○○と付き合ってるって言ったらテイオーはどうなるのだろうか   作:ししゃも丸

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お兄ちゃんとスぺちゃん

 

 

 ママとついでにパパへ。

 

 今回は珍しく手紙を書いてみたよ。電話だったら簡単に伝えられることだけど、何となく手紙もいいかなって思って今回はこういう形にしてみました。

 

 ボクとお兄ちゃんは相変わらず元気にやってるよ。最初は勢いでついて行っちゃったボクだけど、数年も経てば仕事にも慣れてきた感じかな。それでも朝早く起きるのはまだ慣れないんだけどね。

 

 だけどお兄ちゃんはすごいよ。何の仕事をしていたのかは知らないけど、いつのまに大型免許とかその他の特殊免許やら資格を取っていたんだから。ママは知ってたりするのかな。

 そんなお兄ちゃんもいまじゃ大きなトラクターを畑で乗り回しているんだ。

 

 そうそう。資格で思い出したんだけどさ、ボクも車の免許を取った方がいいのかな。お兄ちゃんは取っておいた方がいい言うんだけど。まあここは東京みたいに電車で済ませられるほど便利な所じゃないから、お兄ちゃんの言うこともわかるんだけど。

 

 あとね、今年はそっちに帰れるかは分からないんだよね。冬になればひと段落はつくんだけど、いまは丁度収穫時期で忙しいんだ。まあそれ以外にも理由はあるんだけど……。

 

 なんと、ついにスぺちゃんがおめでたなんだよ! 

 

 いやあ、なんかスぺちゃんのお腹が出てきたなって思ったんだけど、ついに食べ過ぎでお腹が出るようなったって、ボクも最初は勘違いしちゃったよ。もしかして……なんて思いながら病院に行ったら三ヶ月目だって。

 

 だから今年はスぺちゃんのこともあるから帰れるか分からないかも。なので代わりじゃないけど、野菜をたくさん送っておきました。

 

 じゃ、また何かあったら連絡するね! 

 

 無敵のテイオー様より。

 

 

 

 

 

 

 

 あの子と初めて出会ったのは、丁度北海道の出張での仕事が片付いてその帰りの空港でのことだった。

 

「うぅ~羽田行きは……あれでいいのかなぁ……。お母ちゃんに最後まで付いてきてもらえばよかったよぉ」

 

 困っている子を見つけてたとして、一体どれだけの人がその人に手を差し伸べるだろうか。俺も最初は無視しようとしていた。だって相手は女の子だし、いまのご時世なら声をかけただけで面倒なことになるかもしれないからだ。

 

「……キミどうしたの」

「え!? そ、その私、飛行機に乗るの初めてで……」

「……ああ羽田行きね。俺も東京に帰るから一緒にチェックインするかい。チケットはもう予約してあるの?」

「あ、はいっ」

「そっか。じゃあそこまで難しくないから大丈夫だよ」

「あ、ありがとうございます!」

 

 だけど、俺は声をかけていたのだ。それは彼女が義理の妹であるトウカイテイオーと同じウマ娘だからだと思う。

 色々と向こうの不手際で滞在期間が伸びてしまった所為で、かれこれ半月はテイオーの声しか聞けていない。自分で言うのもなんだけど、俺はかなりのシスコンなのだと思う。だからテイオーが可愛くて仕方がなくて、同時にとても心配なのだ。

 

 さて、問題はここからだった。

 チェックインを済ませて、搭乗時間まで待ち、いざ飛行機に乗り込み、これでお別れだなと思ったらまさかの席が隣同士というミラクルが起きたのだ。

 

 互いにこれも何かの縁と言うことで、ほんの1時間とちょっとの空の旅の時間を共有することなり、ついでに自己紹介もした。

 

「なんでスペシャルウィークは東京に行くんだ? いまの時期に一人で観光ってわけじゃないんだろ」

「私、トレセン学園に行くんです。そして、日本一のウマ娘になるんです!」

「へえ。ま、ウマ娘なら誰もが思うよね。だけど、その夢は難しいんじゃないかな」

「ど、どうしてですか!?」

「だって、俺の妹がいるからね」

「え、お兄さんの妹さんがトレセン学園にいるんですか?」

「ああ。まだ公式なレースには出てないけど、あの子は天才だからきっと強いよ。なんてたって俺の妹だからなっ」

「むむっ。例えお兄さんの妹さんだろうと、絶対に勝って見せますっ」

「ま、その時になったらスペシャルウィークのことも応援してあげるよ」

 

 年がテイオーより少し上だといっても、俺の半分以下の年の子とまさかここまで意気投合というか、話が弾むと思わなかった。

 

