青い空。初夏に相応しい綺麗な青空。まだ乾いた風が吹き抜け気持ちのいい季節だ。
「いい天気だなぁ。」
薄緑の作業着を着た男性、イヌハラ・フウトは勇気高校の屋上で青空をただ眺める。彼は高校の清掃の職務についており朝の清掃を終え一息ついていた。
ぼんやりと空を眺めながら、彼はGBN、電子で構築された仮想空間の中で新しい愛機「ソフィエルカイザー」と共に空を駆ける事をふと思う。現実世界とまるで遜色のない空を自由自在に飛び回る。あの空とこの空に何の違いがあるのだろうか、今なら空に手を翳せば届くような気さえした。
かつて兄が操った機体に乗り、継承の翼を背に今度は自分が、兄の代わりとしてあの世界で生きる。まだはっきりとした意味は分からない。大した意味なんて別に必要でもないのかもしれない。理屈なんかよりもアツいものが確かにあるとつい最近感じたからだ。
「……へへ………スプリッターの黒いグフに、あの子の機体フレームが仕込まれた機体か。」
「まだまだすげえ奴はたくさんいるんだろ……?」
フウトは腰のホルダーに入れてあるソフィエルカイザーを空に掲げ太陽の光に反射させる。
「なあ?カイザー、お前も一緒に翔んでくれるよな。」
「──屋上でサボって独り言かい?」
フレグランスのいい匂いが漂った。フウトが横眼で目視すると見慣れた背の高い人影がいた。
「サボりじゃねーよ。あとお前どっから入った?部外者だろうが。」
「アララギさんにはちゃんと許可は取ってある。」
少し癖毛が混じった金髪を指でクルクルしながらそう話しかけてきたのは同じGBN探索班のエク・レイア。
「はいはい。アララギ先生には『香水臭くて校内をもう一度清掃し直すことになりました。』って伝えとくよ。」
「相変わらず酷い男だな君は。」
「そういうお前もだろ?パチンコ屋に行かねえでこんな朝から直接会いに来るって事はなんか用事があるんだろ?」
「そういうところだけは勘が良くて助かる。それと整理券はコウタロウの連れに並んでもらっているから無論、大丈夫だ。」
エクはキリッとした表情で自分の端末でいくつかの動画を再生し始める。ギャンブルに魂を惹かれた男を前に少々呆れながらフウトは動画を見る。
『── 流星一閃ッッッッ!!』
『──ッッッッ!!?』
端末にはつい先日フウトが遭遇したダイバー ヨネとその愛機ガンダムリパルドとの戦闘映像が再生されていた。
「最近噂になっているガンダムリパルドを倒したんだって?しかもソフィエルカイザーをこんなに表沙汰にしちゃって。全く目を離した隙に派手にやってくれたね。」
「おいおい、待てよ。何だこの動画。どこのどいつが撮りやがった。盗撮だぜ!モラルはどうなってんた!!」
「派手にやり合ってたから通りすがりのダイバーが興味半分で撮ったんだろう。こういったGBNでの出来事を映像に残して専用の動画アップロードサイトに投稿して知名度を上げようとするヤツもいる。今後は気をつけるように…………」
「分かった、分かった。気をつけ…………。」
フウトは面倒くさそうに空返事で済まそうとしていたがエクは突然ニヤリと口角を上げた。
「気をつけろと言おうと思ったがお前ほどの強者にそんな事言うだけ無駄か。」
「自由に翔べよ。フウト・イヌハラ」
「へっ、言われなくても。お前の方こそ酒と賭博ばっかやってねえでたまには俺に付き合え。」
「ニホンのギャンブルは楽しくてね。まあまた今度にでも。」
フウトとエクレア。かつてGPD世界大会で一戦を交え現在は戦友としてGBNで活動している。奇妙な縁だが繋がりあうこの世界においてそれは必然だったのかもしれない。
***
「──おい!サイト!みろよ!!俺のG-TUBE!前に隠れて撮っておいた動画がバズってさ!!」
「………ほんとだ。この前の…………!!」
時を同じくして教室ではサイトとアキタケが楽しげに会話をしていた。
「へへ……それでさ、今度はこのイベントに潜り込んでみようと思うんだ!」
「え!?これって…………!!?」
『【Sランク以上限定イベント】混戦!バトルロイヤルイベント!!』
アキタケが見せたのは所謂上位ランカー向けの高難易度イベントミッション。何回かのタームに分けて行われるバトルロイヤル制のイベントで時間制限アリで最も時間内で撃墜数が多いかつ生存しているダイバーが勝利するというイベントだ。
