○○と付き合ってるって言ったらテイオーはどうなるのだろうか 作:ししゃも丸
俺には少し年の離れた義理の妹がいる。
妹の名前はトウカイテイオー。
名前からしてウマ娘であるんだが、これはこの話の中で特に関係ないので深く追及することはないだろう。
事の始まりは親父の再婚から始まった。一体どういう経緯で今の母さんと出会ったかは知らないが、そのことを伝えられた翌日に直接会うという話になった。
いざ出会ってみればその女性はとても綺麗な人で、一体どこでこんな人を捕まえてきたんだと親父を疑ったぐらいだ。だけど、俺にとって一番の問題は母になる人のことより、妹になるテイオーのことだった。
年が近かったらまだよかったんだけど少し歳は離れているし、俺はよくてもテイオーからすれば見知らぬ男がいきなり自分の兄となるんだから、そう簡単に受け入れられるものじゃない。
俺も最初はそう思ってたんだけど──。
「お兄ちゃん一緒にゲームしようよ!」
「もぉ~お兄ちゃんはボクがいないとダメダメなんだよね~」
「えへへ。お兄ちゃん大好きっ!」
と、気づいたら本当の兄妹みたいにすごく仲が良くなった。それは両親含めて俺もすごくいいことなんだと思う。
テイオーが俺のことを好きと言ってくれるように、俺もテイオーのことが大好きだ。もちろん兄として。
だけど、そんなカワイイ妹であるテイオーに俺はとある隠し事をしていたんだ。
ある日の休日。
俺はソファーに座りながら雑誌を見ながら、隣に座るテイオーの様子を伺っていた。今の機嫌はそこそこ……いやいつもと変わりないように見える。なのでこれからとある女性と交際していることを打ち明けても平気そうだ。
そう。俺がテイオーにしている隠し事とはとある女性と交際していることだ。
自分で言うのも何なのだが、テイオーはかなりお兄ちゃん子……まあブラコンだ。
秘密にするようになったのは学生時代でのことが原因で、当時同じ学校の子と付き合うことになったことを伝えたらひと悶着あったからだ。
それは決して悪い意味ではなく、むしろ子供らしい反応で……。
『やだやだやだ! お兄ちゃんの彼女はボクなの! だから他の女の子と付き合う必要なんてないんだ!』
みたいな感じだったはずだ。
その他の要因としてはうちのテイオーはとてもカワイイ、なので自分とテイオーを比較してしまったのではないかと考えられる。他に考えられる要因としては義理の妹と言ったのがいけなかったのだと思う。
それらの事があって1週間と続かず当時の彼女と別れることになったのだ。
まあ今では心身ともに成長したので昔よりはマシだと思ってはいるのだが、過去のこともあって交際していることを秘密にしていた。
そして今こそ秘密を明かす時だ。一応彼女とは将来のことも見据えて交際しているし、相手のおかあさんとはもう会っている。
おとうさんは……まだ心の準備が出来てない……。
兎に角だ。
うん、よし。言うぞ……俺は言うぞお前!
「なぁテイオー」
「なに~」
「実はさ俺……つ、付き合っている人がいるんだ」
「へぇー。名前は?」
よ、よし。至って普通の反応だ。足をぱたぱたと動かしているだけでそこまで変な動きはない。もっとこう驚くとか、怒鳴ってくるかと身構えていたんだがどうやら杞憂に終わってよかった。
でも、いきなり名前を聞かれたけどこれぐらいなら問題ないはずだ……。
「シンボリルドルフって言うんだけど……」
「え、カイチョーと付き合ってたの!?」
予想とは裏腹にテイオーはとても驚いていた。
……あ、そっか。
ルナとテイオーって同じ学校だったんだっけ。思い出してみれば、テイオーがよく『カイチョーってすごいんだよ』とか『カイチョーはボクの憧れなんだあ』とか言っていたのは彼女のことだったのか。
俺もルナと話すときはいつも『テイオー』ではなく『妹』といつも言っていたから、それで変なすれ違いが起きてしまったのだろう。
まったく。ギャルゲー主人公並みのうっかりさんだな俺は。
それにしてもだ。テイオーはルナと付き合っていると知ると、腕を組んで何やら唸り始めている。
「──だけどそれはそれでアリと言えばアリだしなぁ……」
一体何がアリなんだろうか。何か良からぬことを企んでいるのではないか、そんなことを勘ぐってしまう。
「とりあえず今度うちに連れてきてよ」
「え、いきなりか?」
「だってそのつもりだったんでしょ」
「ま、まあその通りではあるんだが……」
