ガンダムビルドデューラーズ 清掃員外伝   作:地底辺人

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いよいよ大詰めとなってきました。

今回を含めてあと2話です。最後までよろしくお願い致します。


第十三話「白い季節の約束」

 第14回GPD全国大会もすでに4強が出揃った。

 

 現役最強と名高いイヌハラ・ユウキ、若きカリスマアララギ・サワラ、白銀姫ヒナセ・シイナ、そして元プロデューラーで清掃員のイヌハラ・フウト。そして準決勝はユウキとサワラ、シイナとフウトによって行なわれる。

 

「ちょっといいですか。イヌハラさん。」

 

 通路で黒いスーツとストッキングを履いたスタイルの良い黒髪の女性。手には筆記用具をもっている。

 

「また、あなたですか。しつこいですよ。」

 

「まあそう言わず、準決勝の意気込みは?」

 

 予選からフウトを付け狙う番記者である。インタビューの受け答えが苦手なフウトにとってはストレスでしか無い。

 

「……なるほど…………。」

 

「もういいですか…?」

 

「はい。でも最後に一つ、これは記事に関係ない事ですが。」

 

「まだあるのかよ。」

 

「ヒナセ・シイナとはどういったご関係で?」

 

 改めてそう聞かれると自分でもよく分からない。この一年確かに一緒に過ごしてきた。彼女も自分の事を慕ってくれている。だがそれ以上の関係になる事もなかった。俺にとって一番は常にこの大会で優勝することしか頭になかった。だが、彼女が自分にとって大切な存在である事は間違いない。故に言葉に詰まる。

 

「えっと…。」

 

「なるほど、恋仲、というわけでは無いのですね。」

 

「そんなこと聞いてどうするつもりです?」

 

「あわよくば、記事に。」

 

「記事とは関係ないっていいましたよね!!」

 

 またしてもこの番記者の罠にかかる。

 

「でも『想い』というのは伝えられる時に伝えた方がいいと思うよ?フウト?」

 

「その名前で呼ばないでくれ。俺と君、いやあなたはもうそういう関係じゃないはずだ。」

 

「そうね…。ごめんなさい。」

 

「でも、わたしは嬉しかったよ。またフウトがこの世界に戻ってくれて。」

 

「…………。」

 

フウトはその場を立ち去る。

 

「……え?……なに……?」

 

 シイナはそれを隠れて見ていた。

 

「あの女、前から怪しいと思ってたけどまさかフウトさんの彼女面までするなんて、しかもフウトさんもフウトさんで分かってるなら相手しなくていいのに!」

 

 ご機嫌斜めの姫である。

 

「──準決勝の相手はフウトさんか…。」

 

 シイナは次の対戦相手がフウトである事に複雑な感情を抱いていた。日々お互いに競い高め合ってきた存在、それと同時にそれ以上の別の感情さえフウトに対して持っている。

 

 加えてフウトがこの大会に全てを賭けている気迫がヒリヒリと感じる。あまり多くを語る方ではないが彼の様子を見ていればそれくらいは容易くわかる。

 

 かといって、シイナも手を抜くつもりはない。フウトに勝つ事を彼女自身も目標としてきた。記憶がなくなる前からずっと追いかけていたような存在にさえ感じる時がある。故にフウトと闘えば"あの時"のように何か分かるかもしれない。そんな期待感もある。それでもやはりフウトと本気でやり合うというのは少し気が引ける。

 

「──ええっと、確か君、ふうちゃんの彼女だっけ?」

 

「えぇ!!ち、ちがいますよ!そんなんじゃ!!」

 

 突然甘い声をした男性に声をかけられる。フウトの兄、ユウキだ。

 

「なーんだ、違うんだ。つまらないなあ。」

 

「からかわないでくださいよ!ユウキさん!」

 

「あ、俺のことは特別に『お義兄さん』って呼んでもいいんだよ〜。将来を見据えてね〜。」

 

 シイナはユウキのマイペースでおちょくった会話にペースを乱される。

 

「それで、君、ふうちゃんに勝ちたい?」

 

「え、そりゃそうですけど…。」

 

 改めて勝ちたいかと聞かれると確かに勝ちたいがフウトのことを思うとやはりそう思えない自分がいる。こんなことフウトは絶対に許さない事だと思う。

 

