ガンダムビルドデューラーズ 清掃員外伝   作:地底辺人

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第三話「夢見る頃を過ぎても。」

 午前5時

 

 いつもと同じようでいつもと違う、今日もまたこの時刻を迎えた。

 

 四畳半という狭い部屋の中央に置かれた机の上には、今日は赤いプラモデルが置かれている。

 

 『ジャスティスカイザーガンダム』イヌハラ・フウトがかつて愛機としていたものを新しく作り直したものだ。皇帝という名にはフウトがかつて誰にも負けたくないくらい強くなりたい。皇帝のように戦場を圧倒的に支配したいという願いからつけられた。

 

 深紅とも言える赤いカラーリングとその赤を際立てるダークグレー、そして随所にパールピンクやゴールドと言った差色も入っており全体的にまとまったカラーリングである。丁寧に塗装されたその機体はまだ薄暗い早朝には眩いほどである。

 

 

【挿絵表示】

 

 

「おっと、こんな時間か。」

「今日も仕事行かなきゃな。」

 

 腰のホルダーにジャスティスカイザーを入れる。そしてフウトは引き出しから何やらガンプラのパーツのようなものもホルダーの中に入れた。

 

 作業台の隅には先の戦闘で破損した百式の無残な姿があった。

 

「お前もすぐに直してやるからな。」

 

 百式も共に闘ってきた仲間だ。無碍にはできない。それにこれは自分の実力不足が招いたことだ。これからまた頑張らねばと、そう思い部屋を出た。

 

 ブーン

 

 いつものようにいぬこ号でスーパーの清掃へ向かう。しかし今日のフウトの頭の中は仕事のことよりもガンプラバトルのことでいっぱいだった。はやく、ジャスティスカイザーを使いたい。もっと強いデューラーと闘いたい。それはかつて純粋にガンプラバトルを楽しんでいた「イヌハラ・フウト」が舞い戻ってきたようだった。

 

「おはようございます。」

 

「おはようイヌハラくん。それじゃあいつものとこ頼むね。」

 

「はい。」

 

 そう言って、いつものようにスーパーの清掃へと向かう。今日の床磨きはいつもよりしんどかった。やはり徹夜で作業をしたのは良くなかった。

 

 眠い目を擦りながら、今日も落ちている野菜の葉を拾う。

 

「……。」

 

 グーーッ。

 

 お腹が鳴る。そういえば、昨日から何も食べていないことに気づく。ホームレス経験のある身からすると何日も食べない事には慣れているが、やはり、残飯だとしても食べ物があると気になる。だいたいホームレスの頃は残飯を漁ることなど日常茶飯だったのだ。落ちているキャベツやレタスの葉を食べることなど、なんの造作もない。むしろ、犬の小便がかかっているかもしれない雑草を食べるよりもマシかもしれない。

 

 パクッ。

 

 そうこうしている内に食べてしまった。人間窮地に立つとなんでもできるというのは本当の事だったのだ。

 

「公園の雑草よりはマシだな。」

 

 フウトは、そう捨て台詞を吐いて清掃を続けた。

 

 そして時間を見ると定刻だ。今日もいつものように無事店内の清掃を終えた。たまらなく眠かった。

 

「お疲れ様です。お先失礼します。」

 

「今日もお疲れ、イヌハラくん。」

 

 管理人に挨拶をして、俺は一旦家に帰宅した。今日は模型店の清掃は休みなのだ。夜、ジャスティスカイザーのテストをするためにとにかく今は睡眠を取って回復することが先決である。

 

「眠っむ……。」

 

 俺は帰宅すると、その四畳半に敷かれた小さな布団に倒れ込み泥のように眠った。

 

 

***

 

「――おおっとー!イヌハラ選手、これでリーグ8連敗だァー!!」

「高卒ルーキーとして期待されていたが彼の実力はこれまでなのかーー!?」

 

「もう、デューラーなんてやめちまえー」

 

「このくそへぼがー!」

 

「勝てねえくせにファイトマネーなんてもらってんじゃねえぞー!」

 

「負けてて、プライドねえのかよ!このタマナシ!!」

 

「アニキの方はアメリカでも活躍してんのに弟はとんだ出来損ないだな!」

 

 数々の罵倒、暴言。はじめこそ心が痛んだが、そんなものにはすぐ慣れた。プロというのは学生とは違う。学生であればその将来性を期待され、応援される身になることも多い。実際自分もそうだった。若いというだけで見てもらえる、評価されるというのはこういう世界ではよくあることだ。

 

