最後までフウトとジャスティスカイザーの皇道をお楽しみ下さい!
──ピピッ…ピピッ…
アラームが鳴っている。午前5時だ。
「ついに来たか……。」
フウトは目をぱちぱちさせながらゆっくりと体を起こす。宿舎の作業机には決勝用に昨夜遅くまで調整と改修を施されたジャスティスカイザーが立っている。そして、その作業を手伝った、シイナとサワラが地べたで泥のように眠っている。
「2人ともありがとうな……。」
フウトは右手の状態を確認しながら呟く。
「もういいのかい?そっちは?」
「起きてたのなら声かけろよ。」
サワラが突然目を開けてフウトへと声をかける。
「あんまり眠れなくてね。少し散歩でもしないかい?」
そう言って2人は宿舎の周りを歩き出した。日は既に上がり始めあたりは明るくなっている。
「で?どうなの?右手。」
「ああ、ドクターのおかげでほとんど違和感はない。ただ慢性化しないためにも次が終わったら少し安静にするようにって。」
「そっか。よかったよ。」
サワラはホッと一息をつき話題を変える。
「ユウキさんの底は結局見えなかった。『強い』って言葉じゃ足りないくらい。」
「そっか……。でも俺はやるよ。今度こそ勝つんだ。」
「ああ。フウトなら必ずやれるさ。」
「──勝てよ。」
サワラは握り拳を合わせようと手を翳す。フウトもまたそれにゆっくりと合わせる。眩い朝日が2人を照らしていく。2人の顔つきは昔と比べて大人っぽくなったがお互いを信頼する眼差しだけは何も変わっていない。
──フウト達が自室に戻るとシイナも目を覚ましていた。
「あ、お二人ともおはようございます。」
「お、起きたか、昨晩はありがとうな。」
「いえいえ!」
少し目の下に隈のあるシイナは寝起きの顔でえへへと笑いながら答える。
「スノーホワイトの翼とブレードをカイザーに取り付けて機動性と攻撃力を高めた改修。これなら絶対…ユウキさんにも勝てます……!!」
昨晩フウト達が行った作業というのはカイザーにスノーホワイトの各パーツを取り付けた事である。これは主にフウトとシイナが行いその傍らでビルダーとして高い能力を持つサワラがカイザーの関節などの細かい部分を補修していた。
白い翼を得た赤き皇帝。その姿は凛々しく神々しい。
「最後までよろしく頼むな。相棒。」
そう言って腰のホルダーへと収納する。
「シイナ、絶対勝とうぜ!俺たちで!!」
「はい!!」
2人はお互いの眼を見つめ合いにっこりと笑ってやり取りした。
***
「──ユウキ。とうとう来たな、この日が。」
「ああ。いざ前にするとなんだか嘘みたいだよ。」
テルキとユウキもまた宿舎近くのベンチで話していた。
「ふうちゃんは自分の力でちゃんとここまで来た。そこに過去も俺の弟であるという事も関係なく、ね?」
「そうだな。今のふうちゃんはふうちゃん自身の強さを纏っている。油断できないな、お兄さん。」
「ほんと、油断の隙もありゃしない。突き放したと思ったらいつの間にかすぐ後ろを走ってきてるんだ。ほんとに参ったもんだよ。」
「今日、追い抜かれるかもな?」
テルキはニヤリとした顔つきでユウキへと問うがユウキは冗談はやめてほしいなという顔つきで否定する。
「まだ見てるのか?お前のいう春の夜の夢を?」
「そうだね。多分今も。」
春と修羅。世にはこんな言葉がある。ユウキは覚めない春の夢の中で常にもがき苦しんできた。それが彼に生きる悲しみや苦しみを背負わせ修羅とさせたのかもしれない。
勝ち続ける天才の哀しき宿命。
ユウキはフウトとは対照的に勝ち続け無ければならないいう過酷な状況下で常に結果を出し続けた。勝てば勝つほど負けられなくなる。負ければボロカスのように叩かれる。勝ちつづけたとしても様々な人からの妬み、悪意、様々な負の感情が彼を取りまく。