「ふーん、じゃあいい事教えてあげようか?」

 

「いい事…ですか?」

 

「そう。ふうちゃんの弱点、とでも言えばいいのかな…。」

 

「そ、そんなの!教えてもらわなくて結構です!」

 

「それにきみ、記憶が無いんだよね?」

 

「…!? なんでそれを…!!?それに今その事は関係ないですよね?」

 

 何故それを。この人が知っているんだ。シイナはそうは食い気味で聞き返す。

 

「すごい顔してるよ〜。可愛い顔が台無しだ。」

 

「まあ、俺の見立てなんだけどさ。君はふうちゃんと強く交われば交わるほど自分自身の記憶………。というより本来の自分に近づけると思うよ。」

 

「……。」

 

「心当たりのある顔だねえ。」

 

「もしもっとふうちゃんを傷つけ、痛めつけたらどうなるんだろうね。もしかすると君の中の点と点が線になるのかなあ。」

 

「……。」

 

 記憶。その言葉はシイナを何度も悩ましてきた。それが原因で突然頭痛が起きる事もあるしフウトと出会ってからよりシイナの心で変に引っかかる事が多かった。

 

 だが、それはあまりに歪んでいる。

 

 この男の誘いに乗ってはいけない。そうは分かっていても自分は本当の自分を知りたい。そう思うのは人間であれば必然的である。

 

 だが。

 

『──全力で来いよ、シイナ!』

 

 うん、やっぱり。あの人には真っ直ぐ向き合いたい。

 

「でも、やっぱりそんなフウトさんを裏切るような事出来ません。」

 

「ほぉ。これは茶化しにきた俺が悪かったかな。ごめんよ。」

 

「い、いえ。そんな頭を上げで下さい。」

 

「それじゃ、楽しんできてね。ふうちゃんとのバトル。」

 

「あ、そうだ。ふうちゃんと同じヤツ、詰んでるんだろ?」

 

「あの光が交わる時、2人だけの夢がきっと見られるんじゃないかな?楽しみだよ。」

 

 そう言ってユウキは長い髪を揺らしながらその場を去る。シイナは何故その事を知っているのか不思議がったがそれよりもフウトと最高のバトルをする事に意識を集中させていた。

 

「今日こそ……。勝つんだ……!!」

 

「──ユウキさん、また茶化しに行かれてたんですか?」

 

「まあね。」

 

「それ、本当悪いクセですよ。」

 

「君の方こそふうちゃんを茶化してたじゃないか。」

 

「私は取材です。」

 

「またまた〜。」

 

 ユウキが興味なさげに言う。

 

「──さて、あの2人どうなるかな……。」

 

 一方、フウトもまた対戦前にサワラと話していた。

 

「フウト、この一年で見違えるほど強くなったね。」

 

「よせよ、まだあの時俺に負けたのまだ根に持ってんのか?あれはまぐれだって。」

 

「まぐれなんかじゃ無いさ。君の強さをこの肌で実感したよ。」

 

 フウトとサワラ。2人は永遠のライバルであり永遠の友でもある。この2人もまたお互いを意識し高め合ってきた。

 

「フウト、俺はユウキさんに勝つよ。」

 

「珍しく自信ありげじゃねえか。」

 

「君が昔俺に見せてくれた夢を今度は俺が君に見せるよ。」

 

「なにカッコつけてやがる。日本のチャンピオンとして全米チャンピオンに全力で挑むだけだろ?」

 

「それに俺の夢はお前や兄さんが充分俺の分まで果たしてくれてるよ。」

 

 フウト…。サワラはそう呟きたかった。フウトのこれまでの経緯や想いを考えればその言葉の重みを感じる。自分のためだけじゃなく誰かの想いも背負って闘う。それもプロの責務なのだ。

 

「勝手に君の夢を俺たちに押し付けないでくれよ。自分の尻くらい自分で拭いてよ。」

 

「相変わらずサワラは厳しいなあ。」

 

 大人になってもお互いにジョークを言い合える仲。この時だけは身分や年齢そんな世間のしがらみのないあの頃の、少年の頃と何も変わらない。なんのしがらみもない飾らなくて良いあの頃のままだ。

 

「それじゃあ、決勝でな。」

 

「ああ、フウトも負けるなよ。」

 

 2人は腕をかざし握り拳を合わせそれぞれの闘いのロードへと向かう。

 

