○○と付き合ってるって言ったらテイオーはどうなるのだろうか 作:ししゃも丸
トレセン学園に勤める男性職員及びトレーナーにとって、この職場はある意味で天国であり地獄だと言う。
そりゃあ右を見ても左を見ても可愛くて美人なウマ娘や、同じ職場の人間の女性も多くいるからそれは当然だよね。まさに選り取り見取りってやつだ。
だけど、なんで地獄とも言われてるのかと言えば、そりゃあ生徒であり担当ウマ娘達に手を出せるはずもなく、かと言って隠れて交際なんてできるはずもない。教師なら兎も角、トレーナー同士で付き合うとなると色々と面倒なのだとか。学園側からすれば職場恋愛は大いに結構と謳っている割には、内心扱いに困るとも。
それがなんで面倒なのかと言えば、トレーナーという存在は意外とモテルからなのだ。それは当然ウマ娘からであり、どこかの統計によれば卒業後に担当トレーナーと結婚するウマ娘は多いという結果だそうだ。
まあつまり何が言いたいのかと言えば、トレセン学園で働く男性にとって一番高嶺の花であるのが、理事長秘書を勤める駿川たづなその人である。
近そうでとても遠い所にいる彼女に男一同はみんな淡い恋心を秘めているという。
学園に通うボクことトウカイテイオーも、たづなさんは綺麗な人だと思う。だけど、ボクも含めて多くの人やウマ娘も彼女と多く会話したことがある存在はそうそう(然う然う)いない。いるとすれば、それこそ理事長になる。
そんな高嶺の花であるたづなさんなのだが、ここ最近になって妙に色っぽくなったと言う噂が出回っていた。
あのたづなさんに男が!? みたいな感じ。
男達は阿鼻叫喚嫉妬と憎しみの嵐で、その男の情報を掴もうと互いを蹴落とすことしか考えていなかった彼らが手を組む程であった。
そういうボクはと言えば、至って普通の反応だった。
「へえーたづなさんに彼氏かあ。いいなあ。お兄ちゃんも早く彼女を作ってボクを安心させてほしいよ」
尚、そう簡単にお兄ちゃんの彼女を認めると言っていない。
そんな事を思っていたある日、お兄ちゃんがいきなり彼女を紹介するという話になって……。
「彼とお付き合いしている駿川たづなです。改めてよろしくね、テイオーさん」
「……うっそーん」
トレセン学園の高嶺の花を射止めたのは、なんとボクのお兄ちゃんだったのである。
率直に申し上げれば、彼女と出会ったのは本当に偶然だった。
あれはいつものように職場で仕事をしている時のことだ。きっかけは後輩が俺に合コンの話を持ちかけたのが始まり……。
「先輩。本当に急であまり気乗りしないんですけど、今日合コンがあるんで参加してくれませんか?」
「素直に数合わせだと言ったらどうなんだ、お前は」
「そんなことないっす。先輩がいると助かるっす」
言葉ではそうは言っても、顔がそれを全く隠せてないことにコイツは気づいているだろうか。
彼は俺の後輩なのだが、まあ部署に一人はいそうなちょっとチャラそうなヤツ。チャラそうには見えても俺が指導をしたおかげなのか、仕事は一人前にこなしているので上司からの評価はそれなりよかったりする。
何より彼がこうやって合コンをセッティングするのを周りからも感謝されていて、現にこの合コンで彼氏彼女が出来た人間は多い。相手は同じ会社内であったり、友人の紹介だったりと横のつながりが意外と広い。
「はいはい。まあ予定はないから参加するが、別に俺は恋人が欲しいわけじゃないから適当にしてるぞ」
「そうやって適当に過ごしたことないっすよね?」
「なんでそうなる。現に今まで彼女が出来たことないだろ」
「そりゃあ先輩がドン引きするレベルのシスコンだからっすよ」
「は? うちのテイオーが一番可愛いに決まってるだろ」
「……藪蛇だった」
コイツが合コンをセッティングする際、連れてくる女性は皆年相応に可愛い子が多い。モデルとかもっと言えばアイドルと疑ってしまうぐらい綺麗揃いなのだ。
だけど俺は彼女達にときめくことはないし、我が妹のテイオーのが可愛いし魅力的だと思ってる。
やっぱり俺の妹がナンバーワン!
