ガンダムビルドデューラーズ 清掃員外伝   作:地底辺人

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第八話「晩秋」

フウトが北の大地に来て数ヶ月が経ち季節は既に秋から冬に移り変わろうとしていた。

暑苦しかった夏はひっそりと息を潜め、あたりの草木は枯れ乾いた風が吹いている。地理的にも既に雪が積もり紅葉と白い景色が合わさった少し不思議な景色にもなっていた。

 

「――ハァハァ…。」

 

「はい、32分5秒。随分と早くなったじゃないか。」

 

午前5時半。景色が変わってもこの男、イヌハラ・フウトは毎日のルーティンであるたぬき山のランニングを毎日続けている。

 

「――ついた…!」

 

「はい、シイナちゃんもお疲れさま。37分14秒だ。」

 

そしてまたシイナもまたフウトと共に己を磨いている。毎日のルーティンは来た時とほとんど変わらない。変わったことがあるとしたらフウトの先輩であるフシカワ・テルキとユタ・タロウの2人が大学に残り日々のトレーニングに付き合ってくれているということだ。そのためこうして早朝のランニングにはタイム係としてテルキが参加している。

 

「ふうちゃん、随分と速くなったんじゃないか?」

 

「来た時と比べれば大分走れるようになりましたね。」

 

「イヌハラさんはもう少し緩めて走ってもいいんですよ?」

 

負けず嫌いのシイナはバツが悪そうに言う。

 

「今日も相手してやるからせいぜい負けないようにな。」

 

「むっ!イヌハラさんこの前私に負けた癖によくそんなこと言えますね!」

 

シイナもこの数ヶ月でかなりの実力をつけている。同じ特性を持つフウトの戦い方を間近でみて勉強になることが多いのだろう。カウンターに関してはフウト以上に広範囲かつ柔軟に行えるようになっている。

 

「ん?今日は確かプロデューラーがウチに来てふうちゃんと試合するんじゃなかったか?」

 

「あぁ、そういえば。」

 

「随分と余裕だな。その自信折られるんじゃないぞ?」

 

「まあそう簡単にやられるつもりはありませんよ。」

 

「……。」

 

シイナが黙ってフウトの方を見る。

 

「わかった、わかった。バトルが終わればちゃんとシイナともやるから。」

 

「……。負けたらダメですよ……?」

 

「当たり前だ。俺を誰だと思ってる?」

 

「ただの清掃員、ですよね?」

 

シイナはにっこり笑ってそう答えた。

 

「ハハハ。これは一本取られたな。シイナ、アップに付き合ってくれ。」

 

「お任せを!」

 

「俺も付き合うぜ!ふうちゃん!」

 

「フシカワさんはユタさんといつもみたいにイチャイチャしてて下さい!」

 

「シイナちゃん!?」

 

そう言って3人は学内バトルスペースへと足を運びプロデューラーを迎える準備をする。

 

「――ということで今回来てくれる現役プロデューラーはテスタメント使いのゲッコウ・フミヤくんだ。」

 

「ゲッコウ・フミヤですか。」

 

――ゲッコウ・フミヤ。高卒3年目の現役ルーキーとして知られるデューラーである。愛機のテスタメントを操り昨年はリーグで新人王を受賞している。またリーグチャンピオンのアララギサワラとも激戦を繰り広げその実力は3年目ながら既にリーグトップレベルとも言えるだろう。

 

「ふうちゃん、どうした?ビビってちびりそうか?」

 

「まさか。いくら新人王獲ってもサワラよか弱いんだろ?」

 

強気な物言いをするフウト。その裏側には3年で結果を残せなかった自分自身に負い目を感じた強がりが隠れているのだろうか。

 

「相変わらず強情だなぁ。とりあえず今日勝てば俺から紹介できるデューラーはあと1人。まあ先生からのめんどくさい課題も今日を含めてあと残り2つってわけ。せいぜい頑張るんだよ。」

 

アララギの方も相変わらずの様子でゆるゆると話す。

ちなみにだがアララギはテルキとタロウを呼んだ後も次々とデューラーを大学に招きフウトと戦わせた。これまで2人を含め8名のデューラーが呼ばれたがフウトは全戦全勝。フミヤに勝利すれば9連勝となる。決して対戦したデューラーの質が低いわけでなく最低でもプロの下級ランクと戦ってきた。

 

