フウトはアララギと共に部内のバトルスペースへと移動していた。
名将「ミハイロ・ペトロヴィッチ」
年齢は既に70歳と高齢になるが、ガンプラへの愛情はまだまだ現役。現在も北海道を中心にプロデューラーへの指導を行なっている。彼の最も得意とする戦術は「超攻撃的ガンプラバトル」
どちらかと言えば守備的な戦術を用いるフウトとは一見相性が合わなさそうであるが、強くなるためにはこれまでとは違いを生み出せる「変化」が必要であるとフウトは思っていた。
二人が部内のバトルスペースに着くとそこには大柄の老人が既に待っていた。
そして、こちらを見てにこやかに歩き寄ってきた。
「アララギジュニア、久しぶりだね。」
「ミハイロさん、こちらこそご無沙汰しております。」
「君の指導者としての手腕は聞いているよ。私も負けていられないな。」
「いえいえ、まだまだミハイロさんには遠く及びませんよ。」
敬語を使って話すアララギを久しぶりに見たフウトはポカーンとしていた。
いまや、大学の監督をやっているような人で過去のキャリアも含めるとこの人以上はこの世界にはほとんどいないとフウトは思っていたのだ。
世界は広いものだ。
「そういえば、お父さんのクロスケは元気かい?」
「ええ、父もまだまだ現役です。たまにはお店の方に顔を出してやって下さい。きっと喜ぶはずです。」
「そうだね、若い頃はお互い意識し合っていたけど今となると積もる話もあるだろうしね。」
フウトは二人の話に聞き耳を立てていた。
「アララギ・クロスケ」
――確か元日本のプロファイターでアララギ先生のお父さんだったなと思い出す。
現在の年齢は大体ミハイロさんと同世代のため先程の話を聞くと現役時代のライバルだったのだろうか。
当たり前のことであるがいつになってもライバルというものは消えないものなのだなとフウトは思う。
「――あぁ、いかん、いかん。与太話をしてしまったね。」
「いえいえ、とんでもない。」
「今日はジュニアではなく君に用があるのだよ。」
ミハイロは大きな体をこちらに向けフウトの目を見て言った。
流石、外国人というべきであろうか。目が大きくて目が合うと少し緊張する。日本人とは目力が違う。しかもこの歳になると眼力に深みのようなものまで現れる。
――やはりこの人、只者じゃない。
数秒間沈黙の中、目があったままで時が過ぎる。
フウトにはその時間がいつもより遅く感じた。
何か試されているような、そんな気がしてならないのだ。
「――いい目をしている。合格だ。」
「ありがとうございます。」
そう言われて一気に緊張感から解放されたフウトは息を吐く。
「実はこの前、君の闘いを見せてもらった。」
「ふうちゃんがはじめてシイナと闘った時、ミハイロさんが見にきていたんだ。」
「君と闘っていた彼女の方もかなりのポテンシャルを秘めていると感じたが私は君に興味を持った。」
「理由は簡単。」
「君の気持ちの入ったバトルスタイルそれが見ていて気に入ったからだ。」
え、それだけですか。
フウトは言いかけたが流石に口には出さなかった。案外、何が誰に刺さるかなんて分からないものだなと改めて実感した。
「まあ、そういう話をして頂いて俺の方からふうちゃんに指導したらどうですかって提案したわけ。」
「あれはナイス提案だったよ、ジュニア!」
「なるほど、分かりました。それではご指導の方、よろしくお願い致します!」
「こちらこそ、よろしく頼むよ。」
「――ええっと……?」
「イヌハラ・フウトです。」
「――イヌハラくん、改めてよろしく。」
こうしてミハイロさんと挨拶を交わし、さっそく手解きを受けることになった。
今回ミハイロがフウトに教えることは一つ。
――ブレードの使い方。
つまり、近接戦闘用の武器の扱い方だ。
フウトは自分の戦闘スタイルとは違うこともあり、これまでブレードと呼ばれるような剣を扱ったことはほとんどなかった。
既にミハイロさんは、GPDにガンプラをセットし準備は完了していた。
「Are you ready?」
ミハイロさんが声を掛け、フウトは少し慌ててジャスティスカイザーをセットし出撃準備をする。
ジャスティスカイザーは軽やかにトレーニング用のフィールドに飛び出していった。
一方でミハイロさんが扱うのは何の変哲もないアストレイレッドフレーム。