「じゃあ決まりね。ニシシっ。カイチョーと会うのが楽しみだな~」
何やらとても機嫌がいい我が妹。色々と気になることもなくはないが、今は無事に交際を伝えられたことを喜ぼうではないか。
「よっ! どうだ!」
「ふふっ。テイオーはゲームが得意なんだな」
「よくお兄ちゃんと一緒にやってるからね。そういうカイチョーはゲームとかしないの?」
「実はあまり触ったことすらないんだ。夢中になるようなものもなかったというのもあるが」
「へえー」
なんと微笑ましい光景だろうか。我が家のリビングでテイオーと彼女であるルナが一緒に同じソファーに座っている。
まるで本当の姉妹のようだ。いや、姉妹を通り越して家族のように見えなくもないだろうか。
これこそ俺が望んだ光景だ。
テイオーに言われて後日ルナをちゃんと紹介した時はどうなるかと思っていたが、二人とも知らない仲ではないからすんなりと話は進んだ。
ただ、代わりにちゃんと説明しなかった俺が二人にお叱りを受けたのは尊い犠牲だったよ……。
それからというもの、ルナの都合が合う日はこうして我が家に着て一緒に三人で何かをするような日々が続いている。
「所で……そろそろ聞こうと思っていたことがあるんだがな」
隣に座っているルナが何やら言葉にするには難しい表情しながら言ってきた。
やれやれ。キミにはそんな顔は似合わないというのに、一体何を聞こうというのだろうか。
「何だよルナらしくないな。言いたいことがあるならハッキリと言ってくれ」
「そうだよ。もうボク達は家族みたいなものなんだから。ね、お兄ちゃん」
「うんうん」
「じゃあ遠慮なく言わせてもらうが……」
コホンとわざとらしい咳払いをしてルナは俺達二人をジッと見つめながら言った。
「二人のそれは……普通、なのか?」
「それって何のことかな。お兄ちゃんは分かる?」
「いや、分からん」
「だ、だから、キミの上にテイオーが座っているのが普通だと聞いているんだ!」
いつも落ち着いているルナが慌てふためきながら叫んでいる。
ちょっとカワイイって思いながらも、俺とテイオーは互いに顔を見合わせた。
「普通と言われても。いつもこうだよな?」
「うん。だってお兄ちゃんはボク専用のゲーミングチェアだからね」
「ハッハッハ。調子に乗るんじゃないぞっ」
「アハハッ、くすぐったいよぉ~」
「む、むぅ~」
調子に乗るテイオーの脇腹をくすぐり攻撃をしていると、ルナの頬が小さく膨らんでいるのに気づいた。
鈍い俺でも分かる。これは嫉妬に違いない。確かに恋人同士であるがこういった触れ合いはしたことがない。むしろそういうことをしたら怒りそうだと思っていた。
やはりここは妹にもしているんだから彼女であるルナにもしてあげたほういいな、うん。
「ルナもくすぐってあげようか?」
「バカぁ! そっちじゃないの!」
あれ、違った。
では一体何に嫉妬しているというのだろうか。俺は分からないがどうやらテイオーはそれに気づいたらしく、口角を高く上げながらいい顔をしていた。
「あ、わかった。お兄ちゃん、カイチョーはボクがお兄ちゃんの上に座っているのが羨ましいんだよ」
「ち、ちがっ……」
「違うの?」
「ち、違わないけど」
「俺の上って……休みの日はいつも乗って──」
「そっちでもない!」
「え、カイチョーもお兄ちゃんの上に乗ってるの?」
「テイオーにもその内わかるよー」
「えへへ」
誤魔化すためにテイオーの頭を撫でる。うん。まだテイオーはちょっぴり早い。
頭を撫でられて嬉しそうにするテイオーに対し、ルナはその逆で先程よりもっと大きく頬をパンパンに膨らませていた。
「でもさ、カイチョーにはお兄ちゃんの隣があるよね」
「い、いや、私が言いたいのはそういうことではなくてだな?」
「じゃあお兄ちゃんと結婚しないの?」
「しますぅ!」
「ならそれでいいじゃん」
「うぅ……テイオーに口で言い負かされてる……」
そう言いつつも俺の腕に抱き着いてくるルナ。ちょっと失礼だけど、その顔が悲しそうにしぼんでいるのがちょっとカワイイと思ってしまった。
それに腕に彼女の豊満な胸の感触が直に伝わってくる。もう慣れているものだが男としてはちょっと意識してしまう。
「ニシシっ」
まるでそれを見透かされているのかテイオーが体重を掛けてくる。全く悪い妹だと思う。だけどこれもよくあることなので、俺はそう簡単に表情を崩すことはないのだ。