フウトとフミヤ、お互いに勢いに乗っている状態で面白い試合になりそうだ。客観的にみればフミヤの方が実力は上だがこういう試合はどう転がるか分からない。

 

試合がはじまる時間まで刻一刻と過ぎていく。

 

「――お待たせしました。ゲッコウ・フミヤです。」

 

黒髪で服装はスーツといったいかにも誠実かつデキそうな青年が部内のバトルスペースへと姿を表した。右手にはガンプラを入れてあるアタッシュケースをもっている。

 

「ふみちゃん、よく来てくれたねぇ!ありがとう。」

 

もはや部の顔、渉外担当のアララギがにこやかに青年を迎え入れる。

 

「こちらこそ。招待ありがとうございます。」

 

「いやいや、もううちの狂犬はスタンバイしてるみたいだから行ってあげてね〜。」

 

フミヤはフウトにも挨拶しようとしたが、フウトはフミヤに目を合わせる事なくGPDの筐体へと向かう。

これから戦う相手なのだ。もし視線が合いこちらの考えている事を悟られるようなことがあってはならない。

 

「――とんだアマちゃんが来たもんだな。」

 

フウトはそう呟き自分のガンプラをセットする。

 

「まあいいや。めんどくせえやりとりは置いといてあとはコイツで語り合おうや新人王……!」

 

「――イヌハラ・フウト。あのイヌハラ・ユウキさんの弟でサワラさんのライバル。ある意味で伝説のデューラー……。」

 

「相手にとって不足なし!やるよテスタメント!」

 

 

Futot'sMobile Suit

Justice Kaiser Infinity

      VS.

Fumiya'sMobile Suit

Testament Gundam

 

カードキーを差し込みお互いの情報が現れる。フミヤを映し出したディスプレイには新人王受賞のアイコンが刻み込まれている。

 

「ジャスティスカイザーインフィニティ、出るぞ。」

 

「テスタメントガンダム、行くよ!」

 

赤い2機が出撃する。ステージは渓流。現実世界とリンクしているのかあたりは色付いていた。

 

 

【挿絵表示】

 

 

――テスタメントガンダム。公式なガンプラバトルの規定では1/144が規格となっているのだがこのテスタメントはキット化していない。故にこれはフミヤの自作である。自作とはいえかなりの完成度であり左腕に装備された「トリケロス改」も完備されている。

 

フウトはいつも通り様子見をしても良かったが、もし相手が自分のバトルスタイルを少しでも予習しているならとたかを括り先手に出た。ある意味ではギャンブルである。

 

「見つけた…!」

 

ジャスティスカイザーは渓流から少し離れた草原にいるテスタメントを見つけビームライフルのトリガーを引く。

 

「向こうから来た!?」

 

少し想定外の行動に面食らうフミヤであったがここは冷静に左腕に装備された大型武器トリケロスで防御する。

フウトは防御している間に距離を詰め寄りビームサーベルでさらに連撃。

しかしテスタメントは攻撃を耐え凌ぎバックステップで距離を取る。

 

「あの左腕厄介だな…。」

 

機体のプロポーションからは歪とも言えるその装備。攻守にわたりあの機体の核となる部分だろう。

 

一方でフミヤは少し焦っていた。少なからず自分が知っている「イヌハラ・フウト」ではないということに。フミヤの中のフウトはもっと「待ち」のイメージがあったのだ。

さらに先手を打つのがこちらの動揺を誘う"ハッタリ"にしたら先程の速く鋭い攻撃はあまりにも出来過ぎである。

 

「これは思った以上に厄介かも…。」

 

お互いに距離をとった後に睨み合う。どちらが先に仕掛けるのか、バイタルエリアに潜り込むのか。

 

「今度はこっちから行くよ!」

 

次はテスタメントがビームサーベルでジャスティスカイザーへと攻撃する。

初撃は避けられ二撃目も切り払われた。攻撃を振り切ったジャスティスカイザーが自分の攻撃へと切り替えようとした瞬間、歪な左腕に取り付けられた剣が目の前に現れた。

 

「なんだと…!?」

 

「本命は取っておくものさ!」

 

そのまま左腕は呑み込むようにジャスティスカイザーの胴体を突き刺す。その大きさと不意打ちから流石のフウトもキャンセリングやカウンターを行えなかった。

 

「くっ…。」

 

「まだまだ!」

 

さらに突き刺した状態からトリケロスに装備されたビーム砲をゼロ距離で放つ。

 

「これは流石にやばいッ!!」

 

