ガンダムビルドデューラーズ 清掃員外伝   作:地底辺人

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本編は終了しましたが今回からアララギ先生の視点で過去編をやっていこうと思います。よろしければお付き合いお願いいたします。


過去編 アララギ外伝 (過去編)
SP1「魔王─ King of empty─」


「──勝ったァァァァァァァァァッッ!!!」

 

 眩い会場で一際大きな歓声が上がる。会場のMCと思われるサングラスをかけた男性が観客を煽りさらに歓声は強まる。

 

「本日もこの男の勝利だぁッ!!そして、本日で38連勝ッ!つまりリーグ戦全節を全勝で終わらせた偉業だァァァッ!!」

 

「ウォォォォォォォーー!‼︎」

 

「すげーぞ!!!」

 

「流石魔王サマだぜ!!!」

 

 その歴史的な記録がさらに会場を盛り上げる。リーグ全節全勝で終わらせたプロデューラーはこれまで1人もいなかった。つまり前人未踏の記録。これまで強いと称されたデューラーはいくらでもいたが「彼」は1人次元が違っていた。高精度のガンプラ、卓越したタクティクスと操縦技術、そして王者のメンタリティ。勝者たる者に相応しい全てを兼ね備えていた。いつしかその圧倒的な実力を備えた彼は「魔王」と呼ばれるようになった。

 

 ……魔王と呼ばれた……彼の名は…………。

 

「勝者、『アララギ・ユウリ』ッッ!!」

 

 少し伸びた薄紫髪の青年は歓声の中立ち尽くしただ天井をただ見上げていた。

 

「………………………………………。」

 

*****

 

 ──人の道はどこまでも続く。そして繋がり、広がる。これはある男の道を辿った記録。そして男が見た景色の話。また男が立てたみちしるべの話でもある。

 

「兄さん、お帰り!!今日も圧巻だったね!!!」

 

「ただいま。まぁいつものことさ。」

 

 男、アララギ・ユウリが自宅へ帰ると弟のアララギ・サワラが出迎える。小柄で兄とは違った藍色の髪をした少年だ。アララギは帰るとサワラと談笑をする。だがこの時、彼は自分から「ガンプラ」の話をする事はほとんどなかった。ましてや今日の対戦相手がどうだったかとかいった話は全くと言っていいほどしなかった。サワラは兄のそういった態度に勘づきながらも子供ながらに気を遣い触れないようにしていた。本当はもちろん兄やプロの世界の話に興味はあるがグッとこらえた。

 

「ところで、サワラ。お前高校はどこへ行くんだ?」

 

アララギ話題をさりげなく変える。いつものやり口だ。

 

「うーん。俺は桐國(とうこく)学園へ行くよ。」

 

「桐國っていうと父さんと同じ高校かぁ。だが家からは少し遠いんじゃないか?それに近場には俺の母校の……。」

 

 アララギはサワラの顔を見ると話し続けるのをやめた。弟の進路に対して兄が色々と口出すのは少し無粋だと思ったのもあるがサワラの顔を見ると強い決意を感じた。関東の中でも桐國学園というとガンプラバトル部の名門であり多くのプロを輩出している学校である。父『アララギ・クロスケ』もこの高校を卒業しプロ黎明期に活躍し日本選抜にまで選ばれた。

 

 弟のサワラもまたガンプラバトルを好む、いわゆる「デューラー」の1人なのだがその実力はパッとしない。確かにビルダーとしての能力は光るものがありそのアイデアや造形にはアララギも驚かされる事もあるが実戦となるとイマイチであった。よく練習に付き合っているがお世辞にも強いとは言えない。が、まだ中学生、環境の変化や人格形成、成長期といったことを考えるとまだまだ成長の余地はある。兄であるのならば弟の道を応援するものだ。

 

「そうか、桐國は厳しいぞ〜。頑張れよ。サワラ。」

 

「うん!俺、絶対兄さんに追いついてみせるよ!」

 

