01 召喚の時間
◇視点:渚 召喚の間
光が弾けると、僕は教室に居たはずなのに、全く見覚えのない空間に居た。明らかな異常事態、僕のスイッチは切り替わる。周りを見ると、茅野ーー雪村あかりーー、カルマ、杉野、そう元3年E組のみんなが居た。烏間先生とビッチ先生も。殺せんせー以外の、元3年E組全員が。
「なるほど、クラス転移」
「それでは現在のクラスではなく、僕たちにとってしか分からない、3年E組な理由が不明だ」
不破さんと竹林君が分析する。僕たちは、それぞれ別の高校に進学し、2年生となっていた。世間でも、殺せんせーや3-Eは既に過去の話と化して、すっかり忘れられている。
服装はそれぞれの高校のものになっている。改めてあたりを見回すと、律が、見慣れた、でも見慣れてない姿をしていた。ありていにいって、箱ではなく、電脳空間に居る時のあの姿でこの場に居た。
「既知の世界とは別の世界のようです。というか、なんででしょう? 私が体を持っています」
律も分析に参加する。その分析は、漫画サブカルメタ読みの不破さん、竹林君の予想を補強するもの。
僕たちが居るのは舞台の上、っぽい。寧ろ祭壇の方が近い、かな?
その周囲には30人ほどの神官らしき人々が居る。白地に金の刺繍をした法衣を纏った彼らは一様に、この祭壇に対して祈りを捧げているように見えた。意識の波長が空恐ろしいほどにシンクロしているのが恐怖を誘う。
その中から、一層豪奢な装いをした、齢70くらいの男性が出てくる。
「ようこそ、トータスへ。勇者様、そして御同胞の皆様、歓迎致しますぞ。私は、聖教教会にて教皇の地位についておりますイシュタル・ランゴバルドと申す者。以後宜しくお願い致しますぞ」
優しげな顔を見せる、イシュタルと名乗った人。だけれども、何か寒気がする、死神を死神だと知って見た時に近いような。烏間先生に目を向けると、ほんの少しの警戒が滲んでいた。とは言え、彼らしか情報を持たない以上、逆らえる道理はない。
案内されたのは、大規模な晩餐会場と言った感じのもの。あまり離れ離れにならないように気をつけながら座る。一番の上座は烏間先生に譲られた。正直、ここまで静かに動けているのは、烏間先生が目線だけとは言え指示をくれるからだと思う。
全員が席に着くと、絵に描いたようなメイドの人たちが、優雅に全員に飲み物を配る。これがなんでもない状況だったら岡島君あたりはテンションを上げそうだけど、今はそんなことはなかった。あの、岡島君ですら、落ち着きを失わなかった。目が微妙に血走って、メイドの方を向きかける度に岡野さんに蹴られてるけど。
そうして、イシュタルさんは話し始めた。
「さて、あなた方に置かれましてはさぞ混乱されていることでしょう。一から説明させて頂きますのでな、まずは私の話を最後までお聞き下され」
その内容は、前に竹林君になんか流れで勧められた小説によく似たものだった。曰く、人間族と魔人族と亜人族が存在する。前二つは南北に別れ、亜人はその間の樹海に潜む。人間と魔人は数百年間戦争を続けている。数の人間と質の魔人で勢力は均衡だったが、魔人が異常な動物、魔物を数多く従えるようになり、数というアドバンテージが壊されている。
「あなた方を召喚したのは〝エヒト様〟です。我々人間族が崇める守護神、聖教教会の唯一神にして、この世界を創られた至上の神。おそらく、エヒト様は悟られたのでしょう、このままでは人間は滅ぶと。それを回避するためにあなた方を喚ばれた。この世界よりも上位の世界の人間であるあなた方は、この世界の人間よりも優れた力を有しているのです。
どうしようもない違和感が僕を襲う。創造神が何故、己に敵対するのを作るのか分からない。何故自分で助けないのかが分からない。そして、この人たちはなんで自分で戦わないのかが分からない。
「あなた方には是非その力を発揮し、〝エヒト様〟のご意思のもと、魔人族を打ち倒し我ら人間族を救ってほしい」
イシュタルさんの恍惚とした顔がより一層恐怖を掻き立てる。人間の9割が信仰するという聖教教会、降りた信託を聞いた人は例外なく高位役職に就く。すごく歪な気がする。
「先に問いたい。我々に、帰還の方法はあるのか?」
烏間先生は僕たちを庇うように質問する。烏間先生は、まず第一に僕たちに対して先生であろうとする。今でも、だからこそ、僕たちが普通の学生であれるように努力する。
「あなた方の帰還は現状、我々の手によっては不可能です。ここに呼び出したのはエヒト様、我々があそこに居たのは出迎えと、エヒト様へ祈りを捧げるため。人間に異世界に干渉できるような魔法は使えませんのでな、あなた方が帰還出来るかどうかも、エヒト様のご意思次第ですな」
状況は、訳の分からない状況で、人類の存亡を賭けたことに巻き込まれた。という意味では、あの時に似ているけれども、大きく違うことがある。烏間先生は、巻き込んでしまうことへの謝罪をして、やらない、という選択肢を常に出していた。でも、この人は、お願いの形こそ取っているけれど、そのお願いに僕たちが乗ることを前提に、むしろ乗らない理由がないと思っている。宗教の違いに端を発する殺し合いに。
「へえ〜。おっさんたち、こんなどこの誰とも知らない人を人殺しに仕立て上げて、そんなのに未来託しちゃうんだ、へえ〜」
カルマが煽りに行く。だけど僕たちはそれを止めない。カルマが言うことは、僕も気にしていたことだし、この行動はむしろ、僕たちを嫌味な自分の影に隠して動き易くなるようにって工作でもあるし。
「はて? 貴方達は我らが神に選ばれたのですから、事が為せるのは当然です。当然惜しまぬ助力は行いますがね」
「ふーん。そんなに、そのエヒト様ってのを信頼してるんだー」
煽り口調はそのままに、カルマ君は引き下がる。そして、僕たちは悟っていた。少なくとも、勇者に見せかけて動く必要があるということ。腹をくくるしか無い。
◇移動カット! 原作と同じ演出が入るからね、元3Eのみんなだから精神状態は変わるけど
王族などの偉い人たちが自己紹介をした後、晩餐に移る。ビッチ先生に仕込まれたことの一環だったため、彼らが予想したよりマシなテーブルマナーを見せたらしく少々驚かれた。同時に、明日以降の訓練の教官達にも話が移った。
解散すると共に、個室に案内された。部屋の3分の1が天蓋付きベッドで埋まっており、唖然とする。この部屋が凄く広いことにも。ポケットに入れてたはずのスマホは無くなっていた。そうだとすると、出来ることは何もないわけで、寝るしかない。
全編この調子でいきます。渚カエはオルクスに叩き落してくっつける予定です