第一話「新世界」
ウチヤマ・ユウとトロが互いの鎬を削り合い激闘に激闘を重ねた第15回全日本GPD大会から既に数年の時が経とうとしていた。
現代の時代変化は激しく世界的ホビーの一つであるガンプラバトルの形式も「GPD」から「GBN」と呼ばれる電脳仮想空間を舞台に、スキャンしたガンプラを使ってプレイするVRオンラインゲームへと移り変わっていた。
国境や物理的な距離を関係なく、様々なGBNのプレイヤー、「ダイバー」達は新世界で各々楽しむ。
そしてまた、ここにもGBNでガンプラバトルを楽しむ少年が。
「──ッッ!!」
「手強い相手だったがそろそろ終わりにするぜ……!!」
しかしいきなりのピンチ。少年が操るスプリッター迷彩が施されたグフは対戦相手である太刀を持つ白と赤黒の機体に追い込まれる。
「あなた、強いですね……!!」
「そっちこそ、はじめてだよ、こんなヤツ。」
2人はニヤリとする。まるで好敵手と出逢えた事を喜ぶかのように。2人とも生粋の勝負師なのだ。
「だからこそッッ………………!!」
「負けたくないッッ……………!!」
グフは腰からビームサーベルを2本構え敵機へと突撃する。白と赤黒の機体は太刀を構えその攻撃を受け流す。
「速いッッ…………!!」
「そこだァッッ……!!」
グフはモノアイを紅く光らせサーベルで敵機を徐々に押していく。さらに強烈な蹴りを放ち、ついに転倒させる。
──赤い瞳と蹴りで獲物を狩るその様はまさに隼。
「これでおわりですよッッ!!」
「くそっ!!間に合えッッ!!」
グフは勢いのままビームサーベルでとどめを刺そうとする。瞬間、2基の飛翔体が飛んでくる。
「ファンネルッ…………!?」
赤黒の飛翔体、ファンネルと呼ばれる遠隔武器がグフを襲う。白と赤黒の機体のダイバーは安堵した顔で一旦距離を取りそのまま太刀を構える。
「なるほど、あなたの武装でしたか。」
「間に合って良かったよ。」
二機はお互いを見合わせてもう一度対面する。この斬り合い。おそらく速い方が勝つ。両者は直感的に勝敗のビジョンを理解した。
バトルフィールドである草原に風が吹き抜ける。そして、この風が止んだ瞬間、この二機は再び動き始めた。
「…………そこだ!いけぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」
先制したのはグフ。一気に距離を詰め敵機のコックピットを目掛けてビームサーベルを素早く横切りで繰り出す。
「…………ッッ!!」
赤黒の機体は、力強く、軽やかにサーベルの流れる方へとターンステップを踏みその反動のまま太刀でグフを切り裂いた。
そして一瞬、赤黒の機体の中身から熱く迸るようなまるで太陽のような得体の知れない力強さを少年は感じ取った。
だが、それはまだ鈍い。純正の輝きとは程と遠いが宝石の原石のような可能性の塊であった。
「………そんな、今のは完璧だったのに。それに今のは一体…………?」
「──俺は負けられねえんだ。あの人に勝つまで、絶対。」
──battle end──
「でもまあ、楽しかったぜ。グフ使い。」
赤黒の機体を操る男はそう言うとその場から姿を消した。少年は操縦桿でグリップを握ったまま立ち尽くす。
「……行っちゃった…………。強い人だったな……。でも、いつか僕も──」
ダイバーネーム オノサカ
彼もまた、新世界を舞台に闘う、デューラー、否ダイバーの1人だ。
***
季節は春。桜が咲き、清々しい風が当たりを吹き抜け春の匂いが漂い新しい季節の予感をさせる。
「ここが……勇気高校…………。」
「──どこかで、あの人も見ててくれるかな……。」
そしてここ、勇気高校でも新たな物語が始まろうとしていた。
肩甲骨くらいまで美しく伸びたオリーブ色の髪と綺麗な琥珀色の目で白いジャケットを羽織った女性が桜舞い散る校門を潜る。
雪のように肌の白い彼女の姿と桜漂うその情景はまるで矛盾しているがその様が、ありえないような景色がとても美しく見えた。そして彼女の周りをひらひらと落ちてくる桜の花弁は彼女を新たな世界にそっと、優しく送り出すようにひらひらと舞っていた。
「今日からお世話になります!『ヒナセ・シイナ』と申します。まだまだ未熟ではありますが一生懸命、生徒の皆さんの力になれるように頑張ります!!」