だがそんなユウキにとって唯一の希望があった。後ろから追いかけ続ける弟と交わした幼き日の約束。
『──ふうちゃん、いつか世界のみんながみるようなおおきなところでトロフィーをかけてたたかおうね!』
『もちろん!ぜったい、まけないよ!!』
こんな事をいつまでも本気にしている自分は馬鹿げているのかもしれない。いや寧ろ栄光の全てを手に入れたユウキだからこそそんな小さな幸せが欲しかったのかもしれない。
それは修羅が望むトゥルーエンディング。
だからこそ誰にも負けられなかった。彼と最高の舞台で闘うその時までは勝ち続けるしかなかった。そして最高の舞台と最強の相手として彼の前に"カッコいい兄"として立ち塞がりたかった。
こんな馬鹿げた、子供の夢こそが、「儚い春の夜の夢」なのかもしれない。
「もうすぐ…か……。」
ユウキは手の中にガンダムソフィエルを握りしめ目を瞑る。
闘いの修羅に最後の残った望み。それが今、あと数時間で実現しようとしている。
***
「いい風だな……。」
フウトもまた試合前に会場の外で風に煽られながら決戦を前に考え事をしていた。
これまで本当に多くの事があった。今思えば常に負け続ける人生だった。勝ち続けた事など一度もなかった。故に勝ち続ける兄の凄さを常々感じている。
兄のようになりたくてはじめたガンプラバトル。ジャスティスカイザーが冠する"皇帝"という言葉も兄ように強く、カッコよくなりたかったからそう付けた名前だ。でもやはり彼のように強くはなれなかった。そんなに甘くない。それが現実だ。
そして兄と交わした幼き日の約束をフウトもまた覚えている。馬鹿馬鹿しい話かもしれないが子供が何気なく交わしたあの日の約束をフウトはいつか果たせる日が必ず来ると思っていた。幼い自分にくれた兄の眼差しを今でも忘れられない。それはある種約束というよりも夢。2人の子供が見た純粋な夢だ。
だが根本的に大人が夢を追うというのは馬鹿馬鹿しいと言われてしまう。子供がいうソレとは話が違う。
大きな発言をするだけで周囲には笑われる。無理だ。やめろ。馬鹿げてる。こんな言葉を言われる。
それでもフウトは追い続けた。一度諦めた道のレールを再び歩むというのは簡単なことではない。それでもここまで辿り着いた。世間のしがらみ、兄との確執、自分自身の弱さ、多くのものを乗り越えてやってきた。
でもいまなら。今の気持ちならあの日の夢の続きが見れそうだ。そう思う。
「ふうちゃん、真剣な顔してお腹でもいたいの?」
「先生、いつの間に……。」
「さっき。」
アララギはそう言ってフウトの隣に現れた。ジョークを言ってフウトの緊張をほぐそうとしているのだろうか。
「そうだ、決戦を前に俺から一言いい?」
「はい。お願いします。」
「俺は多くは言わないし求めないからひとつだけ言わせてもらうね。」
「ウチに弱い子はいらない。何をしてでも勝ってこい。勝つまで帰ってくるな。負け犬に食わせてやる飯はない。ってね。」
「ははは……本当、相変わらずですね。」
この言葉はアララギが全国大会決勝を前にした高校時代のフウト達に向けて言った言葉だった。「勝つまで帰ってくるな。」初めて聴いた時も無茶苦茶だと思ったけど今聴いても無茶苦茶だと思う。
「さあ、行って来なよ。史上最強の兄弟喧嘩にさ。」
「はい!俺、行ってきます!!!」
フウトはアララギに背中を押されて試合会場へと向かう。その背中は以前と比べ随分とたくましくなっているような気がした。
「おれも歳とったなあ…。」
***
「さぁぁッ!!遂に第14回GPD全国大会も遂にファイナルッ!!!」
「決勝戦は現役最強、公式戦無敗記録を更新中ッ!イヌハラ・ユウキ選手ッ!!対するはその弟、還ってきた皇帝!イヌハラ・フウト選手ですッ!!!」
ウォォォォォォォォー!!
