ガンダムビルドデューラーズ 清掃員外伝   作:地底辺人

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第九話「白昼夢」

フウトが北海道に戻った頃には辺りはめっきりと白銀の世界と化していた。道路が凍結しており愛機のいぬこ号を走らせる事は困難であり渋々バイクは輸送してもらいフウトはタクシーで帰ることにした。

 

兄との偶然の再会。

 

あれは本当に偶然だったのだろうか。疑問を持つフウトの頭にはある言葉がよぎる。

 

「―次の相手は俺が知っている中で一番強い。」

 

アララギの最後の課題。

彼が知る最強のデューラー。言われてみればユウキはそれに値するに十分過ぎる人材だ。

 

「―だとしたら…。」

 

だとしたら。アララギ先生はあまりにも意地悪であるとフウトは思う。

これまで彼は兄ユウキに勝利した事は一度もない。まぐれでも勝った事すらなかった。

加えてフウトにとって、勝利経験だけでなくユウキ個人へ強い思いを持っている。兄に憧れてはじめたガンプラバトル。兄のように強く、たくましく、優しくなりたかった。ガンプラバトルを始めれば自分もいつしかそうなれると思っていた。いわば目標というやつで彼はいつも兄の背中をみてその後をずっと追っていた。

 

兄という存在を超えなければならない状況だが、フウトにとって「イヌハラ・ユウキ」という存在はあまりにもトクベツなのだ。

 

それは今も昔も変わらず。

 

だからこそ。

 

だからこそ……。

 

「―負けたくない…。」

 

フウトは両手に強く握り拳を作る。

 

「―お客さん、何か悩み事かい?」

 

「えっ、あっ、はい…。」

 

タクシーの運転手に急に話しかけられたフウトは驚き上手く答えられない。

 

「ははは。悩める事があるなんていいじゃないか。」

「私も若い頃はよく悩んだものだよ。例えば、そう。なんでこんな仕事してるんだろうって。なんで毎日人を乗せてお金を貰ってるんだろうって。誰に命令されたわけでもなく、自分で選んだ仕事なのにね。ついつい意味のない事を考えてしまうんだよ。」

 

「…。」

 

「でもね、その意味のない疑問もいずれ意味をなす時が来るんだよ。」

「うーん、そうだねぇ。これは実体験だけど雪でバスが止まって試験会場に行けない受験生を見かけて無賃で会場まで連れて行った時に『ありがとうございます。本当に助かりました!』って満面の笑みで言われた時なんかは『この仕事しててよかったなあ』と心から思うんだ。」

 

「人の心を動かすっていうのかな。やっぱり仕事にはそういったものが大事なんだよね。」

 

「おっと、話が脱線してしまったね。まあ人生の先輩から言えることは『若い時は悩め!』悩みながらも続けていけばどこかで君を救ってくれるものもあるってわけだ。」

 

だいたい50歳くらいのタクシーの運転手は語る。

 

「―続けることって何より難しいですよね。」

 

「そうそう。そういう事がサラッと言えるとは、案外お兄さん人生経験豊富だったりするのかな?」

 

「いえ、運転手さんほどではありませんよ。」

 

そうこうしていると目的地である大学の前まで着いた。

 

「お兄さん、頑張ってな。」

 

「ありがとうございます。ではこれで。」

 

そう言ってフウトは運転手にチップを渡し降車する。

 

運転が心を動かす。

その姿勢はまがいもない本物の"プロ"の仕事だとフウトは思う。

 

「俺にもいつか出来るかな、そんな仕事。」

 

そんな事を思いながらフウトは久しぶりのバトルスペースに顔を出しにいく。

 

その途中の通路でシイナの姿を見かける。

 

「……。」

 

一瞬目があった気がしたが無視された。いつもはシイナの方から話しかけてくるため不気味である。

 

「シイナどうした?元気でもないのか?」

 

「……。」

 

ガン無視。まるでこちらの存在を認知していないかのようだ。

 

「シイナ…?」

 

「……。」

 

ギロリ。睨まれた。いつもは可愛らしい表情のシイナだが本日はご機嫌斜めである。

 

「怒ってる…?俺なんかしたか…?」

 

「別におこってませーん。」

 

「いや、それは怒ってる奴が言う言葉だろ。」

 

「わたしが使うとおこってないんですー。別にイヌハラさんの事とかもう知りませんってだけですー。」

 

「おいおい。どういうことだよ。」

 

「質問ばかりじゃなくて少しは自分の頭で考えてみたらどうです?」

 

フウトは最近の自分の行動を振り返ってみるがシイナが怒りそうな事をした覚えはない。あるとしたら冷蔵庫に入ってたプリンを食べた事か?