おそらく素組であると思われるが、ミハイロさんは機体の完成度よりもデューラーの能力が勝負を決定づけると言いたいのだろうか。そんな事を思うフウト。
トレーニング用のステージは空間がそもそも狭く、障害物のないシンプルな構造となっている。
故に、二機が地上に降りる頃には既に面と向かっていた。
「イヌハラくん、使い方の基本は分かるな?」
「ええ、なんとなくですけど。」
「なら、まずは思ったようにやってみなさい。」
フウトは先程ミハイロから貸してもらったブレードを左手に握り、勢い良く飛び込んだ。
しかしミハイロはその攻撃を軽々しく避ける。
フウトは当たらなくてムキになりさらに接近してブレードを振るう。
――当たらない。
「なんで当たらない……!?」
フウトはブレードというのがこんなにも当たらないものなのかと思い知らせる。
若干焦るフウトをよそ目にミハイロはブレードを闇雲に振るう隙を見切っていた。
「そこだッ!」
「……ッ!?」
閃光の如くアストレイレッドフレームは神業的な居合斬りをみせた。
「見事だ。」
見事。ミハイロがそう評したのはその完璧なまでの居合い斬りを掠りはしたものの避けたフウトの事を指したのであった。
「やはり君は"いい眼"をしている。」
「それは君のスペシャルだ。そしてそれにはもっと使い方がある。」
ミハイロはここでもフウトを試したのだろうか。
闇雲にブレードを震わせ居合斬りを行う。そしてその攻撃にフウトが反応する事まで読んでいたのだ。
「しかしこれでは。」
「それではヒントだ。イヌハラくん。」
「――脱力。」
そう言って次はミハイロさんの方から攻撃を仕掛けてきた。容赦がない。
レッドフレームは次々に自らのバイタルエリアに侵入し斬撃を繰り返す。
右、左、斜め右、縦。
流石のフウトもこの高速攻撃についていく事がやっとだ。
しかしフウトは攻撃を受けながらミハイロの動きを観察していた。何事も意味を持って行動しなければ何も生まれない。
フウトはこの攻め込まれる時間さえも何か盗めるものは無いかと思っていたのだ。
アストレイは軽やかな動きをしながら斬りかかる攻撃の時には強く踏み込んで刀を振るう。
――軽やかな動きと強い踏み込み。
「――フウトくん、ブレードってのはな『柔』と『剛』なんだぜ。」
どこかで聞いた言葉が頭の片隅を巡る。
レッドフレームがバックステップを取り距離を置いたその瞬間、ジャスティスカイザーはここぞと言わんばかりにバーニアを推進させ距離を詰めた。
「何と!?」
「強く踏み込むッ……!!」
バーニアの推進力を生かし地面へとついた片足にそのパワー蓄えさせる。
――そして一気に解き放つ……!!
「うおぉぉぉぉ!!」
ジャスティスカイザーは見事な体重移動を行いアストレイレッドフレームの右腕を切り落とした。
ここで一旦、バトルフィールドは強制終了され二人は筐体から出ていく。
「ふぅ……。」
「これは驚いた……。」
「あの短時間で私の技を盗んでいったとは。」
「どうです、うちのふうちゃん?」
アララギは自慢げな顔をしていた。
「いい眼をしているとは思ったがここまでとはね。」
「はじめてにしては上出来、というより期待以上だよ。」
「いえ、ミハイロさんの踏み込みに比べたらまだまだです。」
「あの時ミハイロさんが油断していなければあの攻撃は浅い一撃になって後ろに抜けてました。」
「ハハハ。もうそこまで気づいているとは。」
「ますます君の事が気に入ったよ。」
「明日もまた来よう。」
そう言ってミハイロさんは上機嫌に立ち去っていった。
「どうだった?ミハイロさん?」
「なんというか、凄い人ですね…。」
「何その小学生みたいな感想は。」
「でもまあ、本当に凄い人には、言葉も出ない時もあるしね。」
アララギは遠くを見てそう言った。
アララギ先生にもそんな風に見える人もいるのだなとフウトは少し驚く。
「それじゃあ、一週間。」
「え?」
「一週間で今日教わった事をマスターする事。」
「また無茶な……。」
「でも、やりますよ。」
フウトは笑ってそう答えてみせた。
この男の真に強いところは底なしのメンタリティなのだろう。
「それでよし。」
「一週間後に試し相手としてとっておきのゲストに来てもらうから楽しみにしててね。」
「そのとっておきのゲストさんとやらは泣いて帰る事になりますよ?」
アララギは言ったなとニヤニヤしながらフウトの顔を見る。