「──また会おう。友よ。」

 

「さぁぁぁて!!準決勝のお時間ですっっ!!」

「こちらのフィールドではイヌハラ・フウト選手VSヒナセ・シイナ選手の対戦です!!」

 

「お互いによく似たバトルスタイルの2人ですがどのようなバトルを繰り広げるのでしょうか!?」

 

「いけーイヌハラー!」

 

「シイナちゃん負けないでー!」

 

 相変わらず凄い歓声だ。回を重ねるごとに会場のボルテージが上がっているように感じる。フウトの目の前には覚悟を決めた少女の顔が映る。どうやらシイナは本気でやる気らしい。自分もそれに全力で応えたい。

 

「シイナ、全力でこいよ。」

 

「今日こそは勝たせていただきますよ!。」

 

 いつもより強張った顔をしたシイナ。だがやる気は十分だ。フウトも気を抜けば簡単にやられてしまうだろう。

 

 

Futot'sMobile Suit

    Justice Kaiser Infinity

      VS.

Shina'sMobile Suit

    Justice snow white

 

 

「カイザー行くぜ!」

 

「スノーホワイト、舞います!」

 

 ステージは雪原。

 

 赤と白のよく似た2機のジャスティスガンダムが出撃する。

 

「また雪原か…。」

 

 フウトは雪のステージが視界が悪く一面が真っ白なため敵を捉えにくく苦手としていた。しかもシイナの機体「ジャスティススノーホワイト」は真っ白な機体でそれも相まって捉え辛い。

 

 

【挿絵表示】

 

 

 ビピピッ

 

 モニターに敵の反応が表示される。

 

「どこだ!?」

 

「遅いッ!!」

 

 スノーホワイトはウイングに取り付けられたブレードをしならせカイザーへと奇襲する。

 

「ちぃッ!流石に早い!」

 

 スノーホワイトのスピードと突然の奇襲に流石のフウトも反応しきれずダメージを受ける。

 

「腕を上げたな、シイナ!」

 

「まだまだ、いきますよ!!」

 

 勢いに乗りさらにブレードによる追撃を行うスノーホワイト。それを受けるカイザー。

 

 ──お互いによく似た機体とよく似たバトルスタイル。

 

 似たタイプとの闘いの勝負を喫するのは一つ一つの動作の精度の高さ。足元の位置ひとつで変わることなど滅多にない話でも無い。お互いにブレードによる近接戦、そこに両者ともにカウンターを伺い、キャンセリングによる後出し見ているだけで目が疲れる勝負だ。

 

「甘いぞ!」

 

 斬撃を外したスノーホワイトの隙をついてカウンターを入れようとするカイザー。

 

「そっちは囮ッ!」

 

 外したはずの腕は平行方向へと動く。

 

「キャンセルかよ!」

 

 それを見たカイザーはカウンターで入れようとした攻撃の方向を移動する腕の方へと向ける。

 

「くっ!流石フウトさんッ!」

 

 お互いに同じスキルを持っているとはいえ、咄嗟の判断や眼の良さはフウトの方が上。わかっていてもそれが操縦できるかどうかはまた別の話だ。

 

「今度はこっちから行くぜ!」

 

 バックパックに取り付けられたブレードを2刀流で装備しスノーホワイトを襲う。スノーホワイトもまた2刀流となりしのぎを削る。

 

 激しい打ち合い。お互いにこの一年で同じトレーニングを行いお互いを意識し合ってきた。相手の癖は感覚的に分かっている。何度も切り返しては切り返す。だがその均衡が破れる。

 

「くそっ!手が!!」

 

 キャンセリングの連続で疲れが出たのか右にステップを踏もうとした時にカイザーの重心が揺らぐ。

 

「もらったぁぁ!!!!」

 

 シイナはここぞとばかりにカイザーのボディを激しく切り裂く。

 

「まだまだぁ!!」

 

 カイザーは怯まずもう一度仕掛ける。そしてまた先ほどのような打ち合いとなる。何度も切り返し、次はフウトが隙を突いた。

 

「そこだぁぁ!!!」

 

 ───ピキッ

 

 フウトの手首に電流が走る。

 

「…くっ、こんな時に。」

 

 一旦カイザーは後ろに距離を取り体制を整える。

 

「動きが止まった…!?」

 

