ガンダムビルドデューラーズ 清掃員外伝   作:地底辺人

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第二話「Re:build」

 

「ガンプラバトル」それは、イヌハラ・フウトにとって一度極めたものであった。全国高校生選手権で優勝し、その後とんとん拍子でプロにまで上り詰めた。挫折もあったが、彼はそこまでたどり着いた。夢の舞台にたどり着いていたのだ。

 

「でもまあ、結局は極めきれなかったのかもな。」

 

 プロになったところまでは良かったのだが、国内の大会で何年もタイトルを獲ることが出来なかった。ましてや戦績は落ちていくばかり。同年代が活躍していく様を見てただただ悔しかったし、自分よりも後の世代が台頭してくることにも焦りもあった。

 

 それでも粘り強くキャリアを続け3年目、大事故が起こった。

 

 ある日、近くのコンビニに行こうとバイクを運転していた途中、大型バスと接触。あちらのドライバーはよそ見運転で完全に不運だった。

 

 今でこそ言えるが、そんな大事故があっても生きてるのだから幸運だったのだろう。とにもかくにも、フウトは全治1年という大けがを負った。しかし、新卒3年目、勝負の年を棒に振った彼は、結果を出さない事でついに見限られ契約していた所属チームやスポンサーなどからも契約更新をされず、実質上のリストラを喰らった。

 

 現実を受け止められないまま、フウトは病院の天井を眺め続けた。

 

 何もできない自分を、何者にもなれない自分を誰か殺してくれとさえ思った。

 

 季節は過ぎ、過酷なリハビリを乗り越えフウトは退院した。しかし行く当てもなく入院費などで資金も無い彼は、せめてもの賠償金で買った原付ビーノ(現在のいぬこ号)で行く当てもなく途方に暮れた。北から南、西から東、今どこに自分がいるのかさえもわからない放浪の末、遂に彼はいわゆる、ニート、ホームレスとある意味最強の職を得た。目線は決して上がる事なくただ彷徨い続けた。

 

 もういつ風呂に入ったかも分からないし、冬場だというのに上着もなく、髪も髭も伸びっぱなしで襟足は肩先まであり、前髪も目が見えないほどある。ヨレヨレのシャツ、ボロボロのスニーカー、そして光の灯る事のない心。

 

 堕ちるところまで堕ちたそんな中、フウトに光をくれたのもまた「ガンプラバトル」だった。

 

 正直、あの事故のあと「ガンプラ」を見ることさえ嫌だった。全ての生活からガンプラをシャットアウトし生きていた。もう触ることすらないと思っていた。

 

 そんな彼の心情を逆手に、目の前でガンプラバトルによる恐喝が行われていた。はっきり言って、人を助けるほど当時の彼には余裕なんてなかった。当然、見て見ぬふりをし通り過ぎた。己のプライドも守れないやつに他人を守れるわけない。そう思った。

 

「──ケケケ、このまま俺様が勝てばガンプラもお嬢ちゃんも、好きにさせてもらうぜェ!!」

 

「こんなの、卑怯よ!1vs1の勝負では無かったの!?」

 

 高校生くらいのオリーブ色の髪をした小柄な少女が3人の大柄な男に押し寄られている。

 

「──お嬢ちゃん、"約束"とか"ルール"ってのはなァ、破るためにあるんだよ!!!!!」

 

 野外に置かれたガンプラバトルの筐体の真横を通り過ぎた時、世紀末伝説に出てきそうなヒャッハー野郎がこう言った。

 

 関与する気なんて微塵もなかった。あるはずもなかった。なかったのだ……。

 

 ヒシヒシと心の奥に眠っていた感情がうめき出す。

 

「──お嬢さん、この喧嘩、俺が引き受けた。」

 

「えっ!?」

 

 とっさに、恫喝されていた少女の操縦席を取って代わりガンプラの操作を引き受けた。

 

 自分でも何をやっているのか理解出来なかった。もう握る事のないと思っていたGPDのグリップ、もう動かすはずの無かったガンプラ。凍傷でボロボロの布を指に巻いた手で彼はもう一度だけだと心で呟き闘いに身を投じた。

 

 バトルステージは夜の荒野。

 

 少女の機体は素組のインフィニットジャスティスガンダム。対して相手はドム3機。3人で少女を襲うとは悪党らしい悪党だ。

 

 インフィニットジャスティスはダメージをかなり受けておりバトル用の表示では赤ゲージ、ピンチだ。あと一撃でも喰らえばあとがない。ドム3機はほぼ無傷。しかも動きを見ればかなりの手練れと見える。

 