「ハハ………、プロの世界はもーっと厳しいよ?サワラ。」

 

 アララギは冗談ぽく言う。だがはじめて、冗談だとしても弟にプロの話をした瞬間でもあった。

 

 弟と雑談をしていると1階から父、クロスケに突然声をかけられる。1階は模型店となっており人手が足りない時にはアララギはよく呼ばれる。

「おーい、ユウリ!ちょっと降りてきてくれー!」

 

「一階からだ。ちょっと行ってくる。」

 

「俺も行こうか?」

 

「うーん、そうだな。もしかすると人手が必要かもしれないしサワラも頼む。」

 

 2人は1階の売り場へと向かう。するとそこには青髪と少し赤毛の茶髪の少年たちが困った顔をしながら棚に並んだガンプラの箱を見つめていた。

 

「お、きたきた。ユウリ、あの子達さっきからえらく悩んでてな。ちょっと相手してあげてくれんか?」

 

「それ、俺じゃなくてもいいんじゃ…。」

 

「俺よりお前が相手してあげた方が喜ぶだろうよ。"チャンピオン"」

 

「………ッッ。あんたもそうだろ……。」

 

 小言を吐きながらアララギは少年たちのもとへ向かう。その後ろをサワラがヒョヒョコとついてゆく。

 

「……君たち、何かお困り事かい?」

 

「ええっと……新しいガンプラを作りたいんですけど中々良い案が思い浮かばなくて……。」

 

「ほぅ、いま手元にガンプラはあるかい?」

 

 アララギは優しく少年たちに声をかけ少年たちは腰のホルダーから自分の機体を取りだす。それにどうやら少年たちはアララギの正体に気づいて無いようだ。

 

「これなんですけど……。」

 

青髪の少年はガンダムエクシアをガンナータイプに改良した機体を見せる。とはいえほとんどエクシアの部分で変わったのは武装が自前のレールガンになったことぐらいだろうか。

 

「なるほど。つまり今のままじゃエクシアの近接特性が高すぎて上手くガンナー仕様にコンバート出来ないってわけだな。」

 

「はい……。色々と持ってるパーツで組み合わせてみたんですけどうまくフィットしなくて。」

 

「フィットしないというのはどう言うことだい?」

 

「ガンナータイプにしたいのもあるんですがエクシアのスピードとかは消したく無くて。それで……。」

 

 アララギは上手く青髪の少年のアイデアを引き出し問答を行う。それはまるで先生のようだ。

 

「ふむふむ、なるほどね。じゃあ視点を変えてみよう!例えば後方支援メインの中距離型にするとか!それならマークスマンの役割もこなせて扱いやすいんじゃないかな?」

 

「…………!!なるほどその手があったか!!」

 

 どうやら青髪の少年は何かを掴み閃いたらしい。先程まで曇っていた顔が一気に晴れた。

 

「ふうちゃん、俺は決まったよ!」

 

「え、兄さん早いよ!」

 

「そっちの子も少し見せてくれないかい?」

 

「え、は、はい……。」

 

 赤茶髪の少年は少し恥ずかしそうに自分の機体を見せる。見せたのは素組のインフィニットジャスティスガンダム。どうやらインフィニットジャスティスを自分用にカスタマイズしたいようだが難航しているらしい。そして妙に脚部が少し焦げ付いたように黒い。アララギは一眼見てそこが気になった。

 

「うーん、そうだねぇ。基本的には自分のバトルスタイルにあったカスタムをするのが良いんだけど得意な戦術とかある?」

 

「えっと、蹴り……ですかね……。」

 

「ふうちゃんはとんでもない体制から相手の攻撃を避けて反撃するんですよ!」

 

「──カウンターの使い手か……。なるほど。」

 

 アララギは少しニヤリとした後に赤茶髪の少年のアイデアをもう少し引き出しアドバイスを送った。少年のコンセプトは先程の兄とは違いオールラウンダーで戦場の支配力のある機体。少し頼りなさげな少年ながらに中々大きな事を言うじゃないかと率直に思ったがそこには強い信念を感じた。サワラに少し似たそんな雰囲気だ。