フウトもまた今日の手応えを忘れないようにとすぐにGDPの筐体に向かう。
フウトがトレーニングを終えた頃には夕暮れ時となっていた。ステップの踏み方や間合いにはまだ慣れないものの今日だけでかなりのものを得たとフウトは実感していた。
明日のトレーニングも楽しみだなと思いながら休憩室の横を通るとそこにはヒナセ・シイナの黙々と作業している姿が見えた。
「作業か?」
「あ、イヌハラさん。お疲れ様です。」
「いまスノーホワイト用の新しいバックパックを作っていて。」
「へぇ、少し見せてもらってもいいか?」
「はい、まだ作りかけですけど…。」
そう言ってシイナが見せてくれたのは、ファトゥムをベースにAGE2やウイングガンダムの羽などを追加し全体的に機動力をかなり底上げしたものであった。これからどうなるのだと見ているだけでわくわくする。
「どうでしょうか…?」
「そうか?すごくいいアイデアだと思うしまたこの機体と戦いたいな。」
「本当ですか!?イヌハラさんに褒められた!」
自信なさげな顔が一変、エヘヘと笑うシイナ。
今日もとても可愛らしく笑う。
「そういえばイヌハラさん、ミハイロさんに指導してもらってましたよね?うらやましいな〜。」
「ああ。近接武器の使い方がとても勉強になってな。マスターしたらシイナにも教えてやるよ。」
「でもイヌハラさんから教わるとイヌハラさんに勝てない気がするのでミハイロさんに教わりたいです!」
「そうなると、どっちの理解度が高いか浮き彫りになるな。」
「うっ…。でもイヌハラさんにはぜーったい負けませんよ!」
「そりゃ、楽しみだな。」
2人は負けず嫌いなのである。生粋の勝負師といったところだろうか。ただの意地の張り合いと言われるとそこまでの話であるが。
シイナもここ最近かなり力をつけておりフウトもうかうかしていれないと思っていた。
「そういえば、イヌハラさんはこの夏予定とかあるんですか?」
「そりゃ、ガンプラ以外ないだろ。」
「……。」
「ん?なんか変なこと言ったか?」
「いえいえ、好きですよねー、ガンプラ。」
「シイナも好きだろ?」
「もちろん好きですよー。」
「――そういう話じゃないんだけどな……。」
シイナは眉を細めて小声で呟く。
「うーん、そうだな。この時期になるといつもなら墓参りに行くんだけどな。」
「お墓参りですか……?」
「死んだ両親の墓には毎年行くようにしてるんだけど今年は遠いしな。」
「あ、すみません…。そんなこと言わせちゃって…。」
「気にするな。両親が亡くなったのは何十年も前の事だ。」
「それにこんなザマになった俺の顔を親にみせるのも少し恥ずかしいしな。」
「そんな事ないですよ!イヌハラさんは立派ですよ!」
「行きましょうよ、お墓参り!私もついていきますから!イヌハラさんが頑張ってるって事お父さんとお母さんに言わなきゃです!」
「シイナ……。」
「そうだな、また時間が空いたら行こう。でも遠いぞ?なんたって四国の隅っこだからな?」
「以外と遠かった…。でも行きましょうね!」
お墓参りに行く約束をしてしまった。本来1人で行くところを若い女の子を連れて両親の墓に行く方がまずいのではないかと後になってフウトは思った。でもまあ両親に顔を出さないのもそれはそれで親不孝というものだ。
そうこうしていると、シイナは片付けをはじめて一緒に帰ろうと言う。時計を見るともう7時を回っていた。時が経つのは早いものだ。
シイナとたわいもない話をする。ガンプラのこと、学校のこと、清掃の仕事のこと。
――夕日に照らされた少し早い秋風が2人を照らす。
「イヌハラさん、またボーッとしてますよ。」
「ん、あぁ。そうだな。」
「そうだな。じゃないですよまったく。」
「じゃあわたしはこっちなので失礼しますね。」
「気をつけて帰れよ。」
「そう言うなら送ってくれてもいいんですよ。」
「俺みたいなのが大学生を連れて住宅地を歩いてたらお巡りさんに声かけられそうだしやめとくわ。」
「なんですか!その自虐!」
「まぁ、いいですよ。わたし1人で帰りますから…。」
シイナはチラッとこちらを見る。フウトは気づかないフリをする。
「おう。じゃあな。」
「……ほんとに送ってくれないんだ。」
一人で帰る途中フウトの頭の中にはジャスティスカイザー用の新たな武装のアイデアが閃いていた。