 絶好機ではあるがシイナも一旦様子を見る。

 

 フウトを襲った突然の痛みはおそらくプロ引退の要因となった事故の後遺症だろう。回復は絶望視されていたが奇跡的に完治していた。だが先程の連続かつ速い動作がかなりの負荷をかけたようだ。確かにシイナレベルのキャンセラーとやり合えばこうなる事も考えられなくは無い。

 

「へっ、強くなったな。シイナ……。」

 

 フウトは手首の事など考えずニヤリと笑う。

 

「──いけるッ……!!」

 

 スノーホワイトは怯まず持ち前のスピードでカイザーへと突っ込む。大きく開いたウイングパーツはプリズムのような輝きを放ち幻想的で美しい。

 

「速いッ!!」

 

 スノーホワイトは一気にカイザーの懐へと入りブレードによる強打。またも打ち合いとなる。

 

 ──ピキッ。

 

「こんな時にくるんじゃねえよ!」

 

 気合いで痛みを抑えようとするが機体のバランスを崩す。

 

「強くッ……踏み込むッ……!!!」

 

 その間合いを一気にスノーホワイトが詰め寄りカイザー目掛けてブレードによる渾身の攻撃を行う。だがカイザーも無理矢理体制を整えブレードを振りかざす。

 

「うぉぉぉぉぉぉぉ…!!」

 

 透き通った冷気の中を二つの衝撃が重なり合う。かなり強い衝撃だ。

 

「うわぁぁぁぁぁぁぁ…!!!」

 

「きゃぁぁぁぁぁぁぁ…!!!」

 

 白い光が起こり2体とも物理法則に逆らえず逆方向へと飛ばされる。

 

「くっ、これはあの時の…!!」

 

 ──フウトは再びシイナの意識へと呑み込まれていく。

 

「──ここは、どこ……?」

 

 意識を取り戻したシイナが目を開けると自分と瓜二つの女性を見つける。しかし自分よりは少し髪が伸びて大人びてみえる。

 

「あら、あなたがここに来るなんて珍しい…。」

 

「あ、あなたは……?」

 

「わたしは、あなた。あなたが失ってしまったあなた。」

 

 シイナには彼女何を言っているのか理解出来なかった。本来出会うべきでない2人。どちらかが存在してはならない2人。

 

「ねえ、お願いがあるの。」

 

 真剣な眼差しでこちらを見る。シイナはコクリと頷く。

 

「少しだけあなたの時間をくれないかしら?」

 

「え?」

 

「ほんの少しだけでいいから、わたしもイヌハラさんとバトルがしたいの。」

 

 彼女がもし本当に自分自身なのであれば、それは私自身の本当の願い。望み。そう思った。

 

「うん、いいよ。」

 

「……ありがとう。シイナ………。」

 

 そう言ってシイナは目を閉じてそのまま座り込んだ。

 

 耳飾りが今度は透明な白色で輝き始める。

 

「──シイナー!」

 

 フウトは意識の世界の中で呼びかける。相変わらず白く儚く冬の匂いがする世界だ。

 

「イヌハラさん……。」

 

「シ、シイナか……?」

 

 大人びたシイナを見て驚くフウトだがとっさに以前会った、記憶の世界に閉じ込められた彼女を思い出した。

 

「今日はわたしがあなたに逢いに行くよ。」

 

「きみは……。」

 

「楽しませてね……。」

 

 ──白い光が再び発光する。

 

 

「うっ……。」

 

「……ここは…………?」

 

 

ウォォォォォォォーー!

 

 会場に響く歓声。どうやら記憶の世界から帰ってきたようだ。

 

 フウトはカイザーの機体のコンデションを確認しゆっくりと動かす。右手首には念のために取っておいた応急用のテーピングを巻き痛みを和らげる。そして手首の状態を確認し「よし。」と呟く。

 

「さあ、いくぜ……!!」

 

 

【挿絵表示】

 

 

カイザーはスノーホワイトの方へと旋回しながら勢いよく突貫していく。

 

「ふふふ、久しぶりの感覚。少しの間だけど楽しませてね…!!」

 

 シイナはアームレーカーを何度か握り直すと機体を動かしはじめた。再び赤と白の機体は澄み渡る空気の中舞う。ブレードによる激しい打ち合い。切り返し。その先手を取ったのはフウトだった。

 