しかしだ。テイオーは妹で大事な存在だが、彼女であるルナがこうも弄られるのも彼氏としてはちょっと如何なものかと思ってしまう。
なので少しは彼氏らしいことをしてみることにした。
「ところでテイオー。そろそろルナのことをちゃんと呼んでやったらどうだ。お前がそう呼ぶことに慣れ親しんでいるとはいえ、もう会長じゃないんだからそろそろお姉ちゃんと呼んでもいいんじゃないか?」
そう言うとルナがハッと頭を上げて目をキラキラと輝かせている。彼女は一人っ子だからお姉ちゃんと呼ばれることにどこか憧れを抱いていたようだ。
その気持ちはとてもよく分かる。
俺も初めてテイオーにお兄ちゃんと呼ばれたときはすごく嬉しかったのを今でも覚えているぐらいだ。
ただ……肝心のそのテイオーはあまり乗り気ではないようだ。
「え~カイチョーはカイチョーでいいじゃん」
「……やっぱり私では姉にはなれないのかっ」
「……お姉ちゃん」
「も、もう一回言ってくれ!」
「カイチョー」
「うぅ……」
「お姉ちゃん」
「うん、お姉ちゃんだぞ!」
「カイチョ~」
「しょぼーん……」
「ニシシっ」
「こら。お姉ちゃんで遊ぶんじゃない」
「だって面白いんだもん」
乗り気でないどころかノリノリだった。
この様子だとこれからもこんな感じでやっていけるかもしれない。
もしも付き合うのに反対だとか、結婚する直前にダメだなんて言われたきっと俺はどうなってしまうのか分からない。
それぐらいに俺はテイオーを大事に思っているんだ。
「まあでも、よかったじゃないかルナ。きっといいおねえさんになれるよ」
「そこはいいお嫁さんって言ってほしい……」
「じゃあ早く結婚しないとね」
「それもそうだな」
「もう、二人して私をからかって!」
『あははは』
──結論 テイオーはとても喜んでいた。
〇月〇日
お兄ちゃんからついに付き合っていると思われる彼女のことを伝えられた。お兄ちゃんは気づいていないと思っていたようだけど、ボクにはバレバレだったのだ。
ただ、まさかその相手がカイチョーだとは思わなかった。
色々と思うことはあるけどカイチョーなら知らない仲じゃないし、将来のことを見据えて考えればそこまで悪くないのかな?
とりあえず今度会う時が楽しみだ。
〇月〇日
改めて今日カイチョーを紹介された。
ボクが知っているカイチョーとはまるで別人なぐらい綺麗な服を着て、化粧にも気合いが入っていた。
まさかボクがお兄ちゃんの妹だと今まで知らなかったらしくて、ボクを見てとても驚いていた。どうやらボクが義理の妹であることを話していなかったらしい。まあ、お兄ちゃんはちょっと抜けているところがあるから仕方ないんだけど。
話を聞く限りだと関係は良好のようだ。もしこれでお兄ちゃんを誑かしていたらと、今日に備えて色々と用意していたんだけど必要なさそうだ。
でも、女は魔物と言うし、いくらカイチョーと言えど油断はできない。これからも観察を続けるとしよう。
〇月〇日
最近気づいたんだけど、お兄ちゃんはカイチョーのことを『ルナ』と呼んでいることに気づいた。なんでも親しく大切な人にしか呼ばせないんだとか。
確かに名前の呼び方でその人の印象は変わるものだ。シンボリルドルフと聞けばなんだか高貴な人を連想するが、ルナと聞けばなんだかカワイイ人を思い浮かべる。
それはある意味で、お兄ちゃんとカイチョーだけの特別な証とも言える。
別に嫉妬なんかしてないもん。
だってカイチョーが知らないお兄ちゃんをボクは一杯知っているからね。
それにお兄ちゃんの妹は誰でもないボクだけだ。
〇月〇日
最近二人のデートは我が家になることが多くなった。もちろん自然な形でだ。まあ、ボクも無理のない範囲で二人のデートに同行しているんだけど。
今日はカイチョーにボクがお兄ちゃんの上に座っているのがとても気になっていたようだ。いつ言うかと待っていたんだけど、やっとお兄ちゃんに今日尋ねたんだ。
カイチョーには悪いけどお兄ちゃんの
あとお兄ちゃんにいい加減カイチョーじゃなくてお姉ちゃんって呼びなさいって言われた。お姉ちゃんって呼ぶとカイチョーはとても面白い反応をするので、ついついカイチョーで遊んでしまった。
前々から考えていたけどカイチョーがボクのお姉ちゃんなら色々と楽しめそうだし、お兄ちゃんも幸せそうだからいいかなって思える。
だけど、観察はまだまだ続行するよ。だって肝心なのは結婚してからだからね。
だから──改めてよろしくね、お姉ちゃん。
ニシシっ。