少し緊張し強張った表情の中、新任の教員が全校生徒と顔合わせを行う着任式で「ヒナセ・シイナ」と名乗った女性は挨拶をした。
この女性こそ、数年前、日本王者となったイヌハラ・フウトと共にアララギ・ユウリの下でガンプラバトルに励んだ、シイナなのである。
彼女はフウトの旅立ちの後、自分の進路を真剣に考えた。アララギやフウトに彼女が導かれたように、彼女自身も今度は誰かを導きたい、誰かの道しるべになりたいと思い教員を志した。
そして今日がはじめての勤務先となる高校の着任式であった。関西圏のやや北部に位置する「勇気高校」で彼女の道は再び始まることとなった。
式も一通り終わりホッと一息をついていると、白衣を纏った男性が話しかけてきた。
「すっかり髪も伸びて立派になったねえ、シイナ。」
「ア、アララギ先生。い、いえ。失礼しました。校長先生。」
「いいよ。いつも通りアララギで。」
校長と呼ばれる白衣の男性はアララギ・ユウリであった。長年大学でガンプラバトルを指導していたが1年前に母校であり、かつて教鞭を取った勇気高校の校長に38歳という異例の若さで就任した。校長でありながら高校教員時代から白衣を纏いつづける風貌は少し歪ではあるがシイナにとっては見慣れた、安心さえするシルエットだ。
「ここはね、俺やふうちゃん達の思い出が詰まった場所なんだ。シイナが北海道を出るとは聞いていたけどまさか勇気高校にくるとはね……。」
「きっと何かの縁です。先生やフウトさんが私をここに繋いでくれたんだと思います。だから私もここでそういう繋がりを、今度は創れる人になります。」
「頼もしくなったねえ。これで学校もしばらくは安泰かな!」
アララギはそう言ってシイナの肩をポンと叩きニコッと笑ってその場を後にした。恩師に褒められてシイナは嬉しくなった。同時にこの人はやはり人を乗せるのが上手いなと、同じ職に着きさらに強く感じた。お手本になる人がすぐ側にいる事は心強い。自分もいつの日か生徒からそう思われるようにならなければ、そう思った。
そしてシイナもまた自分が受け持つ予定のクラス2-1へと足を運ぶ。
「なぁ、サイト、昨日なんかすげえのとやり合ったんだろ?」
「うん、そうだね。とても強かった。太刀を持った白と赤黒の機体。フレームなんかは凄く独特な感じだったな。中になんかいるっていうか。」
「へぇ、それもしかして最近GBNで噂になってる『ガンダムリパルド』ってヤツなんじゃないの?」
「ガンダムリパルド…………?」
「ああ、なにやら太刀を持って豪快に闘う様が『アポロンガンダムエンデ』と『ウチヤマ・ユウ』に似てるって噂になってるんだ。」
「へぇ、そんなすごいヤツなのか。彼……。」
落ち着いた声で話すのは2-1の生徒「サイト」、本名「オノ・サイト」もう一つの名は『オノサカ』薄紅色の瞳と黒髪の少年。昨晩スプリッター迷彩のグフを操りガンダムリパルドと呼ばれる機体と戦ったダイバー。リパルドの鋭く速い動きは目を瞑れば脳内に激しく蘇ってくる。また、彼と逢えるだろうか。サイトは再戦を待ち望む。
サイトと話している彼はGBN仲間である「アキタケ」彼もまた2-1の生徒で少しお調子モノだが悪いヤツではない。
GBNは今や高校生の間でもかなりの人気で、GPD時代よりもゲーム性の向上や実際の機体への損傷がないため新規ユーザも近年増加傾向にある。
サイトはGPD時代からのプレイヤーでGBNの新規ユーザーと比べるとガンプラの製作技術も操縦も格段に高い。GPD時代から何人か憧れているデューラー、今はダイバーに近づくため日々奮闘している。
「そういやさ、あの白い雪女みたいな美人の先生、うちの副担任らしいぜ。」
「雪女は失礼だろ…。えっと、ヒナセ先生だったかな。確かに美人だったなあ。」
「だよなぁ、やっぱりサイト、お前分かってるなぁ!」
2人も年頃の男の子だ。年上の美人な女性を見るとそれはもうテンションも上がって当然だ。
そうこうしているとシイナがドアをガラガラと開け教室に入ってきた。
「ヒナセ・シイナです。今日からみなさんの副担任なります。教科は国語科です。分からないことがあったら何でも聴いてください!」
シイナはそう言って生徒達に笑顔で挨拶をした。アキタケは笑顔に魅了されたのかぽかーんとしている。
「おいおい。………。こりゃダメだ…………。」
