
地平線が見え、その先にはファンタジー世界を彷彿とさせる風景が広がっている。
最近は気苦労が多い。大半は俺自身の責任だから、誰も攻めることができないのが苦しい所だ。
修学旅行の件は早めに片付けたい問題。いや、問題ですらないのかもしれないな。
俺はぐっと背伸びをする。一呼吸置いて、魔物を目に据える。
視界の隅に銀髪長髪の少女が見える。顔立ちは幼な気味で、10人に聞けば10人に美少女と答えられる程の美少女。
俺には完全に縁のない人間だな。と思い、溜まりに溜まった何かを発散させるように剣を数度フレイジーボアにぶつける。
2発、3発とぶつけると、ガラスが割れたような音が響き青いポリゴンとなってイノシシが消える。
うん。訛ってないようだ。テスト時代から何ヶ月か経った為訛りがあるかと思ったが別段変わってない。
少々、剣が重い気がするが。
その調子でフレイジーボア狩りを続ける。一匹、二匹、三匹………と狩り、時間が経って四十匹を超えたあたりから数えなくなった。
何匹倒したか分からないが大量の数フレイジーボアを倒しただろう。
陽の光が赤みを増し、沈みかけている。17時を超えたあたりで日は地平線にかかり、俺や魔物達を照らし出す。
今の熟練度で使えるソードスキルを確認し、武器を仕舞う。
そろそろ、小町が夕飯の準備をし始める頃だろうから、俺はメニューからログアウトのボタンを探す。
ん?
何か嫌な予感がしたが、気のせいだろうか、
メニューを弄り、ログアウトのボタンを探すが、テスター時代にはあったログアウトボタンが……なかった。
「あれ?ログアウトボタンが……ない?」
もう一度探し直そうとして、周囲が淡い光に包まれる
「わっ」
足元を見ると草原ではなく石のタイルになっており、俺は始まりの町の大広場にいるのだと気づいた。
周囲の人達は慌てふためき、何が起こっているのかと話し合ったり、叫んだり、キョロキョロしたり、一様に混乱していた
噴水の上に、赤黒い何かが垂れ始め、巨大な何かに形作られていく。
危険を示す赤に包まれ、俺達は大事件に巻き込まれたのだ。
11月16日 17時10分。某所
「ふんふーん、お兄ちゃんはまだゲームしてるかな〜」
昨日修学旅行から帰ってきたお兄ちゃんは恐らくあのヘルメットみたいな機械を被ってゲームしている頃だと思う。
由比ヶ浜さんから昨日の事は全部聞いた。
お兄ちゃんの事だから先走っちゃったんだろうけど、我が兄ながらトラブルに愛されてるなぁと感じた。
先月あんな事があった後なのに修学旅行でさえトラブル?を起こすとは…
そんなお兄ちゃんが、今頃全部忘れてゲームしてるんだと思うと途端に可愛く見えてくるのだから不思議だ。
とはいえ、いつまでもゲームしていられると小町としても困る。
『ーーーーーーでは、次のニュースです』
「あれ?テレビつけてたっけ」
消していた筈のテレビから人気アナウンサーの声が聞こえて、電源を消そうとリモコンに手をかける
『先月βテストを限定千人で行い、多大な人気を博した、初のVRMMORPGである、ソードアートオンライン。今日正式サービスが開始され現在約一万ユーザーがプレイしています』
「あ、これ、お兄ちゃんがしてるゲームだ」
人気アナ………名前は忘れたけど、その人の雰囲気がおかしい、何か焦っているようにも見える
その様子に緊張感が高まり、テレビの電源を消すのを忘れていた。
『そのユーザーの一部が………脳を焼き切られて死にました』
「え?」
言い知れぬ恐怖感が私を包み、目の前にあるテレビに釘付けになった。
嫌な予感が止まらない。