イヌハラ・フウトとアララギ・サワラの出会いは高校1年生。まだ2人が16歳の頃だった。
きっかけはもちろん「ガンプラバトル」だった。2人は「ガンプラバトル全国高校生選手権」ではじめて互いを認知しぶつかりあった。当時互いに東西で1年生ながらに出場していた事もあり周囲から注目も浴びていた。
そんなはじめての対戦結果は、互角の戦いを繰り広げながらもフウトの勝利で終わった。
「君、本当に強いんだね。」
「君の方こそ強かった。こんなに強い相手と戦うのは兄さん以外だとなかなかいないよ。」
「兄さんか……。」
フウトとサワラには年齢以外にも共通点があった。それはお互いに兄がいること。そして兄に対して人一倍特別な感情を抱いている事。このような事もあり2人は対戦後すぐに打ち解けた。
「僕は将来はプロデューラーになりたいんだ。それで兄さんを超えて、世界に行くんだ!!」
「へぇ。フウトはすごいなあ。」
「サワラはプロにはならないのか?」
「僕の実力じゃ無理だよ。せいぜいアマチュア止まりだよ。」
「そんなのやってみなきゃわからないよ?」
***
そんな記憶がサワラの頭には鮮明に焼き付いている。彼の無邪気な、そんな顔が。
「フウト、昔は君の方が強かったよね。」
「急に昔話か?」
「高校生の頃、はじめて会ってから僕達は何度も何度も闘ってきた……。」
「君に勝てば本気で嬉しかったし、負ければ本気で悔しかった。」
「それは俺も同じ事だ。お前がいなきゃプロになんざ到底なれなかったさ。」
「……それはこっちのセリフだよ。勝手にリタイアしていっちゃってさ……。」
サワラは聴こえるか、聴こえないかくらいの声でボソッと呟いた。
「それで、もしこのバトルに君が勝てばどうするつもりなんだい?」
「――もう一度プロとしてイチからやり直す。」
フウトは強張った顔でそう言った。そしてサワラは少しニヤリと笑った。
「そっか……。」
「でも、今の君じゃ絶対に僕に勝てない。」
サワラは振り返り、筐体の方へ向かっていった。
「やってみなきゃわからねえぜ?」
昔と変わらない、強気な顔と声。そして台詞。 5年間プライドを捨て続けたイヌハラ・フウトだったが、性根までは腐っていなかったようだ。
「フッ、6年ぶりか……。」
「君が見させた夢を俺は今も……。」
サワラはこの刻を噛みしめるように自分のガンプラをセットする。
「サワラ相手にどこまでやれるか分からねえが、やるしかねえ。」
「勝とうぜ、相棒。」
フウトもまた自身のガンプラをセットする。
Sawara'sMobile Suit
Astraea:type R
VS.
Futo'sMobile Suit
Justice kaiser
お互いの機体が表示される。それは偶然なのか、初めて彼らが対戦した時と同じ機体だったのだ。
「アララギ・サワラ、アストレアタイプR出るよ。」
「イヌハラ・フウト、ジャスティスカイザー出るぞ。」
黄色と赤の飛翔体はかつてと同じように同じ戦場へと出撃した。
ステージは宇宙。お互い適性の高いステージだ。
「アストレアR……。また懐かしいものを持ち出して来やがったな…!」
アストレアR―アララギ・サワラがガンプラバトル用に制作した機体である。アストレアをベースにハルート、アヴァランチエクシアの装甲を付け加えたハイスペックな機体だ。また、Cファンネルのような遠隔操作できる短剣も装備しておりテクニカルな戦術も可能だ。
「いつ仕掛けてくる…?」
フウトは目の前に広がるステージを見渡す。アストレアRは高機動かつ近接系という特徴を持つ機体だ。近接系の機体というのは基本的に近づかなければ攻撃できない。しかしこの、アストレアRの厄介なところは遠隔操作が可能な武装が搭載されている事。そこを警戒しながら戦うのは非常に面倒だ。そしてそれを高い練度で扱うことが出来るのが目の前の相手なのだ。
バトルが始まり数秒経った時、遠隔操作された短剣がジャスティスカイザーを突然襲う。