「マジかよあの天才兄貴と落ちこぼれの弟の決勝戦なんて考えたことあったか?」
「なんかよくわかねえけど2人とも頑張れーッ!!」
会場は今までにないボルテージで盛り上がる。自分の声も聞こえないくらいだ。
フウトの目の前には長い青い髪をした男がいる。
「とうとう、ここまでやってきたんだね。」
「ああ。ふうちゃんは覚えてる?昔約束した事を。」
「もちろんさ。『いつか大舞台で優勝を賭けて闘う』だったかな。」
「覚えててくれてたんだね。あの日からずっと今という瞬間を待ち望んでいた。」
「ふうちゃん、前みたいに手加減はしないよ?」
「当たり前だ。今日こそ兄さんを倒して見せるッ!」
お互いに目が合ったあと振り返って筐体の方へと向かう。幼き日の兄弟が交わした約束と夢は今まさに交錯しようとしている。これまで二人には多くの試練があった。それを乗り越えて今この大舞台に最後の二人として立っている。今まで以上の大きな歓声と期待。気を抜けば雰囲気に飲み込まれそうだ。
高鳴る鼓動と程よい緊張感、そして最高の相手。
「さあ、征こうぜ相棒。俺たちの皇道を!」
「ソフィエル、待ちに待った日が来たよ。俺達が何年も待った日が…。」
Futot'sMobile Suiit
Justice Saint Kaiser Infinity
VS.
Yuki'sMobile Suit
Gundam Sophiel GN assault
「ジャスティスセイントカイザー、皇道を征く!」
「ガンダムソフィエル、天を舞う!」
赤と青の飛翔体が青空の地上へと飛び出す。
遂に史上最強の兄弟喧嘩がはじまる。
「兄さん相手に出し惜しみしてる場合じゃねえ…。はじめからフルアクセルだッ……!」
聖帝、ジャスティスカイザーが闘いの末にたどり着いた新たな姿。
スノーホワイトの翼を備えたカイザーはその超速でソフィエルの方へと一直線に向かう。
「いきなり来るか…。こっちも出し惜しみしてると足元すくわれちゃうな。」
ソフィエルもまた新たに装備されたGNドライヴと大型バーニアの出力を上げ赤き皇帝を迎え撃つ。
「しいちゃんの翼をつけてきたのか…!これは厄介だッ!」
「あの子の分も背負ってるつもりだッ!!」
あの子。それはシイナ自身を指し記憶の世界のシイナも指された言葉。この闘いは1人で戦ってるわけじゃない、そう思いながらフウトはカイザーにブレードを握らせ対象物を狙い振るう。
「ずいぶんと早くなったね!動きだけじゃなく判断も!!」
「いつまでも昔と同じだと思うなよッ!」
ブレードを片手に持ちもう片方はビームライフルを装備しソフィエルを押し込んでいく。しかしソフィエルはその攻撃を絶妙な押し合いで受け流す。そして一瞬カイザーが大振りになったのを見逃さずコンパクトに回避し装備された重火力のビームランチャーを早業で放つ。
「そいつはお見通しなんだよ。」
だがこの攻撃にとっさのギャンセリングで躱し片方のビームライフルでカウンターを行う。お互いに機体が正面に向き合い右肩を掠め合う。フウトとユウキはニヤリとする。
「ふうちゃんのやつユウキくんと互角じゃないか!」
「まあ、地獄のようにトレーニングして来たからね。」
「ほんと、ふうちゃんの居残りは長いからな〜。」
観戦しているタロウとテルキ、アララギがフウトを見てそう言う。
「やるね、ふうちゃん!次は俺の番だよッ!!」
今度はソフィエルがビームランチャーを乱射していく。強力な光の光線がカイザーを襲う。正確かつ精密な射撃。避けたコースも読んで放たれる砲撃は実にいやらしい。
「いいやッ……!!ここは突破する!!」
カイザーはシールドで防御しながらビームライフルで反撃する。威力は違えどこちらもまた兄に劣らない正確かつ精密な射撃。徐々にソフィエルの砲撃を押さえつける。
「──凡人ってのは天才サマが一発決めるところを何度も何度も失敗して恥かいてやっと出来る様になるんだよッ!!」
「俺が押されているッ!?」
カイザーはさらに射撃の手数をとにかく上げてソフィエルと撃ち合う。中距離戦は両者ともに得意としておりこのエリアでの撃ち合いは制したい。だがモニターにライフルのエネルギー切れを伝えリロード時間が表示される。
「こんな時に……!!」
「無茶な扱い方するからッ!」
