○○と付き合ってるって言ったらテイオーはどうなるのだろうか 作:ししゃも丸
さて。ボクとお兄ちゃんと関わりのある人達を紹介するにあたり、トップバッターに相応しいのは彼女しかいないだろう。
「あ、あのお兄さん。実は近くのお店でペアで入店した人限定で頼めるスペシャルパフェがありますの。なので……その、一緒に行ってもらえませんか?」
「別に構わないけど、俺でいいのか? テイオーと行った方がいいんじゃないか?」
「そんなことありませんわ! それにペアは男女でなければいけなくて、誘える男性と言えばお兄さんしか私にはおりませんから!」
「そこまでマックイーンに言ってもらえるとは。わかった。じゃあ一緒に行こうか」
「はい!」
とこのように、別に男女のペアじゃなくてもいけるのに、平然とウソをついてお兄ちゃんを誘うこの卑しいウマ娘は、あのメジロ家のお嬢様ことメジロマックイーンである。
マックイーンとは意外なことに小学校からの付き合いであるが、なんでお嬢様である彼女がボクの通っていた学校にいたのかはよくわかっていない。
その馴れ初めもクラスが毎年一緒だったのもあるけど、何となくボクらは気が合ったんだと思う。そして気づけば友達から親友になり、今ではライバルという関係になったわけだ。当然友達だから、ある程度気を許すような関係になり始めた頃にボクの自宅に招いた時にお兄ちゃんを紹介という流れである。
最初はまあよくある感じの関係だったと記憶しているんだけど、いつの日からかやけにお兄ちゃんを意識するようになったことは、幼いボクでも簡単に見抜くことができた。
まあボクとしては別にお兄ちゃんがマックイーンとそういう仲になってもいいのだけれど、やっぱりそこはボクも妹ではなく、一人の女としてそれは中々認めたくはないのである。
ちなみに先の話に戻るけど、後日ボクもお兄ちゃんと一緒にカップル限定のところで食事をしたことを後でマックイーンに写真を送って見せつけてやったのさ! マックイーンとは違ってカップル限定でねっ。
ただ問題がなかったわけじゃないけどね……特にお兄ちゃんが。
「お兄さんお兄さん! 今度またダイヤちゃんと出かけようよ!」
「あのなブラック。年頃の女の子二人がさ、三十台のおっさんと出かけて何が楽しいんだよ」
「えーお兄さんはまだ全然若いから大丈夫だって!」
「そ、そうかなあ……。ところでテイオーは誘わないのか?」
「テイオーお姉ちゃんはスピカのみんなと出かけるから、また今度でいいって」
「そうなのか。ならまた三人で行くか」
「わーい!」
このさり気なくボクに一言も話さずにお兄ちゃんを誑かすウマ娘の名前はキタサンブラック。ご近所さん家の子供でボクが小学校からの付き合いで、まあボクの妹分みたいな子だった。そう、だったんだよ!
それがトレセン学園に入学する1、2年前から成長期に入ったのか、気づけばボクの身長を軽々と追い越し、ついでに胸も中学1年生にしてはおかしい持ち主なのだ。
さらに付け足せば、ボクがトレセン学園に入学したのをいいことに、ボクを省いて三人で出かけるのだから、あんないい子でも腹の中では何を考えているのか分からないものだよ。
あの頃のブラックはね、本当にボクのあとを付いてきては『お姉ちゃんお姉ちゃん』って感じで可愛かったのに、それが今じゃこれだよ。アハハ!
