○○と付き合ってるって言ったらテイオーはどうなるのだろうか   作:ししゃも丸

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これが今年最後の更新。

無料10連で未所持ウマ娘がもらえる。そう思っていた時期がボクにもありました。

でもタマは20連で出ました。その内に書きたい。


お兄ちゃんとファインモーション

 

 

 ボクのお兄ちゃんは変わってる。

 

 別に変な意味ではなくて、ボクはそんなお兄ちゃんが大好きなことには変わりはないんだけど、それでもちょっと変わってるなって、妹であるボクでも思う時がある。

 

 じゃあ何が普通の人と変わってるって言えば、お兄ちゃんは趣味でラーメン屋をやっているってことなんだよね。

 

 趣味ってところがそのままの意味で、不定期でお兄ちゃんはトレセン学園の近くにある小さなラーメン屋を開いているのだ。ボクも学園に入学したときに、「あ、こんなに学園に近いんだ」って思ったぐらい。

 

 そんなボクもお兄ちゃんが店を開くときには看板娘として手伝っているのだ。えへへ、すごいでしょ? 一応バイト代ってことで賄いのラーメンが出るけど、お兄ちゃんはちゃんとボクのためにバイト代をママに渡しているらしい。

 

 ちなみにだけど、お兄ちゃんが提供しているラーメンの名前は『テイオーラーメン』。つまりはボクの名前なんだよね。なんか照れちゃうよ。

 毎回注文が入る度に、『テイオーひとつ』とか『ネギテイオーひとつ』って言われるのは照れくさかったけど、今では慣れたものだよ。

 

 一応チャレンジメニューに『オグリラーメン』っていうのがある。まあ当然大食い自慢がお店の噂を聞きつけてやってくるわけだけど、まあ全員が失敗するんだよね。理由としては、その名前の由来であるオグリキャップ本人が記録を更新し続け、挑戦するたびにメニューがドンドン凶悪になっていくからである。

 流石にオグリ専用にするわけにはいかないため、一般用のチャレンジメニューこと『オグリラーメン3級』というのがあるけど、それでも辛いんじゃないんかなアレ。ついには打倒オグリとか言って『オグリラーメン(ゴッド)』なんてのも開発中だとか。

 

 そんな趣味で不定期にやっているラーメン屋だけど、常連客もいて食材もお兄ちゃんが知り合いから安く仕入れてるからなのか、意外なことにお店の経営は赤字ではないらしい。まあ学園にも近いからってのもあると思うけどね。

 

 さて。ちょっと変わった趣味をしているボクのお兄ちゃん。ある日いきなりトレーナーだと告げられたボク。いや、本当にこの時ボクは驚いたんだけどそれはあまり重要じゃなくて。問題なのはこのあとなんだ。

 

 気づいたらお兄ちゃんのお店に二人目の看板娘がやってきた。

 

 その人の名前はファインモーション。

 

 アイルランド生まれのウマ娘で、ぶっちゃけて言えば王族のお方であり、お兄ちゃんが担当しているウマ娘。別に学園では友人として接しているから、そんな畏まった間柄ではないんだけど、それが学園の外になると話は違ってくる。

 

 その時ボクは頭を抱えた。お兄ちゃんも頭を抱えた。

 

 ほんと、ボクのお兄ちゃんは変わっている。

 

 どうしてこうなったんだろう……。

 

 

 

 

 

 

 

 趣味でラーメン屋をやりはじめたキッカケは、ここの先代が店をたたむと言い出した時だっただろうか。

 

 たまたま入ったらラーメン屋の味が忘れられなくて、いつしか俺は定期的にここに通うようになり先代と知り合ったのがはじまり。店の常連となって、先代とそれなりにバカなことを言い合えるようになった関係と言えば、だいたいは伝わるだろうか。

 

 そんな中、先に言ったように先代が店をたたむと言ったので、興味本位で俺が後を継いでもいいかと名乗りをあげたのだ。まあ過程は省くけど何とか先代のラーメンを受け継いで、店の経営をするための手続きとか資格もとって今に至るというわけ。

 

 といっても経営は不定期で、その頃は俺も本業があったのでそちらを優先していたというのもある。あとは仕入れ先でうまい具合に安く材料が手に入ったら店を開いてたって感じかな。

 普通はそんな不定期じゃやっていけるわけなんてないのだが、そこは俺と同様ここの常連が足を運んでくれていたからやっていけたというのもある。

 