今度はソフィエルがビームランチャーを線を描くように放ち広範囲へと砲撃する。これではリロード時間にドラグーンも迂闊に前へ出せない。
「弾が無くなりゃ前へ出るだけだろッ!」
カイザーはソフィエルの砲撃にダメージを受けながらも2本のブレードを構え突撃していく。
「無謀だけど……それでこそふうちゃん…………!!」
しかしソフィエルは砲撃で近接戦に持ち込もうとするカイザーを全く寄せ付けない。完璧な射撃スキルである。いくら練度が高いとは言えフウトも負けてはいられない。
「ならこいつでッ……」
カイザーは一旦ブレードをバックパックに収納しシールドに取り付けられたブーメランを投げつける。
「いくぜッ…ブゥゥゥメランッッ……!!」
「どこに投げている?」
なんとカイザーが投擲したのソフィエルとは全く大外れ。ソフィエルはそれに一瞬気を取られる。
「アンドブレードスローーッ!!」
「!?」
カイザーはその隙を突きブレードをソフィエルの足元目掛けて投げつける。ソフィエルはなんとか避けるが射撃の手元が狂う。
「そこだァァァッッ!!!」
「くっ!!!」
カイザーは一気に懐へと潜り込みブレードをしならせ対象物へと叩きつける。これにもなんとか反応したソフィエルだがパワーで押されつつある。
「今日こそあなたを倒す…!倒すんだぁぁぁぁッ……!!!」
カイザーのツインアイが光る。
「…………ようこそ、修羅の世界へ………!」
同時にソフィエルのツインアイも不気味に光る。
「何が起こってる……?攻撃が呑みこまれていく……!!?」
なんとソフィエルのバックパックが変形していき腕のようなものがカイザーのブレードを掴んでいる。
「マルティール…。修羅世界の殉教者さ……!」
ゆっくりとねっとり気味の悪い動きで現れたマルティールと呼ばれるユニットはブレードを掴み切りカイザーを蹴り飛ばす。
「うおっ!!」
「さぁふうちゃん、まだまだこれからだよ?」
ソフィエルは蹴り飛ばされていくカイザーに焦点を合わせ放火する。
「間に合わねえっ!!トライアングルバリアーーッ!!」
フウトは指を繊細かつ高速に動かしドラグーンでのバリアーを形成しなんとか攻撃を凌ぐ。だが追撃を行いに2つの機体が向かってくる。右からはソフィエルの強力な砲撃、そしてマルティールは中距離からちょこまかと両腕に装備されたビームガトリングを放つ。一気に手数が倍になりカイザーはどうすることもなくダメージ受ける。しかも先程よりもソフィエルのパワーが段違いになっている。
「さぁ!ふうちゃん!なんとかしてみなよ!」
ユウキの紺色の眼がだんだんと紅潮する。
──修羅。ユウキの中に眠るもう一つの能力。いや人格に近いと言えば良いのか。負けることを許されない彼に芽生えた皮肉とも言える力。春の夜の夢が見せ続けるユウキの哀しい宿命。
「くそっ!テメーはこっちで相手してやるよッ!」
フウトはドラグーンでマルティールを牽制しながらソフィエル本体を狙う。だがマルティールもまたドラグーンをもろともせずその道を塞ぐ。
「なんつー反応速度だよ!こちとら手動だぜ…!?」
「残念。俺も手動だよ。」
まじか。そんな言葉を発する暇なく2機は連携して襲いかかる。またしても呆然一方のカイザー。2体同時に動かすなど常人がやることではない。そう思いながらフウトは対峙する。同時操作を行っていればどこかほころびが出てもおかしくないが完璧な操作である。全く隙がない。
「どうすりゃいいんだよ…!」
「逃げてばっかじゃ勝てないよ?ふうちゃん…!!」
マルティールが先行して接近してくる。そしてマルティールを囮にソフィエルがカイザーへとビームサーベルを持ち飛び込む。
「いや!これだッ!見えるッ!!」
カイザーはソフィエルの完璧な飛び出しを先読みし脚蹴りによるカウンターを行う。いける。これなら。
「無駄だよ。」
なんとそのカウンターをマルティールが囮となりとなり大きな腕で受け止める。そしてソフィエルは時間差でカイザーの脚を切断しようとする。
「…ッ!!」
が持ち前のキャンセリングでなんとか脚を引き戻しソフィエルの時間差攻撃を振り払う。
「はぁはぁ……。」
「流石、やるねふうちゃん。」
お互いにバックステップを踏み睨み合う。