きっかけはシイナのスノーホワイトを見てからだった。大きなウイングパーツ、そしてブレードを収納できるバックパック。使い慣れたドラグーンを装備できるとさらに良い。そんなことを考える。
「いや。待てよ……。もしかすると。」
フウトはニヤリと笑い、寮に急いで戻った。
「――あ、もしもし?今週末暇だったりする?」
「――いやあ、ちょっと会って欲しい人がいてね。」
「――そうそう、驚いたでしょ?どう?合う気になった?うんうん、じゃあ今週末に大学に来てね〜。」
ガチャ。電話をしていたのはアララギだった。どうやら今週末に呼ぶスペシャルゲストのアポイントメントを取っていたらしい。
「さーて、面白くなってきたねえ。」
狭い研究室で1人アララギはニヤニヤしていた。
――一週間後
「よし。」
一週間みっちりと濃いトレーニングを行ったフウトの顔は自信に満ちていた。
やれることはやった。あとは試すだけ、そういった心持ちであった。
「――それに、新しい武装も何とか間に合った。これでさらに上を目指せる。」
フウトはアララギに指定された大学のバトルスペースへと向かう。
今日の対戦相手が誰であろうと関係ない。どんな奴でもかかってこい。そんな強い気持ちで臨んでいた。
しかし、そこにいたのはフウトの予想を遥かに超えるものであった。
「お、ふうちゃん久しぶり。」
「フウトくん、久しぶりだな。」
「え!?」
フウトは思わず声が出なかった。
そこにいたのは高校時代の先輩「フシカワ・テルキ」と「ユタ・タロウ」の2人であった。
「ふうちゃん」と呼ぶのがテルキの方で「フウトくん」と呼ぶのがタロウの方である。
この二人は高校時代、兄が創部したガンプラバトル部に所属しておりそこに自分を含めた4人でチームを結成し全国大会でも優勝を遂げた戦友である。卒業後は二人ともプロにはならなかったもののそういったものに限りなく近い実力を持っていることはフウト自身が1番よく知っている。
ちなみに二人とも部内ではライバル同士でなにからなにまでよく張り合っていた。
「お、びっくりしてる。」
「おじさんの顔になったけどそう言う反応は昔と変わらないね。」
「なるほど、2人が今日のスペシャルゲストってわけか……。」
アララギにしてやられたと、心からそう思った。
「そういうこと〜、2人とも遠くから可愛い後輩のために駆けつけてくれたってわけ。」
「アララギ先生はいつになっても人使いが荒いんだから。」
「ほんとそれだな。まあフウトくんと久しぶりに会えると思うと楽しみだったけどな。」
「俺もお二人と会えて凄く嬉しいです。」
「ふうちゃんが交通事故にあってからは表舞台からは姿を消したって聞いてたけど、いい顔つきを見れてよかったよ。」
テルキが言った言葉にタロウも無言で頷き続けていう。
「それじゃあ早速だけど、久しぶりにプロデューラーの実力を見せてもらおうかな。」
そう言って二人は筐体へと向かう。
「もしかして、これって2vs1で対戦するんですか……?」
「まあ、この試練を乗り越えてこそだよね。」
「スペシャルゲストには泣きべそかかせるんでしょ?」
相変わらず無茶な人だ。
でもやるしかない。やると言ったのは自分なのだ。
「誰が相手でもやってみせますよ。」
「こんなところで立ち止まれませんから。」
そう言ってフウトも筐体へと向かう。
向かう途中で観戦席をふと見ると観客も入っておりがそこにはシイナやミハイロの姿もあった。
こうした観客のいる状況はフウトにとって久しぶりであった。
人に見られて戦うという状況、自分以上の実力を持つデューラーとの対戦。全てが公式戦に近いものだった。
「フウトさん、がんばれーー!!」
「あれって全国大会優勝者のフシカワさんとユタさんじゃないか!」
「伝説の不死鳥、海賊コンビが見れるなんて!」
「先輩、後輩対決なんてアツすぎるでしょ!」
始まる前から大きな歓声が聞こえる。
本当に久しぶりだ。
――そして相手はテルキさんとタロウさん。
「こんなの燃えないわけがないだろ!」
「スイッチが入ったみたいだな。」
「イヌハラ・フウトの実力、見せてもらうよ!」
3人はカードキーを差し込み。自らのガンプラをセットする。
「相棒、俺たちの新しい姿を見せてやろうぜ…!!」
Futot'sMobile Suit
Justice Kaiser Infinity
VS.