「でも、動きが荒いな……。」

 

 久しぶりのガンプラの操作に手を震わせながらもターゲットを定めビームライフルで狙い打つ。タイミングもコースも的確だった。急所に連続で打ち込んだ。

 

「へっ、効かねえなあ!」

 

 相手のドムは平気な顔をしてジャイアントバズをこちらに打ち込んでくる。しかも3機ともタイミングをずらし発射し避ける方向を追い込んでくる。

 

「くっ……。」

 

「おいおい、よく見りゃあ、見ねえ顔じゃねえか。おっさん、カッコつけて人助けのつもりかもしれねえけど、やめとくなら今のうちだぜェ…。」

 

 他の2人もニタニタと笑う。

 

「あなたが、こんな事に巻き込まれる理由なんて無い!わたしみたいな無関係な人間ははやく見捨ててここから逃げて…!!」

 

少女は泣いていた。どうしてこんなことになっているのだろうかそんな悲しい顔で涙を流していた。

 

「……」

 

「おいおい、お兄ちゃん、そんなボロボロの機体で俺らとガチでやろうってのかよ?」

 

「なにやっても、勝ち目なんてねえぞ?」

 

「お前みたいな臭そうな浮浪者のカラダになんて興味ねえんだよォ!」

 

「………うっせえ、ガンプラバトルってのはな、泣きながらするもんじゃねえんだよ。」

 

『──そうだ……ガンプラバトルは…………。』

 

 インフィニットジャスティスのファトゥム01を分離させ本体は地上に降り走って突撃し始めた。

 

「へっ、正気かよ。おいテメェら、死の三連攻撃をかけるぞ。」

 

 ドムはそう言って直列に並びこちらに向かってくる。直列になることで、3機が1機に見え、背後からのドムが連続攻撃を仕掛けてくるのは厄介だ。

 

 そしておそらく奴らは自分たちが有利になるようにバトルのダメージ設定を低くしている。先程の急所を突いたビームライフルの攻撃を連続で受けても平気な顔をしていたのはそのためだろう。

 

「兄ちゃん、こいつで地獄送りだ!!」

 

 まず、先頭のドムがジャイアントバスを乱射、おそらく次の攻撃の逃げ道を防ぎ、こちらの行動を制限するためだろう。

 

「へへっ、もらったぁ!」

 

 続いて2機目、ビームサーベルでこちらが避けたコースの背後から切り掛かってくる。ここも予測済み、こちらもビームサーベルで切り払う。そして距離を取る。だが危機は続く。

 

「!?」

 

 やはりここからが鬼門、先程のジャイアントバスに煙幕を混ぜていたのかあたりが煙で見えない。これではどれが3機目なのかも分からないしまた振り出しに戻り予測できない。

 

「………………」

 

 精神を集中させる。3機全ての動きを見切りダメージレベルを越える一撃必殺で全て決める。これが勝利条件だ。しかもこちらは一撃でも喰らえばゲームオーバー。ギリギリの闘いに手に汗を握らせる。だがフウトの眼には光が少し灯っていた。口角も少し上がる。

 

「……………………………!!」

 

 ドムが3機が勢いよく同時に飛び込んできた。正面、右、左。

 

「──甘いッッッッ!!」

 

 左のドムにはまずビームサーベルで腹部にカウンターを入れ、その後正面の攻撃してくる敵の腕をシールドのアンカーで掴み、ビーム刃のついた脚部で一蹴、さらにそのドムを踏み台にし高くジャンプ。

 

「俺を踏み台にしたぁ?!」

 

「くそ、舐めやがって!!」

 

「こいつでしまいだぜ?ゲス野郎!」

 

 フウトは歯を鋭く出してニヤリと笑う。これでは面構え的にどちらが悪役かわからない。

 

 高くジャンプした、インフィニットジャスティスはその勢いを生かし飛び蹴りの体制を取る。

 

「そんな、単調な攻撃、効くわけねえだろ!」

 

 ドムはその直線的な攻撃をビームサーベルで迎え撃つ。

 

 その瞬間、インフィニットジャスティスは落下するスピードからはありえない動きで腰を回し、捻りの動きを加えその大きな反動で回し蹴りを入れた。

 

「なんとォ!!貴様一体!!?」

 

「わりぃ、プレーキャンセル力ってのが昔から得意でな。」

 

 スーパーキャンセリング。自身の並外れた反射神経と動体視力、状況把握能力を活かした無茶苦茶な事だがそれを成すのがこのイヌハラ・フウトという男なのである。

 

「うわぁぁぁぁ!!!」

 

