外伝の外伝って何だ。
それはイヌハラ・フウトが北海道に来てから3週間ほど経ったある日の事であった。フウトは午後のトレーニングを終えバイクでたぬき山へと向かっていた。
たぬき山とはフウトが毎朝ランニングコースとして愛用しているところであるが、奇妙なことにこの山には"ある噂"があった。
「――たぬき山の奥にはねえ、お化けが出るっていうねえ〜。」
「そんな馬鹿な。」
「ほんと、ほんと。日が落ちそうな時にいつもは無い道があって、そっちに行くとこの世に戻れなくなるとかなんとか。」
アララギは子供に怪談話を話すように語る。それを冷めた目で聴くフウト。
しかし、日が暮れたたぬき山が少し不気味なのは納得できる。朝の爽快感とは裏腹に何か出そうな、それこそ幽霊なんてものが出そうな雰囲気を醸し出している。
とはいえ、気になったら行動するのがフウト。嘘か本当かは自分の目で見極める。
それが清掃員流だ。
ブーン。
いぬこ号をさらにたぬき山の奥へと走らせる。
「確かこの辺だったよな。」
スーッ。
「……?」
フウトは目が点になった。道が増えたのだ。
いや、出来たというべきか?直線しかなかった道に急に分岐点が生まれたのだ。
「へぇ、こいつは面白くなって来たな。」
フウトはさらにいぬこ号のエンジンを蒸す。メーターは60キロを指していた。分岐点に入ると、あたりは急に暗くなり、先ほどまで聞こえていた鳥の囀りも静まり返った。
――暗い森、というよりは黒い森の中に入ったようだ。
ただ黒い森の直線の中を走り続ける。
ガタッ。
「あちゃー、バイク故障したか?」
どうやら、バッテリーが弱っているようだ。替えのバッテリーがあれば修理はさほど難しく無いが、近くにバッテリーの替えを扱っているような業者はない。しかも、フウトはつい三日前にバッテリーを交換したばかりなのだ。この故障はあまりにも不気味であった。
「もしかして、これやばいやつか……?」
柄にもなく怖がるフウト。恐る恐る足を一歩一歩踏み出していく。
「いいか?フウト?幽霊なんてのはいない。こうやって自律神経が乱れて、幻聴が聞こえだしたり視界が悪くなって来た時に自分を自分で陥れるのが"幽霊"だ……。」
「落ち着け、落ち着け……。」
「――おち、つ……。」
バタッ。
フウトはその場で視界をくらませ、倒れ込んでしまった。
「――ここは?」
フウトが気がついた時、あたりには美しい草原が広がっていた。
どこまでも続く草原。逆に不気味である。
「――もしかして、俺死んだ?」
冗談では無い。まだまだこれからという時に死んでたまるものか。
――果たしていない約束も、夢の続きも、救ってあげたい人も。
フウトは少し当たりを歩いてみた。歩いてみるが何もない。驚くほど何もなかった。
「ん?」
しかし、前方斜め前に、人影が見えた。
「もしかして、天使か……??」
恐る恐る、人影に近づく。
誰もいない深夜の夜に急に人影が現れると怖くなるのと同じ感覚が今まさにフウトを襲う。
「あのォ…?」
大の大人が小さな声で声を掛ける。
「どうかしましたか?」
人影の正体は、天使でもあくまでも無さそうだった。顔立ちの整った、ウチヤマ・ユウくんくらいの年頃の少年だった。
「なんか迷い込んだみたいなんですけど、帰り道とか……知りません……?」
「帰り道ですか……。」
「それはこれに聴いてみると良いですよ。」
何やら重低音が響き、当たり一面が真っ暗になり、気づけばGPDの操縦スペースに立っていた。
「これは一体……?」
フウトは生唾を飲み込んだが、半ばやけになり死後の世界でもガンプラバトルができるという事に楽しみを覚えていた。
「おもしれぇ、いっちょ、やってやるか……!!」
「いくぜ!相棒!!」
フウトはジャスティスカイザーをセットする。ジャスティスカイザーの眼光が光る。
Futo'sMobile Suit
Justice Kaiser
VS.
