ガンダムビルドデューラーズ 清掃員外伝   作:地底辺人

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第二話「継承」

 イヌハラ・フウト。その男は元プロデューラーであった。だがほとんど世に名を残す事もなく人知れず引退し街の清掃員として数年前まで過ごしていた。

 

 しかし、1人の少年との出逢いが彼の道を変えた。

 

 彼もまた、太陽に導かれた1人なのだ。

 

 雪の記憶。

 

 義兄との確執。

 

 己の弱さ。

 

 幾度と彼の道に壁が聳え立った。その度に苦悩し、転んではそれでもと立ち上がり。ひたすらに続けた末に自分にしかない能力を磨き上げた。

 

 そして、彼は第14回GPD全国選手権で見事に優勝し、念願であった世界大会にも出場した。

 

 その後、彼はまたふらりと姿を消した。噂では世界中を旅していると言われていたが、果てしなく続く彼の道の先を知るものはほとんどいない。いまどこで、彼が、何をしているのか。いつの日か、彼の存在そのものを世間は忘れていった。

 

「──というのがここまでの話。」

 

「やっと見つけたぜ……。ここが旅の果てか?フウト………?」

 

「…………じゃあ、行こうか…………。」

 

 そう言って、スキンヘッドの大柄な男と銀のケースをもった金髪のすらりとした男が夕暮れの墓地に独り佇む人影にゆっくりと近寄る。

 

「…………………………。」

 

 男は背後に目を閉じていた。まるで祈るように、念じるように。しかし2人は彼に近づく事を決してやめない。男は背後に迫る影を察知し口を開いた。

 

「…………ハヤシにエクか……………。こんなところまで来るなんて随分な物好きだな。」

 

「まあ、物好きはお互い様だろう?」

 

「世界の果てまで君を追いかけてきたってことさ。」

 

 大柄な男と金髪の男はニヤリとしてそう言う。

 

「テメーには色々と聞きたい事もあるけど今は一つだけ。」

 

「フウト、GBNに来い。」

 

「そこに君の、やるべき事がある。」

 

***

 

 イヌハラ・フウトは14回GPD全国選手権と世界大会の後、スペインからのプロオファーを断った。再びプロデューラーになる事はなく、世界中を旅しながらガンプラバトルの楽しさを教えを説いていた。

 

 旅の中で様々な出会い、別れ、再会、様々な巡り逢いを経験した。そして「繋がり」の尊さを改めて知った。

 

 フウトに会いに来た2人もまた彼と繋がりを持つ人物だ。

 

 大柄でスキンヘッドの男の名は「ハヤシ・コウタロウ」かつて、14回全国選手権などでフウトと幾度となく闘ってきた好敵手の1人だ。彼もまたここ何年か武者修行の旅に出ており、旅の途中のフウトと再会しガンプラバトルでぶつかり合った。

 

 金髪ですらっとした男の方の名は「エク・レイア」フランス人の元プロデューラーで世界大会に出場する実力を持っている。フウトとは世界大会の準決勝でぶつかり合い互いをリスペクトし会う仲となった。また、数年前に武者修行中のハヤシと偶然出逢い意気投合しよく一緒に行動している。

 

 そんな繋がり合う旅の果ては────

 

「悪いな、2人とも。せっかくなんだけどよ、今の俺はGBNにはいけねえよ。」

 

 フウトは右腰のホルダーからボロボロになったガンプラを取り出す。

 

「………逝っちまったんだ。…………相棒が………………。」

 

 彼の道、皇道を共に歩んできた愛機「ジャスティスカイザー」あの凛々しく、ひたすらに強さを求め続けた赤黒の皇帝の姿は見るに耐えないほどに無惨であった。GPDは機体の受けたダメージが実際のガンプラにも影響されるシステムだ。ジャスティスカイザーは何年ものの激しいGPDのダメージの蓄積の末、遂に戦闘不能と化した。文字通り動くこともない。修復不可能。

