「あれ?今日も先客がいるのか。」
太一は放課後すぐ練習に向かうが、そこには茶色のショートカットに若干太目の眉、大きく尖った目が特徴的のどことなく数世紀前の武士のような印象を感じさせる青年がいる。
「お前も野球をしてないと落ち着かない人間だな。」
「すまない、今から素振りの時間なんだ。こればっかりは欠かせないんでな。」
「さて、俺もするか。」
数世紀前の武士のような印象を感じさせる青年は、
「今日も俺より先に来れた雑兵共は太一と直内だけか。よし、お前らはバッティングに期待ができるから、フォームチェックをする。」
「「はい!!」」
グラウンドに棚橋監督が現れる。バッティングに期待できると判断された2人は、棚橋監督ご指導のもと、バッティングのフォームチェックが行われるのである。
「さて、練習を始める。太一、直内、如月はバッティング練習に打ち込ませる。覇道、お前はバッティングピッチャーを頼む。」
「んじゃ、やってやりますか。」
太一と直内、覇道と如月はバッティング練習に向かう。後の部員たちは、棚橋監督の千本ノックを受けるのであった。
最初に打席に入ったのは如月詩歌という女の子だった。彼女は白髪のショートに青い目が特徴の小柄な少女だが、バッティング面では棚橋監督に期待されている。
「行くぞ。」
「フフっ♪︎...倒す。」
覇道は鋭いストレートを投げるも、如月は球筋を捉えて鋭いライナーで返す。
「覇道のストレートを、鋭い打球で返すなんて...お前は暇があれば素振りしてるんだな...」
覇道のストレートをしっかり捉えた如月は、小柄な体型から想像できない鋭い打球を放つ。その様子を見た太一は感心している。その一方で直内は、タイミングを合わせるために覇道のストレートを見ながら素振りをしている。
「面白い...俺の
「今から...飛ばす。」
覇道はワインドアップからジャイロ回転をかけたストレートを放つ。そのジャイロボールを見極めた如月はバットを長く持ち、グラウンドの外まで引っ張り、飛ばしていく。
「すげぇパワーだ...」
覇道は如月の小柄な体型から想像できない長打力に驚いている。バッティング練習を終えた如月は水分補給...ではなく、餅補給をしている。
「次は直内!」
直内は打席に入り、フォームチェックをする。フォームチェックを終えた直内の前に、覇道はジャイロボールを放つも、直内はストレートに強く、ジャイロボールを次々と鋭い打球で返していく。
「ふっ、これならどうだ...」
バッティングピッチャーと言えど、投手のプライドを刺激してしまい、覇道はインハイギリギリのコースにジャイロボールを放つ。しかし、それが彼の命取りになる...
カーン!!
「なんせ俺はインコースが得意なもんでな。インコースの打球を捌く技術の取得に苦労はしたぜ...」
直内はインコース捌きが得意な巧打者で、一般入試組でありながらも棚橋監督のスパルタ教育と日々の自主練のおかげでインコース捌きが得意になる。太一曰く、入部当初は、先輩の真ん中直球もすら打てなかったらしい。
「櫂か、こりゃ嫌なバッターが来たもんだな...」
「へへっ!お前のジャイロボール、簡単に返してやるもんね!」
太一が打席に入り、覇道は少し緊張している様子。それもそのはず、夏の甲子園で先輩を差し置いて四番打者として指名されたからだ。
「さて、俺の
「さあ来い!」
ポロッ...
覇道のフェイクにまんまと引っかかる太一。その打球は内野線を越えておらず、一塁にランナーがいたら、併殺打になる可能性がある打球だった。
「ん?一言もジャイロボールとは言ってないぞ?」
覇道は太一に、カーブを放っていた様子。覇道は改めてジャイロボールを放つ。
「よし来た!」
太一は覇道のジャイロボールを、左中間、右中間に長打で打ち分ける練習をする。左中間の打球は飛距離はあるものの、右中間の打球は左中間と比べると飛距離が出ずにいる。
「まだダメか...」
太一は右中間にも強い打球を捌く練習をしているが、まだまだ苦戦中の様子。
「さて、明日から夏休みに入る。夏休み中は朝からやるから、気を引き締めていけ!」
「「はい!!ありがとうございました!!」」
今日の練習も終わり、部員たちは帰宅の準備をする。甲子園も間近になり、楠に勝利した佐野という投手が気になった直内は、太一に話しかける。
「なぁ、佐野ってどんな投手だったんだ?」
と聞く直内に、太一は答える。
「佐野は速球派投手で、多分うちの地区で一番速い速球を放つ選手だな。」
「俺みたいな感じのやつか。どうやって打ち崩すんだ...」
「あぁ、あいつは確かにいい速球を投げる。だが、あいつの球は軽いから当たると結構飛ぶんだよ。」
太一は直内に佐野対策を話す。それを聞いた直内は太一を誘い、バッティングセンターへ向かうのであった。
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