「私ね、思ったんだ」
蠍擬きの解体作業が終わり、ユエの居た部屋を一時的な拠点として片付けた僕たちだったけど。何故か、僕は茅野の前で正座させられていた。
「それ、変えて欲しいの。ユエちゃんのことは何て呼んでる?」
「えーっと……ユエちゃん?」
そう言っている茅野の脇には、状況がイマイチ掴めないながらも、茅野の真似をして仁王立ちしているユエが居た。
「で、私の事は?」
「茅野」
「……渚の莫迦、鈍感」
「カエデおねーちゃんの、言う通り!」
ユエは茅野に便乗して僕を罵倒する。でも、なんで僕が罵倒されるのかが分からない。
「だから……その……、私の事も名前で呼んでよ、名字じゃなくて!」
「んと……良いの? じゃあ……カエデ?」
ごつん、と音がした。ほんの一瞬目を離した隙に、茅野が倒れていた。
「ちょっと、大丈夫? いきなり倒れて、顔真っ赤にして……まさかなんかに当たった?」
「いや……大丈夫、大丈夫だから」
そう茅野は言うけど……。
……なんで僕はユエにジト目で見られてるの?
◇
私はユエ、この間まで封印されていた吸血鬼。年齢は秘密。最近の悩み事は、渚が情緒を理解しないこと。カエデおねーちゃんが可哀そう。渚、超鈍感。
いつもいつも、渚はなんか酷い。例えばこんなことがあった。
蟹型の巨大な階層主と戦い終わったあとのこと。それはとっても強い、というより固い敵で、倒すのになかなか苦労した。
「カエデ、大丈夫?」
カエデおねーちゃんがメインで戦って、その分疲れてたんだけど、渚がそれを気遣って声を掛けたの。手を握りながら。そしたら、カエデおねーちゃんは顔を真っ赤にして恥ずかしながら大丈夫と途切れ途切れに答えた。どう見ても、ただ惚れた弱みで照れてるだけなのに、至極真剣に心配してる所為で、余計に悶えが酷くなった。
……良い加減気付いて欲しい。渚のカエデおねーちゃんに対する好感度もほぼカンストしてるのに、なんでくっ付かないの? と思いながら私はおぶってはこばれていたのであった まる
「ねえ! なんでユエはそんなに暢気なの!」
「手伝ってってばっ」
カエデおねーちゃんと渚に言われる。頭にお花を付けた沢山の魔物に追われてる。でも、これは、私が手を出すんじゃなくて、二人で解決できる--すべき?--問題だと思う。
「夫婦の問題は夫婦で解決、して?」
「ちょっ」
「ななななな、何を言ってるの、ユエ」
挙動不信。その間にも、手を止める事は無く、カエデおねーちゃんの触手がぺしぺしと襲ってくる魔物達に付いたお花を落としていく。すごい。
「……これ、追い込み漁?」
「うーん、洗脳系の何か、かな?」
「相手の抵抗が激しい方向ってどっちだっけ」
「あっち」
私がちょっと遊んでいる間に、解決の突破口が見つかったみたい。良かった良かった。二人でせっせと進んで行っている。ほへー。
しばらく駆けずり回っていると、洞窟の入口が見つかった。そこから操ってそう。
「ユエ、蓋をお願いね」
「ん。石棺!」
お願いされたので、洞窟に飛び込んですぐ、入口を塞ぐ。塞いだその奥からガツンガツン音がしているけど気にはしない。予想通りに抑えれて良かった。そのまま道成りに進んでいく。特になにも無いと思うけど、カエデと渚が、二人とも警戒してるから、私も一応警戒しておく。
そうやって進んで、広間に出たあと、その中央に来た時、緑色の玉がふよふよと飛んでくる。
「ユエ、私たちを囲むように壁を!」
「ん、分かった」
指示を出されたので、壁を作ってしまう。暫く籠っていると、その間に、カエデがどっから取り出したのか、口元を覆う用の布を取り出していた。渚は手早く付けていて、私にも渡される。
「多分、これで大丈夫なはず。あの緑の玉が胞子の塊だから、吸わないように」
渚が言う。なんでも、ステータスプレートの妖精の律の能力と、渚のスキルを組み合わせたら、大体の生き物の能力は割り出せるんだとか。すごい。でも、ここから、どうするんだろう……。
「んー、銃が欲しい」
「そうだね……。私たちじゃ精度はあんまりだけど、無いよりは……」
銃、って何だろ。良く分からない。それはともかく、遠距離攻撃が欲しいなら、それこそ私の出番。直線系の魔法を撃つ。
『もう少し右です』
『もう少し左です』
律が私の射撃を矯正してくれるので、指示通りに攻撃をするだけで許されるのが凄い。なんていうか、楽。そうやって乱射していると、渚に止められた。死体蹴りに入っていたらしい、げしげし。
アルラウネさんは姿を見せることすら無く死す……かあいそうに