目が慣れてくると、中の様子が見えてくる。神殿のような作りの部屋で、その奥には立方体があって、人の頭が生えていた。
「……だれ?」
かすれた弱々しい女の子の声。その人の頭には、目が醒めるような金髪と赤い目をした人が居た。
「どうする?」
「助けても……? 罠かどうかも分かんないね、見えてる罠は無いけど」
警戒しながら、近付いていく。
「君は……どうしてここに居るの?」
「裏切られた、だけ……。裏切られて、ここに封印された」
もうちょっとゆっくり、話を聞いてみる。まだ、嘘を言っている波長ではなく、恐らく真実。
「私、先祖返りの吸血鬼、凄い力持ってる……。魔力直接操れる、魔法つかうのに陣要らない……だから国のみんなの為にがんばった……でも……ある日……家臣の皆……お前はもう必要無いって……おじ様……これからは自分が王だって……わたしそれでもよかった……でも、すごい力あるから封印するって……殺せないから……だからここに……」
ぽつりぽつりと話していく。でも、一つだけ気になるのは、殺せない、という部分。僕は、彼女が、mortal、つまり、『いつか死すべき宿命としての生命』だと認識している。
「んー、殺せない、ってどういうこと?」
「勝手に治る、怪我しても直に治る、首落とされてもそのうち治る」
……うーん。奇遇な事に、僕達の頭には、その条件に該当しそうな生物が思い浮ぶ。殺せんせー、心臓以外だとどこ狙ってもその内回復しちゃうから……。しかも超高速で動くせいで攻撃当たらないし。
「……助けて」
彼女は言う。どうするか、悩み所でもあるけれど……。先に茅野が言った。
「これ、どうすれば外せるかな」
『とりあえず、魔力でも流してみたらどうでしょう?』
とくに思い付くことも無いから、とりあえず律の案を試してみる。二人で同時に魔力を流してみると、物凄い重い抵抗感があった。
だけど、徹らない訳じゃない、ちょっとは徹る。だったら。
「もっと……!」
茅野が更に沢山の魔力を流していく。僕は、茅野に比べると少ししかない魔力を、頑張って入れてみる。
……来た。一気に、魔力が徹った感覚がした。一気に整形がしやすくなって、僕と茅野は急ピッチで作業を進めて、開放していく。
なんとか全部やり終わった頃には、ヘトヘトになっていた。もともと立方体があった場所には裸の少女が一人座るだけになってた。
岡島君が居なくて良かったな、って切実に思う。過剰に反応して、酷い事になっていた気がする。かくいう僕も、茅野にあっち向いているよう言われたばかりだ。
今は、茅野が自分の予備の服を着せているらしい。
「もう見ても大丈夫だよ、渚」
呼ばれたので振り向く。なんというか、お人形みたいに可愛い少女が居た。
「名前、なに……?」
「私は茅野カエデ、よろしくね」
「僕は潮田渚、渚って呼んでくれると嬉しいかな。君は?」
カエデ、渚、カエデ、渚と、女の子は宝物でも貰ったみたいに、僕達の名前を唱えていた。そして、何かにふと気付くと、僕達の方を見て、こう言ってきた。
「名前、付けて?」
「もとの名前、忘れちゃったとか?」
ずっと使わなかったものは、元々持ってたとしても失くしてしまう。だから、長い間使わなかった自分の名前を忘れてしまったのかと思ったけど。そうでも無いようで。
「もう、前の名前は要らない。多分、違う人だから」
なんか何時の間にか、別にそうしないつもりだったわけでもないけど、僕達に着いていくつもりの彼女の、ある種の決別の儀式なのかなって思った。だから、どうと言う訳でも無いけど、なんかこう、泣きそうになっていた。
それはともかく、茅野と相談して、見た目の印象から、赤銅色の月食を思い出したので、月に因んだ名前をつけることにした。
「ユエ、なんてのはどうかな? 僕たちの故郷では、月を表す言葉なんだ」
気に入ってくれたらしく、嬉しそうに目を輝かせていた。
「今日から私はユエ。ありがとう」
そうやって和んでいたとき、無粋な存在が上から現われた。