ガンダムビルドデューラーズ 清掃員外伝   作:地底辺人

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第五話「ラプス」

ブーン。

 

イヌハラ・フウトは、かつての恩師アララギ・ユウリに北海道へ呼ばれその長い旅路を原付バイクで向かっていた。

 

フェリーを何度も乗り継ぎし、休憩を行いと繰り返し既に何日か経っていた。また、バイクの故障や夏の激しい日差しもあり移動だけでも滅入っていた。

 

「飛行機代、ケチるんじゃなかったな……。」

 

フェリーから見える果てしない海を見て、フウトはふと思う。

 

海風に煽られながらフウトはアララギ先生の事を思い出す。

 

フウトとアララギ・ユウリの出会いは高校時代の事で、兄が創設した「ガンプラバトル部」の顧問を務めていたことがきっかけだった。

 

フウトの中の印象はいつも優しい先生で、担当している現代文の授業も寝ていても何も言わない、そういった先生だった。

 

だが、ガンプラバトルの事となれば話は変わる。

 

いつもは優しい先生もバトルの指導となれば厳しくなり常に強度の高いトレーニングを用意していた。

 

その頃に叩き込まれた基礎は今も身体に染み付いている。

 

そして先生が自分達に最も大切だと教えてくれた事は「楽しむ事」

 

先生は「ガンプラバトルは楽しむものだ。楽しくないガンプラバトルはガンプラバトルじゃない。」とよく口にしていた。

 

その教えに共感した俺はいつも厳しい練習にもバトルの先にある楽しみを追い求め、がむしゃらにガンプラバトルに取り組んだ。

 

だがプロに上がってからは「勝利する事」だけを求め過ぎていた。いつの間にか「楽しむ事」は二の次だった。むしろ「勝利する事」に「楽しみ」を覚えていたのだろう。

 

それは「勝利」という結果に固執するように。

 

今になって考えてみると、元プロであったアララギ先生がその舞台を早くして降りた理由はプロの舞台で「楽しむ事」を見いだせなくなったからなのだろうか。

 

「――だとしたら。」

 

もし教え子が自分と同じ境遇に悩まされたというのなら先生にとってはあまり聞きたくない話だと思う。

 

「――まもなく小樽、小樽。」

 

物思いにふけっているとどうやら遂に北の大地についたようだ。

 

とはいえ、目的地は札幌のためもう少し時間はかかるが。

 

フウトは、来た方を振り返り無限に広がる青い海を見て随分と遠いところまで来たのだなと感じた。同時に簡単に後戻りは出来ないと思った。

 

「よし。札幌まであと少し、気合入れるか。」

 

「もう少しだけ頑張ってくれよ。いぬこ号。」

 

自分の愛機にそう呼びかけ、バイクを東の方へと走らせた。

 

道路にはあまり車が通っておらず道が広く感じ、当たりを見回せば自然豊かでフウトにとっては異国に来たような気分だった。

 

「こういう所で牧場やるのありかもな。」

 

北の大地独特の風に煽られながらフウトは勝手な妄想にふけりバイクを走らせていった。

 

「――着いた……。」

 

「着いたぞーーー!!!!」

 

着いた。着いたのだ、遂に。

 

おそらくこんな長旅を意識的に行なった事は初めてである。

 

昔、やけになってバイクであちこちに行ったこともあったがあれには時間という概念がそもそも欠如していたためノーカンである。

 

札幌という街を認識するのははじめてであったが何処か見たことあるような、来たことがあるようなそんな記憶がフウトの頭の中を掻き回す。しかしそれが何なのかは分からない。

 

「――まぁ、とりあえず先生がいる大学に向かうか。」

 

フウトはメールで送られて来た住所をたどり大学へと向かう。

 

道に迷う事なくすんなりと大学に着いた。研究棟がいくつも立っている大規模な大学であった。正門の前には紫色のラベンダーが綺麗に咲いている。

 

フウトはラベンダーの香りを味わいながらアララギ先生の研究室へと足を運んだ。

 

受付でアララギ先生の研究室を確認しフウトは「303」と書かれた部屋の前に立った。

 

フウトは約10年ぶりに会う恩師との再会に少し緊張していた。

 

「失礼します。」

 

――ガチャ

 