 

 クタクタの関節、折れたアンテナ、禿げた塗装、刃こぼれしたブレード、割れたプラ板、もう灯ることのない眼。

 

 学生時代から姿を変えながらも彼といつも一緒たった。苦楽を共に乗り越え掴み取った勝利。どんな強敵が相手でも薙ぎ倒してきた。彼らの共有する無数の記憶。

 

 新しく、同じようなカスタムの機体を作る事はできるかもしれないが、それは同じようで全く同じものではない。特に自分の作った機体というものには愛着が沸くものだ。似たものではなくコイツでなければならない。デューラーなら、ガンプラを愛するものならそう思うのも必然だ。

 

 共に闘い、傷つき、再起し本当の強さを求め続けた日々。奇跡も運命も全て、一緒に。これからもずっと共に歩んでいけるはずだと思っていた。

 

 終わりのないものはない。それでも別れを告げる事はフウトに取って悲しいという感情だけでは表しきれない。しかし、彼なりの覚悟を決めるために旅の終着点として幼き日に亡くした両親の墓地を選び今に至る。

 

「……フウト、テメーの道はもう終わりか?」

 

 コウタロウがタバコに火を付け白い煙をフーッと吐きながら言う。フウトは人様の墓地の前でタバコを吹かすとは罰当たりな奴だと思ったが、かつて墓にワインをかけた男がいた事を思い出した。

 

「まさか、相棒をここに埋めようってのかい?」

 

 エクは髪を巻きながらそう言い放つとフウトは満更でもない反応をする。

 

「おいおい。マジかよ、お前も大概な罰当たりだな。」

 

「うるせえな、これでも足りねえアタマ使って考えたんだよ!ここに埋めればコイツもきっと安らかに…………。」

 

「馬鹿か、君は。」

 

「阿保だな、阿保。」

 

「そうか、アホか。」

 

「笑うんじゃねえ!こっちは真剣なんだよ!!」

 

 コウタロウとエクはケラケラ笑いながら揶揄う。フウトはそんな2人をよそに土に埋める穴を掘ろうとする。

 

「おい、フウト。まあ早まるな。相棒はまた蘇るかもしれねえぜ?」

 

「え?」

 

 フウトの手が一瞬で止まる。エクは右手に持っていた銀のアタッシュケースを差し出す。

 

「言うのを忘れていたね。私達も今日はお使いで来ているんだ。」

 

「依頼主はお前の今の状況なんとなく察してたみたいだよ。まったく。まずはコイツを受け取れ。俺たちが言葉で話すよりお前なら見れば分かる。」

 

「……1週間後、待ってる。」

 

「お、おい待てよ。急にそんなこと言われても……。」

 

 2人の男はフウトを置いてその場を後にする。フウトはまんまと2人に、そしてその『依頼主』とやらにもまんまとハメられたとバツを悪そうにする。乗せられているのは分かっているが一旦埋めるのをやめてアタッシュケースの中身を開く。

 

「こ、これは………………!!」

 

「ガンダムソフィエルッ…………!!?」

 

 フウトは思いもよらないモノがケースから現れ唖然とする。

 

 『──蘇るかもしれない。』

 

 この一言があったがために箱の中には修理出来るパーツや、それに付随する工具だとばかり思っていたがその予想の遥か先だった。そこにあったのは、兄 イヌハラ・ユウキが操る『ガンダムソフィエル』の頭部とボディだった。かつて無敗伝説を作ったユウキとガンダムソフィエル。フウトの中でこの機体は紛れもなく最強を意味する。

 

 サーフェイサーが吹かれ綺麗に処理されている状態。同時にこの丁寧で綺麗に処理された機体を見て確信した。依頼主は兄のユウキであると。兄と最後に会った時はGBNのテスターをしていると言っていたがそれ以来もう何年も会っていない。それなのになぜこれが今の自分に、しかも人を使ってまで渡したのか。そう思いながらケースの中をさらに探る。

