○○と付き合ってるって言ったらテイオーはどうなるのだろうか   作:ししゃも丸

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お兄ちゃんとブルボン

 鉄の女、サイボーグ。そう呼ばれているウマ娘がいる。

 

 その人の名前はミホノブルボン。

 

 なんでそう呼ばれているかって言われたら、無表情で無機質だし、普段から感情を表に出している所を見たことがないから……だと思う。

 

 確かに最初はボクもそうだったんだ。直接話す機会はそれほど多くはなかったけど、確かに彼女は遠目から見ても常に平静を保ち、誰かと会話している時もずっと同じ顔をしているから、そう判断せざるを得なかったと言えるかもしれない。

 

 だけど……。

 

「あの、マスター。先程見ていたページに戻りたいのに、何故か戻れなくなってしまいました」

「どれどれ……あーはいはい。これをな、こうすれば……な、簡単だろ」

「学習完了。ありがとうございます、マスター」

「どういたしまして」

 

 お兄ちゃんの隣に座っているブルボンを見れば、そんな今までの彼女の人物像は当てはまらない。

 サイボーグだなんて呼ばれているブルボンだけど、実際は機械音痴ですぐに困った顔しながらお兄ちゃんを頼るし、何よりお兄ちゃんや最近ボクにも見せるようになった彼女の笑顔をボクは知っている。

 

 ブルボンはお兄ちゃんを『マスター』と呼ぶ。

 

 それは親愛の証でもあるんだろうけど、その真意まではボクは知らない。まあ知らない人が聞いたら、多分そういうプレイだって勘違いされそうだけど。

 

 兎に角だ。そんなミホノブルボンの心を射止めたボクの自慢のお兄ちゃんはすごいってことになるんだろうけど、実際は……いや、時には知らない方がいいと今回ばかりはボクも思っている。

 

 ……お兄ちゃんの仕事は学校の先生で、それもボクが通っているトレセン学園で働いている。

 

 つまりお兄ちゃんは現在進行形で在学している自分の教え子に手を出したってことなんだよ!

 

 いや、手を出したのはブルボンの方だっけ……? 

 

 まあいいや。

 

 とりあえずボクは何としてでもこの秘密を守らなければいけないってことなんだ。

 

 だけどブルボンに一体何をしたのさ、お兄ちゃん……。

 

 

 

 

 

 

 トレセン学園で教師として働くことになって早数年。自分で言うのもあれだが、そろそろ新人という肩書が取れたと言ってもいい頃なのではないかと思っている。

 

 教師になったのは、まあよくある話の一つで、学生時代の恩師に憧れてなったという在り来たりな理由ではあるが、親父の再婚で出来た義理の妹であるトウカイテイオーの役に立てると思えば、この道を選んで良かったと思っている。

 

 倍も離れた兄妹となった俺達であるが、歳の差や時間の差なんて元からなかったかのように今ではすっかり仲良し兄妹である。それが行き過ぎているのか、互いにブラコンシスコン兄妹だなんて言われることもしばしば。

 

 そんなシスコン兄貴である俺が、将来テイオーが進学するであろうトレセン学園に勤めることができたのは、とても僥倖なことであったのだ。

 

 ウマ娘専門学校であるトレセン学園において、普通の教師というのは中々目立たない職種である。どちらかと言えば彼女達を指導するトレーナーの方が教師より所属している人間は多いし、俺達は彼女達と授業ぐらいしか接する機会もない。

 だからと言って手を抜いて仕事をしているわけじゃない。むしろ教室では誰よりも彼女達を見ている側だ。

 まあ彼女達からしたら、黒板に向かって授業をしているよりもトレーニングをしている方が有意義なのは間違いないのであるが。

 

 でも、いや、教師だから気付くこともあった。

 

 俺が担当しているクラスの生徒の一人であるミホノブルボンがその例だろう。彼女は同年代の子と比べてあまりにも感情が希薄というか無表情の時が多い。でもちゃんと挨拶はするし、授業で問題を振ればきちんと答えを出す子だ。

 

 他の先生の話では、なんでもサイボーグだなんて言われているらしい。確かに頭の飾りみたいなものがそれを彷彿とさせる。俺も最初は他の皆と同じ印象を抱いていたし、何て言うか反応が分からないのでこちらもどう対処すればいいか悩むことが多々あった。

 