部屋に入ってフウトがまず思った事は「部屋が汚い事。」

 

そして、ソファーに倒れ込んでいる成人男性が一名。

 

「この後ろ姿は……」

 

「先生ぇぇぇぇぇ!!!?」

 

「ん…?この声はどこかで聞き覚えが。」

 

「イヌハラ・フウトです。ご無沙汰してます。」

 

「起こさないでくれ、昨日徹夜で……。」

 

男性はムニャムニャと言葉を発し目を擦りながらこちらを見る。

 

「――あ、ふうちゃんか!案外早かったね!」

 

「座る所は……。まぁ適当に腰掛けて。」

 

感動の再会とはいかなかった。少し緊張していた自分が馬鹿みたいだったがこの感じとても懐かしい。

 

懐かしくて、暖かい。先生の顔をみると凄く安心した。

 

先生はこちらの顔をジロジロとみる。

 

「ふうちゃん、老けたねぇ〜。人生に苦労してるって顔だよ〜」

 

「いや、まぁ色々あったもんで……。」

 

「なんでもホームレスも経験したんでしょ?」

 

「その時の事はあまり話したくはありませんが、一応……。」

 

「学校じゃ優等生だったふうちゃんがホームレスだなんて人生わからないもんだなぁ〜」

 

「それにこんなに髭も髪も伸ばしちゃってさー。」

 

「そういう先生は昔とお変わりないみたいで安心しましたよ。」

 

「いや、ふうちゃんが変わりすぎなだけだから!」

 

あははと楽しげに語り合う。この感じは昔と何も変わらない。歳を取って、大人になっても何も変わらなかった。

 

この歳になって自分の事を「ふうちゃん」と呼ばれるのも久しぶりで少し気恥ずかしさもあるがそれ以上に嬉しさの方が勝っていた。

 

年月は経ってもその関係性は生徒と先生。それ以上でもそれ以下でもなかった。

 

「で、ふうちゃんにわざわざ北海道に来てもらったのはなんとなく分かってると思うけど。」

 

「神デューラー様の所望でふうちゃんを鍛えて欲しいとの事です。」

 

「やっぱりサワラが……。」

 

「まぁ、ここに来るのは自由だったはずだし、来たって事はそれなりの覚悟はあると解釈しておくよ?」

 

「ええ。そのつもりです。自分をイチから鍛え直して下さい!」

 

「よーし!じゃあ、早速!!」

「と言いたい所だけど。」

 

「ふうちゃんって今まで清掃の仕事してたんだよね?」

 

「えっと、してましたけど……。」

 

その時、嫌な予感がした。

 

「それではまず、ふうちゃんにはこの部屋を掃除してもらいます!!!!」

 

嫌な予感が的中した。というよりもこの部屋に入った瞬間から何となくそんな気はしていた。

 

しかしこれから面倒を見てもらうのだ。NOとは言えない。

 

「分かりました。やってみます。」

 

「よーし!じゃあ俺は少し外の空気を吸ってくるからあとはヨロシク!!」

 

そう言ってアララギは気分良く部屋を出ていった。

 

「――さて、やるか……。」

 

部屋を見渡すと、山積みになった書類、いつのものか分からないカップラーメンなどのゴミ、床に散らばったもの、積まれたダンボール……などなど。よりどりみどりである。

 

ゴミ屋敷の清掃サービスをしていた時期もあったフウトだが、これまでの部屋と比べても1、2を争うものであった。

 

ちなみに、1番汚かった部屋は……。

 

いや、これはやめておこう。たまたまサービスしに行った部屋の家主が自分が好きな声優さんだったなんて口が裂けても言えない。

 

「あれは、噂通り汚かったな……。」

 

――少し昔の事を思い出しつつ研究室を掃除する。

 

昔の事と言うと部室を掃除するのも決まって自分だったため清掃員という仕事は案外天職だったのかもしれない。

 

そして今もこうして先生の部屋を掃除しているのは妙なものだ。

 

くだらない事を考えていると部屋をノックする音が聞こえる。

 

――トントン

 

「アララギ先生、以前注文していたガンプラのパーツ届いていたので持って来ましたよ〜。」

 

ドアの向こう側から女性の声が聞こえた。てっきりアララギ先生が散歩を終え帰って来たのかと思っていたが見当違いだ。

 