 

 隈なく探した結果、出てきた物は全部で『ソフィエルのボディ』『ダイバーギア』『メッセージ付きの紙きれ』の全部で3つだった。

 

 『俺の魂と新世界をふうちゃんに託す。』

 

 間違いなく兄の字で紙切れにはそう書いてあったがそれ以上は何も無かった。これだけでは何のことか全くわからない。それでも、ここまでして兄が自分にこの機体を託すという事は何かワケがあるのだろう。

 

「だからって、今の俺には関係ねえよ………。」

 

「なぁ、カイザー。俺はどうすりゃいい?」

 

 フウトはボロボロの相棒を握りしめ強く目を閉じることしか出来なかった。

 

***

 

 茜色の景色もすっかりと暗くなった。フウトは墓に背を向けたまま銀のケースを見つめる。

 

 確かにガンプラバトルは好きだ。出来るならずっとずっと続けて行きたい。しかし、フウトの中でジャスティスカイザーという相棒がいないガンプラバトルの世界はありえないのだ。両親を早くに失った彼にとって、その存在は相棒以上の家族と同等の存在なのだ。だからこそ、肉親と同じ墓に埋めようと思った。そして、彼の旅は終わる。ガンプラに関わる事もなく、以前の生活に戻るだけだ。

 

「カイザー、お前となら何だって出来るって思ってるんだぜ。だからさ、余計にお前が逝っちまったなんてよ、信じられなくてよ…………。」

 

「思えば、色んな事があったよな。」

 

「兄さん達と全国大会を目指して日々鍛錬した事。」

 

「三年生の時はサワラとギリギリの闘いをして。」

 

「プロになってからは負ける事ばっかで挫けそうになったけどだったけどお前と一緒なら闘える気がした。まだやれるって。」

 

「その後、俺もお前ももうダメだってなったけど、またあの子達と闘うために俺たちは再出発した。」

 

「アララギ先生やシイナと一緒にもう一度鍛え直して、どんなヤツにも諦めず立ち向かっていった。」

 

「なぁ、俺たちはいつもそうだったじゃねえか。何度転けても立ち上がる。そうやって這い上がって。」

 

「奇跡も運命も全部、超えてきただろ?」

 

「俺はやっぱり、お前がいないと……。お前がいたから楽しかったんだぜ…………?」

 

 フウトとカイザーの絆は紛れもないものだった。その繋がりは何よりも固く強い。ただ祈るようにカイザーに自分の額を当てる。

 

 そんな彼を遠くから見つめ声をかける男がいた。

 

 長く綺麗に伸びた青い髪とスラッと伸びた背。

 

「──おいおい、こんなところで野宿かい?風邪引くよ。」

 

「……………兄さん…………………………?」

 

「やぁ、ふうちゃん。久しぶり。泣き虫は治ったんじゃないのかい?」

 

 青い髪を夜風に靡かせながら現れた男。イヌハラ・ユウキ。フウトの兄でハヤシとエクに依頼した本人だ。

 

「なんでここに………………?」

 

「まあ、俺は兄さんだからね。」

 

 ユウキは笑ってそう言って見せた。やはりこの人には一生敵わない。敵うはずもない。

 

「ふうちゃん。俺とガンプラバトルしよう。」

 

「え、でも、ここには筐体もないし機体も。」

 

「まあまあ。ちょっと付いてきて。」

 

 ユウキはそう言って墓地の前に止めていたバイクにフウトを後ろに乗せただ走り出す。

 

 ここは元々、フウトの出生地でありユウキは無縁の地であるがかなり走り慣れている。おそらくフウトの知らぬところで彼の両親の墓参りに来ていたのだろう。

 

 あの時、あの晩秋の日に再会したことも、今日再会した事も偶然のようで偶然ではない。強いて言うなら『計画された偶然』というべきだろうか。

 