とっさにフウトはバックパックに装備されたドラグーンをトライアングルの陣形にしバリアーを形成する。しかしあまりにも急だったためバリアの出力は弱く全てを防ぎきれなかったがなんとか致命傷は避けた。

 

「ドラクーンバリアー……。こんなものまで…!!」

「でもこれで終わりだ!」

 

剣を引き抜きビームサーベルでテスタメントはジャスティスカイザーに斬りかかる。

 

「甘いんだよ!新人王!」

 

なんとか致命傷を避けたジャスティスカイザーはその右腕をビーム刃がついた脚で蹴り落とす。

 

「ここでカウンター!?」

 

フミヤは純粋にフウトのカウンターの技量に驚いていた。あれだけの攻撃を受けてなお正確なカウンターを決めれるデューラーはプロの世界でもそうそういない。

 

さらにジャスティスカイザーはバックパックからブレードを一本取り出し、本体と切り離す。

 

「ブレードを使う時は身軽な方が良くてな!」

 

フウトは狙いを左腕に定め斬りかかる。

 

「くっ、さっき右腕を落とされたのが痛いッ!」

 

しかし流石プロデューラーである。フウトの攻撃を上手くトリケロスの表面で防ぎながら距離を取る。

また先程のビーム砲をこの距離からもう一度受ければひとたまりもないはずだ。

そうフミヤは思っていた。

 

「一気に攻めるッ、攻め切るッ!!」

 

フウトはさらにギアを上げ攻撃を行う。対してフミヤは呆然一方である。

 

「――この人、こんなに近寄って怖くないのか…?」

 

そんな思考がフミヤの頭をよぎる。

 

「うっ!」

 

迷いは戦いに負の効果をもたらす。トリケロスではないが左肩をジャスティスカイザーの攻撃が掠める。フウトは少しずつフミヤの動きを捉えはじめていた。

少しでも気を抜けばフウトの鬼神の如く攻撃に押し負けそうだ。

 

「だけどッ!」

 

しかしフミヤも守ってばかりではなかった。守りながらビーム砲をどこで撃つかのタイミングを見計らっていた。

 

「ハァハァ…。まだ落とせやしねえ。こいつバケモンかよ…。」

 

フウトにも疲れが出ていた。

今がチャンスである。

 

「そこだぁぁぁぁっっっ!!!」

 

疲れて動きが一瞬止まったジャスティスカイザーに向けてフルパワーでトリケロスに装備されたビーム砲を放つ。

 

ビーム砲を放った先にジャスティスカイザーの姿はなかった。

 

「どこだ!?」

 

「――見切ってんだよ、お前の射線は。」

 

ビーム砲を避けたジャスティスカイザーは低い姿勢でテスタメントの懐に入りブレードを構えていた。

 

「そんなッ!?あんな体勢で!滅茶苦茶だ!」

 

「滅茶苦茶なのはてめーの左腕だよッ!!」

 

スパッ。

 

ジャスティスカイザーは鋭く速い一撃でトリケロスごと左腕を切断した。

 

「まだだぁぁっっ!!」

 

テスタメントは怯む事なくこちらへと突っ込んできた。

 

「何ッ!?」

 

勝利への執念。やはり彼もプロデューラーなのだ。譲れないものがある。

フウトは一瞬反応が遅れテスタメントに背後から取り憑かれた。テスタメントは両腕がないため両脚でがんじがらめにしている。

 

「最後まで諦めないッ!!」

 

なんとテスタメントはバックパックを隠し腕のように変形させた。

 

「おいおい、まじかよ…。」

 

その巨大な腕を見てフウトは思わず苦笑いをこぼす。

 

「言ったでしょ?"本命"は最後まで取っておくって!」

「次はさっきみたいには行かないよ!!」

 

禍々しく第3の腕として現れた武装はいわゆるスキュラと呼ばれるものだった。そしてこれは従来のテスタメントには装備されていないものでフミヤのオリジナルギミックである。

これはやばいと思ったフウトはなんとかテスタメントから離れようとするが離れられない。

 

「くそっ!無理か!」

 

「イヌハラさん、これで終わりです!」

 

チャージが完了したスキュラはジャスティスカイザー目掛けて放たれた。

 

この距離からとどめとして放つには十分な火力であった。ジャスティスカイザーの頭は吹き飛びダメージを受けた部分は焼け焦げている。

 

しかしどういうことだろう。

 