***
ホームルームが終わるとサイトは学校のある場所へと足を運ぶ。
彼の学校内での隠れ家とも言える場所だろうか。GBNにインしない日は大抵そこにいる。
───理科準備室───
旧校舎2階の隅にある教室の中は狭く薄暗い。教室の中には黒く大きな筐体のような物と、机にはサイトのガンプラや家から持ち込んだカッターマット、ニッパーなどの工具が置かれている。
サイトがこの教室を見つけたのは高校一年生の夏休み。彼が苦手とする水泳の授業の補修帰りに当てもなく歩いているとたまたま見つけた。
表の戸口は固く閉ざされているのだが、横の方に誰が何の目的のために付けたか分からない隠し扉がありサイトはそこから出入りしている。この場所はアキタケにも伝えておらず自分だけの空間として、秘密基地としてサイトは使っている。
「…………よし、ここをこうやってと………。」
サイトは何やら部屋の面積の半分を占める黒い筐体の内部を弄っている。彼は機械をいじる事にも長けており時間を見つけてはこの筐体のシステムの復旧に努めている。
彼はこの筐体が何なのか完全ではないがある程度理解している。かつて彼をガンプラにのめり込ませた旧式のバトルシステム。GPデュエル。通称GPD。GBNの普及により各地にあったGPDの筐体は撤去、回収され、実物があるのは今時珍しい。しかもこの教室の物はかなり最初期の型番である。
かつてこの勇気高校にはガンプラバトル部なるものがあったらしく全国制覇を2度成し遂げていた。おそらくその時に使用されていた物なのだがあまりにも古い。ちなみに今でも立派なトロフィーが教室の隅っこの透明なガラスケースの中に保管されている。
サイトはそういった事はあまり知らず自宅から近い勇気高校に進学したため初めて知った時に驚きを隠せなかった。そして今、興味本位で旧式のシステムを立ち上げようとしているが、なかなかうまくいかない。配線を変えたり、家電量販店などで新しい部品に取り替えたりなどしているがもう一工夫必要なようだ。
しかし、今日こそは。今日こそ。そんな事を思いながら集中して内部を弄る。
「うーん、このあたりだったかな。」
「嘘!?誰か来た?」
サイトは珍しく人の声が近くから聞こえ慌てる。声の持ち主は男性のものではなく、さらに聞こえ方からして隠し扉の近くにいる。
「アララギ先生がこの辺りに面白いものがあるって言ってたけど……。なんのことなんだろ。」
「………もしかして、ヒナセ先生の声かな…………?いきなり副担任の先生がここに来るなんて不幸だ………。」
声の持ち主は、今日サイトの副担任となったシイナだった。どうやら校長のアララギからこの場所を知らされて近くへ来たようだ。
「あ、これかな!」
シイナは少し嬉しそうに隠し扉の存在に気づきガチャと扉を開ける。その音を聞いた瞬間、サイトは筐体の裏にスッと隠れ込む。
「………ここは………………?」
時刻は夕方ということもあるせいか何故か懐かしく感じる情景と匂い。教室の隅からは煙草の匂いが混じった空気がする。何故だかこの独特な匂いがとても懐かしく感じる。
「これって………………。」
そしてシイナは真っ先に目の前にある馴染み深い筐体を目にする。彼女が幾度となく戦ってきた場所。GPD。その存在を見るだけでも懐かしさが込み上げてくる。
他には何かないのかと、この異質な部屋を見渡す。右斜め前にガンプラが、灰色のグフが立っている事が彼女の目に止まった。
「これは…………。一体誰の…………?」
「しまった………。僕のガンプラ、置きっ放しだ。」
シイナはゆっくりとグフに近づきまじまじと観察する。
「この機体、よく作られてる。スプリッター迷彩が目に止まるけど細かいところまで作り込まれている。」
「あーーー、わたしも久しぶりにガンプラしたいなあ!!帰りにどこか寄ろうかな!」
シイナは嬉しそうに周りを見渡す。
「──ここがはじまりの場所………か…………。」
シイナは届かない声をボソッと呟く。夕陽に照らされ儚げに見える彼女の姿はより一層美しく見えた。
「じゃあね。灰色のグフ。君ともまた逢えますように。」
そう言ってシイナはゆっくりと教室を後にした。
「…………………………………………。」
「…………ふぅ。先生行ったかな。」