 あとはSNSとかで「今日やりまーす」とか言っておけば、意外なことに来る人は来るのだ。SNSでの口コミやブログに雑誌、あとは近くにトレセン学園があってそこの生徒が訪れるのも要因の一つだろうか。

 特にオグリキャップ。あの子が来ると赤字覚悟で食材を使うから大変なのだ。

 

 他にも看板娘であるうちのカワイイ妹であるトウカイテイオーも一役買っているに違いない。メニューのラーメンもわざわざあの子の名前をつけたぐらいだからな。

 

 そんな趣味でやっているラーメン屋を今日も開いていたのだが、最近定期的に訪れるようになったウマ娘がやってきている。

 

 そのウマ娘の名前はファインモーション。たぶん、偶然ここを見つけたのだろう。初めて来店したときからうちのラーメンが気に入ったのか、以来開店している日は毎回訪れている。

 

 そんな彼女のことはまあよく知っている……本職上ね。だから俺は彼女の立場を知った上で、たまたま彼女しかいない時に厨房から興味本位で言ったのだ。

 

「お嬢さんはどうして走らないんだい。ぱっと見ただけだけど、どこか故障しているわけじゃないんだろ?」

 

 すると彼女は手を止めて、俺の方を見上げて言った。

 

「答える前に一つ聞かせてください。どうして私が走っていないと、店長さんにはわかるのですか?」

「暇なときはレースを見ているし、何よりうちにくるウマ娘の子は特に気になってね。ついついその子のレースを見ちゃうのさ」

 

 咄嗟に考えた理由としては的を得ているのではないだろうか。それを聞いたファインモーションも納得したのか、箸をおいて背筋を伸ばし手を前に置き、こちらを見る姿はまさに王族の振る舞いだった。

 

「──使命があるんです。一族と守るべき民たちの、永き繁栄と安寧のために尽くすこと。それが私の誇り。故郷から離れてここにいても、それは変わりません」

「にしてはうちに来てくれるけど、それは王族としていいの?」

「あはは。それを言われちゃうと困っちゃうな。だけど、こうして私の知らない世界を知り、店長さんのような優しい方々と触れ合うことができたことは、貴重な体験であり糧でもあるの。それにね、私は他のみんなとは違うんだ」

「違うって?」

「私は……走るために生まれたわけじゃないから」

 

 それは、王族として生まれたからだということはすぐに理解できたし、何となく彼女のことを上から聞かされた時に薄々感じてはいた。王族として生まれた時点で、その子の人生はある意味で定められたようなものだと思う。こっちにくるまでどんな人生を歩んでいたのかは分からないけど想像はつく。

 

「だけどそれはただの理由、言い訳じゃないかな」

「え……?」

「そんなことを言う人なら、きっとトレセン学園に来たいだなんて思わない」

「それは……」

「やらずに後悔するよりもやって後悔する方がまだ納得できる。確かに貴方は王族なのかもしれない。だけどトレセン学園にいる間はそこの生徒でもあるんだから、貴方は自分のしたいことしてもいいんだよ」

「私のしたいこと……。ねえ、店長さん」

「なんでしょうか」

 

 ファインモーションは先程までと違う雰囲気だった。それこそラーメンを食べていたときのようなそんな感じだ。

 

「仮にですけど。私のトレーナーをしたい、と名乗り出る方がいると思いますか?」

 

 確かにそれは彼女にとって一番の問題だなと思った。ファインモーションは他のウマ娘とは生まれが違う。名家のお嬢様や資産家のお嬢様はいても、王族のウマ娘なんてそうそういるもんじゃない。なによりそんな方のトレーナーになろうだなんて志願する人はいないだろう。下手をすれば自分の命に関わることだ。

 

 普通なら身を引くだろう。普通なら。

 

「トレセン学園には多くのトレーナーがいる。もしかしたら明日にでも貴方のトレーナーになりたいと声をかけにくる者がいる……かもしれません」

「ふふっ。それなら明日学園に行くのが楽しみになってきちゃった」

「そりゃあよかった。……はいよ。特別サービス」

 

 そう言って渡したのは替え玉と味卵だ。もう人が来る気配はないし、ていうかSPが店の外に突っ立ってるから客がこないだけなのだが、まあもう店を閉めるからちょうどよかった。

 

「え───! いいんですかぁ!」

「はい。それに暫くは今までより店を開く回数が減るかもしれないので」

 

 それを聞いたファインモーションは首を傾げた。まあ分かるはずもない。

 

 なにせ──貴方のために、とは言えないから。

 

 そして翌日。

 