お兄ちゃんに好意を抱くようになったのも何て言うか自然の流れだとは思う。だけど、今ではブラックのご両親もお兄ちゃんに『うちの子貰ってくれない?』みたいな話をさらりとするし。まあそこはお兄ちゃんも大人の対応でさらりと躱しているわけだけど、急がないとどんどん外堀を埋めそうで怖いのである。
「お兄さん。今度の休日なんですけど、私のトレーニングに付き合っていただけませんか?」
「……いや、普通に所属しているチームのトレーナーや仲間達とやればいいと思うんだけど。なんで俺に頼むの」
「うふふ」
「あの、ダイヤちゃん。その含みのある笑いは一体……」
「別に深い意味はありませんよ~。でも、昔はキタちゃんと一緒にお兄さんが指導してくれたことをまたやってほしいだけです」
「いやあれはね? その……テイオーの時と同じことをやっただけで、別に大したことじゃないんだよ」
「お兄さんがそう思うならそれでいいですけど、別にトレーニングに付き合ってくれないわけじゃないんですよね?」
「……まあ、うん。ところでブラックはいいのかい」
「キタちゃんはその日用事があるって言ってましたから。つまりは二人っきりですね。うふふ」
当然のように親友のキタサンブラックをも出し抜いている卑しいウマ娘の名前はサトノダイヤモンド。マックイーンと同じでお嬢様である。昔はブラックがボクならダイヤはマックイーンを応援していた年相応に可愛い子供だったんだけど、時の流れは残酷なもので今ではこんな子に育ってしまったのである。
お兄ちゃんとの馴れ初めはブラックを通じてなのは言うまでもないんだけど、幼い頃はこんな腹黒い子じゃなかったと思うんだけどね。うん、ちょっと怖い……。
なにより一番恐ろしいのがブラックと同じで、本当に中学生なのかって思わずにはいられない身体をしていることだろうか。スカーレットもそうだけど、一体何を食べたらそんなに大きくなれるのさ。ボクは毎日お兄ちゃんのご飯を食べていたというのに……。
あと、何やらダイヤはお兄ちゃんに対して意味深な発言をすることが多々あるのだが、彼女はどんなお兄ちゃんの弱みを持っているのだろうか。ボクだって弱みを握ろうとお兄ちゃんの部屋をくまなく捜索しているというのに。
「……テイオーさん。これ、お兄さんと一緒に食べてください」
「え、なんだろう……あ、クッキーだ!」
「コーヒー味のクッキーを作ってみたんです。お口に合うかはわかりませんが」
「ううんそんなことないよ。お兄ちゃんもきっと喜ぶと思うよ」
「そう言っていただけると助かります」
「なんだったら家に来ればいいのに。お兄ちゃんはカフェさんなら大歓迎だと思うけど」
「お誘いは嬉しいのですが、それはまた次の機会に取っておきますね」
このとても優しくて素敵な女性は先輩のマンハッタンカフェさん。実を言うと、ボクがトレセン学園に入学する前から関わりのあるウマ娘でもあるんだよね。
経緯としては、お兄ちゃんがよく通う喫茶店で知り合ったのが始まりだったかな。ボクがたまたまお兄ちゃんを迎えに行ったときに初めて知り合ったんだけど、お兄ちゃんはカフェさんとはそこそこ長い付き合いらしい。
だからなのか、ボクがトレセン学園に入学してから色々と教えてくれたり、困っている時は助けてくれたりもしてくれたんだよね。ほんと、カフェさんは素敵なウマ娘だよ。綺麗だし、長い黒髪はボクもちょっと憧れるし、ほんの少しミステリアスなところとかね。
そんなカフェさんだけど、一体お兄ちゃんとはどれくらいの付き合いになるんだろうか。いや。そもそもたまたま知り合っただけでここまで仲が良くなるものかな。
「あのファル子先輩。ちょっとお願いがあるんだけどいいかな」
「あ、テイオーちゃん。お願いってなにかな。ファル子でよければ力になるよ!」
「いや、その、そこまで大それたことじゃないんだけど。えーっと、うちのお兄ちゃんが先輩のサイン欲しいって」
「ええええ!? ふぁ、ファル子のサインを!?」
「う、うん。なんでも自称ファン1号だって」
「そ、そうなんだ。えへへ。よーし。気合い入れて書いてあげるね! あ、でもまだサインの練習してないや……」
無理なお願いなのに快く引き受けてくれたのが、先輩のスマートファルコン。トレセン学園ではそこそこ有名な人で、学園のあちこち(特に校門)でライブをしているのだ。でも、学園の外ではそういった路上ライブをしているという話はあまり聞いたことがない。なのでどういった経緯でお兄ちゃんがファル子先輩のことを知ったのかは謎なのである。
しかも自称第1号って。お兄ちゃんのこのファル子先輩推しは一体……。
そもそもお兄ちゃんって意外とこういうのが好きなのかな。部屋にアイドルとかのグッズとかCDなんて一つもないのに。
でも、それだけファル子先輩が魅力的ってことなんだと思ってボクは納得することにした。
「ね、ねえ、テイオー。その、テイオーのお兄さんって、何が好きか知ってる……?」
「何がって。具体的には?」
「えーと。例えば……色、とか」
「……教えない」
「ちょ、なんでよ!」
「イヤに決まってるよ! どうせその色の服とかエッチな下着でも付けて、お兄ちゃんを誑かそうとしてるんだろ!」
「たぶ……! そ、そんなことしないわよ!」
「かーっ! 見んねウオッカ! 卑しか女ばい!」
「お、おう」
この卑しいウマ娘ナンバーワンの称号を持ってそうなウマ娘は、ボクと同じチームのダイワスカーレット。髪の毛のボリュームもすごいがその胸もすごいウマ娘である。なにさ、その頭のティアラは。自分をお姫様だと思ってるの? やっぱり卑しか女ばい!