「A子でーす」
「B子です」
「C子です」
「駿川たづなです」
それから仕事終わって後輩がセッティングした合コンに参加することになった。俺と後輩を含めて残り二人が参加した4対4の合コンらしい。残りの参加者も独身でもうすぐ三十路を迎える男達で、遊びと言うよりはかなりガチで挑んでいるとのこと。
俺もそんな男達と同類になるのだが、これと言って焦っていることはなかった。彼女が欲しくないと言えばウソになるのだが、まあ今はいいかなってなっている。
だってテイオーがいるし。
そんなことを思いながら互いに自己紹介が終わり、飲み物を飲みながら会話をしていたのだが、一人だけ気になる女性がいた。
それは最後に名乗った駿川たづなという女性で、俺は彼女を何処かで見たことがあるような気がしてならないのだ。
いつもだったらビールでも飲みながら適当に会話を振ったり繋げたりと、他の奴らのサポートに回るのだが、今回は別の意味で珍しく彼女に目が釘付けになっていた。
「実はたづなって、あのトレセン学園で理事長の秘書やってるんですよぉ」
「え、そうなの!?」
「へえー意外だなあ」
「あはは。その、はい。理事長の秘書をしています」
「あ、まず──」
「ああ! どこかで見たことあると思ったら、テイオーの入学式で見たことあったんだ」
「あちゃー……」
何故か後輩が頭を抱えているのが目に入った。どうしたんだと聞こうとする前に、たづなさんが目を見開いて聞いてきた。
「え、トウカイテイオーさんのお兄さんなんですかっ?」
「ええ。義理ですけどね」
「あーそうなんですね! まさかテイオーさんにお兄さんがいたなんて知りませんでした」
「まあ一生徒と秘書がそこまで関わることはないですから。あとうちのテイオーなんですけど、そちらに迷惑をかけてたりしませんか? あの子は自分の自慢ばかりするもので」
「私もすべてを把握しているわけではないですけど、テイオーさんの評判は私の耳にも入ってきますよ。何よりレースでしっかりと結果をだしてますしね」
「そりゃあ自慢の妹ですからね。はい、当然ですよ……」
と、ここから他のメンバーそっちのけでたづなさんと会話が弾んでしまい、気づいたら二人で別の店で飲みなおすことになり、意外と共通する話題というかテイオーのことを知っているのもあってか、あの子の話題で話が盛り上がった。
これまた不思議なもので。そこまでお酒には弱くないのだが今回は珍しく酔ったらしく、翌日になってスマホを覗いたらたづなさんの連絡先が入っていた。
まあこれも何かの縁ということで、お世辞のメッセージとついでにテイオーが何かやらかしたら連絡をくださいと一言送っておいた。
そして会社に行けば、後輩に嫌味を言われる羽目に。
「もう二度と先輩を合コンには誘わないっす」
「なんでだ?」
「無自覚の女たらしだからですよ!」
「そんなことしてないんだけど」
「お願いですから、とっとと誰かと付き合うなり結婚してくださいよぉ……」
手が負えない男を見るように後輩に涙を流しながら言われたが、その意味を俺は分からずただ首を傾げるだけであった。
それからたづなさん……たづなちゃんとの関係は週に一度一緒に飲みに行くか行かないかの関係を続けていた。軽く飲みながら互いに今週起きたことをネタに話す程度。ただどちらかと言えば俺は聞く専門だったと思う。
たづなちゃんも理事長の秘書という立場もあってか、意外と身内には言えない不満を抱えているらしい。その不満を俺にぶちまけたりしている。トレセン学園の事は少ししか知らないが、在籍している生徒数や職員の数も通常の学校などとは比べ物にならないことぐらい知っているので、その中で秘書という一つしかない役職なのだから、色々とあるのだろうということぐらいは察せられた。
特に愚痴が多い日の翌日は決まって謝罪のメッセージが届く辺り礼儀正しいというか、酔って記憶が飛ばないことに同情した。
そんな関係を半年程続けた辺りから俺達の関係は少しだけ前進するようになった。と言ってもやはりそこにテイオーが絡んでいるのだが。
「今度テイオーのレースがあるじゃないですか。一緒に見に行きません?」
「わ、私でよろしければご一緒させていただきますっ」
と、このように一緒にテイオーのレースを見にいくようになった。ただちょっと心配事もあって。俺はテイオーの兄でもあり最初のファンでもあるから、ちょっと応援が過剰になりやすくて……。
「いけっテイオー! そこだそこだそこだっ!! 行くか行くのか!? ……オッシャーーーー!!! やっぱ俺の妹がナンバーワン! ね、たづなちゃんもそう思うでしょ?」
