地球防衛軍5 英雄は元民間人 作:軍曹は不死身、はっきりわかんだね
道を塞ぐようにして進んできた怪物の群れを突破することに成功したが、無茶をさせた代償として車体はゆがみ、タイヤはパンクしていた。それでも怪物を少しでも引き離すために無理やりに車両を進ませていく。
幸いにもパンクしたこと以外は特に故障もしていなかったが、バタバタと裂けたタイヤがインナーを叩く音が聞こえなくなったころ、ついに制御しきれなかった車両が山肌にぶつかり動かなくなってしまった。
「軍曹、無事ですか?」
「ああ、俺は大丈夫だ。後ろは…大丈夫そうだな」
軍曹はゆがんでしまった扉を蹴り飛ばし、車両から出る。頑丈に作られたはずの社力はあらゆるところがゆがみ、ひどいところでは装甲が溶けかけている箇所も見受けられた。パンクしてしまったタイヤはゴム部分が完全にちぎれ跳び、ホイールのリム部分が地面と設置しており、タイヤの交換をしなければこれ以上走ることはできなくなっていた。
「怪物は、まだ来なさそうだな」
「途中、後ろから銃声が聞こえました。恐らく怪物に阻まれ、進めなくなったところで応戦したのでしょう。そちらの方に怪物の注意が向いたのかと」
「期せずして囮役を押し付ける形になってしまったか…」
一緒に基地を脱出したほかの車両の末路を想像し、顔をゆがませる。他に基地から脱出する方法はなかったとはいえ、他の隊員たちの末路は想像に難くない。
「ッシャア、開いたぁ!!」
軍曹たちの暗い雰囲気を吹き飛ばすように、西森の雄たけびと蹴り飛ばされた大扉が地面にぶつかる音が鳴り響く。ゆがんだ大扉を無理やり蹴り開けた西森は、考え込んでいる軍曹たちに声をかける。
「こいつはもう動きそうにねぇんですか?」
「ああ。タイヤがもう使い物にならない。予備のタイヤも留め具ごとどこかに行ってしまったからな」
「ってこたぁ、此処からは歩きってことですかい。ならできるだけ早く出発した方がよさそうだな」
「訓練している俺たちなら大丈夫だが、民間人もいるんだぞ。そこらへんも考えとけ、脳筋」
「あぁん!?そんなことわかってるんだよ!つまりあれだろ…休憩してから出発するってことだろ」
「違うにきまってるだろ、だからお前は脳筋なんだ」
「さっきからお前は一言多いんだよ!」
東の言っている通り、徒歩で移動するときに出てくる問題は休憩すれば解決するものではない。問題なのは、三上はまだ数kg程度である銃であるためにましであるが、天城にいたってはフライトユニットと銃を合わせて10kg後半はあるものを持って移動しなければならないことだ。
此処から街までは数kmは離れており、怪物が追いかけてくる可能性も考慮すると、周囲の警戒をしつつもできるだけ急いで移動する必要が出てくる。三上ならまだしも、天城に鉄の塊を持ったままついてこいというのは酷だ。ならばそれをだれが持つのかということになってくるのだ。
「…ひとまず西森が天城の持っているフライトユニットと銃を持て。三上には悪いが銃は持っていてもらう。しばらく進んだら一度休憩をはさむ。その際に今度は北峰が運び、三上も辛そうだったらその時は東が銃をあずかれ。以上だ」
「「「了解!」」」
「さあ、怪物がいないうちに街まで急ぐぞ!」
――――――――――
「軍曹たちは街についた後どうするんですか?」
目指していた街までもうすぐそこまで進んだとき、三上が軍曹に声をかけた。
「その時の状況によるが、お前たち二人を近くの基地に送った後、本部に一度帰還するつもりだ」
「そこの基地は安全、というよりも無事なのですか?」
少し後ろを歩いていた天城にも聞こえていたのか懸念をこぼす。いくつもの基地が短時間で攻め落とされるとは考えたくなかったが、怪物の圧倒的な物量を見てしまえば無事ではないと考えても仕方がなかった。
「本部の方に確認を入れたが無事らしい。損傷なしとはいかなかったようだが怪物を撃退できたらしい」