とまあここまで私怨マシマシで語ったわけだけど。とりあえずなんで関わりがなさそうなスカーレットが、ボクのだーい好きなお兄ちゃんを知っているかというと……実は自分の所為だったりする。
どうしてかと言えば、ボクは事あるごとにお兄ちゃん自慢をしているわけだ。最初の頃、事情を知っているマックイーンは兎も角、他の子達にはただのしつこいぐらい兄自慢をするボクに対して、やっぱり疑うというか五月蠅いので当然のように言われたのだ。
「そんなに凄いお兄さんなら実際に紹介しなさいよ」
「実際に会って惚れないでよね!」
「そんな簡単に惚れるものですかっ」
と、売り言葉に買い言葉。実際にお兄ちゃんをスカーレット……まあスピカの皆に紹介したらさ、案の定その言った本人がコロッとお兄ちゃんに一目惚れしたわけだよ。
ほら見ろ。やっぱり卑しいウマ娘じゃないか。
「ねえテイオーちゃん」
「ヤダ」
「まだ何も言ってないよね!?」
「言わなくたってわかるもん。どうせお兄ちゃん関連でしょ」
「うん」
「じゃあダメ。ヤダ。ムリ」
「そんなこと言わないでよ。テイオーちゃんも一緒でいいから、お兄ちゃんと三人で遊園地行こうよ!」
「お兄ちゃんって言うなー!」
ご覧ください。これがフォロワー数が何百万といるウマ娘の正体です。
彼女の名前はカレンチャン。簡潔に言えば、ボクのお兄ちゃんをお兄ちゃんと呼ぶおかしな子である。
なんでカレンがお兄ちゃんをお兄ちゃんと呼ぶのか。それは未だにボクも分かっていないんだよね。理由を聞こうにもまだダメなの一点張りさ。
まあこうなった理由はスカーレットと一緒で、お兄ちゃんをみたカレンの様子が一変したんだよ。ボクはてっきりスカーレットと同じく一目ぼれしたかと思ったんだけど、実際はそうじゃないみたいなんだよね。
なんか昔とある遊園地に行ったことがあるかとかよくわからないことを聞いてくるし。行ったことがあるって言ったら益々様子が変になるし。
もう本当になんなのさ。
「スぺちゃん。お兄ちゃんがまた北海道に行くから、何か頼み事があるなら聞くって言ってたよ」
「本当ですか? じゃあちょっと早いけど、またお母ちゃんに手紙とお菓子でも届けてもらってもいいでしょうか」
「りょーかい。あとでお兄ちゃんに伝えておくよ」
「ありがとうございます。でも、本当にテイオーさんのお兄さんには頭が上がらないです」
「いやあ妹として鼻が高いよ。けど、お兄ちゃんってスぺちゃんにかなり甘いよね」
「そうなんですか?」
「うん。まあでも、何て言うのかな。扱いというか接し方がボクよりな気もするけど」
「つまり私もお兄さんの妹ってことですね!」
「もう一度そんなこと言ったら二度と頼み聞いてあげないからね」
「マジ切れ!?」
この子の名前はスペシャルウィーク。ボクはスぺちゃんって呼んでるんだ。実を言えば、スピカのメンバーに紹介する前、実はスぺちゃんはお兄ちゃんと会っていたのだ!
