今回はクリスマス直前までということで、短編のショートストーリーを書かせていただきました。
それでは、どうぞ。
白い季節。
それは2人が約束を交わした季節。
2人にとってトクベツな季節。
***
ピピッ……ピピッ……
朝のタイマーが冷えた部屋の中に響く。時計の針は5時を指している。そしてデジタル時計には「12月25日」の表示もされていた。そう、今日はクリスマスなのである。
そんな朝の目覚ましをバツが悪そうに止め眠そうな目を擦りながら少しボサついた髪の少女が身体を起こす。
「…………うーんっ……。眠い…………。」
カーテンを開けると今日もいつものように雪がこんもりと積もっている。北の大地では当たり前とはいえこの見慣れた景色には飽き飽きする。たまには、というか別の景色も見たいものである。
「………やっぱりついていくべきだったかな。」
少女の名は「ヒナセ・シイナ」
彼女は永遠に止むことのない雪空を見上げながら1人の男性を想う。
「……元気かな。フウトさん…………。」
今日はクリスマス。だが少女は少し虚な目と寂しげな表情を浮かべながら外の景色を見ながら物思いにふける。
彼──イヌハラ・フウトは旅人である。さらなる高みを求めて、誰かのためになるために、彼の道は今日も続く。本当はシイナ自身もその道に寄り添いたかった。その道の続きを共に見たかった。だがそれを彼女は自分自身で否定した。その決断に彼女は半分納得し半分後悔している。
好きな男に何も考えずついて行くことが出来たらどれほど楽だっただろうか。彼の優しさにただ何も考えず甘えられたならどれほどよかっただろうか。自分勝手な女に成れればよかったのだろう。だが優しすぎる彼女には慣れない。実際、彼女は「逢いたい」とその一言さえも言えないのだ。
凍てついた空気が今日も彼女を包む。もういっそこの中に溶け込みたい。彼女の道は桜が咲いていたあの日から凍りついたままだ。冬に桜が咲けばいいのに。そうすればまた逢えるかもしれないのに。そんなことばかりシイナは澄んだ空気の中想う。
***
シイナはいつも以上に気怠るさを感じていたが日課であるルーティンワークを終え自宅へと帰っていた。そして外はクリスマス気分ということもありシイナはなんだか落ち着かない。こんな時はガンプラバトルでもして嫌な事を忘れたいがあいにく今日の部活は休み。ため息を吐きながら机の上の愛機スノーホワイトを眺める。真っ白なボディにプリズム偏向で輝くウイング部。そして蘇るのはフウトと過ごした日々。思い出したいのに思い出したくない。こんな面倒な感情気にしたくないのに気にしてしまう。
「このままじゃ……。駄目だよね。」
シイナは手で自分の赤らめたほっぺたを叩きコートを羽織り机の上のスノーホワイトをホルダーに入れる。
「…………これも、付けなきゃ。」
そう言って手に取ったのは蒼いイヤリング。彼がプレゼントしてくれたブルージリコン製の装飾品。これを身につけているとなんとなく離れていても少しだけ近くにいれる気がしたのだ。シイナはイヤリングを片耳につけて街の方へと向かう。
***
街はまだ昼前だというのにキラキラとした雰囲気でいかにもクリスマスといったところだ。当たりを見回しても周りは男女のカップルばかり。やはり変に街へ来るのはやめておいた方が良かったのだろうか。シイナは蒼いイヤリングを揺らしながら当てもなくふらふらとする。
気がつけば、足が赴く方は自然とフウトと来た場所ばかり。小さな模型屋もイタリアンのレストランも雑貨屋も。ここでシイナは自分の行動の意味に気づいた。
「わたしってほんと馬鹿だな。」
会える気がしたのだ。ここに来ればフウトに。
そんなことがある訳ないのに、分かっていてもシイナはそんな淡い期待をしながら馴染んだ場所へと足を運んでいたのだ。
シイナはとぼとぼと歩いていた。何を勘違いしていたのだろう。愚かな自分を蔑みながらさらにとぼとぼと歩く。うつむいて何も考えず歩いているとどれくらい歩いたかわからなくなる。かなり歩いた頃だろうか、シイナはついに懐かしい感触とすれ違った気がした。それと同時にイヤリングも鈍く光った。
「……フウトさん………………!!?」
瞳孔を開きそのすれ違った感触を確認する為に目で追う。だがその目で追った人影はフウトより少し小さな背中であり人違いだった。また期待してしまったシイナは落胆する。まあでも、そんなことある訳ないかと目を逸らそうとした瞬間、その少し背の低い男性というよりも少年が振り向いた。
「えっと、さっき俺の名前を呼びましたか?」
ただの偶然なのだろうか。振り向いた少年はどうやら彼と同じ名前だったようだ。しかしシイナにはこの感触が別人とは思えなかった。そして少女はもう一度だけ期待してみた。
「……イヌハラ・フウト"くん"ですよね……………?」
