地球防衛軍5 英雄は元民間人 作:軍曹は不死身、はっきりわかんだね
「君が新人かい?」
とても広い倉庫の中、会社で言われた通りの場所で待っていると声を掛けられる。
はい、と返事をしながら声をかけられた方へと向き直る。
「君はうちに新しく入ってきた子だったよね?」
「はい!三上遠矢といいます。本日はよろしくお願いします」
「そんなに
最後の方に何かをつぶやいていたようだったが、聞き取ることはできなかった。
何を言っていたのかは気になるが、それ以上に初めての仕事に対して緊張していた。今回の仕事は、今まで謎に包まれていたEDFの基地内案内のツアーが行われるのだ。会社に就職してからの初めての仕事がこのような大役で、他を気にする余裕がなかった。
「今からの仕事について軽く説明するよ。資料に書いてある通り、今回の仕事はEDF基地内の車両誘導を行う。基本的には僕と一緒に行動してもらうから、細かいことはその都度説明していくね。簡単な仕事が多いけど、大事な取引先だから油断せずにね」
他にもこれからの仕事に関しての注意点をいくつか挙げた先輩は、そのまま今日の大まかな流れを説明していく。
会社で渡された資料を頼りに、回る個所を確認していくと、仕事時間の半分近くが移動時間に割かれている。後ろの方に簡易的な地図が書かれているが、アリの巣のようになっていて、一度迷ってしまえばどこにいるのかわからなくなってしまいそうだった。
地図では小部屋のように書かれていた今の倉庫でも、体育館ほどの大きさがある。それを考えると、今いる基地全体の大きさは考えるのもばからしくなるほどだろう。
「大体の流れは理解できたね?不安なことがあればすぐに聞いてくれ。絶対にわからないまま行動しようとするなよ」
「はい!」
「いい返事だ。最初の仕事場に移動する。ついてきて」
先導して歩きだした先輩の後ろをついていく。
今いる場所には多くの戦車が置いてあるため、武器庫なのだろう。普段目にすることがないものに気をとられ、先輩に置いていかれないように気を付けながらも、周りを見渡しながら歩いていった。
『怪物だ!逃げろ!逃げろー!』
突然声が聞こえてきたのはそんな時だった。
基地内に入る際に、連絡を取り合うのに必要だからと渡されたインカムの中から切羽詰まった声が聞こえてきた。
「今のは…?」
「これから始まるイベントの前に、緊張をほぐそうとした誰かが全体通信に流したんじゃないかな」
ほかの会社の通信と混雑することを避けるためか、遠矢たちに渡されたのは軍用のインカムであった。多くの無線先と接続を遮断されているものではあるが、全体向けへの無線は受け取ることができたのだ。
流した人は後で誰かに怒られるだろうな、と考えながら、あまり気にも留めていない先輩に対し、遠矢は聞こえてきた無線に嫌な予感を感じていた。
「切羽詰まったような声でしたが、大丈夫なんですか?」
「気にしすぎだって、怪物なんているわけもない。それに、もしいたとしてもすぐに倒してくれるさ」
遠矢の問いかけに対して、やはり先輩は気楽に返す。無線の内容を気にすることもなく、誰かのいたずらだと判断していた。
「ん?…停電かな?」
コンテナを迂回し、倉庫の出入り口である巨大なシャッターが見えてきたところで、いきなり視界が暗くなる。先ほどの無線のこともあり、何かあったのかと一瞬身構えるが、暗くなったのも数秒であり、何も起こらずすぐに明かりが戻る。
「…本当に大丈夫なんですか?」
「さすがにこれは何かが起きてるだろうね…」
「じゃあ!」
困ったような顔をしてつぶやく先輩に対して声を荒げて詰め寄ってしまう。そんな遠矢に対し、先輩はあくまでも冷静にどうするべきかを考えていた。
「とにかく!いったん落ち着いて」
「…っ!…すみません、慌てすぎました」
先輩は少し大きな声を出してこちらの声を
「もし何かが起きていたら、僕たちだけで勝手に動いてしまうと余計に状況が悪化してしまうかもしれない。まずは持ち場に行って、そこにいる兵士の人にどうすればいいか聞こうか」