 それでもほんの数時間だけの出会いだ。羽田空港に着くと俺達はそこで別れることになった。俺がもうちょっと若かったら、連絡先を聞いていたかもしれないけど、いまの自分には立場もあるしそんなリスクのある行動はできなかった。

 

「明るくていい子だったなあ。ま、テイオーのが可愛いが」

 

 きっともう直接会うことはないだろう。そんなことを思いながら俺は迎えに来た車に乗り込んで空港を後にした。

 

 ……と、最初は思っていたのだが、なんとスペシャルウィークと再会するのにそう時間はかからなかったのである。

 

 

 

 

 

 ある日の休日。家に帰ってきたテイオーがいつものように俺の太ももを枕にして、スマホを弄りながら話をしていた時だ。

 

「あ、そうそう。ボクね、チームに入ったんだ。その名もチームスピカ」

「あれ、なんだっけ。会長と一緒のチームに入るんだーとか言ってなかったか?」

「それはそうだったんだけど、色々あってさ。あ、後悔はしていないよ。チームのみんなは個性的だし、楽しいチームだよ。スズカにゴールドシップ、スカーレットとウオッカでしょ。あとはマックイーンとスぺちゃん」

「ン。スぺちゃん? スぺちゃんって、スペシャルウィークか?」

「え、そうだけど。なんでお兄ちゃん知ってるのさ」

「いや、実は……」

 

 前回の出張から帰ってくる際にたまたま彼女と出会ったことを伝えると、テイオーは驚きながらも淡々としてる様子だった。

 世の中狭いね、みたいなことを言っていたが、まさにその通りだと思った。同じトレセン学園に通っているから、互いに知り合うことになるとは思っていたけど、まさか同じチームに入ることになるとは。

 

 またスペシャルウィークもどうやら俺のことをチームの皆に話していたらしくて……。

 

「スぺちゃんが話してたんだ。こっちに来る時に親切なお兄さんに助けられたって。まさかそれがうちのお兄ちゃんだったとはね」

「他には何か言ってたりするか?」

「えーとね。何故かスカーレットがどんな男の人だって食いついて、そしたらスぺちゃんがカッコよくて、まさに大人の男性って感じでしたって言ったよ。いやあ、ボクも鼻が高いねっ」

「なんでさ」

「自慢のお兄ちゃんが褒められて嬉しくない妹はいないよ!」

「そういうもんかなあ」

「そういうものなのだ。あ、どうする? スぺちゃんと会ってみる?」

「いや、会ったところで話すことはないし、別にいいよ」

「ふーん。わかった」

 

 と、この時のテイオーはやけに素直に受け入れたのだが、まさか後になって俺に一言も告げずにスペシャルウィークを我が家に連れてきたのだ。

 彼女は俺と再会したことも驚いていたのだが、やっぱりテイオーの兄ということに対して一番驚いていたように見える。

 

 俺は俺で何て言うか身内みたいに彼女を心配していた。こっちの生活には慣れたとか、友達はできたとか。たった一度の出会いでも、北海道から単身でこっちに住むことになったのだから、大人としてついつい心配になって聞いてしまった。

 テイオーにもそのことをからかわれたけど、スペシャルウィークは友達もできてうまくやっているそうでよかった。

 

 我が家で少し話込んだあと、再会祝いということで行きつけの店でご飯を奢ってあげることにした。ウマ娘はたくさん食べることはテイオーで確認済みだったのだが、まさかスペシャルウィークがあんなに大食いだったとは。

 テイオーからスぺちゃんより一杯食べるウマ娘がいるよと言われたときは、思わず顔が青ざめた。

 

 

 

 

 それからスペシャルウィーク……スぺちゃんと呼ぶことを許された俺達の関係は、意外なことに続いていくことになった。それも当然で、間にテイオーがいるから何かとあの子が行動を起こしていたのが要因だった。

 

 俺としては、こんな年の離れた男と一緒にどこかへ行って何が楽しいのかわからなかった。テイオーはまあ分かるんだけど、スぺちゃんなんて全然楽しくないだろうに。

 そう思っていたんだけど、意外にもスぺちゃんスぺちゃんで楽しんでいるようだった。生まれからずっと北海道から出たことなかったので、色んな場所に行けるのが楽しんだそうだ。そう言われると、男としては見栄を張りたくなるわけで。時間が合えば色んな所に連れていったり、美味しいご飯が食べれるお店を紹介したりもした。

 

 そんなある日のこと。また北海道に出張に行くことになった俺はスぺちゃんに言ったのだ。

 