 

これだ。これに違いない。

 

「もしかして冷蔵庫にとってあったプリン食べたから怒ってる?」

 

「えぇ!?無くなってたプリン食べたのイヌハラさんだったの!?」

 

「あ、言わなきゃよかった。」

 

どうやらハズレのようだ。とすると。

 

もしかして。

 

「……もしかして墓参りの事か?」

 

コクリと小さく頷くシイナ。どうやらこれは当たったらしい。

 

元々お墓参りに関してはシイナが提案してくれた事だった。そんな事はすっかり忘れて自分の都合で動いていた自分が情け無い。謝らなければならない。

 

「ごめん。シイナ。一人で行っちゃって。」

 

「別にいいですけど…。でも行く時は一言くらい声かけて欲しかったな…。」

 

シイナは目を逸らしながら言う。フウトにはこれが何を意味しているのかよく理解できない。

 

「そんなことより、人が待ってるみたいですよ?」

 

「やっぱりか…。」

 

やはりあの人がいると言うことなのだろう。これで確信を得た。

 

「……行ってらっしゃい。」

 

「……行ってきます。」

 

シイナは手を振りフウトを送り出す。

 

フウトはシイナと目を合わせ軽く頷きバトルスペースへと向かう。

 

「……ばか。イヌハラさんのばか…。」

 

──フウトはバトルスペースについた。3日来ていなかっただけで久しぶりのように感じる。そう感じるほどにここに毎日来ては帰る繰り返しをしていたのだろう。

壁は白く無機質な空間。今日は珍しく人もいない。

 

いや、いる。人の気配だ。入り口から一番離れた筐体の前に青い髪の男が一人立っている。

 

「ふうちゃん、待ってたよ。」

 

誰もいない空間に聞き慣れた声が響く。

 

「先生からだいたい話を聞いてると思うけど最後の相手は俺だ。」

 

「ふうちゃんの覚悟、見せてもらうよ。」

 

フウトは無言でユウキの方へと向かう。カタッ、カタッといつもは気にならない靴の音が今日はハッキリと耳に入る。聞こえてくるのは靴の音だけではない。ドクン、ドクンと心臓の鼓動の音までもが苦しいほどに聞こえる。

 

収まれ。収まれ。そう思いながら兄に近づいていく。兄はこちらをジッと見ている。まるで挑戦者を迎えるように。

 

憧れ、嫉み、感謝、フウトの頭の中に色々な感情が入り混じる。

それでもひとつだけ、ただひとつだけ頭と心で理解している事がある。

 

──勝ちたい。

 

その気持ちだけは確かだ。どんなに鼓動が高まってもこの気持ちさえあればどうにでもなる。あとは身体が勝手に動く。

 

気づけばフウトはユウキの目の前まで来ていた。

そして兄の目を見て息を吸う。

 

「……兄さん、俺は勝つよ。」

 

ユウキはその言葉を聞きくるっと振り返る。それ以上何も答える事はなくGPDの筐体へと向かっていった。

これ以上言葉で語る事はない。

あとはガンプラバトルで表現するだけ。

 

この数ヶ月間北海道に遊びに来たわけではない。血の滲むような努力を毎日重ねてきた。そして多くの出会いが自分を強くしてくれた。それを強く実感している。昔の自分とは違う。フウトは自分にそう言い聞かせる。

 

「──相棒、やれるな?」

 

フウトは少し震えた左手でジャスティスカイザーをセットする。

 

「……今日ここで、兄さんを超えるッ……!!」

 

Futot'sMobile Suit

    Justice Kaiser Infinity

      VS.