 そんな事を考えているとユウキは古いゲームセンターの前にバイクを止めた。

 

 「ささ、入って、入って。」

 

 ユウキに勧められて店の中に入る。そこには店員はおろか誰一人としていない。店内は薄暗く気味が悪い。しかしユウキは動ずる事なく奥の方へと歩いていく。フウトはその後ろをただついていく。

 

 そして、奥の部屋に着いた時。彼らにとって馴染み深い。黒い筐体が置かれていた。

 

「..........これって.............GPD………………?」

 

「田舎の方だとまだ回収されてないものとかもあってね。システムもちゃんと生きてる。」

 

「さぁ、ふうちゃん。ここが俺たちの墓場だ。」

 

「カイザーを出すんだ。」

 

 ユウキはそう言ってボロボロのガンダムソフィエルを取り出し筐体の上に出した。

 

 青と白の初代ガンダムソフィエルだ。かつて栄華を極めた機体も今や見る影もない。武器はなく、アンテナは折れ、太陽炉は焦付き、全身は穴だらけ。今のカイザーの状態とほとんど変わらない。

 

 まったく、そんな状態の機体で負荷の大きいガンプラバトルであるGPDを行えば本当に死んでしまう。無茶苦茶だ。無茶苦茶ではあるが墓穴に埋めるよりはマシだ。

 

 互いに高め合った兄弟機が新世界の切符を掴む事なく旧世界で気高く死ぬ。終わりと始まりは全て同じところにある。それならば。

 

 相棒とともにここで死ぬ。

 

 それがデューラーとして生きた漢の旅の終着点。

 

 後先なんてどうでも良いのだ。受け取ったソフィエルの事やGBNのことなんてどうでも良い。

 

 今はただ、この瞬間だけを。

 

 コイツ(相棒)と最後まで光り輝きたい。

 

「兄さん、最期に付き合ってくれる事、感謝するよ。」

 

「それは俺の方もさ。ありがとう。」

 

 2人は筐体に機体をセットしカードキーを差す。カードキーの読み込んだ互いの情報には、GPD時代の輝かしい成績ばかり。だがそれは、全て、今この瞬間、終焉を迎える。

 

「ジャスティスカイザー、イヌハラ・フウト、行くぞッ!!」

 

「ガンダムソフィエル、イヌハラ・ユウキ、行くよッ!!」

 

 はじまりの2機がボロボロになりながら出撃する。ステージは地上。青空の下、限界など遠に越えた2機が降り立つ。

 

「くっ…………。」

 

「おっと…………。」

 

 しかし、うまく着地すら出来ない。2機は膝からそのまま転げ落ちる。

 

「大丈夫かい、ふうちゃん?」

 

「ああ、兄さん、ありがとう。」

 

 赤と青の機体はお互いの体にもたれながら何とか立ち上がる。関節の鈍い駆動音が寂しく鳴り響く。

 

 互いに武器もなく、ビームサーベルを展開しようとしてもエネルギー不足ですぐに切れる。操縦桿では常に警告のマークと赤色に彩られたディスプレイ。

 

 それでも。2人の兄弟は。闘う。

 

 彼らはダイバーではない。デューラーなのだ。

 

 そして、今日、デューラーとして死ぬ。

 

 相棒と共に最後の闘技場で

 

 2人を繋げ続けた

 

 この場所で

 

 共に死ぬ。

 

「カイザー…………。お前………………。」

 

 ジャスティスカイザーの機体が黄金色に輝き出す。優しく力強い輝き。最後の最期まで気高く輝き続ける様はまさに皇帝。命の灯火を最期まで燃やしツインアイを煌めかせる。

 

「分かった。俺たちの道(皇道)を駆け抜けるぞッッ……!!」

 

「相変わらず無茶な事するね。ならこっちもやるしかないよね?ソフィエル。」

 

「修羅ンザムッッ……………………!!!」

 