「え!? あ、はいっ。テイオーさんはやっぱりすごいですね」
「でしょ!」
とまあこのように他の観客のことなどお構いなしに騒いでいる。そして当然たづなちゃんは心配しながら注意するわけでして。
「あ、あの、嬉しいのは分かるんですけど、もう少し周りに迷惑をかけない程度の声量で……」
「あ、大丈夫。俺のこと、知っている人は知っているから」
「一体何をしでかしたんですか……」
「えーと、デビュー戦でいいんだっけ。テイオーが初めて勝ったレースで、あまりの嬉しさにお兄ちゃんパワーが暴走してしまいまして」
「お兄ちゃんパワー……ですか」
「はい。それでついついコースに飛び出して、テイオーを肩車したり一人で胴上げしてたらですね、係員に連行された後厳重注意を受けまして」
「当然ですっ!」
「そんなことがあって、テイオーのレースに関してだけはあの子の兄ということで大半の人は知ってるんですよ」
「そんなバカなことが……あーはい。認めたくはありませんが納得してしまいました」
ふと周りを見るたづなちゃんに対して、俺達の周りの人達はスッと顔を逸らし、それを見て彼女は現実を受け入れたようだ。
「ね?」
「ね、っじゃありません! これからは私がちゃんとあなたが暴走しないように見張りますっ!」
「もうあんなことしないって」
「当然です! それに先程のアレも十分過ぎる程迷惑なんですからねっ」
「気を付けまーす」
「むっ!」
「……善処します」
このような事があってテイオーのレースがある日は決まってたづなちゃんも同行するようになったのだが、当然彼女の宣言通り俺の応援は今までと違ってかなり厳しいものになってしまった。
ただ……テイオーが無敗の三冠ウマ娘の称号がかかっている最後の菊花賞でそれを抑えることはできなかったのだ。
「うぉおおおテイオー! がんばれぇえええ!!」
「お願いですからもっと抑えてください!」
『(またやってるよ。このカップル)』
たづなちゃんがあの手この手を使って俺の口を塞ごうとするが、そんな物では俺のテイオーへの想いを止めることはできない。
この時はあまり意識してなかったんだけど、たづなちゃんって女の子の割に力があるんだよね。
そして、テイオーが見事一位に輝くと俺は久しぶりに暴走した。
「うわぁああああテイオーーーー!!」
「うそ!? 誰かあの人を止めてくださーい!!」
『(いや、無理でしょ)』
俺は観客席を飛び出してテイオーの元へ駆け寄り抱きかかえたり、空高く投げた。
「よくやったぞテイオー! お兄ちゃんは最高に嬉しいぞぉおおお!」
「ありがとー ー! おにーちゃーーんーーーー!!」
周りをそっちのけで兄妹の世界に入っていたのだが、そんな俺達の世界にたづなちゃんが強制的に俺を連行していき、会場の一室で彼女を筆頭に関係者全員にお説教を受け、最終的に要注意人物(テイオーのレースのみ)となり、URAからも目を付けられるようになってしまった。
解せぬ。
その日の夜。俺はたづなちゃんに迷惑をかけた代わりに食事に誘うことに。少し経って互いに酔いが回ってきた状態でいると、彼女がふと聞いてきたのだ。
「あの。テイオーさんとは本当の兄妹みたいに仲がいいですけど、最初から今のような感じだったんですか?」
「いや、最初は違ったよ」
「意外です」
「そうかな。だってテイオーとは年が半分以上も離れてるし、あの子からしたら俺はお兄さんってよりおじさんに見えていたと思うよ。俺って結構昔から大人っぽく見えたから」
最初の顔合わせの時、母さんの後ろに隠れていたのをよく覚えている。親父とはちょくちょく会っていたらしいので俺よりマシだったらしいが、初めて会う俺に対しての反応としては当然だと思う。
あの頃のテイオーも可愛いかったなあ。今も可愛いけど。
「だけど今は違うじゃないですか。やっぱりきっかけとかあったんですか?」
「ん~自分でも分からないんだよね。気づいたらお兄ちゃんお兄ちゃんって呼ぶようになって、そしたら自然といまの形に落ち着いたっていうか……」
「何となく想像はできますけどね。けど、本当にテイオーさんのこと大好きなんですね」
「そりゃあ大切な妹ですから」
「じゃあ私のことはどう思ってますか」
「好きですよ。……あれ、今なんて言いました?」
「さあ? ちょっと酔っているのでもう忘れちゃいました」
確かに顔は赤い。赤いのだが……どこかワザとらしいというか、素面に見えるのは何故だろう。いや、いまはそれよりも先程の発言の方が問題だ。
えーと、好きですって言ったんだよな? 誰に対して?
