新たな年を迎えイヌハラ・フウトは己をさらに高め続け季節は既に夏となっていた。
「──遂に、遂に…。ここまでやってきたか…。」
大きな会場を前にしてイヌハラ・フウトはそう呟く。
第14回GPD全国大会。今まさにその本戦が始まろうとしていた。
あれから約1年。これまで多くのことがあった。強敵との闘い、勝利を手にした喜び、何もかも投げ出したい時、逃げ出したい時、自分自身を信じられない時。でもなんとかやってきた。ここまでたどり着けた。
もちろんこれがゴールではない。遊びに来たわけではない。「結果」を出しにきたのだ。
フウトは毎日の厳しいトレーニングで傷ついた手のひらを見て握り拳を作り軽く目を閉じる。皮膚の表面はボロボロで機体の改修で使った塗料が所々に付いている。変に強張っていた表情も以前と比べ少し柔らかくなった。
学生時代、ただひたすらに楽しかったガンプラバトル。しかしプロに上がって自分の実力のなさと才能の無さ、結果が出なければ世あたりが冷たくなる現実を知った。その中に楽しむということは一切なく自分が夢見た世界とはかけ離れていた。引退して「ガンプラ」をやめればよかった。なのに中途半端にやめれなかった。心のどこかでまだずっと夢を見ていたのかもしれない。諦めきれなかったのかもしれない。
腐っていた自分を救ってくれたのもまた「ガンプラ」だった。ガンプラに殺され、生かされた。そしてガンプラがくれた多くの繋がりや出会いがフウトを変えた。変えてくれた。そしてやっとスタート地点、いや戻ったというべきだろうか。諦めなかったからもう一度扉の前に立てた。あとは、その扉をあけるだけだ。
「……。」
「──おーい、フウトさーん?何浸ってるですかー?」
「ん、シイナか?もうエントリーは終わったのか?」
「はい。いま終わりました。何か考え事をしてたんですか?」
「まあな。シイナと当たった時にどうやってボコボコにするか考えてた。」
「え!?そんなことを?気が早くないですか!勝手にボコボコにされてるのなんか不服なんですけど。」
ヒナセ・シイナもまたこの大会の出場者なのである。フウトと共に高めあったその実力は既に全国区でもトップクラスであろう。大会でも上位に食い込める可能性は大いにある。
「そういえばフウトさんってここの会場に何度か来たことあるんですよね?」
「ああ。そうだな。学生の頃に全国大会で何度か来た。」
「やっぱりここにくるとざわつくというか変な感じはあるな。」
「へぇ、フウトさんもそんな風に思うんですね。」
「シイナお前、俺のことなんだと思ってるんだよ。」
そんな風に談笑しながら、そういえば毎年の夏にここへ来ていたなと懐かしくなる。
「懐かしいもんだねえ〜。もう何年も前だなんて嘘みたいだよ。」
「あ、先生。」
「先生、それにサワラも!」
よっす。といつもの緩い感じでアララギ兄弟が共に現れる。その少し後方にはテルキとタロウの姿も見える。
「此処に忘れ物を取りに来たのかい?それとも探し物かい?」
アララギが問いかける。
「……両方かもしれません。それに約束も。」
あれから何度も季節を重ねてきた。変わりゆくものもあれば変わらないものもある。あの頃と変わらない仲間やライバルが今も変わらずいる。それにどれだけ刺激をもらったことか。
「フウト、前の借りはきっちり変えさせてもらうよ。」
「サワラこそ途中でへばるんじゃねえぞ。」
「──おーい!ふうちゃん、みてくれよ!」
「昨日、夜通しで作ったんだ!」
テルキとタロウがニコニコした目で手作りの横断幕を見せる。
「これって…。」