普通に出れれば良いのだが、こんな格好の人間が箒を片手に掃除している姿を見られると絶対に怪しまれる。

 

こんなときに「清掃中」という立て看板があればと切実に思う。

 

そうこうしていると、学生と思われる女性は部屋に入ってきた。

 

少し慌てていたフウトは目を逸らそうとしたが逸らそうとした先に女子学生の姿が映った。

 

肩まで伸びたオリーブ色の綺麗な髪と琥珀色の瞳の学生と目が合ってしまった。

 

「……。」

 

「……。」

 

数秒お互いを見つめ合う謎の時間が流れた。フウトにとっては時間が長く感じた。

 

そして、遂に学生が口を開いた。

 

「ふ、不審者ーーー!!」

 

大声でそう言ったのである。

 

確かに、この見た目で見知らぬ人が、しかも髪と髭は伸びきっているいかにもという人物が研究室を掃除していたら誰もがそう思うはずだ。

 

「い、いや。俺はアララギ先生の昔の教え子で……。」

 

「凄い言い訳ですね!どっからどう見ても不審者ですよ!!?」

 

だ、駄目だ。通じない。

 

このまま、先生が帰るのを待つか、それともこの娘に事情を説明するか……。

 

――いずれにせよ、面倒である。

 

「どうしたーー!?」

 

ナイスタイミング。慌てて先生が帰ってきた。

 

「アララギ先生!不審者です!不審者!!」

 

「ほんとだ。不審者が掃除してる。通報しないと。」

 

「いや、そこはフォローして下さいよ!!」

 

「ごめん、ごめん。」

 

「いいかい、シイナ?この人は俺のはじめての教え子であるイヌハラ・フウトくんだ。」

「見た目は犯罪者面だけど悪い人じゃないから安心して。」

 

シイナと呼ばれる学生はこちらを警戒するようにジィーッと上から下を見る。

 

「――分かりました。先程は失礼致しました。」

 

何か言われると思ったが案外物分かりが良いようで素直に謝って来たことに驚いた。

 

「こちらこそこんな顔でごめん。」

 

「いや、それはどうしようもないので謝らないで下さい!?」

 

学生は反射的にツッコミを入れる。どうやら物分かりだけでなくノリも良いようだ。

 

「あ、自己紹介遅れました。」

 

「私は、ヒナセ・シイナと申します。アララギ先生の元でガンプラバトルを学んでいます。」

 

「へぇ、君もガンプラバトルやるんだ。」

 

「シイナは部内でもトップクラスの実力を持っていて、女の子だからといって舐めてかかったら痛い目に遭うと思うよ。」

 

なんと、実力はアララギ先生のお墨付きのようだ。これは一度闘ってみたいな……。

 

しかし、フウトの頭の中にはこの娘の事で別に引っかかる事があるような気がした。

 

それは札幌の街を見た時と少し似た感覚だった。

 

「あ、すみません。私、掃除の邪魔をしてしまいましたね。」

 

学生は部屋を出て行こうとしたが一度立ち止まった。

 

「そういえば、あなたのお名前教えていただけませんか?」

 

「イヌハラ・フウトだ。よろしく。」

 

「イヌハラさん……ですか。どこかで聞き覚えがあるような…。」

「それはさておき、よろしくお願いしますね!」

 

学生はそう言って部屋を立ち去った。

 

フウトは妙な違和感を感じつつ研究室の掃除を続ける。

 

――約1時間半くらいで掃除を終える事が出来た。

 

「おつかれ!ふうちゃん!ありがとう!!」

 

「いえいえ、このくらい大した事ないですよ。」

 

「じゃあ、とりあえず部でも見学していくかい?」

 

「見学と言わず、ぜひやらせて下さい!!」

 

「せっかちだなぁ。まあ機があればやってもらうよ。」

 

「久々にふうちゃんがガンプラバトルしてる所、見たいしね。」

 

そう言って、二人は部の練習場へと向かった。流石大学というべきなのか、室内にいくつもの筐体が置かれており、別の部屋には制作や修理する専用の場所もありガンプラに打ち込むにはもってこいの場所であった。

 

「俺が通ってた大学より環境が整ってるなあ。」

 

「まあウチの大学は最近ガンプラバトルに力を入れているからね。」

 