「!?来たか!!」
フウトも負けじとドラグーンを射出し、短剣を撃ち落とす。
「そこだ!!」
さらに目にも留まらないスピードでアストレアRは現れGNソードをジャスティスカイザーへと向ける。
「相変わらず速いな!……けど!!」
フウトも同じ遠隔攻撃を行うものとして、先の攻撃は囮に過ぎないと分かっており、この攻撃を簡単に跳ね返す。
「流石に、これじゃ通用しないか。」
「それじゃ、これはどうかな!!」
「き、消えた……!?」
アストレアRは先ほどよりもギアを上げると突如目の前から消え、その脅威的な速さでジャスティスカイザーの背後を取った。まさにその様は閃光。
「……ッッ!」
アストレアRの斬撃がジャスティスカイザーを襲う。しかし、攻撃を受ける前になんとかアジャストしていたフウトはドラグーンを展開し反撃していた。サワラという好敵手を相手にする中で、フウトはこれまでのブランクを取り戻すように身体が反応していた。
「やるなっ…。」
無数のビームをアストレアRは避けながら反撃のタイミングを狙うが、フウトの正確な射撃がそれを許さない。ドラグーンの操作精度もここにきて高まっていた。
「こいつも持ってけ!!」
「ブゥゥゥメランッ!!!」
ジャスティスカイザーはシールドに装備されたブーメランを投擲し追撃を試みる。
「甘いッ!」
しかしそれは裏目と出てしまう。ブーメランの狙いが甘くドラグーンを避ける事に気を囚われていたサワラはその隙を突いて遠隔攻撃で応戦する。まずはブーメランを短剣で落としオールレンジ攻撃による攻防が行われた。
「くっ…!!」
アストレアRによってドラグーンが3基、既に落とされていた。そして気づけば黄色い機体の姿を目視できずにしていると目の前にアストレアRの鋭い眼光が現れる。
「皇帝も地に堕ちたね!」
「なんの!まだまだ!!」
ジャスティスカイザーはアストレアの連続攻撃に押し込まれる。1つの攻撃が2つや3つの残像と共に繰り出される隼のような攻撃。いくら動体視力に優れているフウトでも捉える事が難しいが好機を伺い耐え続ける。
「もらった!!」
アストレアRはハルートから流用した大剣を振りかざした。フウトの眼にはそこに若干のブレが生じていた。
「欲が出たな!」
大剣を振りかざす大きなモーションが見せる隙をフウトは決して見逃さなかった。すると、ジャスティスカイザーが防御しようとした姿勢から一転、ビームサーベルを展開しアストレアRに叩き込んだ。斬撃が装甲を溶かす、気持ちのいい音だ。
「うわあっ!」
「へへっ、久しぶりのキャンセリングについて来れなかったかよ?」
「厄介なスキルだよ。本当…!!」
お互いに笑みが溢れていた。
この瞬間をお互いの本能がずっと待ち望んだように。
カウンターを喰らったアストレアRであるが引き続き攻撃を仕掛けそれを必死に受け続けカウンターを狙うジャスティスカイザー。しかし、今度はアストレアRの大剣が振り切り強烈な一撃がジャスティスカイザーを襲う。
「くそっ、このままじゃ……!!」
「一気に畳みかけるッ!!!」
トドメを狙うアストレアR。ジャスティスカイザーも負けじと向かっていくが、このまま単調に向かっていっても機体のパワースペックで劣るジャスティスカイザーが不利。
「なにか、打つ手はないのか……?」
そんな時、フウトの目には宇宙に漂う残骸が目に映った。
「これだ!」
ジャスティスカイザーは残りのドラグーンを全てアストレアRに向けて射出する。
「これはもう通じない!!」
アストレアRは両手の大剣を持ち高速で回転する事でビームを全て跳ね返し、ドラグーンを撃墜した。流石、プロデューラーである。華やかで技量のある動きだ。
「またまだこっからだぜ!!」
サワラの意識をドラグーンに向けているうちに、アストレアRの背後に漂う残骸に向けジャスティスカイザーはシールドのアンカーを使い、フックショットの要領で残骸に飛び移る。
「しまった!?」