 爆散、流石の大技に耐えられなかったようだ。

 

「………終わりだな。」

 

 そのまま着地し、一息ついた瞬間。はじめに倒したドムが立ち上がり奇襲を仕掛ける。

 

「お前みたいなのに、お前みたいなのにいい!!」

 

「しつこいな、もう勝負はついてんだよ。」

 

 インフィニットジャスティスは立ち止まったまま腕を天にあげそのまま振り下ろす。

 

 すると、分離していたファトゥムが超スピードで突っ込んでくる。

 

「なにぃ!?」

 

 その超突撃を正面からくらい、ドムは受け止めきれずヒートエンド。荒野の彼方へ吹っ飛んでいった。

 

  Battle End

 

 バトル終了の合図がされた。

 

「お、おぼえときやがれーーー!!」

 

 そう言って、3人は呆気なく立ち去った。

 

「また、お前が俺をこの世界に呼ぶのか。」

 

 インフィニットジャスティスガンダムを見つめ、ひとり、そう呟いた。

 

「そ、その……。あ、ありがとうございました!!」

 

 そういえば、バトルに夢中になり過ぎていてこの子のことを忘れていた。

 

「それじゃあな、陽も落ちてきているし気をつけて帰るんだぞ。」

 

「それから、ガンプラ大事にな。」

 

 そう言って、インフィニットジャスティスガンダムを少女に手渡し俺はその場を立ち去ろうとした。

 

「あ、あの!」

 

 少女が引き止める。

 

「お名前だけおしえてくれませんか?」

 

「…………。イヌハラ、イヌハラフウトだ。」

 

「イヌハラさん…。また会えますか?」

 

「それはガンプラの導き手が決める事だ。」

 

「なんですか、それ。」

 

「お互い、ガンプラをやっていれば会うこともあるって事だ。」

 

 少女はクスッと笑い丁寧にお辞儀をすると自分のガンプラを握りしめ立ち去った。立ち去った少女の後ろ姿からは雪のような白い香りがふわりと漂った。

 

「……。はぁ、柄にもなく人助けなんてするもんじゃねえな。疲れたわ。」

 

「まぁ、いいか。俺もそろそろ仕事でもするか。」

 

「あんなヒャッハー野郎になりたくないしな。」

 

 その時、少しずつではあるが、ガンプラバトルに助けられ、現実に向き合おうとしはじめていた。それからは5年間清掃員の仕事をコツコツと続けることとなった。あの勢いのままガンプラバトルで夢の続きを見る事も出来たのかもしれない。だが俺はこの道に進んだ。それでも今なおガンプラバトルをしているのは俺がどこかで"ガンプラの導き手"を求めているのかもしれない。

 

 そして今日、フウトはその導き手と出会ったような気がした。

 

『ウチヤマ・ユウ………。』

 

『アポロンガンダム………。』

 

 あのワクワクさせるような機体とデューラー。やはりフウトも生粋の勝負師。改めて、もう一度茨の道を行くことを心に決めた。

 

 少女と少年、この出会いに感謝すべきなのだろう。

 

***

 

「……ん。」

 

 目が覚めた。仕事から帰ってすっかり寝ていたようだ。

 

「こうしちゃいられねえ。」

 

 フウトはかつて長い間愛機として使用していた機体を棚の奥から取り出す。

 

「ジャスティスカイザー……。」

 

 「ジャスティスカイザーガンダム」それは、イヌハラ・フウトが初めて制作したガンプラバトル用の機体である。その外見はインフィニットジャスティスガンダムとレジェンドガンダムを組み合わせたものであり、ドラグーンを搭載し近中遠距離全てに対応したオールラウンダーな機体であった。この機体を操り、全国高校選手権といった学生時代の激戦を潜り抜けてきた。

 

「やっぱり、相棒はお前しかいねえよな。」

 

 数々のバトルで傷つき、その度に修復された痕が見られ今ではもう再起不能となっている。しかし作り変える事はできる。

 

 "Rebuild"

 

 生まれ変わっても戦い続ける。コイツも俺も。

 

 ──何事も初心に帰ることが大事なのだ。

 

 模型店でジャスティスカイザー用のキットを買い作業を進める。過去を超える更なる完成度を。過去よりも強く。インフィニットジャスティスという機体がガンプラを始めた頃の自分に可能性を与えてくれたように今度は自分がガンプラに無限の可能性を与える番なのである。

 

「──できた……。」

 

「こいつとまた一緒に俺は……!!」

 

 午前5時。今日も、その時間を当たり前のように迎えたが、いつもと違う。そんな午前5時だった。

 

(続く)

 




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