「あの量の怪物を相手にですか!?」
軍曹も確証もなしには無事とは考えられなかったため、本部の方へと連絡を入れた際に聞いていた。その報告を聞いた軍曹も驚きを隠せず、怪物や塔に対しての攻略法を見つけたのか、その基地には何か秘密兵器のようなものがあったのか聞いたが、違ったようだった。
「そもそもとして、襲撃を受けた基地は半分ほどだったらしい。その中であの正体不明の塔が降ってきたところや、何度も怪物の大群が襲ってきたところは少数らしい。基地を塔で破壊するような荒業で攻めてきた場所は、さっきまでいたベース228や欧州のマルセイユ基地も含めて10にも届かないほど少なかったらしい」
「本当ですか!?」
「…運は悪くない方だと思ってたのになぁ」
それを聞いた三上と天城は肩を落とす。
たまたま仕事で訪れた場所にいきなり怪物が現れ、そこが偶然相手から執拗に攻撃される場所だった。これ以上ないほどに不運だ。あれだけの怪物を相手に生き延びたことが幸運だと思っていただけに、その落差は大きく感じた。
「さすがにあんな不幸はもうないはずだ。元気出せ」
本部から届いた通信を聞く限りだと正体不明の敵相手に劣勢であることはわかっている。それでも自分に言い聞かせるように慰めの言葉をつぶやいた。
「軍曹!」
「なんだ?」
前を進んでいく軍曹を呼び止めるために三上は声を張る。そして次の言葉を慎重に選んでいきながら話していく。
「本部に戻るのでしたら、その付近の基地まででいいので俺も連れて行ってくれませんか?」
「はあ?何言ってんだお前」
その場にいた全員が言葉を無くすなか、西森が呆れた声音で問いかけた。三上はそれにこたえることなく、ただ真剣に軍曹のことをまっすぐ見ていた。
本来であればここで断らなければならない。しかし、それを言いよどんでしまう理由がいくつかあった。それは基地での三上の戦いぶりであり、考えないようにしていても頭によぎってしまう最悪の予想であり―――――
「………」
「本部の近くに実家があるんです。こんな状況だから、そこにいるはずの祖父母を一目見て無事を確認したいんです」
そう、この目だ。三上がこちらを見てくるその目が一番の理由だった。本部の近くまで付いてくるということは、これからも怪物と戦う可能性はとても滝ということだ。そこまで考えずに言っているのだとすれば悩むこともなかっただろう。しかし、どこで覚えてきたのかわからないが、三上の目にともる民間人には不似合いな覚悟をした目だった。それも戦場で何度も見た自分の命よりも任務を達成することを優先した兵士たちが浮かべる、決死の覚悟がともった目だったのだ。
「次の街を抜けても付いてくるならば民間人としてではなく隊員として扱う。途中で任務が入れば俺たちはそちらに優先しなければならない。怪物の群れを前にしても援護は最低限となってしまうため、死んでしまう可能性は限りなく高い」
そこまで言ってちらりと三上の方を見る。できることならば脅し文句といってもいい今の言葉に怖気づいてせめて視線がそらされることを期待した。そうすれば覚悟が足りず足手まといになるという軍曹自身も納得できる理由ができる。しかし、その期待に反して三上は目をそらすことなく軍曹のことを見つめていた。
「…そのうえで、避難後はできるだけすぐにEDFに入隊しろ。それでも付いてくるか?」
「はい」
「…はあ、わかった。本当なら駄目なんだが本部の近くまで連れて行ってやる。今のお前なら足手まといにならなそうだ。何なら天城も付いてくるか?」
「い、いや~、僕はちょっと…」
「ふっ。お前が普通の感性の持ち主でよかったよ」
周りが驚きで言葉を失っている中で、断らなければいけない提案を受け入れると、周りを気にも留めずに進んでいった。
先に進んでいく軍曹を慌てて追いかける中で、北峰が軍曹の隣にまで進み問いかけた。