マルティールはあまりにも厄介過ぎる。本体の前に狙ってもいいがそれを行うとソフィエルの砲撃の餌食となる。兄の事だ、マルティールごと吹き飛ばされてもなんの不思議もない。
だが先程の本体を護るような動きは手動にしては速過ぎる。"殉教者"を冠する機体ならもしかすると本体保護システムが搭載されているかもしれない。
だとしたら無理矢理にでもマルティールを突破し本体に強烈な一撃を与える。それしかない。普通ならそこでバトルは終わるのだがどうやら修羅に落ちた天使は命というものが2つあるらしい。
「荒っぽいけどやるしかねえ……!!」
カイザーはバックパックと分離しドラグーンを展開させソフィエルへと真っ向から向かう。
「へえ…。もしかして3機とも手動でやるってこと?俺も舐められたもんだなあ。」
ソフィエルは広範囲に砲撃を全体行い一撃で3機のバランスを壊す。そしてカイザーの前にはマルティールがピッタリとマークをつく。
「お前に構ってる暇はねえんだよおおお!!!」
フウトは両指をとにかく細かく動かしバックパックを猛スピードでマルティールへと突撃させる。
「まだまだぁぁ!!」
そしてさらにドラグーンで差し込みマルティールを振り切る。
「……!!やるね…!!でもッ!」
ソフィエルはビームサーベルを構え単騎突入してくるジャスティスを狩ろうとする。フウトも受け流してはいるがチンタラしていられない。
「…………来たっ!!」
後ろから猛スピードで移動するバックパックと躊躇いなくドッキングをしスノーホワイト用のブレードを連結させ大剣にする。
「こいつで終わりだァッ!!!」
「まだまだ……!!」
やはり振り切ったはずのマルティールが本体を庇う。だが虹色に輝く大剣を前にその責務を全うした。聖帝は殉教者を撃破し一旦の距離を取る。
「マルティールを墜とすなんてやるじゃないか、ふうちゃん。」
「それじゃあ君にも見せてあげるよ。春の夢を。」
GNドライヴの粒子放出量が増えソフィエルがだんだんと赤黒くなっていく。黒と青の機体色はどんどんと赤く染め上げられる。
「いくよ…?修羅ンザムッ!!!」
ソフィエルが咆哮を上げる。ヒロイックフェイスとは裏腹に哀しい叫び声が鳴り響く。もう一度天使は修羅と化した。
「くそっ、やるしかねえよな……!!」
「もう遅いッ!」
「!!?」
全く見えない。見えなかった。皇帝の前には目を赤くした鬼の姿が一瞬映ったがもう既に左腕がシールドごと持っていかれた。さらに修羅の高速ラッシュがはじまる。ボディ、頭、肩、脚、全身に重い痛みが入るのが分かる。サワラの言っていた"底がない"という事はこういうことかとわかった。
「もうついてこれないのかい?おわりかい?」
「圧倒的過ぎるッ!けど!」
無理矢理機体を起こして攻撃にアジャストする。そしてソフィエルの反則じみた高速攻撃を紙一重で交わし続ける。だが頭を掴まれ下に突き飛ばされ膝蹴りを喰らう。
「がはっ!」
ソフィエルはそのまま地表の方へと蹴り落としゆらゆらと落ちる飛翔体をターゲットにロックする。
『──やべぇ、ぼーっとしてきた。手首と指先の感覚もねえ。』
落ちていくフウトはボーッとそんなことを思う。
『──こりゃオチるな……。』
「グッナイ、ふうちゃん。また、俺の勝ちみたいだね。」
ソフィエルはライフルから強力な砲撃を放つ。
「フウトさん……!!」
観客席で見守るシイナがつい立ち上がりとっさに声を上げる。一瞬耳飾りが虹色に光った。結局、最後も手も足も出ずに終わった。前と同じような負け方。これで終わりなのか。本当に。
『───今度は私があなたを護るよ……。』
スノーホワイトのウイングがプリズム偏光により虹色にキラッと光る。
『シイナ……!!?』
『わたしはもう1人じゃない。あなたと一緒……。』
『だから今度はわたしの想いがあなたを護る……。』
「何っ!?」
ウイングパーツのプリズム偏光がカイザーの全身を優しく包み込みソフィエルの砲撃を吸収していく。
「しいちゃんの想いがふうちゃんを護ったとでも!?」
『──わたしはずっとそばにいるよ。フウトさん。』
『──シイナ……。』
『大丈夫……。楽しむ気持ちでしょ?』
「ああ……!!!」
フウトは目を覚ましディスプレイのオプション画面を押す。