なんでも東京に向かう飛行機に乗るために空港に来たはいいものの、初めて飛行機に乗るものだから、そこで困っていたところにお兄ちゃんが救いの手を差し伸べたらしい。
お兄ちゃんもお兄ちゃんで、帰りの飛行機でトレセン学園に入るウマ娘に会ったよと言っていたので、まさかそれがスぺちゃんだとはこの時思ってもみなかったのだ。
直接面識があるためそれが原因か分からないけど、単身で東京で過ごすことになるスぺちゃんをお兄ちゃんはすごく心配というか世話を焼いているんだよね。仕事で各地に行くことがあるお兄ちゃんは、北海道に行くたびにスぺちゃんに一言言ってくるし。
多分お兄ちゃんからすればスぺちゃんはボクよりというか、親目線で色々と心配になっているだけだと思う。
「はぁいテイオーちゃん~。本日もご来店ありがとうございま~す」
「よ、よろしく、おねがいしますぅ……」
「実は新しい秘孔を編み出したんだけど……。メタ的なこと言うと円環のマエストロと好転一息が確実に手に入るツボがあるんだけど……やってもいい?」
「いいいですー! いつものでいいですぅー!」
「ふざけるな刺々美。余計なことをせずにいつも通りでいいんだよっ」
「もう。お兄ちゃんもつれないこと言うんだから」
「お兄ちゃん言うな。気持ち悪い」
綺麗な金髪に女のボクでもうっとりしそうな声。そして謎の仮面をつけたこの女性は安心沢刺々美。何でも超がつくすご腕の笹針師らしいんだけど、ぶっちゃっけ怪しすぎてお近づきになりたくない人である。何よりもその名前だ。とても偽名臭い名前なのだが、お兄ちゃんに聞いても教えてはくれなかった。
彼女とこうして知り合うキッカケになったのは、ボクがレースに出るようになってからである。トレセン学園に入学する前からなんだけど、ボクはお兄ちゃんから指導を受けていたんだよね。で、終わるといつも特に脚を重点的にマッサージしてくれたり、何て言うか本業のトレーナーみたいに色んなことを教えてくれたんだ。
それが本格的にレースに出るようになった……そう、ボクが三冠ウマ娘を目指そうとした年だったかな。皐月賞が終わってからお兄ちゃんはボクを連れて刺々美さんの所で定期的に診察を受けるようになったんだ。
実際笹針師としての腕はたしかで、脚や身体の疲れは取れるし気分もよかった。まあそれはいいんだけどさ……。
結局お兄ちゃんとこの人の関係が気になってしょうがないよ。
ここままでボクとお兄ちゃんに直接会ったことのある人達をざっと紹介してみたわけだ。とりあえず次はボクと関わりのある人を紹介しようと思う。
ま、主にトレセン学園の友達なんだけど。
「なあテイオー。これは例え話なんだが…………身内の兄が結婚したとして、その女性が自分の知っている人だったら……テイオーはどう思う?」
「え、急に突拍子もないことを聞くんだね。まあ……うーん。知っている人なら多分ボクは祝福すると思うし、互いに知らぬ仲じゃないから仲良くやれると思うけど……」
「そうかそうか。ならいいんだ」
「いきなりどうしたのさカイチョー。ちょっと変だよ?」
「なに。将来の事を思ってテイオーの意見を聞きたかっただけだよ」
「?」
ボクの憧れであり目標であるカイチョーことシンボリルドルフとはこの人のことである。カイチョーがいたから今のボクがあると言っても過言ではないと思う。
そんなカイチョーなんだけど、ボクが三冠ウマ娘になった日からなーんだか調子が変なんだよね。特にボクといる時は。それに以前よりもほんの少し優しくなったっていうか、接し方が先輩後輩っていうより……姉と妹? みたいな感じな気がする。
まあそれはそれでいいんだけど、ちょっと調子が狂うっていうか……カイチョーなんだけどカイチョーじゃないんだ。ボクを見ているような、だけどボクじゃない何かを見ているような気もするし。
みんなにそれを話せばいつも通りって言うんだけど、ボクが変なだけなのかな……。
「やあテイオーお帰り! さっそくハグをしようじゃないかっ。ぎゅーー」
「……あのアグネスタキオン」
「スーーーー。……やれやれ、キミと私の仲じゃないか。遠慮なくタキオンって呼んでくれたまえ」