「殿下。どうか私を貴方のトレーナーにしていただけないでしょうか。後悔はさせません。貴方が望む場所へ必ず連れて行きます」

「ええええ!? て、ててて、店長さん!?」

「店長? はて、なんのことですか? 私は最近トレーナー職を休んでいた通りすがりで、貴方のトレーナーになりたいと申すただのトレーナーであります」

「……ふふ」

「?」

「あはは! もう色々訳が分からなくてついつい笑っちゃったよぉ。……コホン。一つ問います。私のトレーナーになる。それは簡単なことではない。生半可な覚悟で務まることではありません。それを承知の上ですか?」

 

 先程までとは一転。トレセン学園の生徒ではなく、王族として彼女は俺に問う。

 

「覚悟がないなら声などかけてはおりません。殿下──いや、ファインモーション。キミの願いを叶えさせてほしい」

「……その言い方はちょっとズルいかな」

「なにが?」

「ううん。何でもないの。……よし。じゃあ私も覚悟を決めなきゃね」

「で、殿下! それは──」

 

 すると近くで待機していたファインモーションを警護している一人が声を上げて近づいてきた。

 

「隊長、ごめんなさい。貴方にも迷惑をかけてしまって。でもね、これは私の……我儘なの。だからお願いします」

「頭をあげてください! 殿下にそこまで言われたら、私は逆らうことなどできません。……少々お待ちください。本国に連絡をしてきますので」

「ありがとう」

 

 分かってはいたことだったが、彼女のトレーナーになるということはこういう事なんだってことを改めて再認識した。

 それから理事長がファインモーションの留学に関しての再手続やら根回しとか、画面越しであるが彼女の父上と話をして、とりあえず仮ではあるが話はだいたい纏まった。

 

 要は結果を出せばいい。簡単なことではないが、ファインモーションなら問題ないと信じていたので左程問題視はしていなかった。

 そんな時ファインモーションが言った。

 

「さてと。これで正式にお許しが出て、貴方が私のトレーナーになるってことは、毎日あのラーメンが食べられるってことだよね!?」

 

 手をたたいて俺の方を向き、満面の笑みを浮かべてファインモーションは言うが、どう見ても走れることよりも、ラーメンが食べれることの方がとても嬉しそうに見えるのは気のせいだろうか

 

 なので俺は早速トレーナーとしてハッキリと言った。

 

「いくらウマ娘とは言えそんな偏った食事をさせるわけがないだろ。それにこっちの仕事が忙しくなるんだから、店は暫く休業だ」

 

 それを告げたときの彼女の顔は、王族がしてはいけない顔をしていたのをよく覚えている。そして何を言ってくるかと思えば。

 

「ラーメンはバランスが取れた究極の栄養食だって聞いたよ!?」

 

 俺は頭を抱え、色々と不安になるのであった。

 

 

 

 

 

 ファインモーションのトレーナーとして一番大変だったのは、彼女は意外なぐらい頑固で我儘娘だったということだった。

 

 ……いや、自分がそうさせた張本人であるのだから当然なことではあるのだが、些か少し度が過ぎているのだ。特にファインモーションが王族であるが故に。

 

 なんでそうなったかと言えば、実を言うと俺はファインモーションには店を休業するとは言ったが、仕入れ先の都合とか常連さんのこともあって休業する訳にはそうそういかなかったのである。いくら趣味でやっているとはいえ、こちらの都合で長期間休業するなんて出来るわけもないので、彼女には内緒でトレーナーになってから早々に店を開いてたりした。

 

 流石に全く教えないというのは酷いと思ったので、週に一度ぐらいは教えて店に足を運んでいた。ただ俺は不定期と言っても週に3日、多い日で4日は店を開いていたので、彼女を騙していたことになる。

 

 まあこれも当然なんだけど、俺のこともファインモーションを護衛しているSPの方々が監視しているわけで。だから隊長さんに頭を下げて頼んだのだ。

 

「隊長さん。どうか俺が店を開いていることをファインには黙っておいてください。彼女にああ言った手前もあるのですが、流石にトレーナーとしても一個人としてもその心配なので。あとあの子が来るとお客さんが遠慮して入ってこんのです」

「私としても殿下の食生活にはあまり口出ししたくはないのですが、そう何度もラーメンを食べるのはこちらとしてもその……。いえ、トレーナー殿の作るラーメンは私も美味しいということは知っていますので勘違いしないでください。ただ……」

「ただ?」

「もし殿下が知ってしまった時は、それ相応のお覚悟をしておいてください」

「はあ……?」

 

 この時、隊長さんが言った言葉の意味を俺は後で身をもって体験することになる。

 