……たづなちゃんってことになるよな、この場合
思わずもう一度彼女の方に目を向ければ、横向きに座りなおしていて、如何にもという感じでチラチラとこっちを見てくる。
つまりはそういうことなのだろう。これは流石の俺でも分かる。
たづなちゃんとの関係はまだ一年にも満たない。だけど週に一度は会う関係だったから、それ以上に長い付き合いのように思える。
駿川たづなという女性は本当に魅力的な女性だ。容姿や性格に関しては語る必要なんてないぐらいいい女だし、何よりこんなシスコンの塊みたいな男に付き合ってくれているのが不思議なくらいだ。
俺も無意識にたづなちゃんに好意を抱いていて、だからさっき咄嗟に好きですって答えたのかもしれない。
彼女なんてまだいいなんて思っていた。でも、俺はこの人を逃したら一生後悔するような気がするんだ。
俺は手に持っていたジョッキをテーブルに置いて、姿勢を正し、酔いながらも真剣に彼女と向き合い、答えを出した。
「たづなちゃん……いえ、たづなさん」
「はい」
彼女も察したのか、ちゃんと向き合うように座りなおし、俺を真っすぐ見てきている。
「あなたのことが好きです。俺と……結婚を前提に付き合ってください」
「はいっ……へ!? ちょ、ちょっと気が早過ぎますよっ」
「俺とじゃイヤ?」
「い、イヤだなんて言ってません!」
「じゃあこれからよろしくお願いします」
「も、もう! あなたってそういう人なんですから!」
ムードのムの字もないのは理解はしているつもりだが、振ってきたのはそっちではないかと心の中で思った。
また場所が店内である故に当然周りにいた人達に当然聞こえた訳で、店主を筆頭に皆が騒ぎ立てて盛大な拍手が俺達に送られた。
酔って赤くなっていたたづなちゃんの顔がもっと赤くなったのはとても可愛いかった。
そして解散となるのだが、気づいたら彼女を家まで送ることになって──
「……ハ!」
意識が覚醒して咄嗟に体を起こせば見知らぬ部屋。そしてよく見れば服を一切着ていない生まれたままの姿。何かを察して首だけ左に向けて見れば、そこには俺より先に起きていたと思われるたづなちゃんがニコニコと笑顔でこちらを見ていた。
「おはようございます」
「お、おはよう」
「ふふっ。責任、ちゃんと取ってくださいね、
「あ、うん」
「もう。なんでそんな気の抜けた声なんですかっ」
「いやだって……」
「だって、なんです?」
俺の目はさっきからずっと彼女の頭に釘付けになっていてそれどころではなかったのだ。それもそのはずで……。
「たづなちゃんってウマ娘だったんだ」
「え、そこなの……」
「とまあこんな感じで
「……」
ある日の休日。テイオーにたづなとどういう経緯で付き合うようになったのか聞かれたので、一つ一つ思い出しながらはしていたのだが、その当人が何やら暗く重い顔つきである。
「どうしたんだテイオー」
「お兄ちゃんが送り狼だと思ったら、狼はたづなさんだったなんて知りたくなかったよぉ……」
「え、何だって?」
「私がどうかしたんですか、テイオー
「エ゛!? な、なんでもないよ、たづなさん……」
お茶を淹れて戻ってきたたづなが笑顔でテイオーに聞くと、そのテイオーは尻尾をビクビクと震わせながら彼女からお茶を受け取った。
「そろそろお姉ちゃんって呼んでほしいんだけどなあ」
「い、いや、ボクも呼びたいんだけど、間違って学園でも呼んじゃいそうで。だからまだ慣れないんだ」
「私は気にしないのに」
「ボクは気にするの!」