そこには『還ってきた皇帝、皇道を征け、俺達のイヌハラ・フウト』の文字が書いていた。皇道。彼のこの先進む道がその言葉にふさわしいのか。これはそれを決める大会でもある。
「ちょっと、恥ずかしいけど、2人ともありがとう…!!」
「出場できない分、全力で応援するぜー!!」
鉢巻や法被、サイリウムも用意しているらしく準備は万端のようだ。本当に気恥ずかしいが嫌なわけではない。むしろ嬉しいくらいだ。プロの選手の熱心なファンもこのような横断幕を掲げている。現役時代にそのような事がなかったせいかやはり嬉しい。
「さーて、みんな、記念写真を撮ろう〜。」
「あ、いいですねそれ!ほらほら、フウトさんこっちこっち。」
「あ、いや、俺は後ろで…。」
「主役は真ん中でしょ。」
「はーい、撮るよー!10…9…8…7……。」
カメラのシャッターを押しアララギも急いで映り込む。
パシャッ。
「いい…写真…だな。」
フウトが真ん中に座りその隣にシイナとサワラ。後ろには横断幕を持つアララギ、テルキ、タロウの3人が写っている。みんなが良い表情で写っている。
そこに兄の姿はいないが変わってゆく事もある。
「ふうちゃん、暴れてきなよ。」
「はい……!!」
「フウトさん、絶対勝ち進んで下さいね。」
「当たり前だ。負けるつもりなんて1ミリもねえよ。」
フウトとシイナは強い眼差しでお互いを見てニヤリと笑う。そして違う方向へと歩いてゆく。次に会う時は全国大会で勝ち進んだ舞台でと言わんばかりに。
***
「さーて、みなさん今年も暑い夏がはじまりましたァッ!!第14回GPD全国大会ッ!今年の栄冠は誰に輝くのか!そしてどんなドラマが生まれるのか!」
「今回の参加者にはあのプロデューラーの『イヌハラ・ユウキ』選手や『アララギ・サワラ』選手も参加しております!いやーどんなバトルが見られるか楽しみですねェッ!そしてッ!誰が世界への切符を掴むのかッ!!!」
ウォォォォォォォーー!
大会の開会式でMCやたらと会場を盛り上げる。こんな雰囲気も本当に久しい。それにユウキやサワラも参加している。あの2人を倒さない限りフウトは優勝は出来ない。だがそのつもりで彼も準備はしてきた。負ける気など毛頭ない。今度こそ掴めなかったものを掴む。そう意気込んでいた。
『──ふうちゃん、次の全国大会で待ってるよ。』
年始に兄と別れる時にそう一言別れ際に言われた。
通常プロがこのようなアマチュアに混じった大会に参加するということはあまりない。理由は簡単でプロとアマで実力の差が顕著に出てしまい試合にならない可能性がありそもそもプロリーグが参加を認めない事。もう一つはプロはプロで世界大会へと進める国内戦がありそちらの方が世界へ行ける枠が多いということもある。ましてや前シーズン全米チャンピオンと全日チャンピオンのユウキとサワラが参加するのはあまりにも異例である。2人ともリーグの許可を無理矢理取ったようだ。リーグ側も前年度チャンピオンが出場するなら観客数も増えるからいいと渋々承認した。さらに噂では2人ともこの大会のために世界大会への参加権を放棄したとも言われている。
それほどまでにライバルたちは本気ということなのだろう。
「初戦前にトイレに行っておくか。」
胃の弱いフウトは開会式の途中でトイレへと向かう。
「ん?」
気のせいだろうか。人混みの中にあの少年「ウチヤマ・ユウ」を見かけた気がした。勝ち進めばいずれ彼とも闘うかもしれない。とても楽しみだ。
「よいしょと。」
フウトは用を足し手を洗う。一年前はトイレの清掃員を真面目にやっていた事が嘘のようだ。随分と立場が変わったものだ。しかしトイレで運命が変わったのもまた事実。あの日、あの時に、あの少年と出会わなければ今ここには立っていなかったかもしれない。先ほど見た少年がもしあのウチヤマ・ユウなのであれば是非闘いたいと思う。