シイナはもうどうにでもなって欲しかった。クリスマスの魔法でもなんでもよかったのだ。彼と逢えればなんでもよかったのだ。
「──はい。イヌハラ・フウトですけど……何かご用でしょうか?」
少年はきょとんとした目でこちらを見る。どうやら本当に魔法がかかったようだ。だがシイナはこの展開に若干慌てながら何か会話が続けられそうなものを探す。そして、もし彼がフウトなのであればと目を止めたのは腰。そう、ガンプラを収納する腰のホルダーだ。やはりなのかもうそれは分からないが腰にはガンプラを収納されているであろうホルダーが巻き付けられている。
「……その、君はガンプラバトルをしているんですか……?じゃなくてしてるの?」
「はい、やってますよ。ガンプラバトル。見たところそのホルダー、お姉さんもされているんですか?」
「うん。してるよ。良かったら君のガンプラ見せてくれないかな?」
若干慣れていない口調で話すシイナだったがどうやら少年はかなり礼儀正しく自分のガンプラを見せてくれた。
「これって…………。」
「『ジャスティスカイザー』だよ。俺の相棒。」
シイナは夢でも見ているようだった。そうだといいな、でも現実は違う。いや、いつもならそうだったのだろう。だが今日はクリスマス。今日だけは特別だったようだ。トクベツであって欲しかった。
「これは……驚いたなぁ……。」
「驚きました?そう、なんたってこの前の近畿大会で優勝した機体ですからね!」
心の声が漏れて少し慌てたがどうやら少年はその意味を取り間違えてくれたらしく安心する。とはいえ先程までは北海道にいたのだ。なのに彼は今「近畿」と言った。フウトが関西の高校に通っていた事を知っていたシイナはこの少年の正体になんとなく勘づいたがその辺りの詳しいことは聞かなかった。
聞いてしまうとこの都合の良い夢が、魔法が解けてしまう気がしたから。今だけは自分に都合の良いオンナになってもバチは当たらない。そう思った。
「そういえば、お姉さんもガンプラしてるんですよね?良かったら見せてくれませんか?」
少年は目を輝かせながら問う。この眼は昔から変わらないのだなと少し微笑ましくなりながら愛機を見せる。
「はい、私のは君のと少し似てるかもね。」
「本当だ!ジャスティスがベースでこの白いカラー、とても美しいです!」
「そうかな。でも君のジャスティスカイザーもとってもカッコいいと思うよ。それに見たらわかる。とても強いって。」
少年の持つその機体はGPDの激しい衝撃に何度も耐え、組み替えられた後や塗装が剥げた部分が多々見られる。それによく見れば現代の皇帝とは塗装の濃さやディテールの量などまだ拙いところも多い。だがやはりただの展示しておくための綺麗な作品とは違う、闘える、闘ってきた機体なのだ。
「コイツにはいつも無理させちゃってて、だからもっと上手くなりたいんです…………!!」
「……ほんと昔からそういうところ変わらないんですね。そういうところ。」
ボソッと呟いた。そのことに関して何も追求されなかったためおそらく彼には聞こえなかったのだろう。その鈍さにもシイナは少し嫌気がさしていた。目の前にいるのは同じ人物であり別人だというのに。シイナにはもう嬉しいのかそうでないのかすらよくわかっていなかった。ただひとつ言えるのはこの不思議な感覚がなぜだか苦でないということだ。
シイナと少年は凍結した道を共に歩いていた。たわいもない話をしていた。少年は兄や仲間、友人のの事を楽しげに話していた。シイナはうんうんとうなづいていた。そんな話をする少年がだんだんとフウト本人にさえ見えてきた。やはり、本音を言うと逢いたい。そう想いながらふと寒空を少し見上げる。
「お姉さん、なんだか寂しい顔をしてますね。何かあったんですか?」
「え。」
この何気ない気遣いと優しさに不意をつかれる。こういうところも変わらないのだなと思うと少し憎たらしくなる。
話そうかどうか迷った末やんわりと言ってみることにした。
「その……付き合ってる人がいるんだけど、中々会えなくて。今日もほら……。」
「なるほど、お姉さんみたいな美人な人を放っておくなんてその人なかなか罪な人ですね。」
いや、君のことなんだけどな。とは流石に言えない。この子は悪くないし、逢いたいと言えない自分が1番悪いのだ。それくらいは分かっている。
「でもね、わたしが『逢いたい』って言えないんだ。素直になれないというかなんでだろ少し臆病になったというか……。」
小さな恋人に悩みを打ち明けるシイナ。不思議な気持ちだがなぜだかこの少年の前ではスッと誰にも言えない気持ちが言えた。本当に不思議なものだ。きっと、全て突然降りかかった魔法のせいなのだろう。
「なるほど……。でもそういう時はちゃんと言わなきゃ駄目ですよ!その人多分かなり鈍いですから!!!」