テイオーにたづなと交際していることを伝えてから少し経って、たづなはテイオーのことをちゃん付けで呼ぶようになったのだが、そのテイオーは中々彼女のことをお姉ちゃんと呼べないでいた。多分照れているだけだろうし、毎回それでテイオー弄っているたづなはどこか楽しそうである。
「所でテイオーちゃん。この間のテストのことなんだけど」
「テスト?」
「ゲ!?」
「お姉ちゃんとしてはもうちょっとレースへの意欲を勉強にも向けてほしいなって」
「お前さ、勉強でもボクは一番だよって言ってたよな。もしかしてお兄ちゃんにウソを付いたのか……?」
「そ、そんなことないよ!」
「あら。でも、この間のとある教科で赤点ギリギリだって……」
「職権乱用じゃないかなお姉ちゃん!?」
「うふふ。そんなことないよ。私もテイオーちゃんのことが心配なの。だから今からお姉ちゃんと勉強しましょうね」
「うわああん。お姉ちゃんがイジメるよお兄ちゃあああん!」
「はいはい。俺も手伝うから一緒に頑張ろうな」
まあ家の中だとちゃんとお姉ちゃんって呼んでるし、何だかでテイオーも満更じゃなそうな感じなので、これから少しずつ家族になっていけばいいよな。
それはそれとして、勉強は頑張ろうなテイオー。
〇月〇日
ボクには義理のお兄ちゃんがいる。ボク達は義理の兄妹だけど、本当の兄妹のように仲がいい。
シスコンのお兄ちゃんにブラコンのボク。うん、まさにお似合いの兄妹だ。
初めてのレース、つまりデビュー戦にお兄ちゃんは当然応援に来てくれた。ボクを応援するお兄ちゃんの声が始まる前から聞こえたし、走っている最中にも聞こえた。それだけボクは絶対に勝てるって思えるんだから不思議だよね。
そしてボクが勝つとお兄ちゃんは観客席から飛び出し、ボクの所にやってきて胴上げとか肩車もしてくれたのがとても嬉しかったんだ。
だけどすぐに係員の人に連れていかれちゃった。
やれやれ。ボク達兄妹のスキンシップを理解できない人は困るよね。
〇月〇日
ある日のこと。
ボクのチームでは秘書のたづなさんの話題で何故か盛り上がっていた。ボクから見てもたづなさんは何て言うか大人の女性って感じがする。綺麗だし落ち着きもあって、ちょっとボクも憧れている部分もあったりするんだ。
そんなたづなさんに対してボクらのトレーナー曰く。
「たづなさん狙いの男って結構多いんだよなあ」
と言うとゴールドシップがこう言った。
「安心しろって。トレーナーじゃ絶対に付き合えないから」
「だよなあ……」
トレーナーは肩を大きく落としていたが、まあゴールドシップの言う通りだなとボクも思った。だってさ、同じ職場でも全然接点ないじゃん。むしろ女性トレーナーの方が確率高いんじゃないかな。
話は変わるけど、お兄ちゃんにもいい加減そういう話があってもいいとボクは思うんだよね。
ま、お兄ちゃんと釣り合う女性なんて滅多にいないから当然なのかなあ。
〇月〇日
「最近さ、たづなさんがやけに色っぽく見えるんだよ」
「キモ」
「最低」
「変態」
「酷いなお前ら!」
トレーニングをしている最中にいきなり何を言い出すかと思ったら、すごくどうでもいい事だった。しかしだ。ボクは柔軟をしながらふとここ最近のたづなさんのことを思い出した。
毎朝校門で挨拶をする程度だけど、確かにどこか活気があるというか、雰囲気がちょっと違うような気がしなくもない。
活気があると言えばうちのお兄ちゃんも最近やけに調子がいいように見える。ただ土曜日に帰ると毎朝寝てるのが不思議なんだけど。あとちょっと酒臭い。
まあそれに便乗してお兄ちゃんのベッドにボクは乗り込むんだけどね。
〇月〇日
今日はボクにとって大事な日だ。何ていったって無敗の三冠ウマ娘がかかっているからね。