 焼き焦げた太陽炉から桜色の粒子が大量に放出される。彼が夢を見続けた春の夜の夢の果て。彼は力を得る事で闘いの修羅となりこの旧世界で醒めることのない栄華を相棒と共に見続けた。その儚く哀しい力は生命の最後を振り絞る様と相まってさらに哀愁漂う。それでも、2人と2体は闘う。彼らの生きた証を最後に残すために。

 

「いくぜ!カイザーッ!!」

 

「ソフィエルッ!!これがラグナロクだよッ!!」

 

 黄金色を見に纏う皇帝と桜舞い散る修羅

 

 互いに、そのシステムを機体が制御しきれずボロボロの装甲は剥がれ衝撃に耐えきれない。

 

 それでも、前に、前へ。

 

 共に過ごしてきたこの道が、遥か未来に残るように。

 

 いつか振り返ったその道が、この今が輝くように。

 

 この場所で、未来に向けて闘い続ける。

 

「……うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉッッッ………………!!」

 

「……いっけえぇぇぇぇぇぇぇッッッ………………!!」

 

 拳を懸命に振りかぶる2機。互いの空間が重なり幻想的な青緑や紫といった色があたりを包む。2人はその景色に意識を呑まれそうになりながらも拳を貫く。

 

 お互いの命を尽くした渾身の拳は、互いの頭を吹き飛ばし空を切った。2つの拳は綺麗に交差した。

 

 赤と青の機体は拳で空を切りそのまま微動だにする事もなくただそこに立ち尽くしていた。跳ねた泥があちこちにつき機体からは蒸気が止まらずそれでも役目を終え、ただそこに立ち尽くしていた。

 

──battle end──

 

 彼らの脳裏に焼きついた忘れる事ない深く刻まれた無数の闘いの記憶。そして最期は立派に役目を果たした。彼らの存在した証明を誰よりも強く深く刻みつけた。

 

「ありがとう。カイザー。」

 

「ソフィエル、ありがとう。」

 

 かつて最強と謳われた2人は互いの機体に別れを告げた。しかし後悔はない。フウトとカイザーの別れは重く哀しいものだがそれは新たな世界への旅立ちとなる。ユウキとソフィエルの別れもまたユウキの新たな旅立ちとなるために必要な事なのだ。

 

 かろうじて形に残っているボロボロの吹き飛んだカイザーの頭をフウトが拾う。同様にユウキもソフィエルの頭を拾いそれをフウトの右手のひらに置いた。

 

「ふうちゃん、カイザーの頭を。」

 

「え?」

 

「交換だ。カイザーは俺がなんとか治すよ。」

 

「だから、ふうちゃんはソフィエルで向こうの世界で暴れて欲しい。」

 

「相変わらず、無茶苦茶な人だよ。兄さんは。」

 

「でも、カイザーのためにも俺はやるよ。」

 

「あいつと俺の道はこれからも続いていくから。」

 

 そう言って、フウトは左手でカイザーとソフィエルの頭部を一緒に軽く握った後、ユウキの右手にそっと置いた。

 

「…………ふうちゃん、ありがとう。カイザーは確かに受け取ったよ。」

 

 ユウキは右手のひらをギュッと握り、自分の理由を深く聴かずにソフィエルを受け取ってくれた事に深く感謝した。

 

「俺の愛した世界をふうちゃんに託したよ。」

 

「俺が愛した機体を兄さんに託した。」

 

 2人はそう言って固く握手をしてニコッと笑い合った。

 

「俺たちはきっと生まれ変われる。」

 

「そうだね。きっと僕たちはまた逢える。」

 

「繋がり続けるその先で、必ず…………。」

 

***

 

「…………よお。フウト、約束通り来たみたいだな。」

 

「どれどれ、機体の完成度を見せてもらおうかな?」

 

 ハヤシとエクが待つ場所。それはリアルの空間ではなくGBNの空間の事であった。フウトがログインした時、自動的に彼らのところへ連れてこられた。おそらくユウキがそうなるように設定しておいたのだろう。彼らに基本操作を教えられながら格納庫へと向かう。

