「いや、お兄ちゃんが巻き込まれた訳じゃ……」
一部だから、SAOユーザーが全員巻き込まれた訳ではないはず。
引き続きテレビの画面に食い入る。どうか、何もありませんように…
『………たった今情報が入りました。ソードアートオンラインの製作者、茅場晶彦氏からの犯行声明が関係各所に届いたようです。内容はーー
"一万人の命は預かった。現金の要求はない。私の要求はゲームのクリアだ。今サーバー内にいる一万人の一部、数百人の命が永久に消失している。無理矢理電源を切ったり、ナーブギアを外した場合は脳が焼き切られる。その事を理解してほしい。"
との事です。警察庁は今回の件に対し、早急に対処するとの事で対策本部の立ち上げが既に決定しておりーーー』
聞き終えて愕然とした。
「う、うそ………うそ、だよね、お兄ちゃんが……まさか!?」
リモコンが手からこぼれ落ちて、リビングを走ってでる。階段を駆け上り、お兄ちゃんの部屋へと向かった。
扉を開けると……
それからの事は忘れた。たぶん、パニクっちゃって、警察に電話するか病院に電話するか迷って、由比ヶ浜さんに電話したんだと思う。
焦りと恐怖とが混ざって、どうしたらいいかわかんなくなって、泣いた。
ほんと、最近は涙もろくって、自分でもダメだとわかっていても、泣いてしまう。
それから、お兄ちゃんが病院に運ばれて、点滴につながれて……
それから、ずっと、ずっと泣いている。
ずっと、泣き枯れても、声を枯らしても、ずっと、泣き続けた。
「なんで、お兄ちゃんなの……どうして!どうして、お兄ちゃんがこんな目に会わなければならないの!?どうして!」
「小町さん落ち着いて、比企ヶ谷くんはまだ生きているわ」
雪ノ下さんは一人冷静そうに呟く。
隣で由比ヶ浜さんは泣き疲れて寝ている。雪ノ下さんは病院に着いた時少し悲しそうにしただけで泣かずにお兄ちゃんの方を見ている。
「雪ノ下さんは悲しくないんですか?!お兄ちゃんが……………お兄ちゃんが…」
「悲しいし、茅場晶彦を糾弾したい気持ちもある。けれど、現実はそうもいかないのよ?」
その言葉に、私のなにかが壊れた。雪ノ下さんの冷たく、鋭いその言葉に、私は切り返す。
「……………そう言って居なくなって良かったと思ってるんじゃないんですか?冷静ぶって、私のこと見下してるんじゃないですか?!」
駄目なのは分かっていながらも、彼女に対して当たってしまう。雪ノ下さんは悪くないのに、でも、でも!
「そんなこと思ってないわ。修学旅行の件については彼と話し合わないといけないし、居なくなって仕舞えば元も子も「………何も知らない癖に」こ、小町さん?」
雪ノ下さんは小町の言葉で動揺して、一歩下がった。
「何も知らない癖に!!!」
「雪ノ下さんには分からないですよ!!お兄ちゃんはいつも一人で、一人ぼっちで、頑張ってきたのに!」
言い切るうちに涙がどっと零れ落ちて、また悲しい気持ちが溢れてくる。
「小町さん落ち着いて、今は」
雪ノ下さんがまだ小町を抑えようとするので言い切らないうちに「分かりますか?」と続ける。
「ずっと、一人で、いえ、小町と二人だけで生きて来なければならなかったお兄ちゃんの気持ちが、貴方にわかるんですか?」
「私だって、一人だったわよ」
その言葉で、完全に頭が冷えていく、熱くなっていた思考がだんだん冷たくなっていき、やがて、理解する。
彼女との間に、一枚壁があるのだ。生きている世界がどうしようもないくらい違うのだろう。
「………っ…………はぁ」
駄目だ。心では分かっていても、口先から出る言葉は抑えきれない。
後から来るのは虚無感と絶望。
これ以上は雪ノ下さんにも悪い
「もう帰ってください。雪ノ下さんも由比ヶ浜さんも、帰ってください。」
「いいえ、私はまだ…」
「帰ってください。できればもう二度と来ないでください。お兄ちゃんには私だけ居てくれれば、それでいいんです」
雪ノ下がどういった反応をしたかは分からない、小町は彼女の方を向いていないから、それで彼女には十分だから。
「っ……わかったわ。由比ヶ浜さん、起きて」
「ここは、あ、ヒッキー……」
「帰りましょう。小町さんに悪いわ。」
「う、うん。」
「じゃあ、小町さん。"また"来ます」
「小町ちゃん、また来るね」
「………」
雪ノ下さん達は病室から立ち去り、小町の泣き声とナーブギアが発する音以外響かない。
小町、最低だ。
お兄ちゃん。
小町のお兄ちゃんは凄く賢くて、何処か捻くれてて、それでも、優しくて、お馬鹿さんなのです。
でもこれじゃ、小町の方がお馬鹿さんだな、
お兄ちゃん……小町どうしたら良いのかな。分かんない。分かんないの。これから先、雪ノ下さん達とうまくやっていける気がしない。
ねぇ、お兄ちゃん。お願いだから、返事してよ。遠くに行かないで、お兄ちゃん。
11月16日午後9時SAO内第一層
「で、お前はここで何してんだ?」
始まりの町で晶彦さんの宣告があった後(晶彦さんは結構信頼していたので、少し裏切られた気分だ)次の町へと走っていた、のだが、背後に気配があったから何事かと思ったら、こういうことだった。
栗色の髪の少女が付け回してきたのだ。
最初は自意識過剰かと思って、町の周りをぐるぐるぐるぐる、それはもうぐるぐるぐるぐるぐるぐると何度も何度も回り回り、走ったり、町の複雑な道をジグザグジグザグジグザグ繰り返して、まけたと思ったら、目の前にいて、話しかけたら逃げられ、諦めて草原にレベル上げに行けば、草むらに隠れていた。
つまり、ストーカーである。
「ひっ、ち、違うの、私はただ、草むらに埋まってただけで……」
埋まってたって。草むらに?トラップでもあったのか?
「何が違うだ!さっきからずっとついてきやがって、新手の嫌がらせか!」
「嫌がらせって//」
「おい、なんでそこで頰を赤らめる、身をよじるな!気持ち悪い」
「なっ、ひどい、八幡くん」
俺の名前をよぶと、「あ、やべ」みたいな顔して、こちらを見る。なんだか、ギギギと音がしそうな振り向き方だった。
「…………何故俺の名前を知っている。あっ、おーい!」
途端にぴゅーと走り去って行き、既に姿形が見えない。
な、なんだったんだ?