そこには当然ボクを応援するためにお兄ちゃんも駆けつけてくれている。どこにいるか分からないけど、いつもにましてお兄ちゃんの声援が聞こえるから全く問題ない。
そしてボクはお兄ちゃんの声援もあって、菊花賞を制して念願の無敗の三冠ウマ娘の称号を手にすることができた。
するとお兄ちゃんがあの時みたいにボクのところにやってきて、高くボクを高い高いしてくれた。
「こら──! あれだけ口酸っぱく言いましたよね!? 本当に何をやっているんですか!」
二人だけの世界の中にいると、何故か私服姿のたづなさんが怒鳴りこんできてお兄ちゃんに説教を始めた。そのまま数名の係員に連行されてお兄ちゃんはどこかに連れていかれてしまった。
勝利の余韻など一瞬にして消えてしまって、なんでお兄ちゃんとたづなさんが一緒にいて、やけに親しい関係なのかという謎で一杯になってしまった。
〇月〇日
最近不思議なことがあるんだ。
それはたづなさんとすれ違う度に向こうから話しかけてくるんだ。それもやけに親しい感じで。ボクに接点はないはずなのに、向こうは一方的にボクのことを知っているみたいに話しかけてくるんだ。
一体なんでだろう……?
〇月〇日
今日は学園全体がざわめいていた。その理由はなんと、あの秘書のたづなさんに彼氏がいるという情報がどこから流れてきたかららしい。
うちのトレーナーはそれを聞いて膝をついて涙を流していた。正直に無理だったと思っていたので同情はしなかったけどね。
それにしても……今日の朝たづなさんがボクを見る目が、まるでお兄ちゃんみたいな暖かくて優しい感じでちょっと変だったんだ。
ン~全くもって分からないや。
〇月〇日
今日家に帰ったらさ、いきなりお兄ちゃんがさ彼女を紹介するって言い出してさ、その相手がさ、ボクの知っている人だったんだよね。
ああそうだよ、あのたづなさんだったんだよ!
道理でボクに親しい感じで話してくるし、やけに優しい雰囲気だったわけだよ!
二人の接点なんてないはずなのに、一体どうやって交際するに至っていうんだ……。
〇月〇日
ボクには二人のお兄ちゃんとお姉ちゃんがいる。
一人はママが再婚して義理の兄になったお兄ちゃん。
もう一人はお兄ちゃんの奥さん(予定)の駿川たづなお姉ちゃん。
お兄ちゃんからたづなさんと交際する経緯を聞いたけど、まさかお兄ちゃんじゃなくてお姉ちゃんが狼だなんて思いもよらなかった。
別にね? ボクはたづなさんが相手でよかったって思ってるんだよ。優しくて美人だし。たださ、その人がボクが通っている学園にいるっていうのがひじょーに気まずいんだよ!
最近ちょっと勉強がおろそかになっちゃって、この間のテストが赤点ギリギリだったことも知ってるし、秘書だからって公私混同はよくないと思います!
お兄ちゃんにも言われたけど、本当はお姉ちゃんって呼びたいんだよ。だけど毎朝学園で顔を合わせるし、下手に口を滑らせて皆の前でお姉ちゃんなんて呼べるわけないじゃん!
まあ家では最近素直にお姉ちゃんって呼べるようになってるからいいんだけどさ。
とりあえずボクは口うるさく言うのだ。
「早く結婚して寿退社してね。そしたら家の外でもお姉ちゃんって呼んであげる」
「本当にテイオーちゃんは恥ずかしがり屋さんなんだから」
「恥ずかしがり屋さんでもなんでもいいから早く結婚してって!」
「あらあら。本当に可愛いんだから」
「うぅ。お兄ちゃん……お姉ちゃんがボクをイジメるよぉ……」
だけどボクは一生お姉ちゃんには口では勝てない気がしてきた……。
──結論 テイオーは恥ずかしがり屋さん。