「サワラ、こいつで終わりだぁぁっっ!!」
残骸を使い背後をとったフウトはそのままビームサーベルを引き抜きバーニアを最大出力で対象物へと向かっていった。サワラもこれには反応できずモロに攻撃を受ける。ジャスティスカイザーは斬撃の後ビームサーベルを突き刺し慣性に従い浮遊していた。
「……。やったか??」
「……いい攻撃だったけど、まだまだこんなもんじゃ負けないよ……!!」
鋭い斬撃を受けビームサーベルが胴体に突き刺さったままのアストレアRだったがすぐに体制を持ち直しジャスティスカイザーへと高速で詰め寄る。終盤戦になってもそのスピードは衰えていなかった。フウトはもう一度気持ちを引き締め対峙する。
「くっ!」
アストレアRの攻撃がジャスティスカイザーの右腕を切り落とす。しかしこれと同時にジャスティスカイザーもアストレアRの左脚を蹴り落とした。
「そうこなくっちゃ。」
「俺の諦めの悪さは知ってるだろ?」
既にお互いに各部位を失いボロボロである。おそらく次の攻撃で決まる。フウトは息を呑み集中力を高め操縦桿を握り本気で負けたくないという想いが彼の手を突き動かす。
「うおおぉぉぉぉ!!」
赤と黄色の尾は再び衝突する。
「もらった!!」
同じく攻撃を仕掛けるアストレアRだったが、先程のダメージから一瞬動きが止まる。フウトはこれを見逃さず最後の蹴りを入れる。
「くっ!こんな時にッ……!!」
ここはサワラも意地で対応する。しかしフウトはこれを見て蹴りの選択肢を変え、ビームサーベルを持ち直し攻撃する。
『スーパーキャンセリング』相手の動きを見て、自分の動きを変えるというのは反則じみた能力である。彼にしか見えない世界が確かにそこにはあった。
だが、ゆっくりとその不確定な世界の景色は歪んだ。
「…でも今日は、君の反応を超える!超えてみせるんだぁぁぁ!!!」
なんとこの理不尽な後出しジャンケンにサワラは反応した。ビームサーベルを持つ腕ごと大剣でジャスティスカイザーのボディを切り裂いたのだった。フウトの反応速度をサワラが上回ったのである。
――battle end――
winner Araragi Sawara
「負けた……?」
熱戦の末、勝利したのはサワラであった。フウトは傷ついたジャスティスカイザーを見ることしかできなかった。
「フウト。」
「サワラ……。」
「……僕の、勝ちだ。」
「あぁ……。」
「あれだけガンプラバトルから離れていたのにここまでやるなんて正直驚いたよ。」
「でも僕はプロであって、今の君はアマチュアでしかない。」
「……。」
「それじゃ、フウト。」
サワラはそう言って、その場から立ち去った。
呆気なく、あっさりと、終わった。
「ケッ、やっぱり、イヌハラ・フウトじゃアララギ・サワラには勝てないんだよ。」
「あんだけデカい口叩いといてこれかよ。」
「ちょっと期待した俺が馬鹿だったぜ。」
「それよりNRリアクターの事どうすんだよ!アララギサワラにでもチクられたりしたらここももう……。」
罵詈雑言がまた聞こえる。視界がうっすらとまたモノクロに見えた。フウトは帽子を深く被りその場を後にした。あまりその後の事は覚えていない。ただ今日は四畳半の部屋がいつも以上に狭く感じる。
作業台には傷ついたジャスティスカイザーが、その後ろの壁に飾っていた写真が目に入る。
そこには3枚の写真があった。1枚目は小さい頃の兄と写っているもの、2枚目は高校生の頃にチームのみんなで優勝旗を持って笑っているもの、そして3枚目は、プロになった直後にアララギ・サワラと腕を組み凛々しく写っているものだった。
「………負けちまったな。」
「やっぱりお前は強えよ……。」
そのままフウトは布団に倒れ込む。今思えば、国内トップカテゴリーでも屈指の実力を持つサワラに気持ちだけで勝てるほど甘い世界ではなかった。冷静になれば馬鹿馬鹿しい話だ。
野試合とはいえ、負けは負け。そこになんの言い訳もない。
病み上がりにしては良くやった?