 だけど、彼女のクラス担任や授業をしていくうちにミホノブルボンのことが少し分かり始めてきたような気がしてきていたのだ。

 

 丁度その時であろうか。俺は初めてミホノブルボンが悩んでいるのだと気づくと、彼女の先生として自然と声をかけていた。

 

「どうしたんだ、ブルボン。何か悩み事でもあるのか?」

「先生……。いえ、別に私は悩んでなどいません。なので、先生の言葉は不適切です」

「そうかな。確かに俺はまだキミが笑っている所を見たことはないし、普段の表情から何を考えているのかも分からない。だけど、いま確かにキミが悩んでいるってハッキリと分かったよ」

「どうしてそう言い切れるのですか?」

「だってさ、こう如何にもって感じでしょんぼりしてたよ」

「……しょんぼり?」

「こんな感じでね」

 

 出来ているのか自信はなかったけど、自分で困ったような表情を作って見せた。すると彼女は意外なことに素直に認めたのだ。

 

「……確かに、先生の言う通りかもしれません」

「で、何を悩んでいたんだい」

 

 すんなりと認めたことに驚きつつも、ミホノブルボンの口は自然とその原因を話してくれた。

 

 三冠ウマ娘になること。それがミホノブルボンと彼女の父親の夢なんだそうだ。俺はそれを聞いて別段不思議なことではないし、ウマ娘なら誰しも抱く夢だろうと思った。だけど、現実は別の意味で厳しいものだったらしい。

 

 彼女が所属しているチームのトレーナーや多くのトレーナーが言うには、ミホノブルボンはスプリンターとして素晴らしい才能があるらしく、なのにステイヤーを目指すのは間違いだと。

 

 俺は生徒としてのミホノブルボンは知っているが、ウマ娘としてのミホノブルボンについては全く知らない。なのでこれを聞いて彼女がどういうウマ娘なのかを初めて知った。

 

 故にそんな俺が、自分が取るべき選択について悩んでいる彼女に対して伝える言葉は簡単に口から出るわけはなかった。

 

「先生。私は……どうすればいいのでしょうか」

 

 初めて生徒から相談されたことに歓喜をしたのも一瞬。俺は、在り来たりな都合のいい言葉しか思いつかなかった。

 

「俺はトレーナーじゃない。だからあえて言うならば、挑戦すらしていないのに諦めてそれでブルボンは納得できるのかい?」

「……できません。だからこうして悩んでいます」

「だよな。だけど俺はトレーナーじゃないから、この場ですぐにブルボンが納得できる答えを持ち合わせていない。……一晩待ってくれないか? ブルボンの夢を諦めないですむ方法がないか探してみるから」

「……先生はどうしてここまでしてくれるんですか?」

「そんなの先生だからに決まってるだろ」

 

 カッコよく決め台詞を吐いた俺は仕事が終わってすぐに自宅に帰り、日課であるテイオーとの触れ合いを我慢しつつ自室で必死に調べた。帰宅途中に本屋に寄ってウマ娘のトレーニングに関する本を購入しようと思ったものの、素人の俺にはどれを買えばいいのかなんてわかるはずもないので、結局人類が生み出した叡智ことインターネットに頼るしかなかった。

 

 まあ、結論から言えばそう簡単に答えが見つかるはずもなかったのである。素人である自分でもなんとなく原因は分かってはいるのだ。トレーナー達が無理と言っているのは、多分ブルボンには長距離を走るだけのスタミナがないことなんだろうと。

 

 じゃあそれでどういったトレーニングをすれば長距離を走れるだけの体力がつくかと言えば、まあどこも似たり寄ったりことしか書かれてないし、こういった内容はミホノブルボン自身も調べ実践しているに違いない。

 

 ごめん。諦めてくれ。そうあの子に言うのは簡単なことだ。だけど、初めて自分を頼ってくれた生徒のためにも、どうしても俺は諦めきれなかった。

 

 なので俺は頼りたくないがあの女……安心沢刺々美を頼ることにした。

 

 

 

 

 

 

「ここまで長かったな」

「はい。これも先生のおかげです」

「俺はただ提案しただけで、ここまでこれたのはブルボン、キミ自身の力だよ」

「そういうことにしておきます」

 

 あれから少し時は経って、ミホノブルボンは見事皐月賞、日本ダービーを制し二冠を果していよいよ最後の三冠である菊花賞がすぐ目の前までやってきた。

 