「ねえアグネスタキオン。なんでボクが実家から寮に帰ってくるたびに、こうして玄関でガン待ちしてハグしてくるのさ。控えめに言って気持ち悪いんだけど」
「別に深い意味はないよ」
「ほんと?」
「ホントのこ~とさ~」
このよくわからないウマ娘の名前はアグネスタキオン。ぶっちゃけ変態だとボクは思ってるし、なんかイラっとするので毎回フルネームで呼んでいる。仮にも先輩だから敬意を払いたいところだけど、その相手がコレなのでどうしようもないのである。
なんでこうなったかと言えば本当に突然の出来事だったんだ。ボクがトレセン学園に入学してからすぐだったかな。家から寮に帰ってくると、突然今のようにアグネスタキオンがボクをいきなり抱きしめてきたのだ。
もう訳が分からなくてどうしようもなかったよ。
抱き着いている時間は多分一分も満たないけど、その間にやけに鼻で息を吸っているというか、兎に角気持ち悪いんだよね。いまはもう慣れたからいいんだけど、カフェさんに相談してもそのカフェさんの防衛をくぐりぬけてくるから、ボクもカフェさんのお手を煩わせるわけにはいかないので我慢することにした。
「テイオー! また新料理を作ったから感想を聞かせてくれー!」
「いいよ~……もぐもぐ」
「ど、どうだ……」
「ん~まだお兄ちゃんの味とは違うね」
「くっそー! 今回のは自信があったのになあ!」
「ねえ姐さん。多分姐さんの料理に足りないのは──」
「おっとテイオー! それ以上は言うんじゃねえっていつも言ってるだろ。こればかりはアタシ自身で答えを見つけなきゃあいけないのさ! という訳で早速また料理研究だ!」
「行っちゃった……」
嵐のようにやってきて去っていったのはヒシアマゾン。ボクらは敬意を込めて姐さんって呼んでるんだ。
姐さんとこうして知り合うキッカケになったのは言うまでもなく料理である。姐さんはよく後輩に自分の作った料理を振る舞っていて、ボクもそのおこぼれにあずかったんだ。そしたらその料理がよく知っている味に似ていて。それを姐さんに言ったら妙に食いついてきたんだ。
その料理はまあお兄ちゃんの料理なんだけど。世の中にはこうして似た味の料理と巡り合うことだってあるんだから、そう驚くことでもないと思ったんだけど姐さんはそうじゃないみたいで。姐さんはお兄ちゃんの料理の味を再現しようと、料理を作ってはボクに味見をしてもらうようになったのだ。
姐さんの料理も美味しいんだけど、やっぱりボクは慣れ親しんだお兄ちゃんの料理が一番なのは許してほしい。
けど、本当にこんな珍しいことがあるもんなんだね。
「……む。テイオーか」
「あ、オグリだ。今日は何を食べてるの?」
「肉まんだ。ほら、テイオーにも一個あげよう」
「え、いいよ。ムリしなくてもいいんだよ?」
「遠慮するな。腹が減っては何とやらだからな」
「じゃあ……いただきます」
「うむ」
ボクに肉まんを分けてくれたのは高等部のオグリキャップ。オグリはある意味ではこのトレセン学園で有名で、たぶん知らないウマ娘はいないんじゃないかってぐらいの知名度がある。その理由はズバリどのウマ娘よりもよく食べるウマ娘だからである。
まあどれくらい凄いかって言うと、大食いチャレンジをして見事完食したあとも、次はどこに行くかと言うぐらい食べるのだ。
そんな大食いのイメージが強く、常にお腹を空かせているか何かを食べている所ばかり目にする彼女であるが、滅多なことで自分が食べている物を分けたりはしないのである。当然食べている物にもよるんだけど、ていうかみんなオグリのことを知っているから、それを分けてなんて言える訳もないのである。
では何故ボクだけがこうしてオグリから食べている物を分けてもらっているかと言うと、その理由はボクにも分からないのである。
ただキッカケは何となくあって。たぶん、その日お兄ちゃんが大量に作ってくれたお菓子を食べていたときだと思う。そんなボクの前にオグリがお腹を空かせてやってきて、まあ分けてあげたんだよね。オグリは一口食べたらなんかこう、目をバッと見開いて、「すまない。もっと貰えないだろうか」と言うものだから、ボクは流れで全部上げたんだ。そしてオグリはお礼を言ってどこかへ行ってしまったんだ。