勝てなければそこに意味がないことを知っている。それに一見互角のように見えた戦いだったが、ひとつひとつの精度、状況判断、そして単純な力負けであった事。一度はトップレベルに身を置いていたフウトにとっては理解しているからこそ考えれば考えるほど情けなくなる。
そんなフウトの眼から一筋の光が流れ落ちる。
「まさか、こんな感情がまだ俺にあったなんてな。」
フウトは泣いた。大の大人が人知れず泣きじゃくった。清掃員の仕事をしていてこんなに悔しくて泣いたことなどなかった。こんな風に感情が爆発することが本当に久しぶりでもうどうしたらよいのかわからなかった。故にただ叫び泣いた。狭い四畳半の空間に虚空な声が寂しく鳴り響き、しばらくすると止まった。
『強くなりたい。』
無力で情けない、何者でもなければ何者にもならない彼はただ切にそう願った。目を背けていた現実と向き合うという事がここまで辛いとは思っていなかった。
「………兄さん。俺も兄さんみたいに強くなりたかったよ……。」
叶わぬ夢を見て、夢を見続ける愚かな若者の姿。
夢見る頃は過ぎ去ってしまったのだろうか。
***
「まさか、ここに来てあの出来損ないの弟が現れるなんて……。」
「アレにNRリアクターを使わせるのも一興だろう。どんな風に踊ってくれるんだい?イヌハラ・フウト………。」
真っ暗山の中、ストリートファイトスペースの瓦礫の上でひとり不敵な笑みを溢す男。
「へぇ、君、おもしろいものもってるんだねぇ。ちょっと僕にも見せてよ。」
「……誰だ!お前!!」
暗闇で良く顔が見えないがすらっと伸びた青い髪の男がニヤニヤとしながら男に近づいていた。男はかなり警戒していたが青髪の男が近づき街頭に照らされた瞬間ハッとするようにその正体に気づいた。
「そんなに怖い顔しなくてもいいじゃないか。ねえ、少しでいいからそれ見せてよ。」
「………まさかあなたの方が出てくるとは。せっかくの機会だからこれを試してみたいけど、やめとくよ、まだあなたとやるには早い。」
「それにあなたの闇も大きそうだ。」
「そうかい?まああまりソレを使って他人の人生めちゃくちゃにしないで欲しいな。」
青髪の男は先程の柔らかな表情と一転し男にそう言うと黒いフードを被り男は立ち去った。
「……いつになったら僕らは夢見ることを辞められるんだろうね。」
「………ふうちゃん…………。」
***
「──ということなんだ。兄さん。そっちで面倒見てもらえないかな?」
「──なるほどねぇ。まぁ出来る限りのことはするさ。」
「本当!?ありがとう兄さん!」
「そりゃ、プロデューラー様の言いつけを断ることは出来ないからなあ」
「そういう言い方やめてよ…。」
「あはは、ごめんごめん。で、どうだった、彼?」
「腕は全盛期ほどじゃないけど。」
「心までは錆び付いてない。変わってなかったよ。」
「……そっか、それなら大丈夫だ!あとは兄ちゃんに任せとけ!!」
ガチャ。電話主はアララギ・サワラだった。電話を切り終えたサワラは少し嬉しそうだった。
「……フウト這い上がってこい。」
「そして、またやろう……。」
***
午前5時。
いつも通りアラームが鳴る。
フウトはいつもより気怠そうに目を覚ます。そして、携帯のメールをチェックすると珍しく受信記録があった。
「イヌハラフウト様
北海道にて待つ。
アララギ・ユウリ」
「アララギ・ユウリ……?」
「アララギ先生……!!?」
それはフウトにとって突然のメールだった。