テスタメントのボディはが上と下で真っ二つにされ再起不能となっていた。そして第3の腕は渓流の浅い水場に転がっている。

 

「何が起きた…?」

「勝負を決めたのは俺はずじゃ…?」

 

「なんとか、間に合ったみたいだな…。」

 

ふぅと息をこぼすフウト。上空にはジャスティスカイザーが切り離したバックパックが弧を描き飛んでいる。

 

「なるほど…からくりはあれか…。」

 

「本命だか切り札だかは最後までとっておくんだろ?」

 

―battle end―

 

winner Futo

 

なんとあの絶望的な状況を自動操作できるバックパックの突撃で切り抜けたようだ。ギリギリの瞬間でバックパックに取り付けられたファトゥムのビーム刃がついたウイングでテスタメントを切り裂いたようである。

 

「対戦ありがとうございます。イヌハラさん。」

 

「こちらこそ。テスタメントを作るだけじゃなくここまで操るデューラーがいるとはな。流石プロって奴だな。」

 

「いえいえ、結果は勝てませんでしたから。それにイヌハラさんがこんな攻撃的な戦術を用いるとは思っても見ませんでした。」

 

「まぁ、人は変わるもんだよ。」

 

フウトは天を見上げながら言う。

 

「やったな!ふうちゃん!」

 

「フウトくんおつかれさま。」

 

「イヌハラさん!最後までハラハラさせないで下さい!」

 

みんながこちらに駆け寄る。自分の事のように喜んでくれているのが伝わってくる。そのみんなの顔を見て自分も嬉しくなった。

 

「ふうちゃん、これで俺から出せる課題は次で最後だ。」

「次の相手は俺が知る中で一番強いよ。」

 

「一番強い…ですか。」

 

「まあ最後の相手がこっちに来るまでは少し時間がかかるみたいだし準備するなり、息抜きで行きたいところがあるなら行ってきてもいいよ。」

 

アララギはそう言ってフミヤにバトルのフィードバックをし去っていた。

 

そうこうしているとフミヤと目があった。

 

「――君はその眼のまま突き進め。」

 

「え?」

 

フウトはそう言ってフミヤとすれ違った。

 

「――イヌハラさん、またやりましょう。」

「今度はプロリーグで。」

 

フミヤもまたテスタメントを利き腕の中に握りしめその場を去った。

 

 

――翌日。

 

フウトは早朝のランニングに姿を現さなかった。アララギの言いつけ通り行きたいところに行ったのだろうか。

 

「あれ?イヌハラさん今日いないんですか?」

 

「あぁ、なんでもふうちゃんはお墓参りに行くとかなんとか。」

 

「え!?お墓参り!?一人で!!?」

 

「そりゃ一人でいくだろ。」

 

「もー!イヌハラさんのバカ!!」

 

「どうしたんだシイナちゃん。落ち着け。」

 

どうやらフウトは両親のお墓参りに行ったようである。しかもフウトの実家は四国。北海道からはかなり距離がある。

 

「昨日もゲッコウさんとのバトルの後に私とバトルしてくれるって言ったのに早めに上がってたし、お墓参りだって私と行く約束してたのに、イヌハラさんなんてもう知らない!!」

 

「ふうちゃん…。罪な男よ…。」

 

「フシカワさんもぼーっとしてないで私の相手して下さいよ!あーイライラする!イヌハラさんのばーか、もうしらない、ばーか、ばーか。」

 

「……。」

 

――四国

 

「アスミ家之墓」

 

「――今年は来るのが遅くなってごめん、父さん、母さん。」

 

「まあ色々あってね。今は北海道にいるんだ。」

 

「また、ガンプラバトルをはじめたんだ。もう負けないよ。絶対、誰にも。」

 

「俺は自分の運命を変えて見せる。だから見ててくれると嬉しいな。」

 

フウトは両親の墓の前で自分の気持ちを吐露する。あまり人に弱みを見せないフウトだ、こんな時くらいは気を抜きたいのかもしれない。

 

――旧姓「アスミ・フウト」

5歳の頃に両親を亡くしイヌハラ家に引き取られた。

彼はまだ小さいこともあってあまり両親との思い出を覚えていない。しかし幼き日の手を大きな手が握ってくれていたぬくもりだけははっきりと覚えている。

 

今の自分を見て両親は自分の生き方を肯定してくれるだろうか。フウトはたまにそういったことが頭によぎる。人に胸を張って生きれるほど真っ当な人生は送っていない。ニートもホームレスも経験した。