サイトは安堵した表情で左右を見渡した後、筐体の裏からひょこっと身体を出し机の方へと向かう。
「先生、意外とガンプラの事知ってるんだな。それにこの教室の事やっぱり何か知ってるのかな。」
「…………どんな機体使うんだろう、先生。」
GBNは今や空前のブーム。教員である大人がガンプラをしていてもおかしくはない。だがサイトは嬉しかった。多種多様な人がガンプラを好きであるという事。それだけで何故か心が暖かくなった。
***
サイトはシイナが去った後、筐体の復旧を試みたが今日もだめだった。
「また、明日かな。」
額にかいた汗を手で拭う。外を見ればもう夕暮れ時だ。サイトはそれを見て急いで下校する。のんびりとした性格のサイトにしてはかなり急いでいる様子であり一歩も止まる事なく、ある目的地へ駆ける。
「ハァッ……ハァッ…………!!」
「ギリギリ間に合うかッ……!?」
息を切らしながら懸命に走る。道の横側に3階建ての木造の建物が見えた。そこがサイトの目的地だ。
───アララギ模型店───
サイトがよく行く街の模型店だ。古くから営業しており街の模型好きがよく集まる。先代の店主はかなりご高齢で最近、息子である若い店主に代わった。世代を超えて街の人に愛される店にサイトもまたお世話になっていた。
「よし!着いたぞ!!」
サイトは勢いよく模型店の扉を開いた。この扉を開くときのわくわく感はいつになっても変わらない。
「いらっしゃーい!!ん?その顔サイトくんか、閉店ギリギリで駆け込みかい?」
「店長、こんにちは!ギリギリ間に合いました。」
アララギ模型店は午後6時30分には店を閉じる。時刻は午後6時。店内での用事を済ますなら十分すぎる時間だ。サイトは目当ての塗料を探そうと奥に塗料瓶が並んでいる棚の方を見る。
「あれ?」
「今日は珍しいお客さんがいるんだ。」
オリーブ色の長い髪、白いジャケットと透き通るような肌。間違いない。この人は。
「あ、これだ!」
「シイナ、目当てのものはあったかい?」
「はい!流石『アララギ模型店』ですね!」
「毎度、ありがとう!」
2人が顔見知りのように話すのを見て戸惑うサイト。それもそのはず、先生はつい最近北海道から来て店長は関東の方から来たと聞いていたのだ。ぽつんとサイトは立ち止まっていた。
「ん?君その制服…………?」
シイナがサイトの制服を見て話しかける。サイトは先程の理科準備室の事もありドキッとする。
「うちの生徒さんなのね、なんかこんなところ見られると恥ずかしいな……。」
「い、いえ。僕『オノ・サイト』と言います。クラスは2-1で、先生が今日来たクラスの生徒です。」
「え、そうなの!?ごめんね、まだクラスのみんなの顔覚えれてなくて。名乗ってくれてありがとう。」
シイナはそう言って優しく微笑みかける。
「シイナ、もうすっかり先生って感じだね。ウチの兄さんよりよっぽど先生らしいよ!」
「やめて下さいよ、アララギ先生には何年経っても敵いません。」
「えっと、お二人はお知り合いなんですか?」
サイトは不思議そうに問う。そうすると店長が答える。
「うん。シイナはウチの兄さんの教え子でね。それでまあちょっとした顔見知りってとこかな。」
「へぇー。そうなんですね。2人とも出身地とか全然違うのに親しげだったので驚きました。」
「まぁ、そういう事があるのが、ガンプラの世界の面白さの一つなんじゃないかな。」
「確かに。そうですね。」
店長はシイナと顔を見合わせてニコッとする。
「そうだ、これも何かのよしみだ。2人ともGBN使っていきなよ。」
「あっ、いいですね!」
「サイトくん、いこうっ!」
「ええっ、マジですか!?」
「マジだよ。マジ。ほらダイバーギアとガンプラ、セットして!」
サイトは店長とシイナに連れられて奥にある別室のGBNルームに半ば強引に連れて行かれゴーグルを掛けダイバーギアと自分の機体をセットする。その時とっさに愛機であるグフを出したが、よく考えるとさっきの理科準備室の事がバレてしまうのではないかと思ったがもうどうにでもなれという気持ちで機体をセットした。その横で先生は何やらかなりテンションが上がっている。
ID date convert
please scan your GUNPLA
login date confirmed
Are you ready?