 

「店員さん、ありがとうございました!」

「ありがとうございました!」

 

 2人は満足気にキットやマテリアルを買って帰った。どうやら最後まで自分自身が「アララギ・ユウリ」だとは気づかなかった。それほどまでにガンプラに夢中だったのだろう。いやそれとも自分が思っているほど認知されていないのだろうか。いずれにしてもあれくらい夢中になれてる彼らが少し羨ましい。

 

「……いいな……………。」

 

 アララギはそう呟き店内の手伝いを続けた。

 

*****

 

 辺りはもう暗くなり店も閉めの準備をはじめた。閉めの作業をしているとクロスケから一声かけられる。

 

「ユウリ、どうすんだ?」

 

「どうするってなにを?」

 

「どうするもなにも、いつまでそんなお遊びみたいな事やってんだって聞いてんだよ。」

 

 父は少し強い口調で言う。こんな風に言われたのは大人になってからは久しぶりだ。それに「お遊び」と称された事にも少し腹が立った。

 

「今のお前はプロでもなんでもねえ。何がリーグ戦全勝だ。結果は立派だけどな、今のお前には魂もプライドもありゃしねえ、対戦相手に不満があるなら海外にでも行きゃいいじゃねえか。」

 

「父さん、言ってくれるじゃないか。俺だって、好きでやってるわけじゃ……。」

 

「好きじゃないならやめちまえよ。」

 

「今のお前は、ただ空っぽなだけだ。空っぽのまま突っ立ってる、でくのぼうなんだよ!」

 

 クロスケはいつにもなく怒りをあらわにした。ユウリはここまで怒る父の気持ちも分からなくもなかった。父は不慮の事故で手を怪我してしまい心半ばのままプロの世界から身を引いた。自分がプロ入りした時には自分の事のように喜んでくれたし応援もしてくれた。自らのやり切れなかった想いを馳せているのかもしれない。それに父はプロ黎明期をけん引してきた人だ。今以上にもっと過酷な環境であったのだろう。

 

 だとしても。それは父の勝手というものだ。俺には関係のない都合だ。なのに、今のこの空っぽの身体を突き刺すような言葉がアララギを襲う。

 

 アララギの実力は国内リーグにおいて一線を画していた。リーグ戦無敗、圧倒的な勝利、時にはオーディエンスを盛り上げるためにわざと負けそうにする素振りも見せた。だがそこに彼の本質はなかった。誰1人としても彼の底を見たものはいない。日本選抜で世界のデューラーとも何度か交えたがそこでも彼を突き動かすものはなかった。かくして、強すぎるその実力は彼を1人にし虚無感の中もはや誰と闘っているのかも分からないそんな状況に陥っていた。

 

 「……ミハエロがな、お前は指導者向きだとよ…………。」

 

「え…………。」

 

「……さっきの様子も見てりゃなんとなくだが言ってる意味も分かったよ……。」

 

「……………。」

 

「…………そういう道もあるってモンだ。」

 

 クロスケはそう言って2階へと上がっていった。いつの間にか父の背中が曲がっていた事に気がついた。

 

 一方アララギは店内に残り周りを見渡す。店内に香る独特の匂い。メーカーごとに並べられた塗料やスプレー缶、キットの数々。アララギは小さい頃からこの空間でずっと育ってきた。当たり前のようにこの空間で生き抱き続けた夢を追い求めた。そしていつしか彼が見た夢はホンモノになった。だがその先は全てが虚だったように彼を無にさせた。ゲームの続きがないように彼の道にも続きはなかった。

 

 それでも、それでも、闘い続けた。闘う理由(わけ)などそんなものはとうになかったが闘い続けた。闘い続ければ何かあるはずだと思い。だがその果てには何も残らず、残ったのはただの虚無感。いつもと同じ何もない空っぽの自分。