 

それでも、それでもと。あと少しのところまできたとフウトは勝手に思っていた。最後の相手を倒せば自分はもう一度やり直せると思い込んでいた。

 

「――そろそろいくか。」

 

フウトは水を入れていたバケツを持ち帰ろうと顔を上げた。

 

「――え?」

 

墓地に入る狭い入り口の部分から背の高い青髪の青年がこちらへと歩いてきていた。

 

そんなはずはない。だって。

 

だってあなたは。

 

「やぁ、ふうちゃん。久しぶりだね。」

 

「兄さん……?。」

 

イヌハラ・ユウキ。フウトが引き取られたイヌハラ家の長男で戸籍上フウトの兄にあたる人物だ。

そして、このユウキこそがフウトにガンプラの世界へと誘った張本人である。

 

しかしなぜ兄がこんな辺鄙な地にいるのか、フウトには理解できなかった。兄は今アメリカのリーグに所属しシアトルに在住しているはずなのだ。

 

「兄さんなぜここに…?」

 

「久しぶりに帰国していてね。愛する弟を探してきてみたんだけどまさか本当にいるとはね。」

「実に5年ぶりかな……?」

 

「俺がプロを辞めて会ってないからそれくらいになると思う.。」

 

兄弟の仲が決して悪いわけではない。むしろ仲はいい方だ。しかしフウトは兄に今の自分を見られたくなかった。闘いに破れ地に堕ちた惨めな自分を。哀れみや同情という感情も持たれたくなかった。

 

「俺さ、もしかするとふうちゃんを不幸にしたんじゃないかなって思ってるんだ。」

「俺がふうちゃんにガンプラを教えなければ、いや俺がガンプラをしていなければふうちゃんはもっと違う人生を歩めたのかなってさ。」

 

「そんなのエゴだよ。俺には才能がなかった。それだけだよ。」

 

「……。アララギ先生に聞いたよ。プロに戻ろうとしているんだって?」

 

そんな事を兄にだけは知られたくなかった。フウトは無意識のうちに優れた兄に劣等感を感じていた。

その感情は昔からあったものだったがプロになってからはより顕著に表れた。

 

「……。」

 

フウトは黙り込む。今いいところなんだ、今さら兄貴面して俺に届かない夢をみるなってそう言いたいのか。説教ならよそでしてくれ。俺はもう子供じゃない。そんな事をフウトは思う。

 

「正直言うと俺はふうちゃんにプロになって欲しくないんだ。ガンプラが原因でふうちゃんにもうあんな思いをして欲しくないんだ。」

「ふうちゃんにはただただ楽しんでガンプラバトルをして欲しいんだ。」

 

「それは自分の責任になりたくないから?」

 

兄が言う気持ちもわかる。それを分かっていて兄を責めるような言葉を使う自分が嫌いだ。

 

兄はプロの第一線で活躍するような人だ。プロの世界で活躍するということは一見華やかに見えるがその分人知れず苦労も多い。

常に勝ち続けねばならないというプレッシャー、若くして成功すればその分他人から妬まれ嫉妬される。あいつさえいなければ、あいつは調子乗っている、あんな若造はすぐにいなくなる。そんな風に思われながら戦い続けなければならない。

成功するためには実力だけでなくメンタルの強さも求められる、あとは運という要素も重要だ。

 

フウトにはその全てが足りなかった。特に運に関してはからっきしだ。

 

「ははは。そうもしれないね。ズルい兄ちゃんでごめん。」

「――でも、ふうちゃんが本気だって言うのなら話は別だよ。」

 

鋭い目がフウトの目と合う。思わずに唾を飲み込む。

 

「なーんてね。じゃあ待ってるよふうちゃん。」

 

そういってユウキはワインを墓の前に置き去っていった。これがアメリカンお墓参りなのだろうか。

 

「――これ俺の好きな酒だ。」

 

フウトは昔兄に成人祝いで飲ましてもらったヴェネツィア産のワインが好物であった。その後は高価なもののためあまり飲んだことはなかったがあの一口が何年経っても忘れられない。

 

冬の始まりを告げる冷たく乾いた風が立ち尽くすフウトに吹き付けていた。

 

舞い落ちた花弁は粉雪に変わっていく。

 

フウトはひしひしと舞い上がる妙な気持ちを必死に抑えていた。

 

─それは晩秋と呼ばれる季節のことであった。

 

(続く)




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