 

 

【挿絵表示】

 

 

「おぉ……………………………………。」

 

「コイツは想像以上の出来じゃねえかよ…………。」

 

 そこには真新しい蒼と白のボディをもったガンダムソフィエルがいた。バックパックには天使にふさわしいとも言える青緑と紫のグラデーションがかかった羽根も付いていた。

 

「──コイツは皇帝の意思を継ぐ機体。」

 

「蒼き皇帝、ソフィエルカイザーだ──」

 

「吹っ切れたみたいだね。フウト。」

 

「何はともあれよかったぜこれからは一緒に行動するチームだからな。俺たち。」

 

「え?お前らと?」

 

「ああ、言ってなかったっけな。まあ、仕事の内容は後で言うとして俺らはチームで動く事になるんだ。」

 

「そういうこと、私達もユウキさんに声をかけられていてね。」

 

 ハヤシとエクは顔を見合わせながら話す。だがフウトはこの世界に来て1つだけ不可解なことがあった。

 

「なあ、エク。お前なんで女なんだ?」

 

「えっ、なんかダメだったかしら?」

 

 真顔でそう答えた。真顔だった。本気である。確かにGBNという世界では自身の分身であるアバターを自由に作れると聞いていたが、まさか身近な人間が性別に囚われず自由にしているとは思いもしなかった。

 

『あそこはとても自由な世界なんだ。だからこそ、好きなんだよ。俺は。」

 

 兄がそう言っていた事を思い出す。

 

 目の前には超絶スタイルのいい金髪美人とサングラスと帽子を被った黒づくめの大柄な男がいてもうこれだけで多様性の塊だ。

 

「…………兄さん、俺やるよ…………。」

 

「だから、見ててくれ。お前もさ…………。」

 

 目の前の仲間とソフィエルカイザーを見上げながらフウトはボソッとそう言った。

 

「さてと、フウト、そろそろソイツを動かしたくねえか?」

 

「相手になるわよ?」

 

「いきなりお前ら2人が相手かよ。全く、最高だな。」

 

 3人は顔を見合わせニヤリと笑うと各々の機体に乗り込む。フウトはソフィエルに乗り込むと兄が見ていた景色と同じものを見れているようで嬉しくなった。この機体を継承する意味それは誰よりも分かっているつもりだ。ソフィエルはフウトにとって最強を意味する記号なのだから。そして彼はそれに恥じない闘いをしなければならない。

 

───この新世界で。

 

「……ソフィエルとカイザーの魂2つを持つ機体。これが門出だ…………!!」

 

「ソフィエルカイザー、フウト出るぞッッ……!!」

 

「シナンジュ弐式、コッティー発進ッ!!」

 

「エク、ゲニエルゼータ、出るわよッ!!」

 

 3機の機体がGBNの空に現れる。フウトにとってはじめてのGBN。新世界の扉をついに開いたのだ。圧倒的リアリティに本当に飛んでいるようにさえ感じて少しおぼつかない。

 

「フウト、操作はGPDと同じだ!」

 

「模擬戦だからって、手は抜かないからねッ!」

 

「2人とも容赦ねえな、オイ…………。」

 

 コッティーとエクの機体がソフィエルに連携して向かってくる。コッティーのシナンジュ弐式はシナンジュをベースに二丁のビームライフル、ファンネル、そして刀を装備しており攻撃のバリエーションが豊富なオールラウンダータイプである。また全体的に体格が他の機体よりも大きくパワーとスピードはかなり高い。彼が旅の中で改修を重ねてきた相棒だ。

 

 

【挿絵表示】

 

 