「──ふうちゃん、ちゃんと本戦に進んできたんだね。」
「に、兄さん。また急に。驚かせないでよ。」
またしてもこの男、イヌハラ・ユウキは神出鬼没に姿を現す。
「ははは、ごめん、ごめん。」
「にしても聞いたよ?予選大会は圧巻だったそうじゃないか。メディアにも取り上げられたんでしょ?」
「あれは対戦相手が良かっただけさ。それにメディアは鬱陶しいよ。いつも笑顔で受け答えしてる兄さんは凄いよ。」
「まあ、あれも仕事だからねえ〜。」
「仕事か…。」
プロとしての仕事。フウトにはメディアへの受け答えをする器量もなかったのかと思うと少しがっくりとくる。
「まあ、ここには仕事には来てないから安心してよ。」
「え?」
「果たしたい約束があるからね。ずっと前にした。」
「それって…。」
「なーんてね。ふうちゃん、この1年間の君の答えを俺に見せてくれ。そしてそれを俺に表現してみせなよ。」
「言われなくても。そのつもりさ。」
ユウキはふふと笑い長い髪をなびかせその場を立ち去った。いつ見ても綺麗な青くて長い髪と後ろ姿。幼い頃からその背を追ってきた。
「……さてと。いっちょやるか。」
フウトはコツコツと足音を静かに立てて初戦へと向かう。
「さーて、次の対戦カードはぁぁっ!!」
「ハヤシ・コウタロウ選手VSイヌハラ・フウト選手だぁッ!!!」
オォォーーッ‼︎
「イヌハラ・フウトってもしかして元プロの?」
「イヌハラ・ユウキの弟か!あの出来損ないの!」
「まじかよ!あいつまだこんなところでしがみついてんのかよw」
「公式戦に出場なんていつぶりだよw 惨めな負け方して兄貴の顔に泥塗るんじゃねえぞー!」
「俺さ、昔あいつの負け試合で生卵投げつけた事あるんだよねwww」
歓声と共に様々なノイズが聞こえて来る。そういう立場だったなと。いつまでたっても"元プロの出来損ない"というレッテルは残るものだ。だが今のフウトにとっては過去。罵声とは反対に自信に溢れた顔つきだ。
「ふうちゃーん、負けるなー!2分で終わらせろー!」
「フウト…。負けるな、頑張れ…。」
「フウトさん…。負けないで…。」
観戦しているサワラとシイナが小さな声で呟く。しかしそんな声はこの雰囲気に全てかき消されていく。
「ユウキくん、この試合どうなると思う?」
「どうなるって?」
「どっちが勝つかって事よ。」
「やだなー。そんなの決まってますよ。」
「──俺の弟はそんなにヤワじゃないので。」
「フフフ、あなたは昔からそうね。弟に肩入れし過ぎなんじゃないの?」
「当たり前ですよ。ウチの弟は強いですから。」
ユウキは番記者の女性ににっこりとそう答える。
「久しぶりだな。イヌハラ。」
「ん?お前は?」
かなりスタイルが良く顔立ちが整った清潔感溢れる青年が声をかけてきた。対戦相手の名前は「ハヤシ・コウタロウ」どこかで聞いたことのある名だ。
「……もしかして、お前あの時の!!」
「ああそうさ。フリーファイトスペースで闘った事をやっと思い出したようだな。」
あの時は小太りでかなりの悪人面だったので別人のようなハヤシを見てフウトは分からなかった。
「強くなったのはお前だけじゃねえ。悪いが初戦はいただくぜ。」
「テメーの面を見ればわかるさ。強くなったって。でも俺にも譲れないものがあるんでな。」
そう言って2人はGPDの筐体へと向かう。
フウトの全てを賭けた夏が今はじまる。
Futo'sMobile Suit
Justice Kaiser
VS.