 その日もファインとのトレーニングが終わり、仕事を片付けたあと店を開いていた時のことだた。店の扉が開いていつものように俺は言った。

 

「いらっしゃ──」

「ジ~~~~」

 

 今度は俺が口を大きく開けて固まってしまった。ファインは腕を組み、ジッと俺を睨んできていた。その後ろでは隊長さんが首を横に振って申し訳なさそうにしていたのを覚えている。

 

 ファインはそのままツンとした態度でカウンター席……俺の目の前に来て座って一言。

 

「オグリラーメン(スーパー)一つ」

「いや、それはちょっとやめた方が……」

 

 オグリラーメン超とは、その名前の由来であるオグリキャップ本人しか完食できない、現時点での極悪のチャレンジメニューである。因みにその一個手前であるオグリラーメン極は、大食い自慢のウマ娘ならギリギリ完食できそうでできなさそうなメニューだ。

 

 いくらウマ娘とは言え、オグリラーメン超は流石のファインでも無理なので止めようとするのだが。

 

「貴様、この私の注文が聞けないと申すか!?」

 

 後に俺はこの時のファインを王族モードと名付けたのだが、こうなった彼女は手が付けられないのだ。

 

「……制限時間は45分。失敗したら罰金として1万5千円をいだきますがよろしいですか?」

「望むところです」

 

 当然逆らう訳にもいかなし、注文を聞いて、尚且つ警告はしたので俺はオグリラーメン超をつくることにした。

 

 因みにオグリラーメンは一番難易度が低い3級でギリギリ大食い自慢の人間がクリアできるレベル。つまり現時点でオグリキャップしか完食できないコイツをファインが完食できるとは思ってはいなかった。

 

 なのだが……。

 

「ま、マジか」

「……ご、ごちそうさまでした」

 

 ファインは見事完食した。そりゃあもう食べてる最中は汗はだらだらだし、厨房越しでも彼女のお腹が出ているのが見える。これは流石に他の人には見せることはできないと思った。

 すると彼女は隊長さんに二人きりにしてと頼むと、再度俺の方に顔を向けた。そこにいる彼女はもう王族モードではなく、いつものファインだった。

 

 なので俺は聞いた。

 

「どうしてこんな…………いや、黙っていた俺が悪いのは理解している。でもよ、それにしたって普通のメニュー食べればいいだろうに」

「ふーんだ。ちょっとみんなを困らせちゃおうって思っただけだもん。私は悪くないもん。私が食べたいものを食べただけだもん」

「もんって……はあ。ごめん。黙ってた俺が悪かったよ」

「そうだよ。キミが悪いんだからね。こんなお腹がでちゃったのもキミの所為だよ」

「いや、それは自業自得だろ。にしても……まさかコレを完食するか……」

「私だってやればできるんだよ……うっ、で、でもまあ、暫くラーメンはいいかなって……。ところで、一つ頼んでもいいかな?」

「別にいいけど」

「もう少しここにいてもいい? 流石に立つのもちょっと辛いよ……」

 

 俺は苦笑しつつそれを了承し、少し早いけど店の暖簾をしまって後片付けをはじめた。片付けが終わるのとファインがまともに歩けるようになるのはほぼ同じくらいで、俺はSPの方々に囲まれながら彼女を寮へと送り届けるのであった。

 

 

 

 それから三年間の間に色々とあった。

 

「いい御身分ですね。私のトレーナーを務めている方が、あろうことか同じ学園のウマ娘とデートしているんですものねっ」

 

 休日に義理の妹であるトウカイテイオーと一緒に食材の買い出しに言った時、偶然近くにいたファインがそれを目撃して勘違いをして不機嫌になったこともあった。

 そもそもテイオーは定期的にお手伝いさんとして店にいるし、ファインもそれを何度か見ているし、何より店の品書きが基本「テイオーラーメン」なのだから普通わかるものなんだけど。

 

 他には突然、「私も看板娘やってみたい!」と言い出したことだろうか。流石にそれは何か起きたら国際問題に発展するかもしれないと思って真面目に、「それだけは勘弁してください……」と頭を下げたのだが……。

 

「これは命令です。私を雇いなさい! ……じゃないと、どうなるかわかりませんよ~」

 

 何だろうか。王権乱用と言えばいいのだろうか。あの子は日に日に我儘というか、駄々っ子というか……まあ年相応な女の子のように振る舞うようになった。

 

 多分だけど、一番苦労していたのは隊長さんを含めたSPの方々だと思う。いつしか自然と彼らに差し入れをいれるぐらいには仲が良くなった。

 