「俺が呼ばれたのだって、学長から部を強くしてくれって言われたからなんだよ〜。」

 

確かに、元プロで引退後は創部一年目にして高校選手権を優勝に導いたアララギ先生のキャリアなら呼ばれてもなんの文句もつけれないだろう。

 

フウトはそう思いかながらバトルスペースを見渡す。

 

個人課題に黙々と取り組んでいる学生もいれば、集団でのトレーニングや1on1で互いに腕試しをしている学生も見られた。

 

どの学生も目の色を変えて必死に取り組んでいたが中でも際立った学生がいた。

 

「そこっ!」

 

白をベースにカラーリングされたインフィニットジャスティスガンダムが3vs1で闘っている。

 

インフィニットジャスティスの方が単騎側で数的不利なのだがなんなく一機撃墜した。

 

敵側二機のザクウォリアーは撃墜されても動揺する事なく二手に分かれてインフィニットジャスティスを追い込む。

 

「はさみ撃ち……!!?」

 

「もう逃げ場はないぞ!!」

 

右側から来たザクウォリアーはヒートホークを振りかざした。

 

「――左斜め上からの攻撃……。」

 

インフィニットジャスティスは相手の動きを完全に見た後に強烈な蹴りを叩き込もうとした。」

 

「まだまだぁ!!」

 

左側からもう片方のザクウォリアーが向かってくる。

 

どうやら数的有利を活かし、右側からの攻撃は囮だったようである。

 

インフィニットジャスティスは先に攻撃しようとして来たザクウォリアーへの攻撃を急スピードで止め、距離を詰め寄る左側のザクウォリアーの攻撃を避けビーム刃のついた蹴りを入れた。

 

「まじかよ!?」

 

「ついでにこっちもいくよ!」

 

残るザクウォリアーは先の囮としての攻撃のモーションによる反動から体勢を崩したままであり、インフィニットジャスティスは素早いフットワークでこちらのザクウォリアーにも蹴りをお見舞いし撃墜した。

 

「――あれって……!!」

 

フウトは思わず声が出た。

 

相手の攻撃を最後まで見る事ができる動体視力、冷静な判断によるカウンター。

 

――そして、圧倒的なキャンセリング能力。

 

自分とここまで似たバトルスタイルとスキルを持つデューラーがいるのかと驚きを隠せなかった。

 

「――一体、何者なんだ……。」

 

バトル終了後に、筐体から髪をなびかせながら出て来たのは先ほどの女学生であった。

 

「いやー、シイナには敵わないなあ。」

 

「さっきのはいけると思ったんだけどな。」

 

「うーん、私を倒すならもう少しスピードが必要かもね。」

 

ヒナセ・シイナは余裕げに対戦相手だった部員と話す。

 

「ふうちゃん、びっくりした?」

 

面食らっていたフウトにアララギが声をかけた。

 

「まさかねえ、ふうちゃんみたいな子がまた出てくるなんてこっちも驚きだよ。」

 

「しかも、今の見切り方は正直俺より上だと思いますよ……。」

 

「そうだねえ、シイナの才能は計り知れないよ。」

 

「どう?面白くなって来たでしょ?」

 

「――これで燃えない奴はキンタマ付いてないですよ……!!」

 

「――ふうちゃん、たまに変な表現するよね。」

 

ハートに火がついたフウトを横目にアララギはボソッと呟いた。

 

「あっ、先生!イヌハラさん!」

 

そうこうしているとシイナがこちらに気づき歩き寄ってくる。

 

「シイナお疲れ様。」

 

「ありがとうございます、先生方は見学ですか?」

 

「ああ。さっきのバトルを見てぜひ君とやってみたいと思ったよ。」

 

「え!?本当ですか!」

 

「あ、でもわたし、強いから闘った後にコテンパンにされて後悔しても知りませんよ?」

 

シイナは得意げな顔をして言った。

 

「それじゃあお手並み拝見といこうかな。」

 

フウトも負けじと挑発する。

 

二人は早速筐体の方へと向かいお互いのガンプラをセットする。

 

フウトはなんとなくこのバトルを通せば今までの「違和感」の正体に気づけるような気がしていた。

 

Futot'sMobile Suit

    Justice Kaiser

      VS.