kotaro'sMobile Suit
Shinanju
「ジャスティスカイザー、行くぞ!」
「シナンジュ出る!」
二つの機体が荒野へと飛び出す。
『ジャスティスカイザーじゃねえか!まだあんなもんつかってんのかよ!』
『勝てないのに皇帝なんていつ見てもお笑いだな!』
様々なノイズがまたしても聞こえる。
『フウトさん、なんでインフィニティを使わないんだろう。』
『フウトなりにも色々思うところがあるんだろうね。』
「いくぜ、相棒ッ!」
フウトはシナンジュを発見するや否や急接近していく。
「速いッ!?」
シナンジュもまたカイザーを迎え撃つべく臨戦態勢へと入る。カイザーはドラグーンを一気に解き放つ。鮮やかな尾が桜の花弁のように華麗に舞う。
「お得意芸かよッ!」
コウタロウはこの1年射撃の腕を磨いて来た。たとえ高速で動く小型飛翔体であろうと撃ち落とせる自信があった。
「そこだァッ!!」
しかしシナンジュの射撃はドラグーンにかすりもしない。ドラグーンはまるでコウタロウの努力を嘲笑うかのようにことごとく避ける。
「何故だ!たかだかオート操作に何故当たらん!」
「誰がいつオートだって言ったんだよ。」
フウトは高速かつ精密に指を動かしドラグーンを操作してシナンジュへと集中放火する。
「テメェ、まさか…。」
「わりぃな。この勝負は一気に終わらせるぜ。」
カイザーはドラグーンとビームライフルのコンビネーションだけでシナンジュを追い詰める。基礎的な攻撃パターンであるがその精度はかなりのものだ。
「ちぃ!こんなところで!」
シナンジュは被弾を覚悟しながらも近接戦へ持ち込むために突撃する。カイザーはそれを真っ向から受け止めてゆく。シナンジュのサーベルによる攻撃、蹴り全てを受け流し的確なカウンターを入れてゆく。
「こいつでおわりだぁッ!!」
カイザーは腰を小さくに捻りながらも最大の反動が出るように渾身の蹴りをシナンジュの胴体へと蹴り込んだ。
「………レベルが違いすぎる…。」
──battle end ──
winner Futo
「み、見事一回戦を勝利したのはイヌハラ選手です…!!その時間なんとわずか1分30秒…!!」
ウォォォォォォォーー!
「ふぅ………。」
フウトは久しぶりの大歓声の中の試合は少し怖かったがなんとかなって一息つく。そして筐体のバトルシステムが強制終了するまでフィールドをわざとらしく円を描くように周った。
「ま、まぐれだろ。」
「そりゃ、伊達に元プロじゃねえよな…。」
「嘘だろ…。強すぎねえか。あれじゃまるで『皇帝』じゃねえか…。」
先ほどまでフウトを罵倒していた観客達が静まり返る。それもそのはずだ。彼らの目に映るフウトはもはや別人、別次元の人間なのだから。
「ふうちゃんが勝ったーー!!ようやったぞ!!!」
「よしっ!フウトさん勝ちましたね!!馬鹿にしてた人達ざまぁみろです!」
「そうだね。皇帝の帰還凱旋は盛大でなきゃ。」
弧を描くジャスティスカイザーの姿を見てサワラはそう言う。
「……負けた。こんなにもあっけなく。」
「コウタロウ。またやろうぜ。次も負けねえけどよ。」
そう言ってフウトは手を出す。コウタロウはそのフウトのボロボロになった手を見て自分の手と見比べる。
「こんなにまで、ここまでやらなきゃいけねえのか…。完敗だよ。」
そう言ってコウタロウはフウトと握手を交わす。フウトのザラザラとした厚みのある手の感覚を感じながらまた強くなろうとコウタロウは心に誓った。
こうして大会は進んで行きフウト、シイナ、サワラ、ユウキの4人はベスト8まで勝ち進んだ。そしてフウトの次の対戦相手は「ウチヤマ・ユウ」であった。
大会での闘いを見ているとユウとアポロンガンダムが成長している事は明白だ。しかしフウトには気がかりになる事があった。彼の動きが突然消極的になったこと。それまで消耗を恐れない近接戦を持ち味としていたのが途端に相手の機体をバラす戦法や場外勝ちをするようになっていた。側から見れば「余裕のある闘いだな」とさえ感じる。しかしアポロンにかかる負荷はその分とてつもない。