「でも、僕のランクはまだBランク…………。残念だけど参加条件には到底及ばないよ…………。」
「ところがだぜ!サイト!!チャンプが参加するタームは抽選チケットに当選すれば試合を観戦させてくれるんだよ!!」
「そうなの!!?よし!申し込もう!!申し込むぞォッ!!」
サイトとアキタケはウキウキで申し込み用の専用ページにアクセスし手続きを済ませた。
「──チャンプの試合、見れるといいなあ…………。」
チャンプ。それはGBN内で最強と謳われるものに授けられる称号。GBNをするものなら誰もが認知しており彼に憧れゲームをプレイする者も多い。新世界の王、それがチャンプなのだ。サイトもまたチャンプを敬愛し尊敬するダイバーの一人。もし彼の闘いぶりを生で見られるとしたらと考えるとそれだけで胸が躍る。
また、今のサイトには闘う理由も出来た。
『──だから、今度は僕が勝つ。それだけ言いたかった。』
『は?このタイミングで何言ってんだ、お前みたいなヘボに負けるかよ。』
先日のリパルドとの交戦が、そしてあのガンダムソフィエルと瓜二つの謎の蒼い機体が、目を瞑れば鮮明に思い出す。強きものとの出逢いがサイトに強くなりたいと願わせ、そして、いつの日か彼のまだ気づかぬ彼を呼び覚ますかもしれない。
***
『──ここは俺の領域だッッ!!』
蒼い機体が放つ強力なカウンター。並大抵の技量では出来ない極めて精度の高い"技" アキタケが世に放った動画を繰り返し見る人物がいた。
「…………かつて最強と呼ばれた機体。」
「その裏で無冠の皇帝あり………か…………。」
『──俺の弟は、強いよ。』
「君達も来たのかい……?ここへ。」
動画を再生していた男性はそう言うとゆっくりと立ち上がり歩き出した。
「どちらへいかれるんですか?」
「なに、少し散歩へ。」
男性はGBN上のシステムを駆使し白い仮面を付けると黒い装甲を被せたAGE2に乗り込んだ。
「最近、あの格好とあの機体を使われる事多いよな。ヒロト、お前どういう意図か分かるか?」
「……さあ。でもチャンプの事だ。何か理由があるんだろう。」
GBN内 某所
「確か、ここだったかな…………。」
仮面を被った男性は何やらラボのような場所に赴いていた。
「これはこれは、珍しいお客さんだね。」
「先生、ご無沙汰しております。今回は少しお願いがありまして。」
そう言うと、仮面の男はバトルロイヤルの概要画面を見せた。
「私に出ろとでもいうのかい?」
「もちろん、先生に出ていただければこちらとしても盛り上がりますが………。」
仮面の男は少し間を開けて口を再び開いた。
「イヌハラ・ユウキさんを代わりに出して頂けませんか?」
「………なるほどねえ。」
察しのいい白衣の男性はため息混じりにそう答えた。
「だけど、こちらとしてはソフィエルの存在そのものがシークレット扱い。本人はあまり気にしてないみたいで困るんだけどね。」
「そちらはそちらで事情がある事は承知しております。有観客ではありますが100人程度、ロビーでのライブ中継のアングルには一切ソフィエルは映さず、今回の映像データの転載の一切を禁じる。」
「…………これで、どうでしょうか…………?」
「………すごい徹底ぶりだねえ。そこまでして闘いたいのかい?」
「わがままである事は分かっていますが、あの映像を見てしまうと抑えきれなくて…………。」
「……君も相変わらず……だね。」
「…………強いよ彼らは。」
そういうと仮面の男にイヌハラ・ユウキのダイバーデータを送信した。
「…………ありがとうございます…………!!」
「…………いい席を、頼むよ。」
やりとりを終えると二人は言葉をそれ以上交わさず別れた。白衣の男性、アララギ・ユウリはポケットに手を突っ込み小さなラボの天井を眺める。
「…………楽しみだな…………………いつぶりかな君達の闘う姿を見るのは…………」
「…………にしてもあんな格好までしなきゃうろつけないし対戦相手も自由に選べないなんてやっぱりああいうのは窮屈なものだねえ。」
「…………でもまあ、彼が本当にガンプラとこの世界を愛している男で良かったよ。本当に。」