「わかりました」
「扉を開けるから少し下がっていて」
そういうと先輩を持っていた端末を操作する。すると、巨大な扉は機械の駆動音とともにゆっくりと上へと上がって行った。
巨大な扉は想像以上の速さで昇っていき、数秒もたたないうちに完全に上がり切った。
「ここは車両用道路だから気を付けて」
倉庫から出ると、車両が三大は並んで走れるような幅の通路に出た。通路の端には人がすれ違えるほどの空間を確保されており、間違っても車両とぶつからないよう安全にも考慮されていた。
先輩は通路に出ると、先ほどとは違い速足に進んでいく。
通路の中心では、数十人の兵士と数台の戦車が走っている。先頭を戦車が走り、その後ろと最後尾に銃を持った陸戦歩兵―――レンジャーが、中ほどには全身にパワードスケルトンを身にまとった二刀装甲兵―――フェンサーが駆け足でついていく。
パフォーマンスには実践に近い演習が行われるのだろうか。先ほどのことと合わせると、嫌な予感を感じつつも、現実から目をそらすようにそんなことを考える。
『―――応答しろ!何が起こっている!』
『食われたっ!ジョージが食われた!』
つけていたインカムから再び音声が聞こえてくる。先ほどよりも悲壮感が出ており、かすかに銃声やほかの悲鳴も聞こえてくる。
先ほどまでパフォーマンスの準備だと思い込もうとしていた兵士への楽観的な考えが否定された。
「軍人たちはああいう冗句が好きなんだ。気にしないで」
先輩は不安を感じているであろう遠矢を気遣い、きっと冗談だと
通り過ぎていく兵士たちを尻目に進んでいくが、隣の倉庫の前まで来たところで再び停電が起き、足を止める。
「また停電か…」
先ほどまで施設内を照らしていた天井の照明は完全に沈黙し、再び点灯する気配すらも感じさせない。唯一通路を照らしているのは、壁にまばらに設置されているもののみで、最低限の視界は確保されているが、通路は薄暗くなっていた。
薄暗い通路では、先の方まで見渡すことができない。そのため通路の先が闇に飲み込まれているように出恐ろしく感じた。
「しばらく治りそうにないから、ヘッドライトを点けて先に進もうか」
ヘッドライトを点けて先へ進む。
「前からコンバットフレームが来るから気を付けて」
暗い通路の中を
EDFの代表的な兵器であり、その見た目から多くの人が一目は見たいと思っているものだ。今回のツアーの中でも、コンバットフレームの動作確認は目玉イベントの一つに数えられているほどに人気のある兵器だ。
薄暗い通路の奥から出てきたコンバットフレームは、ロマンが詰め込まれたような機体だった。
人を模した機体は見上げるほどの大きさだ。二本の大きな足がその重量を支え、バランスを崩すことなく器用に歩いていく。
間近で見るコンバットフレームに目を輝かせる遠矢だったが、立ち止まってゆっくりとみる時間があるわけもなく、名残惜しいが先を進む先輩の後についていく。
「ここの倉庫が最初の仕事場だよ。今から扉を開けるから少し離れていて」
コンバットフレームの方を気にしながら進んでいると、目的地に到着した。
先輩が先ほどと同じように端末を操作しているのを見て、後ろへと下がる。
駆動音を立て始めた扉を見ていると、違和感を抱き始めた。扉が上がって行く光景に何も問題はないはずなのに、嫌な予感が収まることはない。
扉が上がり始め隙間ができたころ、ようやく何かが違うことを感じ取る。先ほどとは違い、駆動音とは別に倉庫の中から硬いものが地面をたたくような音が聞こえ――――
「うわあああああ!!」
そこまで聞こえた時点で思考が強制的に中断された。
扉が三分の一ほど開いたところで、暗闇の向こう側から飛び出してきた黒い物体が先輩を引きずって通り過ぎる。一瞬のことで何が起こったのかわからなかった。それでも横を通り抜けたものが何なのかを確認しようと横に視線を向けた。
(なんだこいつ…!!)