「いくぜ、カイザー!天使を引きずり下ろすぞ!『神』モードッ!!!」
カイザーは虹色に輝きながら黄金色を強く優しく纏い始める。それは赤黒く変化したソフィエルとは対照的だ。
「それは天使を超えるためのシステムであって『鬼神』を堕とす事はできないッ!!!」
ソフィエルはさらに強く紅くなり桜色の粒子を放出しながら光を纏うカイザーへと突貫してくる。
「これは願いだ!強くなりたいという純粋な気持ち。」
「そして、己の弱さから目を背けずに抗い続ける事!」
「……くっ…………システムが昔以上にスペックを引き出しているッ!?」
ソフィエルの強力な近接攻撃をカイザーは受け止め背負い投げをする。しかし全く怯まないソフィエルはビームサーベルの出力を限界まで上げて切り込む。
「──見えたッ!!」
カイザーの強烈な足蹴りによるカウンターが左腕をもぎ取る。
「まだだっ!!」
そのままソフィエルはカイザーに体当たりを起こし怯ませる。その間上空に上がりライフルの出力を最大限まで引き上げる。
「大技には大技だろッ!!」
カイザーはスノーホワイトのブレードを再び連結させ黄金食と虹色の光を爆発させパワーを蓄える。
「うおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉッッ……!!」
「こいつで何もかも終わりにしよう!夢も約束も全てッ……!!!」
2体の"神"は全ての力を今まさに解き放とうとしている。天地は雷鳴を起こし辺りは暴風に煽られる。それでも赤黒く光を灯し儚い桜色のような粒子を放つ修羅と黄金色と虹色が中和するように混じり合った皇帝神。
──いままさに新たな世界の扉が開かれようとする。
「───エビルフルエンドッッ!!デッドシュートッッッッ………!!!!!!」
「カイザーァァァァァァッッノヴァァァァァァァッッッッッ……!!!!!!!」
一瞬時が止まったように無音が広がった。
2つの天地を揺らす衝撃が放たれる。ここまでの大技をガンプラが繰り出せるとは到底思えない。だがその信じられないことが起こるから"ガンプラバトル"は面白いのだ。
「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」
「いっけぇぇぇぇぇぇっっ!!!!!」
押しているのはソフィエルの攻撃。赤黒く馬鹿でかい砲撃の塊はカイザーの大剣から繰り出された黄金の衝撃を徐々に呑み込む。
「…俺は……神さえも喰らう……!!修羅だッ!!!」
神殺しを名乗る修羅は怒号を立て全てを飲み込もうとする。
「………ッッ!!それでも俺は…この
カイザーのツインアイが虹色に光る。全身を震わせさらにその光を発生させ大剣から出るオーラの出力を最大限にする。
「何ッ……!!」
「うぉぉぉぉおおおおおおおお……!!!」
グリップを強く押すフウトの右手を虹色の光が一緒に押すように包み込む。
「綺麗な光だ……。これが夜明けなのかな……。」
ユウキはグリップを握りながらその輝かしい奇跡に近い光に飲み込まれていく。そして一瞬、虹色の雪が自分の肩に降りかかった気がした。
「──ありがとう。シイナ…。」
フィールドが白い光に包まれ2機はそれに呑み込まれる。
「おい、どうなったんだよ!!!」
「どっちが勝ったんだ……!?」
「見ろ!ボロボロだけど2人とも立ってる!」
地表は削り取られ地面が剥き出しとなっている。
そこには立っているのはボロボロの2つの機体だった。
「まだ……。」
「終わってねえ……。」
赤と青の機体は背中のバーニアをカスカスで吹かせながら最後の戦いを始める。
「……100発撃たれたら1000発撃ち返せ。」
「……弾がないなら1000回蹴り飛ばせ。」
2人は呼応するように台詞を発する。
「──何が何でも勝つまで帰ってくるな……!!」
2人はニヤリと笑いお互いを消耗し切った機体で蹴り飛ばしては殴り飛ばす。
「アララギ先生の教えを守らなきゃね!」
「悪いけど今日は俺が勝つよ!!」
ソフィエルの殴打に対しカウンターを起こすカイザー。だが重心がよろけて不発。すかさず倒れたカイザーに馬乗りをして連続で殴る。
「まだだぁっ!」
馬乗りになったソフィエルを蹴り飛ばすカイザー。
ウォォォォォォォーー!
