デスゲームに花束を(改定)   作:らふ

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第9話繭

中世の街並み、木造の建築物と石造の建築物とがまばらに立ち並ぶ街並みの中、作り物だとは思えない陽光が照らす。

 

俺とマユリはアスナを見送りしていた。

 

「私は行くけど、本当に行かなくていいの?」

 

振り返って俺に訊く。

 

「俺は行かない………いや、行けないんだよ。お前も知ってるだろ」

 

アスナから何度目かの催促を受けるが、前と同じ様に返事をする。

 

彼女がこれから向かうのはトールバーナの広場で行われる第一層攻略会議。

 

あの日彼女からパーティ招待を受け、嫌々ながらも応えたあの日から早くも1カ月が経とうとしていた。

 

いくらコミュ障の俺でも1カ月も経てば慣れてくるのは必然であり、アスナとマユリとは良好と言えないまでも親しい関係を築けている………はずだ。俺の独りよがりでなければ。その証拠に俺は彼女らと3メートル程離れて行動している。アスナからは偶に「めんどくさいね、八幡くんって……」と呆れ気味に言われるが、よく分からないな俺はお前達の身を案じているだけなのに。

 

というのは嘘で、怒ったアスナが怖いので泣く泣く一緒に行動しているだけで親しくなんてなっていない。大体、俺が女性と親しくなる事などあるはずも無く、今も心の距離同様4メートル程離れている。ちょっと話をしずらい距離だ。

 

そもそもPohに襲われていたマユリは兎も角、最初ストーカーしていたアスナと分かり合うなんて到底無理だろ。

 

「はぁ……八幡くんは私達よりもレベル高いでしょ?今最前線の人達がどれくらい強いのかは分からないけど、八幡くんならきっと戦力になるはずだよ?」

 

「だから、お前も見て知っているだろ?俺は戦えない。」

 

何度繰り返したか、再度催促を受けるのでまた同じような返しをした。

 

アスナはお節介を焼くのが好きなのか、それとも俺を困らせるのが好きなのか。できれば後者であってほしくない。

 

確かに戦力にはなるだろう。レベルだってこの層ではボスの適正より高い。だからといって俺は出ることはできない。

 

「でも、私は一緒に行って欲しい!マユリだってそうでしょう?」

 

やがてアスナはマユリに同意を求め出した。気持ちが高ぶっているのはなんとなくわかるが。

 

「………私はハチマン君が行かないなら行きません。」

 

隣に立つマユリが俺の思った回答とは別の返事をする。

 

マユリは行きたい方だと思っていたが違ったみたいだ。俺達の中では一番レベルが低いのはマユリだ。しかし、戦闘能力の面で見ればマユリはこの中で一番強いと言えるだろう。恐らくリアルで何かやっているのだろう。根本の運動神経が良く体の動かし方を知っている動き方だから。

 

「いいのかマユリ」

 

「はい。私は行かないです。」

 

「八幡くんだけでもいいから行きましょう?私達は早く現実世界に戻らなきゃいけないのよ」

 

ちょっとしつこいな。まぁ、俺はなんと言われても行かない。役に立たなくて足引っ張るのは嫌だしな。

 

「やめてください!ハチマンくんと私は行かないと決めてるんです。」

マユリは俺の意思を反映したように答えた。少々怒り気味なのは普段と違うところだ。

 

いつも思うがアスナとマユリって仲悪いのか?喧嘩してばかりだから仲が悪いように見える。

 

「…………分かったわ。気が変わったらいつでも来てね。じゃあ行ってくる。」

 

「頑張れよ、アスナ」

 

「うん。」

 

アスナは少し笑ってトールバーナの方角へ向かった。アスナも少し怒ってそうだったのに最後は笑って行くのだから不思議だ。彼女には頑張って欲しい。

 

「俺達は狩りにでも行くか」

 

「はい!邪魔も消えた事ですしね。」

 

「邪魔って………」

 

気のせいだよな。てか、目が怖い。マユリの目が暗く光っているようで怖い。そんなに邪魔だったの?!