   Shina'sMobile Suit

    Justice Snow white

 

互いのガンプラをセットしカードキーを読み込む事で情報が表示される。

 

「イヌハラ・フウト、出るぞ。」

 

「ヒナセ・シイナ、出ます。」

 

二機のインフィニットジャスティスをベースとした機体が出撃した。

 

ステージは雪山。真夏の景色とは一変してフウトの頭は少し追いつかない。

 

先程の白いインフィニットジャスティスの正式名称は「インフィニットジャスティス スノーホワイト」という機体らしい。

 

白雪姫の名を冠している機体だがそこに可愛らしさはなくどちらかと言えば毒リンゴ要素の方が強いかもしれない。

 

ベースはインフィニットジャスティスガンダムだが、バックパックはファトゥムからフォースシルエットに代わっており、より空戦仕様に特化したように見える。

 

「さて、どうしたものか。」

 

フウトは先程のシイナの戦闘を見ているため自分と同じタイプ、いわゆるガンガンいこうぜと言うよりは相手の出方を伺う系のタイプである事は分かっている。

 

おそらくシイナからするとこちらはどんなスタイルか分からないため、いつも通り"待ち"から入り自分の距離に来たら刈り取る、そういう戦術だろう。

 

我慢対決といきたいところだが、フウトは一刻もはやくシイナの実力を自分の目で確かめたかった。

 

「ガラじゃねえけど、こちらから先行させてもらう。」

 

フウトはジャスティスカイザーを推進させ、シイナを探す。

 

しかし、この吹雪の中あの真っ白な機体を目視する事は難しかった。

 

フウトはしまったと思い、急いでドラグーンを射出し臨戦形態へと入る。

 

「かかった!」

 

ドラグーンが一基落とされた。

 

フウトは全く反応できなかった。

 

「何っ!?」

 

背後からスノーホワイトが突如現れ、ジャスティスカイザーに飛び蹴りを入れる。

 

「雪のステージでわたしに仕掛けようなんて100年早いよ!!」

 

さらにシイナは連続して攻撃してくる。

 

フウトはこれに対しシールドで防御しながらドラグーンによる射撃で体勢を立て直す。

 

お互いの機体に距離ができた。

 

この世界では、互いの機体の距離感において決定的な攻撃のチャンスを伺える距離を「バイタルエリア」と呼んでいるのだが、この二機にとってのバイタルエリアはカウンターやキャンセリングが可能な距離で案外狭い。

 

お互いに自分のバイタルエリアに侵入するか、あるいは呼び込むかが重要なのだが、フウトにはバイタルエリアを無視できるドラグーンという武装がある。

 

これを使えば有利に戦いを進めれるが、フウトはあえてそれを選ばなかった。

 

「いくぜ!シイナ!!」

 

ジャスティスカイザーはスノーホワイトに対して突撃する。

 

「真っ向からくる!?」

 

シイナはてっきりドラグーンで来るとばかり思っていたため少し反応が遅れた。

 

「てぇぇい!!」

 

フウトは得意の距離でビームサーベルで斬りかかる。

 

しかし、反応の遅れたシイナはこの攻撃にしっかりとアジャスト。切り払い一旦後ろへ距離を取る。

 

「まだまだぁ!!」

 

フウトは果敢に詰め寄る。

 

しかし、シイナは攻撃を一つ一つ避ける。

 

「もらった!!」

 

シイナはフウトの一瞬の隙を突きカウンターに出る。

 

しかしこれを見たフウトはすかさず攻撃をキャンセルしカウンターを避けさらなるカウンターを決め込んだ。

 

「嘘でしょ!!」

 

シイナは先程のカウンターで優位に進められると思っていたが逆に自分の得意な形を決められた事に驚きを隠せなかった。

 

「だったら!」

 

シイナはバックパックと本体を分離し、地上へと降りる。

 

「どう言うつもりだ?」

 

「だけど、ここはいくしかねぇ!」

 

誘いだと分かっていても、フウトはシイナについて行く。

 

地上に着いた2機はお互いを睨み合い、様子を伺う。

 

雪の景色と、雪の音だけがステージ内に響く。

 

「いくぞぉ!!」

 

先手をかけたのはフウトの方だった。両手にビームサーベルを持ち突撃する。

 

「負けないっ!」

 