「お目覚めしたばかりで鈍ったか?」

 

「まさか!!?」

 

 フウトの決定打を持ち前の反応速度で見事受け止めた。

 

「やるなッ!」

 

 2人の間に笑みが溢れていた。お互いがお互いを求め合う。ユウキの言っていた強い交わりとはこの事だったのだろうか。

 

「やっと巡りあえた…。ずっとこの瞬間(とき)を…ずっと待ってた…!!」

 

 さらにそのギアを上げカイザーへと近接戦を仕掛ける。

 

「もうその速さには慣れたってんだよ!!」

 

 ブレードをうまく当てに行きスピードに乗った攻撃をうまく受け流す。そしてスノーホワイトの背後にドラグーンを早業でつけ射出する。

 

「そんなッ!!」

 

 スノーホワイトは浮遊バランスを崩し地表に落ちていく。

 

「……やっぱりすごい……。」

 

「それでもわたしは……。」

 

「なんだ?」

 

 全身を青白く光らせ立ち上がるスノーホワイト。シイナのイヤリングに呼応するかのようにウイング部分のプリズム偏光が幻想的に虹色に輝く。

 

「わたしはあなたにッ…!!!」

 

 耳飾りがさらに強く煌めく。

 

 ──prismatic effect──

 

 幻想的な光に包まれたスノーホワイトは2本のブレードを1つにし大剣へと変えカイザーへと突撃する。先程とはあまりに違うパワーがカイザーの全身へと負荷をかける。

 

「さっきとはパワーが桁違いだな、オイ…!!」

 

 スノーホワイトの猛攻を受け流すことしかできないカイザー。さらにダメージの蓄積から動きも鈍りピンチである。

 

「わたしはいつもあなたの背を見て追ってきた。あの時わたしを助けてくれた事も、今も私のそばで居てくれる事も全部、全部知ってる。」

 

「だけどあの子だけじゃなくてわたしのことも忘れてほしくなかった。あなたの記憶からも消えたくなかった。これは私のわがままだってわかってる……。」

 

 記憶の世界のシイナはフウトに強く訴える。フウトはそれを真剣な眼差しで聞く。

 

「ほんの少しでも、少しでいいからあなたと同じ時を刻みたい……!!」

 

「──シイナ、全力で行くぜ…!!」

 

 一言、フウトはそう答えた。短い時間でもなんでもいい。あの時たまたま出逢った少女が、もう一度自分にガンプラバトルをさせようと、自分を生かしてくれた存在と最高の舞台で闘える。フウトにとってこれ以上ない喜びである。 カイザーは徐々にスノーホワイトの猛攻を跳ね返しつつあり機体はやわらかな黄金色を纏い始めていた。

 

「この光……!!」

 

「いま、俺の持てる全力を解き放つ……!!」

 

 ジャスティスカイザーの核エネルギーが活性化し無限のエネルギーを生み出す。この眩い光は遠い世界のシイナを魅了する。シイナにはこの神々しさが神様のようにさえ見えた。黄金色を纏ったカイザーはスノーホワイトを完全に押し返し美しく優しい黄金の光を一面に放出する。

 

「雪が…私の記憶が……照らされていく……!!」

 

 この温かな光はいずれ凍りついた記憶さえも溶かしたくれるとそう思えるほどに強く優しい光だった。

 

「ガンプラバトルを楽しもうぜッ…………!!」

 

「……!!」

 

『ガンプラバトルは楽しむもんだろ?』

 

 楽しむ。かつてフウトがシイナと初めて会ったときに放った台詞。あれから時は過ぎ閉鎖された空間でずっと生きてきた。でも変わらないものもあった。

 

「変わらないね…あなたは……昔から、ずっと…………。」

 

幼いシイナをはじめて魅了したプロデューラー。それはフウト本人だった。彼に憧れ、彼と同じバトルスタイル、同じ機体。ガンプラを始めた頃の記憶のあるシイナにとって憧れでありヒーローだった。

 

「楽しいね…!今…!この瞬間が…!!」

 

 スノーホワイトも巻き返して大剣を振るう。カイザーもそれを2本のブレードで受け止め弾き返す。

 

「出力が上がってる……!!」

 

 ──God Advent──

 

「カイザー、やるぞ!神モードッッ!!!」

 