それからだったかな。オグリがボクを見つける度に持っていた食べ物をくれるようになったのは。そのことをみんなに話すと大層驚かれたよ。
ホントなんでなんだろうね。
「テイオーさん、テイオーさん」
「あ、ブルボンだ。どうしたの」
「見てください。ついに自分で『( ゚Д゚)』が打てるようになったのですっ」
「す、すごいね」
「私も日々進歩しているのです。なので近々なんじぇ? とやらでスレを立てようと思っています」
「それは絶っっ対にやめた方がいいと思う!」
この妙にズレているというかポンコツ臭がするウマ娘の名前はミホノブルボン。彼女も高等部のウマ娘でボクの先輩に当たる人だ。
巷ではサイボーグだとか言われているけど、ボクにはそんな風には見えないし、よくスマホを弄っている時は優しい顔をしているのを見かける。
ゴルシ曰く、「昔はスマホなんて満足に使えなかったんだぜ。いやあブルボンも大きくなって、お母さん嬉しくて涙が止まらないよ。ぐすっ」らしい。
そんなブルボンとは何故か仲がいいというか、向こうから色々と報告したくてやってくる。たまにLineとかで顔文字とか元々スマホ内にあるスタンプを連投してくる時もあって。それはちょっと楽しいんだけど困るかなって。
「テイオーさん。おはようございます」
「たづなさん、おっはよーっ」
「あらテイオーさん。胸のリボンが曲がってますよ」
「え、そうかな」
「待ってください。いま直しますから。テイオーさんはもうトレセン学園の顔と言っても過言ではないんですから、身だしなみもちゃんとしてくださいね」
「えへへ。そう言われると照れますな~」
彼女の名前は駿川たづなさん。トレセン学園理事長秘書っていうある意味ですごい人なんだ。たぶんだけど、誰よりも早く来て校門の前で立って挨拶をしてくるから、秘書なのに大変だなって思う時があったりなかったり。
そんなみんなに知られているたづなさんだけど、彼女はボクが入学した時からよく声をかけてきてくれるんだよね。よくこうやって服装のことを注意したりとか、何気ない会話をするぐらいなんだけど、妙に優しいって思うのはボクの勘違いだろうか。
そう言えば、初めて会った時なんて自己紹介もしてないのにボクの名前を知っていたぐらいだから、きっと全生徒の名前を覚えているんだろうなあ。やっぱりたづなさんってすごいや。
あとたづなさんから月一でお兄ちゃん宛に資料を渡してほしいって頼まれてるんだけど、これってボクの成績表とか仕事のオファー関連かな。別にそれはいいんだけど、なんでパパとママじゃなくてお兄ちゃんなんだろう?
「~♪」
「あ、ライスだ。見るからに上機嫌だね。何かいいことでもあったの?」
「テイオーちゃん! 実はね、昨日久しぶりにお兄さまに会えたのっ。そのことを思い出してたらつい……」
「あーわかるよっ。ボクもお兄ちゃんのことばかり毎日考えてるからね!」
「そ、そうだよね! 毎日お兄さまのことを考えちゃうよね!?」
ボクより年下に見えそうなウマ娘の名前はライスシャワー。実をいうとボクの先輩なんだよね……こんな見た目なのに。
ライスシャワーとはたまたまだったんだけど、ボクが息を吸うかのようにお兄ちゃんの事を口にしていたらライス自ら話題に入ってきて、それからよく絡むようになったって感じかな。ライスのが年上になるけど、そんな歳の差なんて関係ないぐらいボクらは仲良くやっている。やっぱりお兄ちゃん好きに悪い妹はいないんだよ。
ボクらは会う度にお兄ちゃん談義というか、お兄ちゃん自慢みたいな話をして盛り上がっているわけだけど、何て言うか不思議……もっと言うと不気味なぐらい二人のお兄ちゃん像には共通点が多いのだ。
大雑把な所でいえば身長とか髪型とかで、細かい所になると好きな食べ物とか服の好みとかそういった所かな。
いつかライスのお兄さまにも会ってみたいものだよ。ま、ボクのお兄ちゃんが一番だけど!