Yuki'sMobile Suit

Gundam Sophiel

 

「ジャスティスカイザーいくぞ!」

 

「ガンダムソフィエルいくよ!」

 

ステージは雪山。あたりには真っ白な銀世界が美しく広がる。

 

ジャスティスカイザーとガンダムソフィエル。

赤と青の兄弟機が今まさに交わろうとしている。

 

「やっぱりソフィエルで来たか…。」

 

フウトはユウキの機体データをディスプレイで確認するとその名を呟く。

 

 

【挿絵表示】

 

 

ガンダムソフィエル。

イヌハラ・ユウキが高校時代から愛用し続ける機体。ケルディムガンダムとガンダムエクシアをベースに作られたこの機体は長い年月と共に常にアップグレードされ洗練された王の機体。かなりシンプルな構造であるがその分精密なところまで作り上げられている。堅実な作りがユウキの性格を表している。

ジャスティスカイザーと対をなす青色はまるで2人の兄弟を表しているようである。

 

「ジャスティスカイザーか…。変わらないなふうちゃんは…。」

 

ユウキは先にフウトのジャスティスカイザーを目視する。この2機は2人がはじめてガンプラバトル用にオリジナルの機体として作り上げたものであった。

共に闘い競い合った2機が今またこうして同じ舞台に上がるのも運命なのだろうか。

 

「くっ…。」

 

先手を仕掛けたのはユウキのソフィエルであった。

右手に装備されたレールガンが正確に発射されジャスティスカイザーの左腰を掠める。

さらにもう1発、2発と容赦のない攻撃が続く。辺りは雪で見えづらく砲撃元も目視出来ず避けにくい。地形を存分に活かした闘い方だ。

 

「見えなきゃ、無理やり引きずり出すまでだ…!!」

 

フウトは砲撃を避けドラグーンを射出する。砲撃が放つ先に目星をつけ遠隔での射撃を行う。

白い世界の中に桜の花弁のようなドラグーンが幻想的に舞う。

 

「…!?ドラグーンか!」

 

ユウキはドラグーンの存在にいち早く察知し小回りが効くビームライフルに武装を持ち帰え対応する。

 

「そこかッ!」

 

フウトはビームライフルの位置からソフィエルの位置を推測しバーニアを加速させる。

しかしそこに青い機体の影は無い。

 

「…!?」

 

「―迂闊だったねふうちゃん」

 

どうやらフウトの推測は間違いだったようである。背後からソフィエルがビームサーベルで斬りかかるが持ち前の超反応で回避する。

 

「相変わらず無茶苦茶な動きだね!」

 

「このくらいやってのけなきゃ勝てねェよ!」

 

ユウキは一旦バイタルエリア内から離れ距離を取る。それに対してフウトはビームサーベルで追い込もうとするがビームライフルで牽制し簡単に近づかせない。

ポジショニング、射撃、タイミング、周囲の活かし方。どれをとっても今までの相手とは格が違う。一つ一つの動きが洗練されており無駄がない。これが一流の動きなのか。

 

「だからって引くわけにはいかないんだよッ!!」

 

ジャスティスカイザーは2本のブレードを構え距離を強引に詰めようとする。

 

「こっちも簡単に近づけるわけにはいかないよ!」

 

ユウキも負けじとビームライフルでの牽制を厳しく行う。フウトは多少のダメージを覚悟し距離を詰め寄る。1発、2発と期待のボディを掠めるがもろともしない。

 

「こいつでもう逃げられねェ!」

 

「ふうちゃんが…近接戦…!?」

 

ユウキの記憶ではフウトはあまり好んで近接戦を行うというイメージはない。故に少し動揺する。しかしすぐにこれがアララギに仕込まれたことなのだろうと思いニヤッとする。

 

「じゃあ見せてもらおうかな!得意なんだろ?ブレード!!」

 

「言われなくてもッ!!」

 

フウトは挑発に乗り少し力む。力が入ればその分ブレードにしなりは無くなりうまく当たらない。

力任せに振るっても当たらない事はフウトも頭では分かっているのだが気持ちばかりが先走る。

 

「こんなもんかい!?」

 

ソフィエルはビームサーベルでカイザーの右手のブレードを振り落とす。さらにもう片手に装備したビームライフルで追い討ちのように射撃。フウトもこれには後方に距離を取るしか無い。

 

落ち着け。落ち着けと心の底から叫ぶ。

自分の力をここで発揮できなければ一生後悔する。

 