 

 今日店に来たあの少年達を見て思った。自分もああなりたいと、戻れるならあの頃に戻りたいと。夢を見れる、夢を語れるあの頃に。

 

 父は自分に指導者の道を進めた。確かにそれもアリだろう。だが、今の空っぽな自分が人に何かを教えるなどと許される事なのだろうか。答えはノーだ。人に夢を与えながらもその先の絶望よりも哀しいものを彼らに与えてしまう。

 

 アララギはそう思いながら棚に置いた紫雲を眺める。これまで共に闘い続けた相棒。綺麗に吹き付けられたメタリック塗装が真夜中の部屋に映える。

 

ピピッピピッ

 

「着信?こんな夜中に誰だ。」

 

 アララギは携帯電話の画面を確認するとそこに表示されていたのは『ミハエロ・ペドロウィッチ』の名前だった。ミハエロはクロスケと同じく時をしたロシア人のプロデューラーであり現在は日本でプロ向けの指導者をしている。

 アララギは少し戸惑いながらも電話に出る。

 

「ジュニア、久しぶりだね。」

 

「ミハエロさん、お久しぶりです。」

 

「まずは優勝おめでとう!、流石クロスケの子だ。」

 

 久しぶりの挨拶を交わす2人。だがこんな夜更けにミハエロが電話をかけてきたのはそんなことが目的なのではない。

 

「ジュニア、指導者にならないかい?」

 

「え?」

 

「今の君はあまりに退屈そうだ。このままでは君は君自身で殺す事になる。そう思ってね。」

 

「で、でも…いまの俺は……。」

 

「まずはやってみてから言いなさい。それとも君はまだそこで空っぽのダンスを続けるのかい?」

 

「…………………………。」

 

「うーん、そうだな。まずはハイスクールの先生なんてのはどうだい。」

 

「──待ってるよ……、アララギ・ユウリ。」

 

 そう言うとミハエロは一方的に電話をプツンと切った。アララギはため息をつきベットへと横たわる。

 

「はぁ…。どうすりゃいいんだ……俺は。」

 

「なあ、紫雲。俺が先生なんて笑い話かな……?」

 

 アララギは棚から愛機を持ち語りかける。決心がまだつかない。このままでは何も変わらないと、分かっていても。薄暗い部屋の中焦点が定まらずぼうっとしていると隣の部屋からなにやら作業の音が聞こえてきた。

 

「さっきの子、僕と同じくらいの歳だった。友達になれたらいいなあ。」

 

「うーん、でもあの子の機体の脚は酷く焦げ付いてた。とてつもない蹴りの達人なのかな。友達になりたいけど負けたくもないなあ。」

 

「よし、こうなったら作業だ!アストレアの装甲を限界まで削ってもっとスピードが出るようにするぞ!」

 

 サワラが隣でぶつぶつ言っているのが聞こえる。元々少し引っ込み思案な性格で友達になれたらと思う事はとても彼らしいと思ったが、一方で同年代に負けたくないというある種闘争心が芽生えていた事をはじめて知ったアララギは感服した。弟はいまから強くなる。絶対に。そう確信した。同時に自分はこの止まった世界の中でまだ機械的に生きようとしているのかとハッとした。

 

「そうだな。進まなきゃ、なにも始まらない。」

 

「何もない俺だけど、生徒と一緒に何かを掴む事ができるのならきっとそれを幸せって呼ぶのかもな。」

 

 アララギはその日いつもより良く眠る事ができた。

*****

 

 その週の最後にアララギ・ユウリの現役引退が発表された。そのニュースはあまりにも衝撃的であった。彼ならまだやってくれるだろうという人々の期待をよそに28歳という若さで華々しい引退を飾ったユウリは姿を一時的に消し教員試験のために勉強漬けの毎日を送った。そして見事試験に合格し母校であった「勇気高校」への赴任が決まった。

 

「──さて、いくか……。」

 

 これは夢のはじまりと夢のつづき。




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