 だが、プロは違った。プロになれば結果が全てになる。勝ち続けるものにしか価値はなく、負け続けるものは淘汰されていく。そういう世界なのだ。兄を追って、プロになったものの俺は兄ほどの才覚も実力もなかった。プロになってそれを知ったというのはあまりにも不運だった。

 

 結局清掃員という職業が俺には似合っているのかもしれない。

 

***

 

 ピピッピピッ

 

 アラームが四畳半の部屋内で響く。

 

 時計は18:00を指している。

 

「………夢か。」

 

 過去。それは何にでもついて回ることだ。嬉しい記憶も、そうじゃない記憶も。

 

 こうして、新たな一歩を踏み出そうとした時にトラウマのようにメンタルをえぐる。駄目かもしれない。無理かもしれない。そんな風に思わされる。

 

 フウトは少し虚な目で身支度を始める。珍しく紺のジャケットを羽織り、"NEW ERA"と書かれたベージュのキャップを被る。瞳の色とよく似た茶色の髪色とベージュのキャップがよく似合っている。

 

「よし。」

 

 いわゆる、これがフウト流の本気モードなのだ。プロの選手というのは案外身だしなみといったものに変にこだわる傾向がある。試合前のルーティンのようなものだ。そしてこれはフウトが現役の時よく身につけていた格好なのだ。

 

 迷いはあれど、今日の彼は本気なのだろう。

 

 そんな彼が今日向かうのは、街はずれにある「ストリートフリーファイトスペース」と呼ばれる場所だ。

 

 ここには、年齢、性別、そういったものはすべて関係なく各地域から実力者が集まることで有名な場所である。また、人目から離れていることからプロデューラーが現れることがある。

 

 つまり、このプロデューラーと遭遇することが今回の目的なのである。

 

 ホルダーに入ったジャスティスカイザーを取り出しフウトは呟く。

 

「今日は俺とお前のリベンジマッチみたいなモンだ。」

 

「過去なんて面倒なモンは断ち切る。そうだろ?」

 

「へっ、言われなくてもわかってらぁって面だな。」

 

「──いくぜ、相棒!」

 

いぬこ号に乗り、郊外の目的地へと目指す。ワクワクとドキドキが入り乱れら感情。これはもう抑えられそうにない。

 

***

 

「……ここか。」

 

 寂れた街である。夏の夜というのは日が長く、これから日も落ちようかという暮れどきにデューラーたちは集まる。

 

 ここでは"あるルール"のようなものがあると聴いたことがある。

 

 それは至って簡単なもので闘いたい相手を目視で確認しお互い3秒以上目が合えば筐体の方へと向かうといったものだ。

 

 ガンプラバトルをする際に、あまり騒ぎ立てたない。それがここの流儀なのである。

 

 とはいえ、フウトはそんなものを無視して一番奥のGPDの筐体へ1人で入り仁王立ちをする。

 

 これはもう一つのルールで、「挑戦者求む」の合図である。しかしこれをしていいのは、この縄張りを占めているリーダー格かたまに出没するプロくらいである。

 

 待つこと5秒。思ったよりすぐに人がやってきた。少し小太りな同い年くらいの男が現れた。

 

「おいおい、お兄ちゃんよぉ、見ねえ顔だけどここのルール分かってやってんの?」

 

「ああ、分かってやってるよ。さっさとやろうぜ。ガンプラバトル。」

 

「………ッッ!!」

 

 小太りの男性は眉をひそめながらもこほんと一息つき冷静を保ち続ける。

 

「俺はここを占めてるハヤシ・コウタロウだ。」

「お兄ちゃんには悪いけどさっさとここから出て行ってもらうぜ」

 

「強い奴がやっていいルールなんだろ?じゃあ俺が今からテメーをぶっ倒す。それだけじゃねえか。」

 

「言わせておけば好き勝手言いやがって…………。俺が『不沈のハヤシ』って知ってて言ってんのか?」

 

「肩書きなんてどうでもいいだろ。強いやつが勝つ。単純だろ?」

 

 フウトはニヤリとそう言ってハヤシをいなすと筐体にまだ真新しいガンプラをセットする。

 

Futo'sMobile Suit

   Justice Kaiser

    VS.

kotaro'sMobile Suit

   Shinanju

 

 お互いのカードキーを差し込み情報が表示される。

 

 これを見たコウタロウは笑い出す。

 

「…………はっはっはっは!こいつは傑作だ!!」

「"元プロデューラー"のイヌハラ・フウトが相手とはなァ!」

「噂じゃホームレスにまで堕ちたって聞いてたけど鈍ってねえよなァ?!」

 

『なに?元プロ?』

 

『おい!あれ!出来損ないの弟のほうじゃね?』

 