 坂路トレーニング。それがここまでミホノブルボンがやってこれたトレーニングだ。

 

 あの夜、刺々美に聞いて得た答えがそれだった。坂路トレーニングは傾斜がつけられたトレーニングコースで、バ場材にウッドチップを使っていて脚への負担も少ないから、これがシンプルかつスタミナ不足を克服するトレーニングだと彼女は言ったのだが。

 

『だけどこれ、URAのホームページにも載ってるトレーニングなんだけど……。あなたって昔から大事な時に限って抜けてる所は変わっていないのね』

 

 と言われて調べたら本当に載ってた。俺は恥ずかしくて思わずベッドに逃げ込んだ。

 

 で、俺は彼女が夢を果たすその瞬間を見守るべくレースを見ていたのだが……ミホノブルボンの夢は叶うことはなかったのである。

 

 俺はレースが終わってすぐに彼女の控室に向かった。まだこの後ウイニングライブが控えているのだが、それに出れるような状態ではないだろうと察することは難しくない。現に控室をと訪れれば、ブルボンは涙を流していたのだ。

 

 それは初めて見る彼女の涙だった。

 

「先生、私……負けて、しまいました」

「……うん」

「先生のおかげでここまでこれたのに、父との約束がすぐ目の前にあったのに……」

 

 俺は持っていたハンカチで彼女の流す涙を拭いながらある言葉を送った。

 

「確かに三冠の夢は果せなかったかもしれない。だけどねブルボン。キミは勝ったんだよ」

「勝った……?」

「うん。あの頃のキミは、誰からも三冠ウマ娘になれるわけないって言われた。だけど実際はどうだった? キミは皐月賞と日本ダービーに勝って、そして菊花賞を最後まで走りぬいたじゃないか。レースは負けたかもしれない。だけど、キミはなにより自分に勝ったんだよ。だからそれだけは忘れないでほしい」

「……せんせぇ……」

「ブルボンはよく頑張ったよ。だから最後のウイニングライブも笑顔で終えよう」

「はいっ」

 

 涙と笑顔が混じった顔をしたブルボンの頭を俺は優しく撫でた。

 

 

 

 

 

 菊花賞が終わってから俺とミホノブルボンの関係は終わった──と思いきや、実際は以前よりも濃いものになっていた。

 例えるならお昼休み、俺が昼食をどうするか悩みながら廊下を歩いていると、彼女は教室からわざわざ俺を探しに来るのだが……。

 

「あの……ブルボン。どうして俺のあとを付けてくるんだい?」

「マスターと一緒に昼食を食べるためです」

「いや、普通に友達とカフェテリアにいけばいいじゃないか。あそこはメニューも豊富だし」

「マスターは私と一緒ではイヤなのですか」

「イヤとかそういう話じゃなくてだな……」

「……」

 

 頭を悩ませながらブルボンを見ると、彼女は瞬きもせずにジッとこちらを見つめている。一見いつものむすっとしたような表情なのだがどこか不機嫌というか、いや、何て言うか圧を発していなくもない顔をしているのだ。

 

 トレーナーがウマ娘と一緒に食事をするのは、まあよくある話だと聞いているが、教師である自分らはといえばそうそうある話ではない。

 しかしだ。目の前にいる彼女のこの顔を見てしまえば断ることなど到底できるわけもなく。

 

「……じゃあ一緒に行くか」

「了解」

 

 とまあこうなるわけで。

 ただ俺はふとある違和感に気づいてそれを彼女に尋ねた。

 

「ところでブルボン。その、マスターってなんなんだ?」

「マスターが私のマスターだからです」

「いや、意味が分からないんだが」

「……マスターは鈍感系主人公並みにニブチンですね」

「なぬ!?」

 

 それからというもの、俺とミホノブルボンの関係は終わるどころか現在も続いており、二人の距離感が以前よりも縮まり、教師と生徒と言う関係がいつしか男と女になるのは時間の問題だった。

 

 ……いや、俺は可能な限り抵抗した。必死に時間を稼ぐべくあらゆる手を尽くした。

 

 だけど……。

 

「責任取ってくださいね、マスター」

 

 俺の部屋のベッドの上で満面な笑みを浮かべながら言う彼女に、かつてサイボーグと呼ばれた頃の面影などどこにもなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 〇月〇日