Dive start now!
無機質なアナウンス音。この合図と共に2人の体は電脳空間の海にダイブする。いつ見ても異様な景色。後になれば覚えているのか忘れているのかすらわからない情景。
シイナはこの新世界の入り口に心躍らせていた。なにか自分の中の、ずっと無くしたままの忘れものが見つかる気がして。
「ふぅ………………。」
シイナは眼を開くと辺りには見たことのない情景。ガンダムのキャラクターの格好をした人もいれば外見がハロになっている人もいる。
「ここが…………GBN………………。」
「もしかして、先生、今日がはじめてなんですか?」
「ん?君は?」
黒髪に薄紅色のメッシュの入った少年が声をかける。
「サイトです。この世界では『オノサカ』と名乗っています。」
少年はサイト、否オノサカだった。この電脳世界ではみなアバターと呼ばれる自分の分身を持つ。シイナはあまり現実世界と変わらない格好であった。右耳に青いイヤリングをしている事も含めて。
「おお!サイトくんか!ん?でもどっちの名前で呼べばいいんだろ。」
「どっちでも構いませんよ。」
「じゃあ、いつも通りサイトくんって呼ぶね!」
「そうだ、早速きみのガンプラみせてよ!」
「は、はい。分かりました。」
オノサカは少しためらいながらも、シイナに格納庫への行き方を説明しながら愛機の下へ向かう。シイナは見慣れない世界をキョロキョロしながらオノサカの後をついて行く。そうこうしていると、光の先に彼女が見慣れた白い機体が立っていた。
「………スノー………ホワイト…………!!」
彼女がGPD時代から乗る愛機。ジャスティススノーホワイト。インフィニットジャスティスガンダムをベースにした白銀に輝く雪の機体。背にある2本の鋭いブレードが長く伸びている。実物大で見るとかなり大きい。
「これが、先生の機体。とても……綺麗だ…………。」
オノサカはその機体をまじまじと下から覗く。気を抜けば本当に白い世界に引き込まれそうだった。
「そういう、君の機体もすごいね。」
「えっと、これは…………。」
「細かい話はあとでいいよ。君があのグフの持ち主だったんだ。ガンプラ、好きなんだね。それを見た時すぐに分かったよ。」
「ありがとうございます…………。」
オノサカは担任の先生に自分の趣味を見られたようですごく恥ずかしかったが同時に面と合わせて褒められたのも恥ずかしかったがやはりそう言われると嬉しい。
「それじゃ、ひとつやりますか。」
「え?何をですか?」
「決まってるでしょ。ガンプラバトル。」
「あ、いま『先生、マジで言ってるんですか?』って顔したね?もう、わたしこう見えて強いんだよ?」
シイナはそういうと不慣れながらメニュー画面を開きフリーファイトモードに変更しオノサカに対戦を申し込んだ。
「どうする、オノサカくん?」
「先生だからって手は抜きませんよ?」
「そうこなくっちゃ!」
オノサカは対戦を了承しグフのコックピットへと入る。シイナもまたスノーホワイトに乗り込む。
「オノサカ、グフ・ヴァーテクトカスタム行きますッ!!」
「シイナ、スノーホワイト!出ますッ!!」
ステージは草原。灰色の機体と雪のような白い機体が力強く格納庫から射出された。
「ここがGBNの世界…………。新世界…………。」
GPD時代よりさらにリアルな彩色と空間。リアルとの差はさほど無いようにさえ感じる。シイナはグリップを強く握りグフを探す。
「基本的操作はGPDと変わらないみたい。これならいけるッ…………!!」
スノーホワイトはツインアイを光らせ上空から急降下し低高度を保ちながら高速で移動しながら索敵する。
「速いっ!いくらこっちの反応がレーダーで感知されないからってこれじゃあ……!!」
「見つけたよ…………!!」
「………………!!?」
突如目の前に現れた白銀の機体は手馴れた動作で腰のビームサーベルでグフを攻撃する。オノサカは咄嗟に取り回しの良いビームサーベルを腰からだしギリギリで攻撃を受ける。開幕からかなり速い展開だ。スピードと接近戦には自信があるようだ。
「くっ…………!!」
「わたしも師匠からは教え子には絶対手を抜くなって言われててね!」