 

「いつも思ってたがお前らって仲悪いよな」

 

マユリは不思議そうに首を傾げて、未だ小さく見えるアスナの方を向いて答えた。

 

「そんな事ないですよ?私達凄く仲が良いと思います」

 

「喧嘩しかしてないのに?」

 

「仲がいい証拠です。仲が悪かったら喧嘩にすらなりません」

 

マユリは鼻歌を歌いながら、俺の隣に連れ立って歩く。いつもより微妙に距離が近いので、俺はマユリよりゆっくり歩いている。

 

「む、早く行きますよ?」

 

「いや、距離がだな……」

 

ずずっと後ずさりしてマユリと離れる。すると彼女は何を思ったのか俺の手を無理矢理掴んだ

 

「行くんですよね狩りに。なら早く行きますよ!」

 

掴んだ俺の手を離す事なく急に走り出した。それも物凄く早くなので視界がぶれるぶれる。

 

マユリは楽しそうに笑いながら、足を止めない。

 

怖い怖い怖い怖い……

 

「ちょ、まてって、止まれ、お願いだから止まってくれ〜!」

 

「あはははは、あははははははははは」

 

俺はマユリへの考えを改めないといけないようだ。

 

普段は大人しい子だが時に荒っぽいと。

 

そんな事よりも、ここで俺はもっと考えるべきだったのだ。マユリの事、そしてアスナの事について。

 

何も知らない俺は、重い荷物を背負っていて、下ろす事が出来ない。

 

重いはそれだけで罪なのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「よし、今日の所はこれで終わるか。」

 

周囲の敵を何百と倒した所で、敵を倒す手を止める。

 

ここの経験値はさほど良くない。狩場として一層では最上級から一歩劣る上級に部類されるであろう(俺調べ)場所だ。

 

……………それも、俺が倒せないからだ。"人型の敵"を倒す事が出来ない。

 

その事が分かったのはアスナらと行動し始めて4日程経った日の事で、偶々ポップした人型の敵を倒す事が出来なかったことで発覚した。

 

刃を敵の首元に当てた時、強烈な頭痛に見舞われ、吐き気と共にその場に立てなくなってしまい戦うことができない。

 

原因は分からない。ただ、人型の敵だけに起こる事なので、人型の敵に何かあるのか或いは……

 

敵の目の前で蹲るのは大変危険で、アスナ達がいなければ俺はとっくに死んでいるだろう。だから、アスナ達には感謝している。

 

最初人型に限って起こる事だから、人型以外の敵だけがポップする場所で狩りをすればいいと考えたのだが、その条件にあった狩場が思ったより少なく、狩りをする度にアスナ達に助けられている。

 

今居る狩場は人型の敵がいない訳ではないが、リポップする位置をある程度覚えているので人型の敵はマユリに任せている。

 

それにしても、原因が全く分からない。心当たりが無いし、人型の敵に絞られる理由すら分からないのだ。然し、早く対処しなければ上層に行くたびに人型の敵も増えてくるし、何より身の危険が増加するので、自分の命の為にも原因を突き止めなければならない。

 

「このまま帰るのも勿体ないですし、あの木の根元で休憩しませんか?」

 

マユリは疲れたように大樹の根元を指差して呟く。彼女の短い髪の毛が風によって僅かに揺れる。

 

俺も疲れていたので丁度良いと考え、彼女に同行し、大樹の根元に彼女との距離を開けて座る。

 

「そういえば二人っきりになるのってはじめて……ですよね」

 

陽光は既に夕刻を刻んだように朱色に染まり、先に見える幻想が世界の違いを気付かせる。

 

然し、ここで過ごしている時間は本物で、人々も日々を生きる人間だ。その事に気づかされるのはこれで何度目だろう。

 

「なんだか、緊張するな」

 

テンプレのような言葉で返し、静かに目を瞑る。

 

「……それは緊張してない人のセリフです」

 

瞼の裏に、何ヶ月か前の元気な小町の姿が映ってつい手を伸ばしそうになる。

 

今、小町は元気で過ごしているのだろうか

 

「私達の間には何があるのかな」

 

普段とは少し違ったマユリの口調に驚きながらも、その問いに答えを出す。

 

「何もないだろ。」

 

俺達の間に茅場に幽閉された被害者という共通があっても、それ以外に何かある訳でもない。

 

でも、マユリが言う"何か"はニュアンスが違って、 別の事を言っているのではないかと考えてしまう。

 

「聞いて…私の両親はね、遠い昔に殺されたの」

 

突然切り出された重い話題に、俺は何も答える事が出来ず、その重い話題、事情に全く驚いていない自分に驚くばかりだった。

 

同情も、悲哀も、抱えてきた辛苦も、不幸も、寂しさ、淋しさ、ずっと向き合ってきた孤独も、

 

マユリの目から伝えられたのは冷然とした空白だった。

 

埋める沈黙が刺さるように痛くて、気の利いた一言もでない、俺はやはり腐っているのだと感じた。

 

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