「また北海道に行くことになったんだけど、なんか買ってきて欲しい物とかある?」

「だったらその、もし出来たらでいいんですけど、お母ちゃんにこっちで美味しいお菓子とか持って行って欲しいんです。私からは何もしてあげられないから……」

「大丈夫大丈夫。出張期間なんて好きに調整できるから、初日にスぺちゃんの実家に行ってあげるよ」

「本当ですか!? ありがとうございます、お兄さん!」

 

 とまあこんな事があって、スぺちゃんのお母さんが好きなお菓子や日持ちしそうな物を見繕って、単身スぺちゃんの実家に赴くことになった。

 

 あ、当然そのお金は俺が出したけどね。年頃だしお小遣いだって無限じゃないから、これからくらいはしてあげないと。

 まあ、テイオーがそれ見て久しぶりに駄々をこねたのは可愛かったが。

 

 いざスぺちゃんの実家に向かえば、やけに若いお母さんの歓迎を受けた。電話でスぺちゃんが色々と話していたのか、邪険にされることなくて初対面ながら受け入れてもらえた。

 そしたらまあ予想していなかった訳じゃないのだが、案の定スぺちゃんとの関係を根掘り葉掘り聞かれた。

 

 ただの友達の兄と言っても信じてもらず、終いにはお母さん公認で、

 

「うちの娘と付き合ってもいいからね。あたしが許す!」

 

 とまで言われてしまって、俺は逃げるようにスぺちゃんの実家を後にするのだった。

 

 いや、本当にいいお母さんなんだけど、倍も年が離れた男に娘を薦めるのはどうかと思うの……。

 

 

 

 でも結果から言えば、意識をし始めたのは誰でもない俺の方からだった。

 いつからだったのかは分からないけど、確かに俺はスぺちゃんにテイオーの友達ではなく、一人の女性として意識するようになった。

 

 レースで走る姿はもちろん魅力的なのだが、普段一緒に過ごす彼女の笑顔が何より俺は好きだった。何気ない話で笑う顔やご飯を美味しそうに食べる彼女の姿に。

 テイオーとそこまで年は変わらないのに、俺はスぺちゃんの何かに惹かれるようになっていたんだと思う。

 

 それは何故かと考えたとき、天井を見上げながら呟いた。

 

「そっか。俺はスぺちゃんが好きなんだ」

 

 ではスぺちゃんのどこに惚れたかと言えば、『暖かさ』というか、この人と結婚したらきっと俺は幸せなんだろうなっていう感覚だろうか。

 こればかりうまく言葉に出来ないのだが、まあ兎に角俺はスぺちゃんが好きなのだ。

 

 これまた性分なのか、善は急げと言わんばかりに俺はスぺちゃんを呼び出して告白することにした。

 

「突然だけど、スペシャルウィークさん。俺と結婚を前提に付き合ってくれませんか」

「……えぇえええええ!?」

 

 凄く驚かれた。まあ当然の反応であったのだが、偶然通りかかった人の視線の方が俺は気になってしまった。

 そしてスぺちゃんはこれまた当然のように聞いてきた。

 

「ど、ど、どうして私なんですか」

「スぺちゃんと結婚したらすごく幸せになれると思ったから」

 

 正直に話したら今までに見たことがないぐらい顔を真っ赤にしてスぺちゃんは照れていた。ここまで顔が真っ赤になるんだと静かに驚いていた。

 

「答えはすぐじゃなくてもいい。何より急だし、色々と歳の差とかいまがスぺちゃんにとって大事な時期なのも分かってる。それでもこの気持ちをキミに伝えたかったんだ」

「お兄さんの気持ちは伝わりました。でも……本当に私でいいんですか。ご飯は一杯食べるし、ちょっとおっちょこちょいだし。それに私、卒業したらお母ちゃんの仕事を手伝うために実家に帰るんですよ? それでもいいんですか?」

「うん。俺はスぺちゃんのことが好きだ。だから俺は、キミのために出来る限りのことをするつもりだよ。仕事だって辞めるし、スぺちゃんのお母さんの仕事を手伝うよ。大丈夫これでも鍛えてるからね」

「……そこまで言われて、これで断ったら私、すごく嫌な女になっちゃうじゃないですか」

「そしたら俺に魅力がなかったってことさ」

「ほんと、ズルいです。……こんな私でいいなら、どうぞよろしくお願いしますっ」

 

 嬉しさのあまりスぺちゃんを抱きしめた。すると、周りにいた通りすがりの人達に拍手を送られて、胸の中でスぺちゃんがもっと顔を真っ赤にして顔をうずめていた。

 

 そして俺は家に帰って親父と母さん、大事な妹であるテイオーに報告することにした。

 