「アレ? ドトウにマチタンじゃん。二人してどうしたのさ」
「あ、テイオーさん。聞いてくださいっ」
「実は今日はまだ鼻血を出してないんです!」
「私なんて今日はまだ2回しか転んでないんですぅ~っ!」
「……それ、胸を張って喜ぶところなの?」
「喜ぶよ! ね、ドトウちゃん!?」
「そうですよ。いつもだったらもっと多いんですから!」
「そ、そうなんだ」
「それもこのお守りのおかげですぅ」
「ね~。他にも悩みとか……あ、そうそう。トレーニングとかレースのことについても教えてくれたの」
「本当にあの方には感謝しかないですぅ……!」
その先生とやらに貰ったお守りを大事そうに手に持つ二人のウマ娘は、胸が大きい方がメイショウドトウで頭に帽子を被っているのがマチカネタンホイザ。
二人の共通点は何て言うか……いわゆるドジっ子ってやつなんだろうか。酷く言えば不幸、不憫キャラだろうか。
たぶん不憫キャラでいったらドトウがずば抜けているんだとボクは思ってる。いや、流石にボクではスリッパのまま外に出歩かないよ。マチタンはドトウよりはマシなんだけど、モノが顔に飛んできては鼻血を出してるから、ちょっと同情というか色々と心配になる。
そんな二人がいつもよりマシというんだから、そのお守りの効果は大したものだということがわかる。まあ正直に言って通販サイトとか新聞に載ってる広告に騙されて、つい買っちゃうお年寄りな感じがしたのは内緒である。
ただ……二人が持ってるお守りなんだけど、ボクがデビュー戦前にもらった必勝守とデザインが似てるけど同じ神社のやつかな?
「……お前、トウカイテイオーだな?」
「そ、そうですけど。その、あなたは……?」
「貴様に名乗る名はないっ!」
「……行っちゃったよ。何なんだよあのウマ娘……ン?」
「おい! いまここにアタシが来なかったか!?」
「え、いや、あたしって、そもそもそれは自分──」
「バカ野郎! そいつはルパンだ! まんまと騙されやがってぇ!」
「えぇ──!?」
「ほら行くぞ! ヤツより先に学園の地下に眠る財宝を手に入れるんだい!」
「え、ちょ、ちょっと待ってよぉおおお!?」
この支離滅裂で、一体何を考えているか分からないハジケてるウマ娘の名前はゴールドシップ。ゴールドシップとは入学初日に運悪く出会ってしまい、いや、目をつけられてから今日に至るまで彼女の思うがままに振り回されているのである。
そんなゴルシだけど、ボクもあの第一声を聞くまでは、「なんて綺麗なウマ娘なんだろう」って思っていた。だけど、そんな幻想はすぐに崩れ去ったのである。
本当に黙っていれば美人なんだけどね。黙っていれば!
ゴルシがちょっかいを出す相手はボクとマックイーンが多いんだけど、たぶん気持ちマックイーンのが多いと思う。いいぞ、もっとマックイーンをからかって遊んでいてくれってボクは毎日思ってる。
こんなハチャメチャなウマ娘をスピカの面々と一緒にお兄ちゃんを紹介する時はとても、それはとてもとても頭が痛かった。お兄ちゃんに迷惑をかけないかとか、お兄ちゃんに変なことしないだろうかとか色々。
しかし、それがどういう訳かゴルシは大人しかった。たぶん誰よりも興味がなさそうであるようなそんな雰囲気だった。騒いでいるスカーレットやカレンとは対照的にいつもより大人しかったのである。
だけどボクは見た。お兄ちゃんがくれたお金で近くの売店でみんなと何を買うか悩んでいる時に、ゴルシはお兄ちゃんと二人っきりで何か喋っていたのを。
やれやれ。ゴルシも女の子だったってことかな。ほんと恥ずかしがり屋さんなんだから~。
とまあここまで大雑把にボクと深い? 関わりのある友達を紹介したわけだけど。まあ色々と心配になるけど、お兄ちゃんにはボクがいるからね。みんなが入り込む余地なんてないんだ。
やっぱりボクがナンバーワン!
察しのいい方は分かるようにこのテイオーの回想時空でのお兄さんはトレーナーでした。
補足するとメインで活躍している高等部のウマ娘とはある程度面識があります。