 ジャスティスカイザーのボディがさらに強く激しく黄金色のオーラを纏う。以前サワラと闘った時とは比べ物にならない。二つの光が溶け合うように互いの輝きを高め合っている。

 

「いくぜぇぇ!!」

 

 カイザーはこれまでと違う軌道でスノーホワイトへと襲いかかる。その驚異的なスピードが乗ったブレードの一撃は重い。スノーホワイトは到底それに耐えきれない。

 

「こいつでしまいだぁぁぁっ!!!」

 

 カイザーは弾き飛ばした腕にできた隙を狙い渾身の一振りでスノーホワイトを文字通りぶっ飛ばした。白い雪景色の中、カイザーの緑色のツインアイが煌く。

 

「これがイヌハラさんのガンプラバトル。ずっと見てたまんまだね……。」

 

 スノーホワイトは強烈な一撃を喰らい再起不能となった。

 

「ありがとう……。ほんの少しだけど楽しかった……。また、逢いに……きて下さい……。」

 

「ああ……。ガンプラを続ける限り君と俺はまた逢える。繋がりあうこの糸は絶対に溶けることなんてない。」

 

「……ありがとう……ずっと……待って…ま…す…ね…………。」

 

 吐息が当たりを白く染め上げ耳飾りの輝きは徐々に光を失い元の光に戻っていく。

 

―battle end─

winner Futo

 

ウォォォォォォォーー!

 

「なんと、なんとの最後に押し切ったのはジャスティスカイザー!!準決勝を制したのはイヌハラ・フウト選手ですッッ!!!」

 

「また、逢えるさ……。」

 

 フウトは消えていく彼女の意識を感じながら約束を心に刻む。

 

「ううっ……頭が…。」

 

「おい!大丈夫か!」

 

 フウトは筐体からふらふらと出てきたシイナへと駆け寄る。

 

「あれ、わたし、何を……?」

 

「目が覚めたか!」

 

「何か夢を見ていたような……。白くて眩い光が煌めく、そんな夢……。」

 

 どうやら元のシイナに戻ったようだ。先程の出来事はほとんど記憶にないらしい。記憶の世界のシイナと本当に入れ替わっていたようだ。

 

「でも、なんだろう。すごくすっきりしてます。負けたんですよね?わたし。」

 

「シイナ……。いい試合だったよ。強くなったな。」

 

「……!!ほんと急にそういうこと言うの間が悪いんですよ!」

 

「そうだな。いつも間が悪くてごめんな」

 

 はははと笑うフウトと笑い事じゃないですよとそんな顔をするシイナ。

 

 いつか凍りついたままのきみと今の無邪気なきみを真っ白な世界からすくい上げる。そして本当のきみと出逢える日が来るまであがき続ける。今度は自分のためじゃなくて誰かのためにあがき続ける。今の自分ならそれが出来る気がする。

 

 いつか、いつの日かその横顔が当たり前のように見続けれるように。

 

 フウトはこの日そう心に誓った。

 

 この想いは決して溶ける物ではないから。

 

 ***

 

 一方、第2準決勝。

 

 サワラとユウキのバトルは大詰めを迎えていた。

 

「──やるね、サワラくん。この短期間でここまでくるとはね。」

 

「まだまだ、余裕って感じですねッ!!」

 

 ユウキの駆るガンダムソフィエル・GNアサルトがサワラのガンダムソフィエル・エクリプスを見下ろす。

 

 ガンダムソフィエルエクリプスはサワラが以前扱っていたガンダムゼルエルの完成形。ユウキと同じソフィエルの名を冠する"王者"だけが名乗れる称号だ。

 

 

【挿絵表示】

 

 

 ソフィエル、天使同士の闘いではあるが位はGNアサルトの方が格上のようだ。

 

「……けど…………これならッ……!!!」

 

「トランザム……!!!」

 

 エクリプスは機体を真紅に染め上げ機体性能を向上させる。トランザムは反動のリスクがあるものの奥の手、必殺技である。圧倒的なスピードで四方から精密な射撃を行う。これにはユウキも避けきれない。厄介なのはこの超スピード。ユウキが数多く見てきた中でもこの速さはダントツで1番だ。捉えることが難しく迂闊に動けない。

 

「これは参ったねえ……。」

 

「弾切れなんてどうでもいい!仕留め切るッ!!」

 