彼にも色々と理由があるのだろう。フウトはあまりその事を考えるよりもユウと闘える事に燃えながら機体の整備をする。
一方、別の控室でユウは必要以上に傷ついたアポロンを黙々と修復する。そしてそれを黙って見ていた兄のヒロは声をかける。
「なあ、ユウ。」
「なに?兄ちゃん。」
「いや、なんでもない。」
声をかけたもののヒロはユウの姿を昔の自分と重ねてしまい何も言えずにいた。ガンプラバトルを諦めた自分とどうしても重なってしまう。
『――破壊を止める?何言ってんだァ?そもそもガンプラバトルってのは相手が大事に作ったモンを壊すモンだろォが!テメーの言ってる事は自分勝手なお子様のソレなんだよ!!』
ユウの頭からこの言葉が染み付いて消えない。自分のしている事が正しいのかさえも分からない。闘う理由も分からない。心の中の太陽が沈んだみたいだ。次の対戦相手は今大会注目株のフウト。一度勝利した相手ではあるがあの時とは全くの別人だ。小手先のテクニックや今までのような誤魔化しが効く相手はではない。
控え室のモニターに前の試合の勝者が表示される。──winner Sina
「ユウ、そろそろだ。行くぞ。」
「うん。」
一方、フウトも闘いへの準備をしていた。
「お、シイナが勝ったか。てことは次勝てばシイナが対戦相手か…。」
「その前にまずは目の前の相手に集中だな。待ってろユウくん…。」
フウトは珍しく嬉しそうな顔つきで戦場へと赴く。
一方ユウは虚な目で闘いに臨む。
「さぁぁて!お次の対戦カードはウチヤマ・ユウ選手VSイヌハラ・フウト選手だぁぁッ!!」
「近接線においては右に出るものはいないユウ選手と鋭いカウンターと神がかった反応速度を持つイヌハラ選手どちらが勝利するのでしょうかぁッ!?」
ウォォォォォォォーー!
相変わらずMCが煽り観客達は盛り上がる。
「ユウくん、久しぶりだね。」
「イヌハラさん、お久しぶりです。」
ユウは少し目を背けて挨拶をする。
「俺はこの日を楽しみにしてた。君とまたやれる日を待ち望んでた。いいバトルにしよう。」
「はい…。」
やはり様子がおかしいとは思いつつフウトは筐体へと向かう。
「ユウ、やれるか?」
「やるさ。やらなきゃならないんだ…。」
「アポロン…。」
Futot'sMobile Suit
Justice Kaiser Infinity
VS.
Yu'sMobile Suit
Apollon Gundam
「カイザー、出るぞ!」
「ウチヤマ・ユウ、アポロンガンダム行きます…!」
ステージは宇宙。2機の赤い飛翔体が出撃する。
「さて、ユウくん。どう来る?」
フウトは今までのユウの戦闘パターンなら勢いよく突っ込んでくるはずだと踏んでいた。しかし全く先行してくるどころか姿すら現さない。
「ほぉ、あくまでもそうするか。それならッ!」
カイザーは周辺索敵をしながらアポロンガンダムを探知し高速で向かう。
「来るッ…!!」
アポロンは身構えるもカイザーは目の前に立つだけで何もしてこない。目の前にいるだけにもかかわらずこの威圧感。まさに皇帝と言ったところか。やはり1年前とは別物、というよりはこれが本来のジャスティスカイザーとフウトなのだろう。
「どうした?ここは君のバイタルだろ?来いよ。」
「くっ…!!」
挑発されたアポロンはカイザーへと拳を振りかざす。しかし当たらない。もう一度大きく振りかぶるが当たらない。カイザーが避けた、というよりはアポロンの攻撃が当たらないのだ。
「馬鹿にしてるのか?」
「そんなんじゃ…!!」
「全力でやれないなら棄権しろ。でなきゃ君のガンプラがただ傷つくだけだ。」
「くっそぉ!!」
ユウは腹の底から苦痛を上げながらカイザーへと攻撃する。
「パンチのキレが落ちたな!」
カイザーはその鈍い鉄拳を避け足蹴りによるカウンターを行う。
「くっ!」