『ハヤシさん!負け犬のゴミなんてささっとやっちまって下さいよー!』

 

「……………めんどくせえな。」

 

「………けどよ。そのくらいは分かってここに来た。そうだろ?相棒。」

 

 だがフウトもそういう覚悟で来ている。自分がガンプラバトルをやり直すというのはこういう足枷がついて回るものだ。

 

――Battle Start――

 

 バトルステージは昼の市街地

 

 市街地は建物が多くフウトが苦手としているステージだ。

 

 まずは、建物の影に隠れ相手の動向を探る。下手な動きを打てば自分の場所を晒すことになる。

 

 次に、相手の機体はシナンジュ。こういったステージではシナンジュのような一撃離脱型の機体は特性をあまり発揮できない。

 

 そして、あのデューラー、ハヤシ・コウタロウの性格を考えるとフウトが出る策は一つ。

 

「イライラさせることだ」

 

 勝負というのは冷静さを失った方が負け。見たところ元プロデューラーと対戦できる事をチャンスだと思っていそうな節が見えた。ここで勝てば大儲け。そんなところか。

 

 つまり、それを逆手に取る。フウトらしい頭を使った作戦だった。

 

「陽動からはじめるか。」

 

 2基のドラグーンを静かに射出する。このドラグーンにはセンサーも搭載しており探索用としても使える。

 

「ん?ドラグーン?誘ってるのかァ?」

 

 コウタロウは瞬時に気づいた。

 

 自分から800m離れた2時の方向にセンサーが捉え、位置を把握した。案外近いところに潜んでいた。

 

 フウトはドラグーンを撃墜されないように距離をとった位置に配置し、発射せず待つ。

 

 ドラグーンをあえてコウタロウの視野に入れて警戒させるもこちらからは動かない。

 

「……。」

 

「……。」

 

 無言の時間が長引く。心理戦による駆け引きなのだ。どちらかが動けばこの駆け引きは終わる。だがお互いにこの地形と機体の性質上、先に動いた方が不利となる。

 

「ええい!元プロのくせして堂々と闘いやがれ!!」

 

 予想通り、コウタロウは待ちきれず飛び出してきた。シナンジュの大きなバックパックの推進力で上空へ上がり市街地を乱射。次々と街を破壊していく。フウトは攻撃をうまく避けコウタロウの視野に入らない場所に隠れる。

 

「ちぃ、ちょこまかと!出てきやがれ!!」

 

 かなりの力技である。機体のパワーも相当だ。確かに機体スペックだけならここを占める者になれるかもしれない。

 

「ええい、どこに行きやがった、あのヘボ野郎。」

 

「そんなんだからクビになるんだよ!!」

 

 コウタロウは煙がまだ漂う場所に落下を始める。

 

「……よし来た。」

 

「3、2、1……。」

 

「入った。」

 

 シナンジュが落下した瞬間、ジャスティスカイザーのまばらに飛んでいたドラグーン全機が集まり一斉射撃を始める。

 

「なにぃっ!?」

 

 コウタロウは思わぬ不意打ちに驚く。

 

 全6基のドラグーンがシナンジュを撃ち抜く。

 

「こいつでとどめだ!!」

 

 物陰に隠れていたジャスティスカイザーはついに姿を現し、回し蹴りを決めた。

 

「やるじゃねえか……。」

 

 驚いた。これだけダメージを喰らってもダウンしないとは。不沈と呼ばれるだけの事はある。タフな奴だ。

 

「テメーの戦略にまんまと乗せられたわけだが俺が今立ってるのは予想外だろ?」

 

「この距離のタイマンなら負ける気がしねえんだよ」

 

 コウタロウは薄ら笑いを浮かべながら言う。

 

 両手にビームサーベルを装備する。

 

「行くぜっ!」

 

 そしてバーニアで加速し、高速でこちらに向かってくる。

 

「おらおら、おら、おらぁ!」

 

 鬼神の如く切りかかってくる。これにはフウトも受け止めるので精一杯だ。

 

「どうしたどうした!!」

 

 連続で攻撃してくる様に呆然一方のフウト。ドラグーンを使えば打開できるが、ここは漢の勝負。こちらも負けてはいられない。

 

「そろそろ反撃させてもらう!」

 

 フウトは一瞬の隙を見逃さなかった。右腕を振り下ろす大きなアクションに対しそれを的確に切り払い、一旦間を持つ。そして相手の足元を狙い小さく蹴る。ジャスティスカイザーとシナンジュにはサイズ差があるためこの攻撃にうまく対応出来ないシナンジュは体制を崩す。

 

「しまった…!!」

 

 そのままジャスティスカイザーはシナンジュの頭を掴み腹にパンチを入れる。

 