Teruki'sMobile Suit
Bild Disteny gundam
and
Taro'sMobile Suit
Hainlihi
三機は勢いよく発進した。
今回のステージは宇宙。
「ジャスティスカイザー……?」
「俺たちの知っているカイザーとはまた違うみたいだな。」
――フウトが新たに完成させた「ジャスティスカイザーインフィニティ」
果てしないこの世界の頂点に立つ。それがこの「インフィニティ」に込められた想い。
オオワシユニットをベースに空戦、宇宙戦に高い適性を持ち、2本のブレードとシラヌイのドラグーンを装備した新たなジャスティスカイザー。
そして、三機とも高校時代から愛用している機体。
――これもまた運命なのだろうか。
「ふうちゃんも遊んでたわけじゃないみたいだね!」
テルキのビルドデスティニーが早速ジャスティスカイザーを発見しビームライフルを発射する。
しかしこれをなんなく回避。フウトは距離を保つ。
テルキのビルドデスティニーはデスティニーガンダムをベースにした機体でいわゆる万能機体。光の翼による高機動戦闘やパルマフィオキーナのような必殺技も持ち合わせており厄介である。さらにテルキは積極的に仕掛けてくるタイプで加えてかなり打たれ強い。
一方のタロウのハインリヒはかなりカスタムされた機体で、その外見は「海賊」。髑髏マークが禍々しく金色の大剣を装備し近接戦を得意としている。そしてタロウ自身も攻撃的なバトルスタイルでガンガン押してくる。
つまり、自明であるがこの二人を同時に相手するというのはかなり至難の技であるということである。学生時代もこの二人のコンビを止められるものはそうそういなかった。
「隙ありッ!」
ハインリヒが距離を詰めて黄金の大剣で斬りかかる。ジャスティスカイザーはなんとか切り払いバックステップをとる。
「……!?」
続いてビルドデスティニーが眼光を鋭く光らせ左手からパルマフィオキーナをジャスティスカイザーの頭めがけて放とうとする。
開幕から容赦がなさすぎる。
しかしその一瞬を見切ったフウトは左手とは逆に避ける。
「フェニックス!いまのは決めるところだろ!」
「うるせえな、海賊!相手はふうちゃんなんだよ!」
バトルになるとお互いを蔑称で呼びあう。二人が序盤から激しい攻撃を展開するのはフウトの反応速度の厄介さを知っているからだ。
「続けていくぞ、フェニックス、ちゃんと合わせろよ。」
「そっちこそ!」
二人はモニターに映る相方の顔を横目で確認し突撃する。
この動きを見てフウトも前へ向かう。
「イヌハラさんが前に出た!?」
試合を見るシイナは驚く。それもそのはず。今までのフウトであれば距離を保って必殺のカウンターという戦法であったが今回は距離を詰める。
「ほう、面白いッ!」
ハインリヒは真っ向から直線的に向かってくる。そしてその後ろからビルドデスティニーは腰に装備されたレールガンで援護射撃を行う。これでジャスティスカイザーの動きは制限される。
「くらえよッ!」
ハインリヒはそのまま大剣を豪快に振るう。
ジャスティスカイザーはその攻撃に対しバックパックの二本のブレードで受け止める。
「相変わらずのパワーだ……。」
一瞬押し切られそうになるパワー。剛剣とはこの事だろうか。しかし一つの攻撃を受け止めてもさらに攻撃は続く。
――援護に回っていたビルドデスティニーが突如ハインリヒの背後からアロンダイトを構えこちらに斬りかかる。
この連続攻撃の連携は昔から2人が得意としているものだ。
特に背後からスペースをうまく詰めるのがテルキのお箱芸である。
「それは予測済みだッ!!」
そんな攻撃をフウトはブレードを構えアロンダイトの動きを見て華麗に避ける。
「読まれていたッ!?」