真剣な顔をしてそう言う少年を見てシイナは自分が秘めていた気持ちが馬鹿らしくなってきた。
そうだ、"この人"はこういう人だったと。誰よりも真っ直ぐでその分鈍くて。そりゃ、たまに呆れることもあるけど。でも、だからこそ、この人のことが…………。
「…………ふふっ。」
「何かおかしい事言っちゃいました?」
「ううん。そうだね、わたし今度その人に逢ったら言ってみるね。ありがとう。フウト君。」
「いえいえ、その人とうまくいくといいですね!俺、応援してますよ!」
にっこりと笑ったその少し幼い笑顔があの親しんだ笑顔と重なりシイナの心を暖める。
「……あ、兄さんからだ……。」
「もしもし、うん。え、そうなの!?わかった!」
「お姉さん、ごめんない、今から兄さんと外に出る事になっちゃって。」
「ううん、いいよ。お兄さんとお出かけ楽しんできてね。」
「それじゃ、お姉さん!色々話せて楽しかったです!今度はガンプラバトルしましょうね!」
「あ、待って。」
「どうかしましたか?」
「……また逢えるかな?ううん、また逢おうね。約束だよ。」
「…………はい!会いましょう!また!白い季節にまた!!」
少年は顔を少し赤らめながらもそう言ってその場を立ち去った。その背を見ながらシイナは手を振った。蒼い耳飾りが揺れながら美しく儚く輝く。きっと逢える、そう思った。今日じゃなくてもまた。その季節に願いを込めればきっと。
「……ふふっ。昔のフウトさんは結構可愛げがあったんだな…………。」
「またね。小さなフウトさん…………。」
そして少年が立ち去って気づく、あたりの冬の気配や雪のにおいに、そして恋の余韻に。
彼は元気だろうか、そう思いながら空をあおぐ。同じ空を見ているだろうか。北風に髪をあおられながら冬の記憶をなぞる。たくさんの思い出。彼がいたからこの世界が好きだった。大好きだった。数々の余韻が、あの日の余韻が胸の奥から消える事はない。いつだって。
白い季節の約束。
もし魔法がまだ続くならその約束を…………。
「──おーい、シイナ!探したぞー!!」
「え……。」
雪が降る向こう側に彼が手を振っている姿が見えた。届いたのだろうか、それとも本当に約束を果たしに来てくれたのだろうか。あれは紛れもないイヌハラ・フウトだ。
「アララギ先生に聞いてもどこにいるか分からないって言うし探したぞー。」
「そんな事言われても、急に帰ってこられたら困りますよ。前の日にくらい連絡して下さい!」
「ごめん、ごめん。」
「……もう、ほんとそういうところがほんとに昔からよくないんですよ!」
会えて嬉しいが、嬉しいがわざとプイッとしてみる。
「シイナ悪かったよ、だからあんまりへそ曲げないでくれ。それに渡したいものもあるしさ。」
そう言ってフウトは少し青みがかった水晶を出した。
「綺麗…………。」
「だろ?この前ヒマラヤ山脈に行ってな採ってきたんだ。」
「え、ヒマラヤ山脈に!本当に世界中を旅してるんですね!」
「当たり前だろ、とにかくこれはシイナが持っとけ。お守りだ。」
「なんのですか?」
「それはシイナが決めてくれ。」
「もう、適当ですね。じゃあ決めました。」
「早いな。なんにしたんだ。」
「……フウトさんとまた逢えるお守りです。」
「…………。そんなのまじないかけなくてもいつでも逢いに来るに決まってるだろ?」
フウトはそう言って水晶を握る手を握ってシイナを抱きしめる。二人の距離が一気に縮まる。白い吐息が冷たい空気の中交差する。
「………寂しい思いさせてすまない。シイナ。」
「ううん。いいんです。わたしが待つって決めましたから。」
「それにちゃんと約束を守ってくれました。遠い日に交わした約束を。」
「だからまた約束してもいいですか?また逢いましょうね。ううん。貴方と逢いたい……。」
「…………当たり前だ。」
フウトはさらにシイナを自分の方に抱き寄せる。そしてシイナは目を閉じる。フウトも目を閉じて彼女にそっと口づけする。何度か口づけをした後、彼らはお互いにを求め合うようにより深く大人の口づけをした。お互いを深く刻み込むように。
あの日のように、白い雪が2人を包む。
冷たい空気の中彼らは暖め合い星あかりが彼らを包む。
彼女の凍てついた道は彼の道ともう一度交わる。
心の奥底まで温めてくれるあなたとの未来が
凍りついたわたしを溶かしてくれる気がした。
白い季節。
それは2人が交わした約束。
2人にとってトクベツな季節。
あの日交わした白い季節の約束をずっと覚えている。
だから、また逢おう。
どんなに離れていても。
同じ時を感じ合って、共に過ごしていきたいから。
これは小さな冬の物語。
聖夜に起こった冬の魔法。
2人だけの物語。
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