 対してエクのゲニエルゼータは頭部にZZのハイメガキャノンが取り付けられており、中長距離用のライフルを二丁ずつ装備しているガンナータイプだ。また脚部はガンダムハルートのものが使われており機動力も高められている。胴体部分にはゴッドガンダムのものが使われておりいざという時には爆発的な火力も持ち合わせる厄介な機体だ。ちなみに「ゲニエル」とは「天才的」という意味があり彼、否彼女の「華麗なる闘い」というモットーからつけられた名前である。

 

 

【挿絵表示】

 

 

「そこッ…………!!」

 

「当たるかよッッ!!」

 

 ゲニエルゼータが中距離用のライフルでソフィエルを狙い撃つ。しかしそんな単調な攻撃にはびくともしない。だがその間、シナンジュが刀を構え攻撃のタイミングを伺っている。

 

「数的不利はやっぱキツイな…………。」

 

「気ィ抜いてんじゃねえぞ……!!」

 

───斬

 

 コッティーはフウトが一瞬エクの射撃に気を取られた隙を見逃さなかった。だがその瞬間にフウトの眼が光る。

 

「……………………!!?」

 

「腕も眼も錆びついちゃいねえみてえじゃねえかよ?フウトよォ!!」

 

「テメーの行儀の悪さも相変わらずだよ!」

 

 2人は好敵手に再び巡り会えたことを嬉しそうに掛け合う。

 

 フウトの持つ超反応。彼の並外れた動体視力が反応しシナンジュの攻撃をなんとか受け止めた。そのままコッティーは切り返しながら2本の刀で素早く攻撃を行い反撃の隙を与えない。フウトはビームサーベルで何とか応戦するのがやっとだ。

 

「はーい、アナタの相手は1人じゃないわよ〜!」

 

 2機よりも高い座標に位置するゲニエルゼータは頭部にエネルギーを溜め今にも放出しようとしている。シナンジュは素早く後ろに下がりファンネルを展開してソフィエルの動きを制限する。どうやらコッティーがエネルギーを蓄える時間を稼いでいたようだ。さらに時間稼ぎが終われば的確なファンネルによる追撃。かなり手練れのコンビネーションだ。全く隙がない。

 

「今だ!打て!エク!!」

 

「言われなくてもやるっつーの!」

 

「華麗に行くわよ!!ハイメガ!キャノォォォォンッッ!!!!」

 

「やべえ!避けきれねえッッ………!!」

 

 バックパックを展開させ日輪を背に打ったハイメガキャノンと呼ばれる大きな粒子の塊はソフィエル目掛けて放たれ爆発音が鳴り響く。

 

「やった………………!?」

 

「気をつけろ。相手はフウトだ。こんな簡単には………。」

 

「………よくわかってんじゃねえか。」

 

「──ここは俺の、皇帝の領域だぜ?」

 

 シナンジュとゲニエルゼータの目の前には桜色の粒子を焦げ付いた太陽炉から放ち幻想的な羽根を開き佇むソフィエルの姿があった。

 

 美しいと一瞬気を取られた時点で勝負はついていた。目にも止まらない速さでソフィエルはビームサーベルを構えたまま2体の間を通過した。

 

「へっ…………それが蒼き皇帝かよ。」

 

「…………お兄さんそっくりの速さと弟持ち前の力強さが上手く融合しているわ。」

 

「──俺達、皇帝の領域は絶対不可侵だ。」

 

 ソフィエルは天高く舞い上がり、太陽と重なるようにその美しい羽根を開いた。天使と皇帝の想いを繋ぐ翼でどこまでも無限に羽ばたいた。

 

***

 

 フウトは彼らとの模擬戦を終えるとGBNからログアウトする。なんとか初陣を終えてホッとする中、1通のメールが届く。

 

 『勇気高校にて待つ。

 

  アララギ・ユウリ』

 

「……………先生…………………………?」

 

 彼は新たな道の一歩を踏み出した。

 

 季節は桜が散り深緑の季節。校庭の葉が風に揺られ肌の白い女性の下をひらひらと落ちた。

 

(続く)

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