軍曹の返答に唖然としたままの周りを気にすることもなく、話は終わりだと言わんばかりに足を進めていく。これに慌てたのはもちろん軍曹以外の隊員たちだった。
「軍曹、本当に連れていくのですか?」
「いくら素質はありそうでも素人ですよ?足手まといにしかならないと思いますが」
「俺も反対ですぜ。せっかくあの状況から生き延びたのにわざわざ死にに行く真似は止めておいた方がいいですって」
いくら軍曹が決めたことであっても納得できないのか、わざわざ軍曹に近寄ってまでそう言った。どうにか三上を連れていくことを諦めさせようとした。同行を許可してしまえばせっかく助けた民間人を死地へと連れていくこととなる。そのうえ、EDFの装備を渡したのはまだ緊急事態での身を守らせるための装置であるが、これ以上の同行を許すことは完全な越権行為といってもよかった。
「お前たちはこれからどうなるかわかるか?」
軍曹は一度三上たちが離れていることを確認すると、北峰達にだけ聞こえる声でそう言った。そこから話し始めたのは、部隊を率いる身であるがゆえにずっと考えてきたこれからの展望についてだった。
「俺たち、というよりも人類は今未知の敵に襲われている。世界中で敵の襲撃に気づくことができないまま主要な基地が短時間で落とされた。俺たちは情報戦で完全敗北したうえで、後手に回らざるを得ない状況だ。これから戦争が続くのだとすれば俺たちは圧倒的な劣勢に立たされることになる」
「ま、まだ初撃で一気に叩くために多くの戦力をつぎ込んだ可能性もあるぜ…?」
「お前もそれが希望的観測でしかないことはわかってるだろ。基地で見た謎の塔や、謎の原理で空を飛ぶ無数の円盤を見れば、あの程度が本気ではないと考える方が妥当だ。恐らくこれからは世界中が戦場になり、有利な戦いとなる場所など数える程度しかなくなるだろう」
今まで考えないようにしていたことを突き付けられた彼らは思わず押し黙ってしまう。お通夜のような雰囲気の中、ある程度の認識のすり合わせができたと判断した軍曹は続きを話し始める。
「三上の同行を許したのはあいつに素質があると感じたからだ。それもエース級になれるほどの素質がな。死んでしまう可能性も高いが、これから起こりえる戦況のことを考えると一人でも多く怪物との戦闘を経験したものが必要になってくるはずだ。たとえ後で恨まれることになったとしても、此処で戦友となりえるものは逃せない」
前を見据える軍曹の目には悲壮な覚悟が浮かんでいた。軍曹のくだしたこの決断は、EDFへと入隊した過去の自分を裏切り、今までのEDF隊員として持っていた自分の誇りを投げてるに等しい選択だった。
「これは俺の―――」
「三上の後ろで死ぬことはできなくなりますね」
「前線で功績を残して後方に引っ込む計画が今崩れ落ちていきましたよ」
「軍曹の言う通りなら生きても地獄なのに、死んでも地獄ですかい。ならせいぜい先輩として三上が死なないように道案内しなけりゃいけねぇな」
独断だと言おうとした軍曹の言葉にかぶせて北峰達は口々にそう言った。
「…すまないな」
「ん?何か謝られることなんてありましたか?」
「あっ!昨日、デザート用に冷蔵庫に入れてあったプリン、いつの間にか消えていたと思ったら軍曹の仕業だったんですか!?」
「今だから言うがそれ食べたの俺ですわ、すまん。だけど、共用の冷蔵庫に名前も書かずにおいておく方が悪いと思うんだ」
「ああ゛!?てめぇの仕業だったのか、ふざけんじゃねぇぞ!」
軍曹は思わず謝罪の言葉がこぼれてしまったが、誰一人として何のことかわからないかのようにふるまう仲間たちを見て思わずほおが緩んだ。
とは言え、今いる場所は戦地であるため、大袈裟にけんかをする西森と東の仲裁をすると緩んだ気を張り直す。改めて自分の部下たちの頼もしさを感じながらもうすぐ着くであろう次の街までの道を進み始めた。