***
バトルロイヤルイベント当日
サイトとアキタケはGBNへログインするためにいつもの模型店に集合していた。
「まさか抽選100名に選ばれるなんて!!やったね!アキタケ!!」
「……ああ…………。そうだな。サイト…………。」
満面の笑みを浮かべるサイトとは反面当初乗り気だったアキタケは項垂れる。
「…………なんで…………動画データの転載は禁止なんだ…………。」
「なんだ!2人ともそのチケットを入手出来たなんてとんでもないラッキーボーイじゃないか!」
「店長!!」
奥の事務室の方から青い髪をした「店長」と言われるにはまだ若々しいいつもどおりの店長が現れた。だがひとつだけいつもとちがう点があった。
「あれ?店長、ダイバーギアとガンプラなんかもって今日は珍しくインするんですか?」
「はは、まあね。僕もそのイベントが気になってね。」
よく見るとどこかで見たことのある機体の形。普段いつも店長と接する機会は多いが、サイトは彼自身のガンプラを見たことは今日がはじめてだった。
「よし!今日はなんだかすごい事になりそうな気がする!!行こうアキタケ!!」
「お、おう……………………。」
『うおおおおおお!!!すげえ!!!!』
『みたかよ!いまの赤い機体!!なんつー軌道と太刀筋だ!!』
『おい!!あの赤い機体と互角にやり合ってる青いのもすげえぞ!!まるで全身が武器みたいだ!!』
既にチャンプ達の前のタームが開始されており盛り上がっていた。
「…………すごい、盛り上がりだ…………。」
「くぅ!こうなりゃ!とことん楽しむぜ!!しっかりとこの目に焼き付けてやる!!」
「その意気だ!アキタケ!こんなに凄いことはそうそうないよ!」
「……そういえば店長は…………?」
***
「なんだここーーーーー!?」
いつものようにガンダムソフィエルカイザーに乗りGBNへダイブしたフウトだったが、ダイバーした途端に格納庫に閉じ込められ『お時間になるまで暫くお待ち下さい』とメッセージが表示されて身動きがとれない。とはいえフウトにとってあまりに突然すぎる出来事のため頭がパニックになり様々なボタンや機能を開いては閉じる。そんな中、開かれた画面に異変を感じた。
ダイバーネーム :ユウキ
ランク:SSS
「ランク………………」
「SSSッッッッ!!?何でだ?俺のランクはまだDランク帯。まさか!ウイルス!!ウイルスなのか!!俺は今から粛清でもされんのかーー!!」
さらにあたふたするフウト。いつもは冷静な彼だが今回ばかりは本気だ。そんな彼の脳に今朝の些細な出来事が過ぎる。
『あ、ふうちゃん。今日はこっちのダイバーギア使って。こっちのデータで緊急強制ミッションを受けてもらいたいんだ。』
「…………………………………………。」
「分かりました。やりますよ。地獄の果てまでやりますよ。」
「どうせ勝つまで帰ってくるな系のやつだろ。先生はいつもそうさ。」
フウトが愚痴を云々と溢しているとちょうどよく格納庫のゲートに光が差し込み出撃出来る様になった。
「ガンダムソフィエルカイザー、行くぞ!!」
蒼帝は6枚の羽を力強く羽ばたかせ未知の戦場へと赴く。そこは無数に広がる宇宙空間。そしてどこからか聴こえる歓声。
「……一体ここは………………?」
フウトが当たりを見渡していると突然ビームライフルの鋭い粒子が降り掛かる。
「突然なんだ!?それにまた新しいのがくる!」
今度は別の方向から鋭い射撃。中距離から絶妙に放たれる一撃。撃った後にどこにいるのか分からなくするように徹底されたヒットアンドウェイ。どれもかなりの手練れだ。今までと相手のレベルが上がったことくらいは容易く分かる。
「こんな時にドラグーンでもあれば楽なんだけどな!」
フウトはそう呟きながらライフルを構え次の射撃に備え集中する。
「………………!!」
もう一度ビームライフルの粒子がソフィエルへと襲いかかる。しかしソフィエルはそれを紙一重で避け今度はかなりの早業で射線から相手の動きを予測し精密な射撃を行う。
「なんだと!!この距離から当ててくるのかコイツ!!」
「当たった!!コイツで終わりだ!!」
手応えを感じるとビームサーベルを構え一気にブースト。また相手もそれに呼応してビームサーベルを構えるが時は既に遅かった。