「うっ!」

 

 そして、めり込んだ腕を振り払いビームサーベルで一気に切りつけ倒れた機体にとどめとしてサーベルを垂直に差し込んだ。

 

「まだだ!こいつも持っていきな!!」

 

 展開していたドラグーンを呼び寄せ一斉射撃。

 

 オーバーキルである。

 

──battle end──

 

 必要以上に派手なトドメだった。そして時間のかかった試合だった。バトルが終わると、筐体の周りには多くの人で囲まれていた。

 

「コウタロウさんが負けた?」

 

「嘘だろ?」

 

「てかあいつ。元プロデューラーだろ。」

 

「リストラしたホームレスが何しに来やがった。」

 

「どうも、どうも。イヌハラフウトです。」

「って、あんまり歓迎されてないか。」

 

 やれやれとやっているフリをしていたが、これもフウトにとって全て計算のうちだった。

 

 ナワバリで一番強い奴を倒せば、それを倒した奴に来ているプロは興味を持つと。そしてこれだけ時間をかけ派手にやればより多くの人が集まる。

 

 フウトはこの人だかりをジロジロと見回す。

 

「──相変わらず派手にやるもんだなあ。」

 

 青い髪の緑色の瞳のスラっと背の高い美少年が現れた。

 

 いや、美青年というべきか。

 

「何者だよコイツ……バ、バケモノだ……!!」

 

 青い髪の青年は黒い小箱を手のひらの上で空中に上下へぽんぽんと投げながらこちらへと歩いてくる。

 

「それは!NRリアクター!ウチのフリーファイトスペースでは厳しく禁止していたはずだ!持ち込んだやつは誰だ!」

 

「………すんません……アニキ………誘いに乗っちまって………。」

 

「馬鹿野郎!!」

 

「ハヤシさんか。こんなゴロツキばかりの中でも筋は通ってるだね。」

 

「噂を聞いて来てみたけど予想より何倍も面白いものと出逢えた。」

 

 そして、青い髪の男性はフウトの前で立ち止まる。

 

「久しぶりだね。フウト。」

 

 当たりがざわつき始めた。

 

 それもそうだ。民間のファイトスペースに有名プロとリストラした元プロがいるのだ。そうなってもおかしくない。それだけではないNRリアクターと呼ばれる公式からは禁止されている物も押収されているのだ。そんな中、フウトはニヤリとしていた。

 

「テメーが最近この辺りをウロウロしてるって聞いてな。久しぶりに挨拶でもよと。」

 

「フウトが挨拶?そんな柄じゃないだろ?」

 

「へへっ、お見通しか。」

 

「じゃあ早速だが、こいつを受け取れ!!」

 

 フウトはサワラに向かってガンプラのパーツを勢いよく投げつけた。

 

 これは、早朝にフウトが引き出しから取り出していたものである。

 

「ん?これは。」

 

「持ってりゃいいこともあるもんだな。」

 

「──なるほど。こんな物を持ち歩いているとは……!奇遇だね!」

 

 なんとサワラも同じようにガンプラのパーツをフウトに投げつけた。

 

 それはよくみると、片方はサワラのアストレアtype Rの右腕とフウトのジャスティスカイザーの左腕をお互いが持っていたのだった。

 

「お互い、考える事は同じようだな。」

 

「どうやらそうみたいだね。」

 

 お互いに、過去に対戦した時に拾っていたパーツを持ち歩けばまたどこかで巡り合えると思っていたのだろうか。パーツをお守りのように使うとは、2人とも生粋のガンプラビルダーでありデューラーなのだろう。

 

「それでフウト。やるのかい?今ここで?」

 

「どうせやるなら、お前とやりたいと思っていたところだ。」

 

「9戦4勝4敗1分、その決着と因縁を着けに来た。」

 

 9戦4勝4敗1分。それはフウトとサワラの公式戦での成績である。実はこの2人、高校時代からのライバルで幾多となく死闘を繰り広げてきた。

 

 フウトにとってこれは超えるべきものだと判断したのだろう。この先、自分が進もうとしている道のためにも。偶然にもチャンスが絡んできた。このチャンスを絶対に掴みたい。その気迫はサワラもまた肌で感じ取っていた。

 

「フウト、お前……。」

 

 だが同時にあの挫折から好敵手と呼べる因縁の相手が再び立ち上がった事に喜びを感じているのだ。

 

「腕は鈍ってないんだろうね?」

 

「それは、テメーの目で確かめやがれ。」

 

 まだ当たりは日が落ちたばかりだと言うのに、ただならぬ雰囲気で満ちていた……。

 

(続く)




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