スノーホワイトはさらに素早く切り返す。昨日対戦した白と赤黒い機体、ガンダムリパルドも早かったがそれを上回るスピードだ。
「なんのォッ!!」
グフもモノアイを鈍く光らせスノーホワイトの攻撃にアジャスト。昨夜からリパルドの攻撃を脳内でずっとイメージしていたおかげだからだろうか、身体が勝手に反応していた。
「次はこっちの番ですよッ……!!」
オノサカは先の攻撃をうまく跳ね返すと次は自ら仕掛ける。シイナは攻撃に備え再びビームサーベルを構える。
ビームサーベルを2本構えたグフは勢いよく突進してくる。対してスノーホワイトはその短調な攻撃を簡単に跳ね返す。
「どうしたの?君の実力はそんなもの?」
「いいえ、まだまだ…………!!」
押し返される空中の中でグフは脚部に取り付けられたバーニアを上手く吹かし衝撃を和らげると共にヒートロッドを敵の持つビームサーベル目掛けて投げつける。
「きゃっ!」
ヒートロッドによる電流によりスノーホワイト一瞬力が抜けは片手のビーサーベルを落としてしまった。それだけではない。グフは怒涛の連続攻撃。この距離は自分の物だと言わんばかりに踏み込んでくる。
───斬。
グフは一瞬の隙を突き踏み込んだ勢いと共にサーベルをしならせスノーホワイトのビームサーベルを構えた逆の腕を斬り落とした。
「よしっ、うまくいった!」
「今のって、もしかして…………。」
シイナは今の動きに見覚えがあった。力強い踏み込みによる一刀両断。知っている。技の使い手と機体が頭によぎった。
「面白いね…………。でも、まだまだ踏み込みが浅いんじゃないかしらッ?」
スノーホワイトはバックパックのブレードを片腕で取り出すとバーニアを一気に吹かせて距離を詰め寄る。
「そんな真っ正面から突撃しても!!」
グフはヒートロッドで敵の直線的な動きを捉えようとする。
「……………………ッッ!!」
シイナの琥珀色の瞳の瞳孔が開きイヤリングも蒼く光る。ヒートロッドの出先を一瞬で捉えて躱す。神業である。
「嘘だッ!読まれているッ!?」
スノーホワイトはさらにブレードを構え接近する。
「こんなに近づいて怖くないのか……?」
「怖くないよ。だってここは私の領域だから!!」
グフは咄嗟にビームサーベルを振り下ろしたがスノーホワイトにひらりと華麗に避けられブレードをその遠心力と共に叩き込まれた。この速さの前にアタマで考える時間などなかった。
──battle end──
Winner.Sina
「うーん、ちょっとやり過ぎちゃったかな…………。大丈夫?サイトくん?」
「は、はい、大丈夫です。先生、お強いんですね!今の動き、普通じゃなかったです!!」
オノサカは眼を輝かせながらそう言った。
「ありがとう。私でよかったらいつでも相手してあげるよ。」
「それでは、僕そろそろ下校しないといけないので…………。」
「あ、そっか!気をつけて帰るんだよ〜!」
オノサカはそう言ってシイナに別れを告げ一足先にログアウトする。
「先生、強いんだな。それにあの動き僕の知っている動きだった。」
数年前、街の家電屋さんのテレビの前で見たガンプラバトル。赤い機体の反応と鋭い一撃、今でもあの衝撃は忘れられない。その後、その機体とデューラーの事を調べたがなんの手がかりもなかった。サイトが見た試合は録画も残っておらず頭の中にある記憶だけ。しかし今日、思わぬ形で手がかりを得た気がする。サイトは珍しく明日学校へ行くのが楽しみになった。
一方シイナは、スノーホワイトの手のひらの上で独り、空を見上げる。
「──フウトさん、笑わないで下さいね。わたし先生になったんです。」
「………あなたはいまどこにいますか?…………あなたもここにいるんですか…………?」
***
夕暮れ時、田舎の道の脇に墓地がある。入り口の前には使い込まれた赤と黒のバイクが止まっている。
そして、そんな田舎の墓地の前に金髪の男性とスキンヘッドの男性。
「もしかして、あれ、彼なんじゃない?」
「いつ見ても憎たらしい面構えだぜ。」
男性2人は墓地の奥にいる、少々老顔の男をみる。
「探したぜェ……ったくよォ…………。」
「なぁ、フウト…………?」
(続く)