アララギ・ユウリ。高校時代のガンプラバトル部の顧問でお世話になった先生だ。元プロデューラーで理由不明のまま若くして引退し、指導者の道へ進んむという異例の経歴を持つ人だ。長らく会っていなかったが、現在は北海道の大学でガンプラバトル部の監督を務めていると聞いていた。
そして、「アララギ・ユウリ」は「アララギ・サワラ」と血の繋がった実の兄弟なのである。
「サワラの奴、先生に何か言ったのか?突然過ぎる……。」
まるでプロデューラー様から施しを受けているようでフウトは気に食わなかった。しかし、このままではサワラとの差は埋められない。昨夜、身をもって感じたのだ。今は自分のプライドが大事なのではない。泥臭くても這い上がる。心からそう感じる。
それなのにフウトの手には消えない無力感でいっぱいだった。
「ん?やばい!遅れる……!!」
時計の針を見るといつも家を出る時間より針が10分ほど進んでおりフウトは急いで職場へ向かった。
「――おはよう。イヌハラくん。それじゃ、いつものところをお願いするね。」
「……おはようございます。」
いつものようにフウトはタイムカードを切り勤務の準備をしようとしていた。
「イヌハラくん。」
「え、あ、はい。」
突然、管理人がフウトに声をかける。目を合わせると真剣な顔をしている。
「悩んでいるんだろ?」
「ガンプラの事で。」
「え?」
フウトは驚いた。なぜ分かったのだと。
「黙っててすまなかったね。」
「君が無名とは言え元プロデューラーだと言うことを知っていたんだよ。実は私もガンプラが好きでね。」
無名のプロデューラーを、しかも実質2年で舞台を降りたデューラーを知っているとは筋金入りなのだろう。
「君がいつまでくすぶっているのかと心配していたが、最近の君の目を見るとやっと決心がついたんじゃないかっておもっていたけど今日ここにくるとまた以前と同じ目でね。」
「――行ってきなさい。イヌハラ・フウト。」
「君は誰よりも、悔しい思いをしてきたはずだ。だから負けるな。誰にも負けちゃならん。」
その真っ直ぐな言葉がフウトの胸を突き抜けた。迷いを払拭するように。
「――そして、また大きくなって帰ってきなさい。」
「その時は私とガンプラバトルをしてくれないか?」
「――約束だ。」
フウトは涙を流していた。父のような管理人の言葉に耐えられなかった。その一言一言が嬉しくて嬉しくてたまらなかった。清掃員のダメになった自分を陰でずっとみてくれていた人もいるのだと思うと余計に嬉しくなって感情がぐちゃぐちゃになり泣いていた。
「俺、泣いてばっかりだ。」
「今はそれで良いじゃないか。」
「自分を、ガンプラを信じなさい。」
「夢というのは形を変えてあり続ける?そうだろ?」
「はい……!!」
フウトはその後、最後の勤務を終え、タイムカードを切った。いつも以上に丁寧に隈なく掃除をした。5年間白黒に見えたタイルや物が今は少し色づいて見えていた。
「管理人、俺行ってきます。」
「元気でやるんだよ。」
管理人は笑顔で送り出してくれた。本当に感謝しなければならない。掛け持ちしていたアルバイト先にも電話を掛け辞職した。この街からはしばらく離れる事になる。部屋で旅の支度をしながらふと思った。
「ユウくん。」
ウチヤマ・ユウ。彼にも挨拶をと思ったが、たかだか一度対戦したおっさんの事など向こうは覚えていないだろうと思った。
そして、必ず大きな舞台で彼の巡り会えるとそんな予感もしていた。
「よし。」
ヘルメットを被り、いぬこ号に乗る。
思いを馳せ、フウトは北の大地へと向かうのであった。
続く
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n_mokey