「パンチってのはこうやるもんだッ!」
カイザーの右ストレートがアポロンの顔面を打つ。メインカメラにダメージが入ったことでアポロンのディスプレイが不安定となる。その間カイザーはアポロンの腹部を中心に格闘攻撃によるラッシュを行う。
「おらおら!どうした!?」
「ユウ!このままじゃやられるぞ!」
「分かってるよ!!」
アポロンは馬鹿力でカイザーの鉄拳を受け止めそのまま強力な推進力で場外へと押し出そうとする。
「おいおい、そんなのが通用するとでもマジでおもってんのか?」
「こうする事が…こうする事が正しいんだッ!!」
「正しい…?」
アポロンはさらに推力を上げて場外へと突き飛ばそうとする。カイザーもアポロンから離れようとするがパワーが今ひとつ足りない。
「あと少し…、あと少し…。」
ディスプレイに戦闘区域外までの距離と警告音が出る。ユウは少し汗ばみながら力強く押していく。一方フウトは動じずドラグーンを展開させる。
「場外なんて舐めたマネしてんじゃねえぞ!」
カイザーのドラグーンが背後からアポロンを襲う。
「うわっ!?」
「ユウ、来るぞ!!」
「もらったァッ!!」
カイザーはバックパックのブレードを上手くしならせアポロンの右腕を切断する。アポロンは一旦バックステップを取るがドラグーンの追撃を受ける。さらにそこにカイザーのブレードによる連続攻撃がアポロンを痛めつける。
「どうした!やられっぱなしか?」
「うぉぉぉぉ!!!」
煽られ続けフラストレーションの溜まったユウの闘争本能がとっさにむき出しとなる。アポロンはビームサーベルでカイザーの攻撃を切り払いそこで生まれた隙をついて右腕を切断しようとする。
『─そもそもガンプラバトルってのは相手が大事に作ったモンを壊すモンだろォが!』
染み付いたあの言葉がユウの頭を再びよぎる。
「くそおお!!」
ビームサーベルは虚しく空を切る。その瞬間を容赦なく詰めるフウト。
「馬鹿にするのも大概にしやがれええ!!」
ビームサーベルを持つ手をブレードで叩き切り両腕のないアポロンの腹部を思いっきり蹴り飛ばす。
「ぐはっ!」
「動きに迷いがあるのは見ればわかる。けどよ、目の前の敵にくらいは集中しやがれ。できないのなら棄権しろ。それでもそこに立つってんなら本気で潰されろッ!!!」
「ユウ!無理だ!これ以上やっても勝ち目は無い!」
「ダメだ!!やらないといけないんだよ俺は……勝たなきゃ……ここで……ッ!!!!」
「でもどうやって……!?今の状況じゃどうやっても勝てないぞ!!お前から攻撃を──」
「今まで通りやればいいんだ!!相手の力を奪う、そしてバラしてやる!それだけだ……それしか道はないんだよ!!!」
不意にヒロの口から出そうになった言葉は、ユウの言葉に書き消された。
──お前から攻撃を仕掛けるんだ。
打開策は、それしかなかっただろう。ヒロはどこかそう思っていた。
「"やらなきゃいけない"…か……。」
「使命感″だけ″に駆られているようじゃ……俺には勝てないぞ」
カイザーのツインアイが紅く光る。これまでとは別次元の速度で攻撃を叩き込む。右、左、上ブレードと格闘による完璧なコンビネーション技。フウトも本来なら万全のユウに使いたかった。両腕を失ったアポロンはガードする事もできずただただやられ続けた。
「戦いで示してみせろよ……君自身の思う、戦う
さらにカイザーは必要以上にアポロンを痛めつける。右脚を切断し備え付けられたソードビットを破壊しアポロンの戦闘能力をほぼ奪った。
「……闘う……
「ユウ……」
ユウは黙ってグリップを握り続ける。
「こいつで終わりだ…。」
カイザーは距離を一旦取りスピードに乗った状態でブレードを構える。フウトが得意とするブレードの抜刀の距離だ。そして強く踏み込み対象物の上半身と下半身を完全に切断した。
「……………………。」
winner Futo
「準決勝へと駒を進めたのはイヌハラ選手だぁぁぁぁ!!!!」
ウォォォォォォォーー!