「惚れた女のために今の仕事を辞めて北海道で農家やるわ」

『『『……え?』』』

 

 

 

 

 

 

 

 

 〇月〇日

 ボクのお兄ちゃんはとても仕事ができる自慢のお兄ちゃんである。

 

 どこに勤めてどんな仕事をしているのかは知らないんだけど、よく出張に行くからきっと凄く大きな会社で働いているんだと思う。

 

 ボクはそんなお兄ちゃんが誇らしくて大好きなんだけど、出張に行ってしまうのは妹としてとても寂しいのである。だってお兄ちゃんと触れ合うことすらできないのは、ボクにとってはとても辛いことなのだ。

 

 そんなお兄ちゃんもボクと離れ離れになると、出張期間中は毎日電話を一時間以上は話すのだ。それを友達に話したら、お似合いの兄妹だよって言われた。

 

 いやあ照れるなあ。

 

 そんな訳で今月の頭から北海道に出張に行っているんだけど、今回は長くて嫌になっちゃうよね。お兄ちゃんもボクと同じように思っていたらしく、これこそ以心伝心ってヤツなわけだよ。

 

 まあこれも仕事だから仕方がないんだけどさ。とりあえず今回のお土産をボクは楽しみに待つのである。

 

 

 

 〇月〇日

 色々あってボクはちょっと別の意味で有名なチームスピカに入った。

 そこで最近転入してきたスペシャルウィーク、ボクらはスぺちゃんって呼んでるんだけど、スぺちゃんからある話を聞いた。

 

 なんでも北海道からこっちに来る際にとても親切な男の人に助けられたんだそうだ。このご時世だと詐欺とかナンパを疑うんだけど、スぺちゃんは根がいいから普通にその人を受け入れたらしい。

 

 ちょっとは疑わないといけないよ。世の中ボクのお兄ちゃんみたいにいい人なんていないんだからね。

 

 何故かスカーレットがその人のことに食いついて、スぺちゃん曰くカッコよくて、まさに大人の男性って感じの人らしい。

 

 成程。つまりはボクのお兄ちゃんみたいな人か。そんなことを思っていたら、

 

「あ、そういえば。お兄さんには妹さんがいて、なんでもトレセン学園に通ってるらしいんですよ」

 

 へえ。ボクと同じような子が他にもいるんだ。一体どんなウマ娘なんだろうか。きっとお兄ちゃんトークで盛り上がるに違いない。

 

 あと、この流れでゴールドシップを筆頭に、みんながボクのお兄ちゃんのことを聞き出そうとしてきてた。当然ボクはお兄ちゃんの情報を漏らすことはしなかった。

 

 なんでかって? 

 

 だってボクの自慢のお兄ちゃんだよ。きっと話を聞いたらみんな好きになっちゃうに決まってるんじゃん。

 

 

 

 〇月〇日

 まさかお兄ちゃんがスぺちゃんの話していた親切ないい人だっとは思いもよらなかった。まさに世の中狭いってやつだ。

 

 スぺちゃんを改めて紹介しようかって聞いたら、お兄ちゃんは普通に断った。まあ当然だよね。スぺちゃんはお兄ちゃんに感謝はしているけど、お兄ちゃんからしたら困っている女の子を助けてあげただけに過ぎないんだから。

 

 だけどボクは魔が差したのか、スぺちゃんを我が家に招待してお兄ちゃんと再会させてあげた。お兄ちゃんのことは内緒にしていたからスぺちゃんはとても驚いていた。

 お兄ちゃんはそこまで驚いていなかったけど、再会祝いで食べにいったお店でスぺちゃんの食べる量に驚いていた。

 

 ごめんね、お兄ちゃん。スぺちゃんより食べるウマ娘は他にもいるんだ。

 

 ……たった一人だけど。

 

 

 

 〇月〇日

 スぺちゃんとお兄ちゃんを再会させてから、ボクらは三人でよく出かけるようになった。何て言うかスぺちゃんって可愛いんだよね。凄くいい子で素直だし。それにこっちに来るまで北海道から出たことがないって言ってたから、この機会に色んな所に連れて行ってあげたかったんだよね。

 

 まあボクもただ単にお兄ちゃんとどこかに出かけたいだけだったんだけど。

 

 お兄ちゃんもお兄ちゃんもでまるで自分の娘のようにスぺちゃんを心配していたんだよね。そりゃあ単身でこっちで暮らすとなれば、そういう風に思わなくもないのかな? 