そこにいたのは今まで見たことのない怪物だった。頑丈そうな甲殻に身を覆われ、頭部には2本の長い触角と強靭そうな顎がある。胴体と思われる場所からは6本の足が生えているが、怪物の巨体を支えるにはとても頼りなさそうなほど細長い。何よりも特徴的なのはその巨体であり、目測でも高さは2mほど、体長に至っては6以上ありそうだ。
「ぐああああ!」
隣で怪物に
怪物はそれが煩わしく感じたのか、頭を銜えたまま頭を振り回す。それに伴い、先輩の悲鳴がさらに大きくなって基地内に響き渡る。
「た、助け…」
先輩が遠矢の方へと手を伸ばし助けを求める。
そこで漸く思考が復活し、助けなければと考える。しかし、それに反して体は全く動かない。金縛りにあったかのように視線を逸らすこともできず、ただ
「し、死にたく…な――――」
見つめることしかできないまま、ついに先輩の体からは力が抜け、こちらに延ばしていた手も垂れ下がる。
動けなくなったモノにはもう興味を無くしたのか、先輩だったモノを放り投げ、今度は遠矢にターゲットを向ける。
先輩と同じようにして遠矢のことも殺すつもりだろう。しかし、そんな状況になってもまだ遠矢の体は動かなかった。
(俺も死ぬのか…)
ゆっくりと近づいてくる大あごを見つめ、死を悟ったとき。
―――ダダダダダダッ
どこかから銃声が鳴り、甲高い音を立てながら怪物がよろめく。
「撃て!撃て!」
「なんてでかさだ!」
「死ね!化け物め!」
四人の軍人が怪物に向かって銃を放つ。
集中砲火を受けた怪物は、少しの間だけ耐えていたが、やがて吹き飛んで動かなくなる。怪物が倒されたことにより力が抜け、その場に座り込む。
「そこの民間人、立てるか?」
四人の中で赤い棒巣をかぶった軍人が遠矢に手をのばす。
「はい、何とか…」
「ならいい。後ろに下がっていろ」
軍人の手を借りて立ち上がり、後ろへと下がる。
「くそっ!なんなんだよ、この化け物は!」
「倉庫の中にもまだいる。油断するなよ」
怪物を倒した彼らはまだ警戒を解かず、遠矢をかばえるように並べ、完全に扉が開ききった倉庫へと銃口を向ける。
先ほどの銃声を聞いたのか、倉庫の中から何体もの怪物が地面を、壁を、天井をつたって這い出てくる。
「何体いやがるんだ!」
「近づかれる前に殺せ!」
彼らは怪物を確実に倒していき、倉庫の中から出てきた怪物の接近を許すことなく倒しきった。
「こいつらは一体なんだ?」
「こんないきもの見たことねぇ」
「恐竜の生き残りって訳じゃないよな…」
すべての怪物を倒した後、倒した怪物を銃口でつつきながらそうつぶやく。
「危ないところだったな」
「誰だこいつ?」
「多分民間人だろ。大丈夫だったか?」
「はい。でも先輩が…」
メガネをかけた軍人が遠矢に声をかける。
遠矢は自分が助かったことに安心し、心に余裕ができたが、その分先輩を前に何もできなかったことへの後悔の念が沸き上がってきた。
たとえ武器を持っていなかったと言えど、何か抵抗して少しでも怪物の注意を引き付けられたら先輩を助けられたのではないか。そんな考えばかりが浮かび上がってくる。
「もう一人のことは気にするなとは言えない。だが、武器を持ち、訓練を行ってきた俺たちでさえ、この異常事態では動けなくなってしまうものも多い。それにもう少し早く駆け付けれなかった俺たちの責任でもある。仕方のないことだったと割り切らなければ潰れてしまうぞ。」
助けに動けなかった自分を責めている遠矢に、南条軍曹が慰めの声をかける。
同じEDFの隊員であったならば、死んでしまったものの十字架を背負い、それに報いれいるように、鍛錬に励み一人でも多くの人を救え。とでもいえるが、相手は民間人で誰かのために命を懸けて戦う心構えも持っていない。そんなところで十字架を背負えなどと言ってしまえば、それに押しつぶされることになってしまうだろう。そのため仕方のなかったことだという考えに持っていき、思いつめすぎないように考えをそらしていった。
「ここにいてはまた怪物が来るかもしれない。移動するぞ!それと民間人、お前にも武器をやる。ついてこい」
「は、はい」
何が起こっているのか、あの怪物は何なのか、教えられる前に移動を開始する。
何もわからない現状に不安を抱きながらも、ついていかなければあの怪物に襲われるのは明白なため、彼らの後ろをついていくのだった。