観客席から大きな歓声が上がる。
「……俺は何度も負けて、負けて負けて、負けてきた。」
「負け続ける自分が嫌いでずっとそれが弱さだと思った。だから必死に強くなろうとした。もがいて苦しんだ。強くなろうとすればするほど苦しかった。先が見えなくて辛かった。もうやめたいって思った。でもみんなが俺の背中を押してくれた。みんながいなければ気づけなかった。」
「そんな俺が見つけた強さ。それは『自分自身に負けない』心の強さ。」
「それがふうちゃんの答えかい?」
「ああ。」
「負け続けた俺にしかわからない『本当の自分の強さ』だ。」
「そっか…。泣き虫も弱虫も直ったんだね。」
「──じゃあその意地を突き通して見せろッッ!!!」
「言われなくてもそうするさッ!!」
カイザーは立て続けにソフィエルに攻撃を仕掛けるがその度何度も完璧な体術で跳ね返される。
「まだだッ!」
「無駄だよ!」
──何度も
「まだまだぁ!!」
「しつこい!」
──何度も
「まだ………だ……。」
「──いい加減諦めろォッ!!!」
ソフィエルは強力な体術を繰り出すがカイザーはそれでも諦めない。
傷だらけのその拳で。
もうとっくに限界を超えているはずなのに。
「もう負けないって誓ったんだよ……!自分の心の弱さにッッ!!!」
「俺だって負けられない……!!負けたくないんだよッッ!!」
両者ともに最後の力を振り絞り強烈なストレートを繰り出す。どちらのパンチが先に届くかでこの長い闘いが終わる。
「うおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ……!!!」
「うおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ……!!!」
ソフィエルのパンチが一瞬ぶれた事を見逃さなかったカイザーはソフィエルの鉄拳を紙一重でかわし強烈なクロスカウンターを顔面に決め込んだ。
「……カウンター……か…………。」
地表にはボロボロの機体が2体。しかし1体はそのカウンターを受け頭から崩れていった。
―battle end―
winner Futo
ウォォォォォォォォォォォォォォォッッ‼︎‼︎
「……勝った…………。勝ったのか……俺。」
「ふうちゃんが勝ったぞー!!!」
「うわーーん!!!」
法被を着た応援隊長のテルキとタロウが涙を流しながら抱擁する。
「フウト……。やったね……ついに…ついに……。」
「フウトさん……。勝てて……良かった……。」
「ふうちゃん、ついにやったね。新しい時代の幕開けかな。そんな匂いがするよ。」
観客席からそれぞれが思いの丈を呟く。
「……ふうちゃん。」
「兄さん…。」
「おめでとう。君の勝ちだ。流石俺の弟だよ。」
「──本当に、本当に強くなったね。」
「……!!」
兄は優しい笑顔でフウトに向けてそう言った。勝ち続ける闘いの呪縛から解き放たれたユウキの顔はとても柔らかく優しい表情だった。
「兄さん、俺……。」
「勝者が泣いてどうする。ほら壇上に行きなよ。皇帝。」
そう言われフウトはユウキに背中を押され観客の歓声を一心に受ける。こんな日が来るだなんて思いもしなかった。負けることしか知らなかった自分にこんな事が起こるなんて。
「第14回GPD全国大会を見事制したのはイヌハラ・フウト選手だぁぁぁぁっっ!!!」
ヒュヒュー
ウォォォォォォォォォォー!!
イヌハラー!