Toro's Mobile Suit
Gundam Fete
「ジャスティスカイザー発進!」
「ガンダムフェーテ……行きます。」
2期の機体がそのまま、緑生い茂る草原へと勢いよく発進した。
「ガンダムフェーテ……か。」
――ガンダムフェーテ。青と白基調としたヒロイックな機体。ダブルオー系の機体の特徴をうまく落とし込んだミキシング機体のようだ。さらにかなりの完成度に加えデューラーにも実力がありそうだ。そして、ウチヤマ・ユウに少し似た雰囲気。もしかすると、ユウくんの生まれ変わりだろうか?フウトはそんなくだらないことを考える。
「死んでも、こんな奴と戦えるなんて面白え!」
いつもはクールなフウトだが、バトルになれば一変、性格が熱苦しくなる。
草原のフィールドではお互いの身を隠すことは不可であり、真っ向勝負を強いられる。直線上にいるフェーテに対し中距離でビームライフルの照準を合わせ、放つ。
「当たれよ!」
粒子の塊が2発3発とフェーテに向かう。
「甘い……。」
フェーテはなんなく避け、こちらを射線上に合わせ上手く反撃する。
「……やるなっ!」
正確な射撃だ。避けたつもりだったが右肩を1発掠めた。
「こりゃ、おそらくマークスマンタイプだな……。」
――マークスマンとは、いわゆる歩兵の中でも射撃にスペシャリティを持つ駒のことを言う。遠距離を専門とするスナイパーとは違い、中距離射撃を得意とする。フウトはこれまでの経験上から、相手の攻撃のファーストチョイスで大体どんな特性を持つか分析が可能である。
「チンタラしてると、すぐ終わらせるよ。」
ガンダムフェーテは絶妙な中距離ポジションでこちらへとライフルを打つ。こちらの微動作まで読んでいるのか、かなり正確な射撃かつ相手の優位な距離で戦われている。
「それなら、コイツだッ!」
フウトはジャスティスカイザーのドラグーンを展開する。青空と草原の元に、青紫がかった光をともなったドラグーンが鮮やかに舞う。フウトはドラグーンを全フェーテの方位に展開し、射出していく。
「……ッ!!これはッ!!」
トロもこのドラグーン攻撃を避けながら応戦するが、ドラグーンが交互に位置を変 えながら射撃を行うため狙いがつけづらい。
「……!!」
ドラグーンの射撃に加え、フウトはビームライフルを打ち込む。フェーテの胴体を掠る。先程とは一気に形勢逆転である。
今度はフウトの得意な距離に持ち込まれた。
「くっ…墜ちろ!」
トロは必死にドラグーンに射撃を行うがフウトの巧みな操作に少し苛立つ。
「いや、落ち着け、何か規則があるはず
……。」
トロはドラグーンとビームライフルの射撃に差を常にギリギリで避けながら考える。
「……見えたッ!!」
トロはフェーテに装備された対艦刀を持ちドラグーンへと突っ込む。
「何ッ!?」
蒼く輝く刀身が、桃色のドラグーンを一気に二基切り墜とした。
「まさか、クセを読まれたとでも言うのか!?」
フウトはドラグーンを扱う際に3基をセットで動かす。その3基は常にバランスを重視したトライアングルの陣形を敷いているのだが、フウトはついつい互いの位置を変える時に右斜め後ろに位置するドラグーンを斜め前に出す傾向があった。
これは、アララギにも指摘されて来たことだがなかなか治らない。フウトはこの短時間でそのクセを見切ったトロという少年の洞察力に驚いていた。
フウトは一旦ドラグーンを引かせ距離をとる。しかし、トロはここぞと言わんばかりに対艦刀を構え距離を詰め寄った。
「……いける!!」
トロはスラスターを上手く使い機体を微調整し、ジャスティスカイザーのコックピット目掛けて斬りかかる。
「おおっと!!」
フウトもこれに負けじと応戦。さらにドラグーンで射撃を行い距離を取らせる。
「……厄介だな」
しかしトロには珍しく笑みが溢れていた。久しぶりに骨のあるデューラーと戦えていると言う事実に。
ここが、どんな場所であろうと関係ない。
あの世だろうと、宇宙の果てだろうと関係ない。
――デューラーがそこに2人いるなら、戦うだけだ。