「何なんだ…………今の……通り過ぎただけじゃ…………。」
「正体はガンダムMk-IIか。かなりの精度だけど今度はもう少し足の速い機体でこいよ。じゃあな。」
フウトのモニターの右端に「1」とカウントされる。この数字の意味を考えてる間に次の敵が現れる。
「………なるほど…………。そう言うことかよ。」
「要は最後まで生き残ればいいんだろう!!」
ガンダムソフィエルはツインアイを光らせ次々とSランク級を相手取る。
『──やるねえ。ふうちゃん。』
バトルロイヤルを宇宙空間外から観戦するのはアララギ。カメラロールに映らないガンダムソフィエルがよく見える位置に場所をとってもらっていたのだ。
『射撃がかなり上手くなったね。ドラグーンシステムを使わなくなった分そっちにも気を取られなくてもいいし。』
『あれじゃ、まるでユウキくんの使うソフィエルじゃないか。』
アララギの目にはかつてイヌハラ・ユウキが操っていた青いガンダムソフィエルの姿とフウトの操るソフィエルカイザーの姿が重なって見えた。広角を上げ嬉しそうな表情をし彼の闘いをじっと観戦する。
『見ろ!オノサカ!あれ!!凄い勢いで敵を倒してる機体がいるぞ。』
『本当だ!それにとても速い…………!!』
「──そんなんじゃ、俺にはついてこれないよ!!」
ガンダムソフィエルによく似た形状でバイザーをつけ黒い装甲を纏う機体がクネクネと見たこともないようなスピードで戦場を駆け巡る。機体の差し色である橙色が美しい残像として残り機体が通った軌道には次々と爆発が起こっていく。しかしその背後からまた、とてつもない速さで接近する蒼い星がひとつ。
「…………アラート?面白い速さ比べか!!」
「着いて来れるものなら着いてきなよ!!この『ガンダムソフィエルエクリプス』に!!!」
黒い機体、ソフィエルエクリプスはさらに加速し背後から迫る機体を煽る。まるでそれを分かりきっていたように蒼い星はぐんぐんと加速していく。
「…………あの機体………………!!まさか!!」
「…………やっと追いついたぜ…………!!」
「──サワラァァァァ!!!」
「ユウキさん……!?いやこの荒々しい感じは………!!」
互いにとてつもない慣性と共に蒼帝と蝕の天使はビームサーベルで激しくぶつかり合った。よく似た形状のソフィエルシリーズの機体が偶然にも再び交わった。
「ははは。変わらないな君は。それにまさかその機体に乗って現れるなんて!」
「お前こそ、相変わらずのスピードだよ。こんなに速いやつは俺の知っている中じゃお前しかいないからまさかと思ってさ!」
2人は驚いた様子で、なのにどこか来ることが分かっていたように、そんな不思議な表情だった。挨拶がわりの一撃も2人にとってとても心地の良いものだった。
しかしそこに新たな刺客。複数機現れ立ち止まった機体をカモにしようと襲いかかる。
「…………おいおい、こっちは感動の再会中だぜ?」
「…………全く常識くらいは持ち合わせてほしいな。」
2機のソフィエルの目が鋭く光り阿吽の呼吸でライフルを構え2人はニヤッと広角を上げる。
『邪魔するな!!!!』
襲い掛かる複数のMSに対しエクリプスが持ち前のスピードを活かした高速射撃で追い込む。残像さえ残るあまりの速さ。一体しかいないのにも関わらずビームの包囲網が生まれる。
「な、なんだこいつ!!まるで見えねえ!!」
「サワラ、腕は鈍っちゃいないようだな。」
「当たり前だ。フウトこそ鈍っちゃないよな?」
ソフィエルカイザーはそのビームの雨の中を駆け抜け取り付けられたブレードで次々と薙ぎ倒していく。
「──当たり前だ!!ここは俺たちの領域だろ?」
エクリプスの残像とカイザーの緑のGN粒子が美しく宇宙空間に煌めき消えていった。
一方、観戦席でその2機を見て驚きを隠せないオノサカもアキタケの姿があった。
「なあ、オノサカ。あれって…………。」
「…………店長…………だよね。」
珍しくダイバーギアと自分の機体を持ち出していたと思っていたらまさかこのイベントに参加していたとは到底検討にもつかない事だった。そしてもう一つ、驚くべき事があった。