全てを賭けて闘った
そして勝った
本当にここまで長かった
本当に大切なものに気づけるまで
結果を残すことも。
最後まで自分を信じられたから
自分の弱さも含めた自分自身を受け入れられたから
ここまで来れた
1人じゃこれなかった
みんながいたから みんなの繋がりが
強くしてくれた
──本当にありがとう。
フウトは栄冠を手にしトロフィーを掲げる。そのそばには兄やシイナ、アララギ兄弟とテルキとタロウの仲間たちがフウトを囲んでいる。
フウトを含めみんながこれまでまでにない笑顔だった。
『──イヌハラくん、遂にやったんだね。』
『君ならやれると、やり切れると信じていたよ。』
小さな事務室のモニターでフウトの様子を見る中年男性も遠くから祝福していた。
『イヌハラ・フウト......。次はフェーテと俺が...アンタを倒す...。』
金髪の少年は会場で決勝戦をその目に焼き付けた後静かに立ち去った。いずれ無限に続く皇道と遙かなる彼らの旅路が交わる日が来る。少年はその予感に思わずニヤリとした。
『これが...GPD......ガンプラバトル......!!』
『俺にもやれるかな...なれるのかな......。』
まだ小学生くらいの綺麗な白い髪の少年がテレビ中継される決勝戦の様子に両手に握り拳を作りながら釘付けとなっていた。新たな可能性、そこには間違いなく次の世代を担う光が灯りつつあった。その灯りはやがて彼だけの輝きを放ちトクベツな星になるだろう。
イヌハラ・フウトが勝利したその瞬間を街のテレビで見ていた少年もいた。身軽そうな黒いマウンテンパーカーを着た少し背の高い少年。
『勝ちました、勝ちましたー!あの最強と謳われたイヌハラ・ユウキが敗れ挑戦者が14回大会を制覇し世界への切符を掴みましたー!』
『すごい……。僕たちもいつかあんな風になれるかな。』
少年はホルダーに入った自身のガンプラを取り出し呼びかける。スプリッター迷彩の施された完成度の高いガンプラだ。
『あの人といつの日かガンプラバトルできる日が来るといいな。』
そう言って少年はその場を勢いよく駆けていった。
***
その後フウトは世界大会に出場し優勝トロフィーを見事国内に持って帰った。このことからマスメディアは彼の事をかつて「無冠の皇帝」呼んでいた蔑称を慌てて取り消した。しかし世界大会以降の彼の公式戦での記録はほとんど残っていおらずプロデューラーへと返り咲くことも無かったので「無冠の皇帝」にとって代わる二つ名も作られる事はなかった。
また全国大会後にイヌハラ・ユウキはプロデューラーを電撃引退し世間を驚かせた。理由は「自分の時代は終わったから」とそう一言放ちそれから彼が表舞台へ姿を表す事はなかった。
そしてにわかに信じがたい事だが世界中を清掃員として活動しながら各国のデューラーとバトルし続けた男がいるという噂が流れた。
「さーて、今日はどんな奴とバトル出来るかな。」
「この世界は広い。まだまだ顔も名前も知らない奴らとやれるなんてワクワクするな。」
「──ん、そうか、今日の相手は君か。」
「──闘う理由は見つかったかい?」
そう言って彼らは互いの赤い機体を手に持ちセットする。
夢というものはいくつになっても持っていいものだ。
時に他人に笑われるかもしれない、無理だと止められるかもしれない。
それでも。足掻くことをやめてはいけない。
努力をすればどんな夢でも実現できるとは限らない。壁を壊せない日だって来る。
それでも。自分の想いを真っ直ぐに見ていたい。自分自身が何者なのかわかる日が来るまでやめてはいけない。
それが俺の生き方だ。
それが清掃員イヌハラ・フウトの生き方だ。
桜並木の下で赤い機体がぶつかり合う。フウトの操るドラグーンが桜の花弁のように青空へと尾を描き太陽と重なった。
「さーて、全力でいくぜ!相棒!!」
俺の物語はまだまだはじまったばかりだ。
(完)
ガンダムビルドデューラーズ─清掃員外伝─いかがだったでしょうか。
まず最後まで読んでいただき本当にありがとうございます。
なんとか物語を完結させる事ができました。物語を描き始めるにあたって「このお話は絶対に書き上げたい」と思っていたのですごく達成感に満ち溢れています。
もちろんこの三次創作をやるにあたって多くの方のご協力があったからこそ制作できました。本編作者のぬぬっししさまをはじめとした皆様方心より感謝申し上げます。
元は本当にモブキャラだったフウトくんですが様々なバックグラウンドと人との出会いが彼を変え成長させました。そんな彼の物語を見て少しでも何か感じていただけたら幸いです。
それではまたどこかで会いましょう。
Instagramにて作中の機体やキャラクターのイラストなどを掲載しております。
n_mokey