「負けた…。」
何一つとして通じるものがなかった。というより闘う事を放棄していたと言っても過言ではない。ユウとアポロンガンダムはただタコ殴りにされて終わった。
目の前にはボロ雑巾のようになった無残なアポロンの姿がある。
──この日、太陽は陥落した。
「…………」
ユウはガンプラバトルがGPDがこんなにも怖いものだと思う日が来ると思っていなかった。
「ユウ…。」
ヒロは立ち尽くす弟に何も言えない。言えるはずもなかった。
「ユウくん…。」
「イヌハラさん…。その…すみません……。」
「いいさ…今は。」
「……。」
「苦しいか?GPD?」
「え?」
「動きを見ればわかるさ。迷いや苦しみを感じる。」
「今きみが何に悩んでいるのか何に苦しんでいるのか俺には分からない。俺だって今まで何度も何度も悩んで苦しんだ。」
「イヌハラさんも…?」
「ああ。俺だって人間だからな。」
「あ、あの、イヌハラさんの闘う理由ってなんなんですか?」
ユウは食い気味にフウトへ問う。この人に聞けば答えが分かるかもしれない。楽になれるかもしれない。ずるいとはわかっていても知りたいと思った。
もし人の答えで楽になれるのなら人生とは容易いものだ。
フウトは少年の意図も理解しながら答えた。彼自身の答えを。
「そうだな…。色々あるけど『自分自身に負けない事』って事に最近やっと気づいたよ。」
「それに約束した事もあるんだ。だから負けられない。」
「『自分自身に負けない』ですか…。」
「ユウくんにはないのか?理由?」
「今の俺には…。」
「そっか、じゃあユウくんはまだまだ強くなれるな!」
「え?」
「君はまだ若い。色んな事に悩んで、考えて、時には挫折する事もある。逃げ出したくなる時もある。」
「だけど、足掻く事だけはやめるな。君の思い描いている夢は時に壊されるかもしれない。理想とかけ離れる現実に嫌気がさすかもしれない。もしかすると君が答えを出すのに何年も何十年も掛かるかもしれない。それでも絶対に足掻け。足掻いて、足掻いて、足掻き続けろ。」
「──それに夢や想いのカタチってのは姿を変えながらもずっと君のそばにいてくれるんだぜ。」
「足掻き続ければ…。」
「夢の形は変わり続ける…。」
2人はフウトの言葉を聞きそれぞれの言葉をつぶやく。
「少々説教臭くなっちまったが生き遅れたおっさんの戯言だと思ってくれ。」
そう言うとフウトはその場を立ち去る。先程の台詞はまるで自分にも言い聞かせているようであった。
「夢のカタチは姿を変えながらもいつもそばにいるか…。」
「らしくねえ事言っちまったかなあ…。」
「待ってるぜ、ユウくん。何年経とうが何十年経とうが俺は君の答えを待ってるぜ…。その時は最高のガンプラバトルをしような。」
フウトは自分の答えに辿り着くのに何十年も掛かった。兄との確執をずっと感じ続けていた。それでも足掻く事をやめなかった。やめなかったからここに立っている。
フウトは次の対戦相手、ヒナセ・シイナとの対戦に備え準備を進める。
(続く)
この度は本編作者のぬぬっししさまにご協力して頂きました。
お忙しい中ご指摘、ご指導をいただき本当にありがとうございました。おかげでかなり熱く本編のテーマも組み入れられたかなと思います。
今後ともどうぞよろしくお願い致します。
Instagramにて作中の機体やキャラクターのイラストなどを掲載しております。
n_mokey