「しかもなんで、この前のガンダムソフィエルがいるんだよ。やっぱりめちゃくちゃ強いじゃないか。お前本当にあんなのとやり合ったのかよ。」
「…………………………………………。」
オノサカは何も答えず手に軽く拳を作り戦いの様子を見る。
2機のソフィエルは阿吽の呼吸でのコンビネーションを見せつけ一息付いていた。
「ふっ、何年ぶりだろうね。」
「さあな。お互い元気なら何でもいいだろ。」
「確かに。」
しかしその2機を引き離すようにその間を緑の物体が突き刺すように飛んでくる。
「!?」
2人は直感でヤバいと感じた。これまでの敵も強者ではあるものの今のはホンモノだと。背筋が凍る様なプレッシャーを感じた。
「サワラくん悪いね。そっちの蒼い方に用があるんだ。」
「キョウヤさん………!!?」
突如として現れたAGE2を改造した機体が強力な射撃で一気に2機を引き離す。通常のAGE2の出力を軽く上回る一撃。そんなハイスペック機と紛れもない強者に対してフウトは全く臆する事なく挑んでいく。むしろ彼の胸の奥は踊っていた。
「フウト!気をつけろその人は……!!」
「──クソガキの前にアンタはアタシの相手でもしてもらうよッ!」
「くっ!まさか貴方までいるとは!!」
引き離されたソフィエルエクリプスはどこからともなく現れた緋色の刀を持つ深紅の機体にその道を阻まれていた。一方でフウトは目の前の王に真正面から立ち向かう。
「おもしれぇ!」
ビームライフルを片手にもう片方にはビームサーベルを装備しさっきのお返しと言わんばかりにビームライフルを放つ。しかし先程の緑色の刃がいくつか結束し螺旋状に回転し攻撃を弾く。
「……Cファンネルか…………?いやそれにしては形状が独特だ。」
フウトにとって初めてみる武装。もう少し動きや特徴を捉えたかったがそんな隙を目の前の敵は見せてくれない。今度は刃を向けてこちらへ鋭く向かってきた。
「今度は攻撃に!!」
ソフィエルカイザーはビームサーベルで弾きながら持ち前の機動性を活かしてその遠隔攻撃を剥がそうとするがなかなか離してくれない。そうこうしているとAGE2は変形しソフィエルの背後を一瞬で取った。
「これで終わりかい?」
「こいつ!まじのバケモンかよ!!」
変形状態から強力な螺旋状のビーム粒子が放たれる。
「…………………!!!」
「やはりその反応速度!避けるか!!」
フウトの目が光る。ファンネルを早業で振り払うと背後から迫る攻撃をソフィエルは宙返りで避けライフルを両手で構えすかさず反撃。ここまで両者、常軌を逸する速度で機体を操作し制御している。
『…………あのチャンプと真正面からやり合ってる。あれに乗っている人は、イヌハラ・フウトって人は一体何者なんだ………………。』
前回のリパルド遭遇戦でソフィエルを操縦している人物がフウトだと感づいたオノサカは食い入るようにその闘う様を見た。
「ちょこまかとやってたら拉致があかねえ!一気に距離を詰めるッッ!!」
「面白い!!」
ソフィエルは方から大剣を装備すると直線的にブースト。チャンプのAGE2マグナムは再びFファンネルを展開しビームサーベルを抜き構える。迫り来るFファンネルをブレードで切り払うと旋回しながら振り切り一気に距離を縮める。この巧みな動きにはチャンプ、キョウヤも驚く。
「これがかつて皇帝と呼ばれた男の闘いなのか……!!」
「コイツをもってけ!!」
ソフィエルカイザーは大剣を大きく振り翳すがAGE2マグナムの回避スピードを捉えられない。その後何度も連続で斬りかかるがまるで当たりそうにない。
「当てさせてもくれないのかよッ!!」
「それならッッッ!!」
「…………ブゥゥメランッッッッ!!」
ソフィエルカイザーは一本の大剣の先端部を変形させ低い姿勢から力強く投げつけた。しかし攻撃は簡単に避けられ不発。囮として視界に一瞬入れその背後から渾身の一撃を決め込むがFファンネルにまたも防御され回転しながら帰ってくるブーメランも変形を駆使して回避されるとまたも距離を取られる。
「楽しいものだね。ガンプラバトルというものは。」
「ああ。こんなのは久しぶりだ。」
「アンタが相手なら俺もコイツも1つや2つ限界なんて超えられそうだ。」
「──ここから先は俺達の領域だッッ!!」