この一週間、相手との距離を詰めてブレードによる豪快なカウンターを何度もやってきた。
回るように避けたジャスティスカイザーはその捻りを生かしてブレードをビルドデスティニーに叩き込む。
「させるかよッ……!!」
完全に決まったはずの攻撃をハインリヒが無理やり割って入りカウンターを阻止する。
これにはフウトも面食らう。
「借りを作っちまったな。」
「なぁに、次行くぞ。」
今の攻撃がヒットしなかったのはフウトにとってはかなり痛手である。いくらタフなテルキでも今のを貰えばタダでは済まなかったはずだ。
「面白くなってきたな…!!」
フウトはこの状況を楽しむようにニヤリと笑い、次はドラグーンを射出する。射出した四基のドラグーンは二機の距離を離させるように射撃を行う。
的確な射撃がそれまで機能していた二機のコンビネーションを破壊していく。こうすることで単騎突入をさせ一機ずつ仕留めるというのがフウトの作戦であった。
二機ともドラグーンに応戦するが苦戦を強いられている。そしてその間前衛に出ているハインリヒへとジャスティスカイザーは突撃する。
「まずい…来たッ!!」
「大事なのは……。」
「――脱力。」
フウトはブレードを片手に構え猛スピードでハインリヒへと近寄りターゲットとする。
ハインリヒは装備されたハンドガンを発射。しかし接近された距離であるが当たらない。
「当たらないだとッ!?」
射線を読まれているかもしれないという焦りがタロウのメンタルを一瞬襲う。しかしこの緊迫した状態で思考を冷静にリセットする。これまでの経験がタロウを落ち着かせた。
タロウは息を飲みもう一度ハンドガンの引き金を引く。
「…っと。」
二度目も当たらない。完全に射線を読まれているのか。
――なら三度目は。
「全部見えてるんだよッ!!」
フウトはハンドガンの弾を叩っ斬った。
フウトの読み、反応、動体視力が遺憾なく発揮された瞬間であった。
「何ッ!?」
「強く……」
「踏み込むッ……!!」
ジャスティスカイザーはその勢いのままバーニアを加速させブレードを振るう。
無重力地帯にも関わらずそこにはまるで地面があるような踏み込みが対象物に重い一撃を与える。
―Hainlihi down―
「たった一撃でやられるとはな……。」
「『柔』と『剛』俺が昔言ったこと出来るようになってるじゃないか…。」
一撃必殺。それが「斬」の極意。
力づくではないしなりのある一撃。
まさに「柔」と「剛」
これがフウトの新たな必殺技であったのだ。
「フェニックスすまない…あとは頼む。」
「任せろ海賊……。」
「――ふうちゃん、見ないうちに大きくなったもんだ。」
ビルドデスティニーはドラグーンの妨害を何とか振り切りジャスティスカイザーと距離を取る。
ジャスティスカイザーもドラグーンを引っ込め一旦距離を取る。
今の攻撃を見た後では不用意に距離を詰めることはできない。
しかし戦いとは常にセオリー通りに進むわけではない。
「いくぜ、ふうちゃん!もっと見せてくれよ!!」
そんな事は気にせずこちらへと向かってきた。
「――変わりませんね……!!」
テルキはどんな時にも立ち向かう性格であった。忘れていたわけではなかったがこうして対峙すると昔に戻ったような気になる。
「うぉぉぉぉぉおおおおお!!」
「こいつを持っていけぇぇぇぇええ!!!」
ビルドデスティニーは光の翼を天界し両手のパルマフィオキーナのエネルギーを球状に変換していた。そして、その巨大なエネルギーの塊をジャスティスカイザーに向けて投げつけてきた。
「――これは……。」
その強大すぎる塊を見て一瞬唖然となる。
思考停止。この世にはどうにもならない事もあるのだろうか。
どんどんその球体は迫ってくる。
――3…2…1……。
ドーン。
とてつもない衝撃音が響く。
「やったか……?」