 赤い残像が無数に消えては現れる。エクリプスに装備された3つのライフルが存分に使われ弾切れとなったライフルを一つ使い捨てる。洗練された動きと射撃、これを避け続けるのは容易な事では無い。GNアサルトもこの包囲網から抜け出せず全身にダメージを負う。

 

「押し切れるか……!?」

 

 額に汗をかくサワラ。あと少し、あと少し…。心臓がら高鳴っていく……。

 

「久しぶりだよ、ここまで追い詰められたのは…。」

「強くなったね、サワラくん……!!」

 

 ユウキはそう笑ってみせた。そしてGNアサルトもまた紅潮していく。

 

「だけど俺は負けない…。誰にも負けない、誰も俺には勝てない……。」

 

「来るか……!!?」

 

「修羅ンザムッ……!!!」

 

 紅潮していたGNアサルトはさらに真紅に色を変え紅い衝撃波を起こす。

 

「うっ…!!これがユウキさんの本気……!!?」

 

「──いくよ…………。」

 

「!?」

 

 サワラが認知した時にはGNアサルトは既にエクリプスの背後を取っていた。声を発する間さえ与えられない。

 

「捕まえた…!」

 

「くっ…!!」

 

 エクリプスは2丁のライフルでGNアサルトを近づかせようとしない。しかしその射撃を全て華麗に避ける。もはや神業に近い。そしてビームサーベルを持ち神速でエクリプスの懐へと近寄る。

 

 いや、それは"神"というよりも"悪魔"だろうか。

 

「これじゃまるで悪魔だな……!!」

 

「悪魔なんかじゃ足りないくらいさ。」

 

 GNアサルトとエクリプスは激しく打ち合う。エクリプスは必死に反撃を起こすが全く通じない。

 

「俺は……"修羅"さ……!!」

「春の夜の夢から覚めない…修羅さ…!!!」

 

「くっ…。だからといって!俺も簡単に負けられやしないッ!!」

 

 サワラにも意地はある。エクリプスはなんとか攻撃をアジャストし受け流す。鬼を超えた修羅は神や天使をも喰らう。その姿は堕天使ともいえよう。

 

「へえ、今のを受け止めるのかあ。ならこれはどうだい…?」

 

 GNアサルトは規則を破った軌道でぐいぐいと移動する。全く目で追えない。そして突然赤い眼をした修羅がエクリプスを横切った。

 

「──何が起こった…?」

 

「覚めることのない春の夜の夢を見てるのさ。」

 

 エクリプスの四肢が断裂されている。紅く輝くGNアサルトは斜め上からライフルを構えている。

 

「あなたの強さは底なしだ……。」

 

「サワラくんまたおいで。おやすみ。」

 

ライフルの強力な一撃がエクリプスを撃ち貫いた。

 

―battle end―

winner Yuki

 

「我らが日本王者を破り決勝へとコマを進めたのは現役最強イヌハラ・ユウキだぁぁぁぁ!!!」

 

ウォォォォォォォーー!

 

「サワラくん、ありがとう。」

 

「やっぱりユウキさんには敵いません。」

 

「そんな事ないさ、ここまで追い詰められたのは久しぶりだよ。」

 

 そう言いながら2人は握手を交わす。

 

「さて…。やっとここまできたか……。」

 

「ユウキさん……?」

 

 ユウキは目を瞑り上を向く。

 

「俺の夢……。俺達の夢……か……。」

 

「ふうちゃん……。」

 

 

「なあ、おい。今のユウキさんみたか?」

 

「あれじゃまるで本物の修羅だな。」

 

「修羅道と皇道がついに交わるか……。」

 

「……なあ、ユウキ。もうとっくに覚めてるはずだろ…。その短い春の夢から……。」

 

 観客席で見ていたテルキとタロウがユウキを見てそんな事を話す。

 

 

「──ユウキさん、決勝に進んだのはイヌハラさんの方です。」

 

「ちゃんと勝ったんだね。」

 

「しかし、右手首を怪我したようです……。」

 

「ドクターを送り込んでおいてあげて。当日までには違和感を無くしてあげるようにって。」

 

「わかりました。それから例のシステムは完全に作動したようです。」

 

「"皇道のその先"か……。」

 

ユウキはニヤリと笑う。

 

「──さぁ、はじめよう。最後の戦いだ……。」

 

(続く)




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