シイナもフウトの怒涛の連続攻撃に対峙する。

 

お互いに隙を見てはすかさずカウンターを入れようとするがそれを阻止される。

 

――こんな闘いは二人にとってはじめてだった。

 

「そこだぁぁぁっ!!」

 

フウトが渾身の一撃を力押しで叩き込み首から肩にかけてビームサーベルで切り裂いた。

 

「胴がガラ空きだよ!!!」

 

これにはシイナも反応できなかったが負けじと応戦し、フウトとは逆側の腕で空いた胴へと切り掛かる。

 

「まだまだぁ!!」

 

フウトはビームサーベルを連結させ、薙刀のように回転しながら攻撃をする。

 

こうする事でビームサーベルの回転が相手の攻撃を弾き返すこともできるためカウンターにも対応できる。

 

「でもそれはこちらもできる事!」

 

シイナもビームサーベルを連結させ回転攻撃を繰り出す。

 

お互いが入れ替わる瞬間、この攻撃はそのタイミングで勝機を決する。

 

「――そこっ!!」

 

シイナはフウトの動きを見切り、フウトの回転とは逆回転に回り攻撃をヒットさせた。

 

「まじかよ!!」

 

「これで、終わりだよ!!」

 

シイナはバックステップを踏み、腕を上げそれを振り下ろした。

 

その瞬間分離していたフライトユニットがジャスティスカイザーに猛スピードで突撃していった。

 

「!?」

 

ドーーン

 

爆発音が聞こえ、シイナは勝利を確信した。

 

しかし、バトル終了の合図はない。

 

「甘かったな。」

 

白い吹雪の中から深紅の機体が顔を出す。

 

ジャスティスカイザーの眼光が鋭く光る。

 

「こいつで終わりだ!!」

 

「反応なんざいくらでも越えてやるよ!!!」

 

そういってフウトはシイナの機体に左腕を振りかざし、渾身のストレートを決めた。

 

「そんなっ……!!」

 

――battle end――

 

winner Inuhara Futo

 

勝者はフウトであった。

 

圧巻の勝利である。

 

「すげぇ、シイナを倒したよ。あのおじさん。」

 

「まじかよ、一体何者!?」

 

ざわざわと観戦者たちが静かに騒ぐ。

 

「シイナ、対戦ありがとう。楽しかったぜ。」

 

「こちらこそ、こんなバトルはじめてでした。」

 

「でも、最後の一撃をどうやって?」

 

「実は、ジャスティスカイザーの腰のリアスカートには隠しドラグーンを装備させているんだ。」

 

「少しギャンブルだったけど、今回は成功したみたいだ。」

 

「――なるほど、それはやられました。」

 

「あの攻撃は自信があったのになぁ。」

 

シイナは少し残念げな顔をする。

 

「――あの攻撃……?」

 

フウトの頭の中でピーンと来た。

 

確かあの攻撃は、昔ホームレスだった時に女の子を助けた時に自分が繰り出した攻撃だった。

 

バトル中はそれどころでなかったが、言われてみればあれは自分がやったものと同じである。

 

しかも、モーションまで同じであった。

 

「ま、まさか。」

 

「その……シイナ?」

 

「なんです?」

 

「君、昔世紀末伝説に出てきそうな輩に絡まれた事はなかったかい?」

 

フウトは単刀直入に聞いた。

 

――ゴクリ。

 

 

「――その、うまく言えないんですけどあったと思います。」

 

「え?」

 

予想外の返答にフウトは思わず目が点になった。

 

「――実はわたし、記憶が所々無くて。」

 

「その時誰かに助けて頂いた事があって、さっきの攻撃もその方がトドメとして使っていたような、無かったような……。」

 

シイナは自信なさげに首を傾げながら言う。

 

フウトは自らにガンプラへの情熱を再び与えてくれた出会いに思わぬ形で邂逅することとなったのであった。

 

「あの、イヌハラさんどうかしました?それにさっきの事を何故……?」

 

「いや、何でもないんだ。そう言うことも良くあるよなって話だ。」

 

「良くあるんですか!?」

 

フウトは本当の事を言わなかった。

 

自分にとっての出会いの意味を彼女に押し付けたくないと思ったのだ。

 

それは、よく晴れた、夏の日のことだった。

 

続く

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




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