笑みをこぼすテルキをよそにドラグーンによって形成されたバリアーがジャスティスカイザーを守っていた。
「はぁはぁ……。」
「まだ、戦える……?」
フウトの防衛本能がとっさにドラグーンによるバリアーを形成してしたのだ。フウト自身も何が起こったか完全に理解できていない。
とはいえ、完全に防御できたわけではなく、ほぼ無傷のビルドデスティニーとは反対に機体の損傷は激しく傷だらけだ。
この状況でやれる事はただ一つ。
戦術云々よりも執念で勝利を掴みに行く事。
フウトは笑っていた。このギリギリのバトルを心から楽しみ、強敵との戦いが限界の先を引き出していた。
「テルキさん、いきますよ!!」
ジャスティスカイザーはバックパックの装備を解除して身軽な状態で二本のブレードを持ち距離を詰め寄る。
「こい!ふうちゃん!」
ビルドデスティニーは無傷ではあったものの先程の攻撃でエネルギー切れを起こしており動きが鈍かった。
「もらった!」
ジャスティスカイザーの鋭い攻撃がビルドデスティニーを痛めつける。酸欠状態のビルドデスティニーは半ばタコ殴りにされるが全く沈まない。このタフさが「不死鳥」といわれる所以なのだろうか。
「いい加減に沈めよッ!!」
ジャスティスカイザーは踏み込み攻撃を入れる。しかし、パワーダウンもあり踏み込みが浅く決定打に欠ける。ビルドデスティニーもやられっぱなしというわけではなくその隙をついてビームサーベルで反撃する。
お互いに譲らない、泥臭い戦いであった。
「こいつでしまいだァッ!!」
一瞬よろけたジャスティスカイザーの動きを見逃さなかったビルドデスティニーは最後の力を振り絞りパルマフィオキーナを放つ。
「負けるかよッ!!」
「動いてくれ、カイザー!!」
そう呼びかけた時ジャスティスカイザーの眼光は光り攻撃を放つ左腕をビーム刃のついた脚蹴りで一蹴する。
「今だっ!!」
フウトは分離していたバックパックをここぞと言わんばかりにビルドデスティニーへと超スピードで突撃させた。
「勝つのはおれだぁぉぁぁ!!!」
――battle end――
winner Futo
「うおーーーー!!」
「すげぇ!!2体1で勝ったぞ!!!」
「テルキさんもタロウさんも凄かった!」
バトル終了の合図と共に歓声が聞こえる。
こんな歓声を聞いたのはいつぶりだろうか。
「ふうちゃん、ナイスバトルだったよ。」
「フウトくんがこんなにも成長しているとは思わなかったよ。」
2人がバトルを終えてこちらへと向かってくる。
「こちらこそ、本当に楽しかったです。」
フウトは満面の笑みで応えた。
「3人ともお疲れ様ー。教え子同士が戦うのはどっちを応援していいかわからないもので複雑だねぇ。」
「いや、先生が用意した場ですよね?」
「まあまあ、ユタくん、細かいことは置いておいて。」
「とにかく、ふうちゃん、一週間でよくここまでやったね。」
「一週間?なんのことです?」
テルキが不思議そうに聞く。
「あぁ、ブレードの扱い方ですね。」
「えぇっ!?」
「あの技を一週間でものにしたのか!フウトくん!」
「まぁ、なんとか。」
「末恐ろしい子だ…。」
「確かにふうちゃんは昔から飲み込みが早い方だったけど……。」
2人は少しショックを受けた表情だった。
「さて、ふうちゃんにはもっと強くなってもらわないと困るから頑張ってもらうよ!」
「はい!」
フウトにはささやかながらかつての自信が戻ってきたようだった。
――そして真にガンプラバトルを楽しむという感情も。
――一方アメリカでは
青い髪の青年が時差のあるメールを読んでいた。
「――なるほど。遂にふうちゃんが動きはじめたか。」
「――会える日が楽しみだな。」
(続く)
Instagramにて作中の機体やキャラクターのイラストなどを掲載しております。
n_mokey