フウトは一度大きく深呼吸をする。

 

「ふうちゃん!もう終わりかい!?」

 

ユウキは待たない。容赦のない射撃がフウトを襲う。

 

「………脱力………。」

 

「──見切ったッ……!!」

 

フウトはユウキの射線を完全に読み柔らかい動きで次々と交わしていく。

 

「射線を読んでいるのか…!!」

 

ユウキはニヤリと笑い接近してくる弟に対し次はビームサーベルを構える。

 

「さぁ、北海道仕込みの技を見せてみなよ!」

 

ジャスティスカイザーはスッとソフィエルに近づき抜刀の構えをする。そしてそのまま一気に踏み込む。

 

「強く…。強く…!!」

 

そうはさせまいとソフィエルはブレードの向きにビームサーベルを当てに行く。

 

「強く…踏み込むッ…!!」

 

「速いッ!!」

 

フウトには一瞬の光が見えた。

 

当てに来たビームサーベルを勢いで跳ね除けソフィエルのボディを目掛けて腕を伸ばす。

 

「捉えた!これなら届くッ…!」

 

この攻撃が入ればフウトが有利になる。あと少し、あと少しで対象物に到達する。フウトの視界はゆっくりと動く。

 

「…!!」

 

なんとソフィエルはその攻撃を身体をそることで神業的に回避した。ジャスティスカイザーの渾身の一撃は不発に終わる。

 

「残念だったね。ふうちゃん。」

 

「…。いいや、そうでもないさ。」

 

ん?とユウキが首を傾げた瞬間どこからともなく4基のドラグーンが現れソフィエルに対し一斉放火。

 

「兄さんなら避けるって信じてたよ。」

 

「──そしてこれが本命ッ…!!」

 

ソフィエルはあれほどの攻撃を受けてもひとたまりもない。そこにもう一度ジャスティスカイザーは居合の構えで向かっていく。

 

「くそっ!鬱陶しい!」

 

居合がもう一度来ると流石に危険と察知したユウキはとにかくドラグーンを墜とそうと意識をそちらに傾ける。

 

「へっ、残念こっちだッ!」

「うぉぉ!ブゥゥゥメランッ!!」

 

フウトは相手の逆手を取るようにシールドに取り付けられたビームブーメランを投げ飛ばす。

 

「しまった!?」

 

てっきりもう一度ブレードによる居合が繰り出されると思っていたユウキは不意をつかれる。

ドラグーンによる射撃と向かってくるブーメラン。

これらを同時に受け動きが止まる。

 

「こいつでしまいだぁぁぁぁ!!!」

 

バーニアを最大加速させソフィエルに目掛けて一直線。

ここで断ち切る。なにもかも。

緋色の剣先が雪雲から差し込む日で光る。

 

―─兄を超える。

 

ジャスティスカイザーの重く鋭い一撃がガンダムソフィエルを斬り裂く。ジャスティスカイザーの武装をありったけに使ったコンビネーション技でついに対象を捉えた。

 

「ハァハァ…。」

「やったか…?」

 

今のは一撃必殺と言っても過言でない威力であった。フウトもかなりの手応えを感じている。

 

「……今のは危なかったよ。ふうちゃん。」

 

ガンダムソフィエルは眼光を鋭く光らせゆっくりと立ち上がる。

 

「兄さん…。」

「……アンタはやっぱりすげえよ……!!」

 

フウトは若干引き笑いをしながら再度武器を構える。

 

「さてそろそろ俺の方からも行かせてもらうよ…。」

 

雰囲気が変わる。これまで様子見をして試しているようなユウキのギアが一気に上がる。

 

「……早いッ!!」

 

ガンダムソフィエルは姿を消し雪と共に現れ攻撃を行う。

しかしこれに負けじとジャスティスカイザーも応戦。

 

「じゃあこれにはついて来れるかな?」

 

さらにスピードが上がる。もはやフウトの眼でも目視できない。どこからともなく現れるビームライフルの射撃とビームサーベルの連続攻撃がジャスティスカイザーを襲う。

 

「くっ…。」

 

呆然一方。この攻撃を受け止め切る方法は一つ。

フウトが最も得意とする技。

 