「次はこちらから行く!」
ジャスティスカイザーがビームサーベルを両手に持ちフェーテへと突撃する。
「早いッ……!?」
トロは予想よりも早いジャスティスカイザーの初撃を受け止めきれなかった。そして二撃目。
「そう何度もッ!」
セカンドアタックはジャスティスカイザーの腕を強引に持ち見事にアジャスト。
「これなら……!!」
フェーテは腕に装備された小型ガトリングガンをジャスティスカイザーに近距離で放つ。実弾がジャスティスカイザーの装甲をバリバリと痛めつける。
「こんなの屁でもねえよなあ?相棒!」
ジャスティスカイザーのツインアイは青色に光り、攻撃をシールドで跳ね除ける。
「次はこっちの番だ!!」
「ブゥゥゥメランッッ!!」
ジャスティスカイザーはシールドに取り付いたブーメランを勢いよく投げる。直線的な攻撃。避けるのは容易である。
「当たらないッ!」
軽々しく避けるトロだが、この攻撃が囮である事くらいは読めている。しかし、避ける際には、ブーメランに視点がどうしても集まる。
「コイツを持ってけ!!」
フウトはドラグーンをフェーテの背後に配置し一斉射撃を行う。
「……!!」
「でも……!!」
トロは直感的にドラグーンを神業の如く回避し、さらにビームライフルで一基、一基墜とす。
「これであなたはガラ空きだ!!」
トロは対艦刀をジャスティスカイザーのコックピットに対して垂直に振り下した。
「……。当たらねえよ。」
フウトはその攻撃を最後まで見て、横に軽くジャンプ大きく取ったモーションの隙をビームサーベルで武装を装備していない左腕に反撃した。
「なにッ!?」
これにはトロも驚いた。今のは確実だった。
「――今度こそ……!!」
フェーテは受けたダメージをよそ目に右腕を振りかざした。この瞬間もフウトにはゆっくりと、スローモーションに見えるのだ。対艦刀の動き、フェーテの軸、体の向き。フウトは瞬時にステップを踏もうとした足を戻し、戻した足を軸足にフェーテへと蹴りのカウンターをすかさず入れる。
「そんな……!!」
フェーテの左脚にヒット。モロに食らってしまった。
「皇帝の絶位領域は不可侵だ。」
「誰も入れねえよ。」
フウトはそう言って次の攻撃に備える。皇帝の眼は如何なる物も見逃さない。
「絶対領域……。」
「面白い!破ってみせる。」
トロはフウトに小手先のテクニックが通じるとは思わなかった。それでも少し荒業にはなるが、勝算はあった。手のひらの汗を感じながらグリップを強く握る。
「うぉぉぉぉ!!」
「見える……!」
先程と同じように対艦刀の軌道を読まれ、フウトは足蹴りを行う。
「持ってくれよ!フェーテ!」
フェーテに積まれた多くのスラスターを使い無理矢理機体を移動させ、フウトのカウンターから避け切った。
「避けた……!?」
「いくよ!」
フウトは一瞬の動揺を抑えられず、トロの動かすフェーテの動きについていけず、対艦刀を今度はモロに受けてしまった。装甲を破る鈍い音がした。
「くっ!」
これで、五分五分と言ったところだろうか。ジャスティスカイザーは先程の攻撃で、機体全体にかなりダメージが入っており、ドラグーンも使い切った。
一方でフェーテの方もカウンターやドラグーンのダメージが蓄積したのと同時に先程の無理なスラスターの使い方をしたせいか各所オーバヒートを起こしている。対艦刀も刃こぼれを起こし使えそうにない。
となるのと残った手段は。
「相棒、こんなところでくたばるんじゃねぇぞ。」
「フェーテ、やれるよね?」
お互いのデュアルアイが鋭く光る。
「いくぜぇぇぇ!!」
「うぉぉぉぉ!!」
まずは頭突きで額同士を合わせる。そして壮絶な殴り合い。草原で殴り合う2機はあまりにもシュールだ。しかし、互いに勝利というプライドを得るために、泥臭く、最後まで戦う。
「もらったァ!!」
フウトがカウンターのタイミングを見逃さず、蹴りを叩き込む。
「うっ!」
「おおっと、とっと!」
なんとジャスティスカイザーはダメージのせいかのろけてしまい転けてしまう。
「チャンス!」