 ボクのお兄ちゃんは先生で、なんとボクが通っているトレセン学園で働いているのは、実はみんなに内緒だったりする。

 

 寮生活だけど学校ではお兄ちゃんに会えるのはいいけど、みんなに内緒だからいつものようなスキンシップはできないのがちょっと不満。

 

 そんなみんなの先生であるお兄ちゃんの評判は中々悪くない。意外と人気なのか結構そういう話をみんながしているのをよく耳にする。

 残念なことにお兄ちゃんには彼女がいない。作ればいいのにってボクも思っているんだけど、意外とそういう事に意欲がないらしい。

 

 やれやれ。妹としては少しはボクに対する情熱をそっちにも向けてほしいものだよ。

 

 

 

 〇月〇日

 お兄ちゃんはトレセン学園で働いている割には昔からレースとかに興味はなかった。だけど、ある日を境にレースについて興味を抱くようになったんだ。それがいつなのかはボクにも分からないんだけど、ボクがトレセン学園に入学してからレースに出るようになって色々と気にかけてくれるようになったのはいいことだと思う。

 

 そんなお兄ちゃんは大好きな妹のレースに当然応援に来るんだけど、何故か先輩のミホノブルボンが毎回傍に立っているような気がする。

 

 詳しくは知らないんだけど、ミホノブルボンはお兄ちゃんが担当しているクラスの生徒らしい。まあそれならわかる……訳ないよ! なんでただの先生と生徒が一緒にボクの応援に来るのさ!?

 

 

 

 〇月〇日

「テイオーさんはマスター……先生と、どういう関係なんですか」

 

 そう聞いてきたのは、昨日久しぶりにお兄ちゃんとデートをした翌日、声を震わせて今にも泣きそうな顔をしたミホノブルボンだった。

 

 ボクは勘の鋭い子だ。だからミホノブルボンがなんでそう聞いてきたのか。その理由はすぐに分かった。

 だからボクは隠していたお兄ちゃんとの関係を話したんだけど。

 

「成程。そういうことでしたか。いえ、マスターのことですから、私も当然そういう関係だと見抜いていました。ええ、本当ですよ」

 

 豊満な胸を強調するように胸を張る彼女を見て、ボクがイラっとしたのは当然の反応だ。

 

 しかし、噂ではサイボーグだとか言われていた彼女がこんなにも感情豊かだと思いもしなかった。

 

 

 

 〇月〇日

 ボクとお兄ちゃんの関係を知ってからのミホノブルボンは、何て言うかかなり積極的になったんだと思う。

 なんでそう思ったかと言えば、最近お兄ちゃんから色々と相談を受けるから。女の子ってこういう時どういう風に考えてるのか、どうすればこじれずに場を収められるとか。まあ内容的に何とかミホノブルボンに気を使いながらどうにかしようとしているのだろう。

 

 ちなみにお兄ちゃんにはボクとの関係が彼女にバレたことを教えてはいない。なんでって言われたら、まあ彼女の様子を見ればお兄ちゃんに惚れているのは間違いないというのもあるけど、いい加減お兄ちゃんにも彼女の一人や二人出来て欲しいという妹心から来るものである。

 

 まあ……相手が未成年の教え子ということについては、ボクは見て見ぬふりをしているんだけどね!

 

 

 

 〇月〇日

 とある日の日曜日。珍しく家に帰らなかったボクにお兄ちゃんが震えた声で大事な話があるから帰ってきてと言われ、いざ帰ってみれば重苦しい雰囲気に包まれたお兄ちゃんと、そんなお兄ちゃんとは対照的にまるで太陽のように明るい笑顔で隣に座っているミホノブルボンがいた。

 

「お兄ちゃんな……ブルボンと付き合うことになったんだ……」

「まあ……うん。時間の問題だとは思ってたよ」

「え」

「よかったねブルボン」

「やりました」

「あーうん。だろうね……うん。──ちょっと複雑」

「え? え?」

 

 こうしてお兄ちゃんとブルボンの交際が始まった訳だけど……果たしてこの関係を最後まで隠し通せるのだろうか。

 

 それはきっとブルボン次第だろうと、この時のボクは思ったのだ。

 

 

 

 結論──兄です。妹には裏切られ、教え子に襲われたとです……。

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