「そこだぁっ!」

 

目の前に一瞬現れたソフィエルを見逃さない。ビームサーベルによる攻撃をギリギリでよけ得意の足蹴を繰り出した。

 

「効かないッ!!」

 

「嘘だッ!?」

 

フウトが最も得意とする技。それはカウンター。フウトの並外れた動体視力と反応があってはじめて成立する。これは天性的な能力であり、そう簡単に身につくものではない。

 

しかしたった今、その攻撃を完膚なきまでに無効化された。足蹴りはソフィエルの高速移動により避けられ逆に脚を掴まれている。

 

「ふうちゃん、俺はその能力がずっと羨ましかった。」

「俺にはないその眼と反応速度。どうして俺には無いんだろうって妬んだこともあった。」

 

ユウキは脚を掴んだまま言う。なんだよいまさらとそんな風に聞くフウト。

 

「でも今は…そうは思わないッ!!」

「特別な能力がなくても、何も持ってなくても俺は頂点に立ったッ…!!」

 

ユウキはジャスティスカイザーの脚を曲がらない方向に力を加える。負荷がかかりバキバキと出てはいけない音が出ている。

 

「兄さんに何も無い…?」

 

フウトは絶対絶命の危機の中、兄の言葉を不思議がる。

フウトにとってのユウキは少し天然で抜けているところや酒癖が悪いと言ったところもあるが誰よりも優しく、強く、カッコ良かった。親のいないフウトにとっては憧れの的であった。

その影を追い少しでも近づこうと努力した。

 

しかしフウトから見たユウキとユウキ本人は違う。生まれ持って飛び抜けた能力はなく全てが平均的。そんな自分が嫌で血の滲むような努力を小さい頃からしてきた。弟ができ自分が手本にならなければとさらに想いは強くなった。

 

世の中には「基本が出来ればあとは応用が効く」という言葉がある。これはあながち間違いでは無くしっかりとしたベースがあればあとはなんとでもなる。

ユウキは基本技術を極め続けた。当たり前のことを当たり前にこなせることに加えその精度を極限まで高め続けた。

 

「俺はあまりに凡庸なんだ。でも凡庸も極めればそれは最強になるッ!!」

 

ソフィエルはジャスティスカイザーの脚を引きちぎる。これでカイザーは立てないどころかブレードも上手く使えない。

 

「くっ、こんなところで…!!」

 

ソフィエルは畳みかけるようにこちらへと向かう。

確かにソフィエルは特別な装備があるわけでもシステムがあるわけでもない。

非常にシンプルでオーソドックスな機体。基本に忠実なバトルスタイルのユウキとの親和性は高い。突出する目立った物はなくとも一つ一つのパーツ、動きが完成されている。

 

イヌハラ・ユウキ。基本を極め最強となった男。

 

フウトはその事実に今になって気づいた。

 

「ふうちゃんこれで終わりだッ!!」

 

「……だからって引けるかよッ!」

 

いや負けられない。状況に呑まれて負かされてはならない。

ジャスティスカイザーはいつのまにか自動操縦式のバックパックを分離させ自立出来ないカイザーを回収させソフィエルの攻撃を回避する。

 

「流石にしぶといッ!」

 

ソフィエルはジャスティスカイザーを乗せた飛行体の翼ををビームライフルで狙う。

 

「……トライアングルバリアーッ!!」

 

バックパックに装備されたドラグーンが三角形の陣形を取りバリアーを形成する。ジャスティスこれで身を固める。

 

「そんな小手先のものが通用するとでも!」

 

ソフィエルはトライアングルを形作る頂点となるドラグーンに対し正確かつ早い連射を行う。

ジャスティスカイザーはビームライフルで牽制を行いながら必死にそれを避ける。

 

「そこだッ!」

 

ソフィエルはドラグーンを1基、2基と連続で撃ち落としバリアーを解除させる。

万策尽きたか。

 

「……こうなりゃ賭けだ!」

 

「さあ来なよ!ふうちゃん!」

 

フウトはバックパックを最大加速させウイング部にはビーム刃を展開させる。片脚のないジャスティスカイザーにはもう特攻するしか他に手が無かった。

バックパックの上で低い姿勢を取るジャスティスカイザー。それを真っ向から受け止めようとするガンダムソフィエル。

 