次はフェーテが転けたジャスティスを踏みつけようとする。踏みつけようとした足からはビーム刃が出てきた。
「マジかよ!」
「これで、終わりだ!」
踏まれる瞬間、フウトはとっさに目を閉じた。
「……?」
なんと、フェーテも蓄積されたダメージからエネルギー切れを起こし、ビーム刃がポツンと消えた。
「しまった。」
その間、ジャスティスカイザーは立ち上がり腕を振りかざしフェーテに強烈なストレートを決め込む。
「くっ、まだだ!」
ジャスティスカイザーもタフだが、フェーテも負けじとよろけながらカイザーにラリアットを決める。
「……やるな!!」
ここまで機体がよろけるとフウトもキャンセリングが上手くできない。お互いに何度も何度も殴り合った。腕の甲は相手の装甲を破るたびに傷つき、ボロボロだ。
「ハァハァ……。そろそろギブアップしたらどうだ?」
「ハァハァ……。そっちこそもう立ってるのがやっとじゃん。」
もうすでに互いにガンダム特有の角は折れ、右腕と左腕を互いに無くしていた。
果たして最後に立っているのはどちらなのか。
意地を突き通すのはどちらなのか。
「相棒、コイツで最後だ。気ィ引き締めろ……。」
「フェーテ、勝つのは僕らだ……。」
互いにボロボロの腕をグッと握る。
「いっけええええええええ!!」
「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」
「――届かなかった……?」
「――嘘…届かない……?」
お互いの腕は届かなかった。
届かず機体の限界が来て倒れ込んだ。
battle end
―draw―
「引き分けか。」
「引き分け……。」
二人とも少しバツが悪そうな顔をしていたが、すぐに満足げな顔になった。
「トロくん、対戦ありがとう。次は決着をつけたいね。」
「こちらこそ、ありがとうございます。あんな超反応があるとは思ってませんでした。」
試合が終わりお互いを認め合い、高め合う。これがデューラーの骨頂である。
「……それじゃあ、僕そろそろ戻らないと。」
「戻るってどういうことだ?」
「フウトさん、また会いましょう。」
「――俺たちはこの宇宙の片隅でお互い生きている限り会えます。」
「――次は、勝つ。」
そう言って少年は粒子となって消えていき、最後に前髪で隠れた目がほんの少しだけ見えた。
鋭い目つきだったが、満足げだった。
「宇宙の片隅か……。」
「また、会おうぜ好敵手よ…。」
フウトもそう言って、この無限に広がる草原の中、粒子となり消えた。
「――おーい。イヌハラさんー!」
「イヌハラさんって死んでも死なないような不屈人間だと思ってけど、こりゃダメかなぁ」
誰かに呼ばれている。この声は聞き覚えがある。
「いてててて。」
「あ、気付きました?」
「よぉ、シイナおはよう。今日もランニングか?」
「何呑気なこと言ってるんです?」
「たぬき山をたまたま通ってたらバイクから転倒して意識を失ったイヌハラさんがいて……。」
「――心配しましたよ……!」
「あぁ、迷惑かけたな。」
「ありがとう、シイナ。」
「ほんと、そういうところがあざといんですよ!」
少し、顔を赤らめて目を逸らすシイナ。
へへと笑うフウト。
「――で、何されてたんです?」
「――まぁ、ちょっとな。」
「宇宙の片隅で、ガンプラバトルしてた。」
トロくん。
彼との出会いが意味するものは何だろう。
戦うためにお互いに引きつけられた。
たぬき山がフウトに魅せた夢は偶然ではないように感じた。
まだ見ぬ強敵。
――世界なんかよりももっと遥かなるその先に。
見上げた空はもう薄暗くなっていた。
フウトは高鳴った鼓動を胸にこれからも戦い続ける。
「シイナ、ラーメンでも食べにいくか?」
「え?イヌハラさんから誘うなんて珍しい。」
「今日は気分が良いんだ、俺の奢りだ。」
「仕方ないですねぇ。」
これが「皇帝」と「進化」の少し変わった邂逅であった。
Instagramにて作中の機体やキャラクターのイラストなどを掲載しております。
n_mokey