 

 それに二人とも満更でもないみたいだし、オールオッケーだよね。

 

 

 

 〇月〇日

 お兄ちゃんがまた北海道に出張に行くことになったんだけど、そしたらお兄ちゃんったらスぺちゃんに何か色々と聞いていたんだよ。

 

 何か買ってきてほしいものがあるかとか色々。

 

 そしたらスぺちゃんは実家にいるお母さんにお菓子とか持っていて欲しいって頼んでた。スぺちゃんのお母さんが仕送りでよくニンジンを送っていたから、そのお返しだろうか。ここまで離れているとそう簡単に親孝行なんてできないよね。

 

 お兄ちゃんも普通にそれを了承していたけど、お母さんに送るお菓子とか全部お兄ちゃんが払っていた。

 

 恐ろしく自然な流れ。ボクじゃなきゃ見逃してたね。

 

 何より最近はボクにもそう簡単に物を買ってくれなかったので、久々に妹パワーを炸裂させて駄々を捏ねた。だけど、なんとなく負けた感じがするのは何故だろう。

 

 

 

 〇月〇日

 珍しく家族が揃ったある日の休日。お兄ちゃんが急に何処かに出かけて帰ってきたと思ったら、いきなりボク達の前でとんでもないことを言い出した。

 

「惚れた女のために今の仕事を辞めて北海道で農家やるわ」

 

 ヒントとなるワードがあったんだけど、あまりにも急なことだったのでボクもパパとママも凄く混乱していたんだ。

 

「お、お兄ちゃん! 惚れた女って誰さ!」

「スぺちゃん」

「えぇえええええ!!」

「じゃあ俺、これから会社行って色々と手続き済ませてくるわ」

「お、お兄ちゃん!? ちょっとお兄ちゃんってば!」

 

 普通そんな簡単に会社を辞められるわけないのだが、お兄ちゃんは翌月には仕事を辞めて北海道に引っ越すなどの準備を始めていた。

 

 ますますお兄ちゃんがどんな仕事をしていたのか気になるし、そのお兄ちゃん自身の立場も余計に謎が深まるだけであった。

 

 そして。

 

「じゃあなテイオー。暫くは忙しくて連絡してやれないが、落ち着いたら絶対に連絡するから。あとお兄ちゃん自慢の野菜を送るから待ってろよな!」

「お兄ちゃーーん!」 

 

 翌々月にはお兄ちゃんは単身北海道、つまりスぺちゃんの実家に行くことになった。一方残れた

 スぺちゃんに色々と話を聞けば。

 

「プロポーズされて、その相手がいきなり実家に住み込みで仕事を手伝いに行って、残されたスぺちゃんとしてはどうなのさ」

「その、寂しくないって言ったらウソになるんですけど、やっぱりお母ちゃん一人じゃ大変だし、そこは私もお母ちゃんも助かるといいますか……」

「ふーん」

「それに私がまだ結婚できる年齢ではありませんし、何よりまだ夢の途中ですからっ。あ、でもですね。テイオーさんと家族になれるのはすっごく嬉しいです!」

「そりゃあボクも嬉しいけどさぁ……。で、恋人らしいこと何かしたわけ?」

「え? お兄さんが旅立つ前にたくさん貰ったていうか……その、ごにょごにょ……」

「うわぁあああん! お兄ちゃんがスぺちゃんに穢されちゃったよぉおおお!!」

「えぇえええ! そっちなんですか!?」

 

 ボクも今すぐ何かも捨ててお兄ちゃんを追いかけたかった。だけど、スぺちゃんが言うようにボクにも夢がある。まだ全然満足に走ってはいないのだ。

 

 とりあえずこのことはスぺちゃんに硬く、そして口を酸っぱくして秘匿しておかなければ。多分ゴールドシップ辺りが五月蠅いだろうし。

 

 いや、スズカの方が面倒になるのかな? 

 

 ま、困るのはスぺちゃんだからいっか! 

 

 

 追記。

 翌年にお兄ちゃんが一から作ったニンジンがダンボールで届いたんだけど、普通に美味しくて度肝を抜かれたよ。

 

 マジでお兄ちゃんって何の仕事してたのさ……。

 

 

 

 数年後

 

「……あれ、テイオー?」

「あ、テイオーさん!」

「えへへ。来ちゃった♡」

 

 ボクはスぺちゃんの一年遅れでお兄ちゃんを追いかけるべくスぺちゃんの実家に乗り込んだのである。

 

 だってさ、ボクが大好きなお兄ちゃんと離れ離れになって暮らせるわけがないよねえ!? 

 

 ただボクの誤算は、農家の仕事をちょっと舐めていたことであった……。

 

 

 

 

 ──結論 テイオーがやってきた。

 

 

 

 

 

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