──God Advent──
ガンダムソフィエルの緑色のコア部分が光り次第に黄金の輝きを纏う。ジャスティスカイザーと同じ強く優しい光が蒼の皇帝を包む。
「…………これは………………?」
「この機体が継承したのは兄さんの想いだけじゃない。」
「ジャスティスカイザーの魂も引き継いでるんだ。」
「なるほど、あの人が彼に託した意味が少し分かった気がするよ。」
「さぁ、決着をつけようフウト!!君の全力と僕の全力!どちらが上回るか勝負だ!!」
向かい合う王と皇帝。
ソフィエルカイザーは緑混じった黄金色を纏うと突撃した。AGE2マグナムはハイパードッズライフルマグナムを放つがその黄金色がライフルを弾く。
「ビームを弾いた!!?」
「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」
想いを継承する翼でただ真っ直ぐに推進するソフィエルカイザー。大剣を一本装備し、黄金の輝きと共に渾身の一撃を放った。その様は一瞬赤い皇帝の姿と重なる。
「くっ…………。」
想いを重ねた一撃はAGE2マグナムの右腕を切り裂いた。
「これが皇帝の一撃………………。」
「だが、私も負けるわけにはいかないッッ!!」
AGE2マグナムもまたツインアイを光らせ真正面からソフィエルカイザーへと向かう。かつて最強と謳われた機体と今現在最強と謳われる機体。彼らが交わる事は必然だったのかもしれない。それはずっと前から決まっていた事であるように。
『うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!』
2機が重なるその瞬間、タイムアウトのアナウンスがされる。
「……タイム…………」
「……アウト…………」
目の前の敵を倒す事だけに集中していた2人はまるで時間の事など頭になくアナウンスを聴くと緊張の糸が切れた様な表情をした。そして両者共に武器を納め向かい合う。
「君と闘えてよかった。心からそう思うよ。」
「アンタが言うとイヤミっぽく聞こえるけどありがたく受け取っておくよ。」
「ユウキさんが話してくれていた通りだったよ。君は。」
「期待外れじゃなくて何よりだよ。じゃあまた。この決着はいつか。」
そう言うとフウトは早々と撤退していった。自分が本来この場にいてはいけないと言う事は彼なりに理解していたのだろう。キョウヤもそれを見届けると何も言わずその場を立ち去った。
強者ひしめくバトルロイヤルはこれにて幕を閉じた。
「こんだけやって腕一本………か………。」
「やっぱりここは面白いところだな、兄さん。」
フウトにとって思いがけぬ再会と最強への挑戦。あのままもしバトルが続いていたら。
彼のGBNでの記録はまだまだ続く。
***
「──久しぶりだな。サワラ。」
「久しぶりだね。フウト。」
「帰っていたなら言ってくれればよかったのに、兄さんも何も言ってくれやしないし。」
「悪い、悪い。まさかサワラがここの店主になってるなんて思いもしなかったからよ。」
そういうとフウトは店内を見渡す。
「相変わらず、いい店だな。」
「そうかい?ありがとう。少し懐かしくなったかい?」
「少しじゃねえよ。最近歳とったせいかこう言うのに弱くなっちまってよ。」
アララギ模型店。アララギとサワラの父クロスケの代から続く模型店。フウトが学生だった頃、兄や仲間と共によく通った思い出の場所である。木造の匂いとシンナーの香りがほんのりと漂う。
「そうだ、フウト。」
「ん?」
「今日、あの場所でアカネさんと会ったよ。」
「アカネさんと!!?」
「『次はクソガキ、テメェの番だ。』ってさ。」
サワラはアカネの口調を真似て伝えると勘弁してくれと苦笑いになるフウト。
「ま、その前に今から俺と一戦付き合ってもらうけどね。」
「チャンプ相手に引けを取らなかった、その実力、変わらないみたいだね。」
「サワラこそスピードだけじゃなくて全てに磨きが掛かってた。楽しみだ。」
2人はポケットからジャスティスカイザーとアストレアType.Rのパーツを見せると店内のGBNブースへと向かっていった。久しぶり会えばやる事はひとつ。決まり事だ。
『今日も俺が勝つ……!!』
(続く)