「いっけえええええええ!!!」

 

ジャスティスカイザーはソフィエルを目の前にバックパックから降りる。

猛スピードで向かってくる飛行体を避ける事は不可能でソフィエルは真っ向から立ち向かうしかない。

 

「うぉぉぉぉぉおおお!!!」

 

一刀両断。ビームサーベルで向かってくるバックパックを真っ二つにした。パワー勝負を制したのもまたソフィエルだった。

 

「だけどそいつは囮だぁぁっ!!」

 

バックパックから降りたジャスティスカイザーがソフィエルの目の前に現れ片脚のない状態でビームサーベルを振るう。

 

「くっ、やるな!」

 

しかしその不意打ちにもアジャスト。フウトの賭けは失敗に終わる。

地に落ちていくジャスティスカイザー。それを見下すガンダムソフィエル。

 

「いいや!まだだ!!」

 

ジャスティスカイザーは片脚でなんとか体勢を保ち立ち上がる。

 

「それでこそだ!」

「だけどこれでジ・エンドだッ!!」

 

勝てない事は分かっていた。もう勝機はないと。それでも片脚で立ち上がり武器を持たずソフィエルに向かっていく。

 

「もっていけええええええ!!!!」

 

フルパワーのレールガンが無防備のジャスティスカイザーを撃ち貫く。

 

battle end

 

winner Yuki

 

ようやく長き兄弟の戦いに終止符が付いた。

 

勝利したのはイヌハラ・ユウキ。兄の方だった。

 

アンテナは折れ各部の損傷はひどく文字通り再起不能となったジャスティスカイザー。そして勝利した兄の顔。

 

負けたのだ。

 

結局、今日も勝てなかった。持てる力の全てを使っても兄には通じなかった。

 

「ふうちゃん。俺の勝ちだ。」

 

昔と変わらないその声と顔で昔と変わらないセリフを言うユウキ。

 

「しかしよくもまあこの短時間でここまで来るとは正直驚いたよ。」

 

「でもまだまだ俺の足元には及ばない。それがどういうことか分かってるよね?」

 

プロは勝ち続けることを求められる世界。その世界に行けば兄がいる。兄がいる限りフウトは決して1番にはなれない。それが分かっていてその業界に入るのはあまりにも酷だ。

厳しい現実を突きつけられる。

 

「次はデカい面した兄貴をぶっ倒しに来るんだよ?」

 

「言われなくても分かってるよ……。」

 

じゃ。とその場を去るユウキ。青い髪の毛が綺麗に舞う。

ユウキは「強くなったね」と決して言わなかった。それはまた今度。自分を打ち負かした日に取っておこうと思ったのだ。

 

「……はぁ。」

 

一気に肩の力が抜ける。これが現実。兄にはまだ遠く及ばない。今まで通用していたことがここまで通じないと自信を無くす。

このまま行けばもう一度プロの舞台に戻れると勝手にそう思っていた。そう思っていた自分が惨めだ。

 

まるで今までの事は白昼夢のようだった。思い返せばウチヤマ・ユウと戦ったその日から全てが現実と夢の狭間のようだった。アララギ・サワラに負けたあの日の事も今となっては夢なのか現実なのか分からない。

たった今言える事は、兄に負けたという事実。それだけが残る後味の悪い夢。

 

最後の試練はもう一度地に脚をつけてやり直せというアララギからのメッセージなのだろうか。

 

白く広い空間に1人、フウトは立ち尽くす。

 

「相棒、またイチからだな…。」

 

兄の領域に達するまであとどれくらいかかるのだろうか。バトル中に見せられたあの完成された無駄のない動きと機体。

フウトには果てしなく遠い道のりのような気がして不安な気持ちが少し募る。

 

人生とはうまくいかないものだ。

 

誰もが自分の都合の良いように生きたい。

 

だがそんな風に生きられる人はいない。いたとしてもほんの一握りだけだ。

 

イヌハラ・フウトにとって今日までの事は全て都合の良い夢であって欲しかった。

 

外をふと見ると世界は白く染め上げられ雪雲から隠れ出る日光が地表を照らしていた。

 

──それは儚く美しい銀世界であった。

 

(続く)


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