 それとレースの成績に関してだけど。出走したすべてのレースを全勝ってわけもなく、かと言って普通に見れば十分すぎる成績を挙げた。何より最後の年にURAファイナルズを見事に制することが出来た。

 俺が発破をかけたけど、ファインの我儘から始まった俺達の三年間をこうして有終の美を飾ることで終わりを告げた。

 

 それから少しして彼女は帰国することになり、見送りをすべく空港で俺はファインにあるものを渡すことにした。

 

「これは?」

「うちのラーメンのレシピ。本当はカップラーメンとか大量に渡そうと思ったけど、流石になあって思ってさ。ファインのとこには専属のシェフとかいるだろ? 食材だって簡単に手に入るだろうし、こっちにも滅多に来れないって思ってさ」

「キミらしいね。……でも、これは必要ないよ」

「え……」

 

 そう言ってファインは俺の手にレシピを返した。

 意外かもしれないけど、俺は内心結構傷ついていた。もう俺のラーメンなんていらないって意味だと解釈していたからだ。

 

 だけど、彼女は続けて言った。

 

「あ、勘違いしないでね! けして、キミのラーメンに飽きたってわけじゃないから。言い方が悪かったね。えーとね、必要ないっていうよりも……うん、問題ないの」

「問題がない? それってどういう意味だ?」

「ふふっ。そうだなあ……私はいつまでも貴方のウマ娘ってことかな」

「?」

 

 首を傾げる俺に対してファインは最後まで笑っていた。近くにいた隊長さんを筆頭にSP達もどこか柔らかい表情をしていたような気がする。

 

 そして彼女が乗った飛行機を見上げていると、一緒に見送りに来ていたテイオーが言った。

 

「お兄ちゃんらしいと言えばらしいけどさ。もっとちゃんとしたプレゼントでも渡したらよかったのに。好きだったんでしょ? ファインのこと」

「さあどうかな。でも……楽しかったのは本当だよ。あの子と過ごした三年間は」

「ふーん。ま、そういうことにしておいてあげるよ」

 

 こうして俺とファインとの三年間は幕を閉じた──のだが。

 

 

「ただいま!」

「!?」

 

 数か月後。あの子はいつもの感じで俺の前に帰ってきた。

 

 

 

 

 

 

 〇月〇日

 世間一般のおふくろの味というのは、ボクの場合だとお兄ちゃんのことを指す。勘違いしないでほしいのはボクのママはちゃんと料理をするよ。でもね、ママが再婚してからボクは今日までお兄ちゃんが作るご飯を食べ続けてきたわけだから、ママとお兄ちゃんどっちがいいと問われれば、ボクは迷うことなく後者を選ぶ。……ママには申し訳ないけどね。

 

 そんなお兄ちゃんが作る料理の中で一番好きなのが、ずばりラーメンである。え、どうせインスタントラーメンだろって? チッチッチ。自慢じゃないけどボクのお兄ちゃんはラーメン屋さんをやっているんだよね。ま、本人曰く趣味らしいんだけど。

 

 ちなみにお兄ちゃんのお店で出しているラーメンの品書きには「テイオーラーメン」っていうボクの名前が入っている。最初は嬉しさ半分、恥ずかしさ半分だったけど、今では慣れたものだよ。

 

 トレセン学園に近いということもあって、外出届とバイト許可証を貰ってボクはお店がやっている日はお兄ちゃんのお手伝い兼看板娘として働いているのだ。

 

 

 

 〇月〇日

 お兄ちゃんのお店には常連客が多く来店するんだけど、トレセン学園に近い位置に店を構えているから当然顔見知りも来店するんだ。

 

 で、お兄ちゃんのお店で一番の大物というか……他のお客さんとは逸脱した子がいる。その人の名前はオグリキャップ。ボクの先輩でありすごいウマ娘である。もちろんレースでも大食いとしてもだ。

 

「……ごちそうさまでした。今回も美味しかったよ。また新メニューを期待している」

「あ、ありがとうございました……がっくし」

「お、お兄ちゃーーん!?」

 

 ウマ娘も来店することもあって、お兄ちゃんは何となくチャレンジメニューを作っていた。お兄ちゃん曰く、「まあウマ娘がギリギリ完食できるレベルのやつ作ったろw」、みたいなノリで作ったチャレンジメニューは予想通り一部のウマ娘以外には中々完食できないものだったんだ。

 だけどそこにお店の噂を聞きつけたオグリキャップがやってきた。そして見事に新記録を打ち立てて完食。

 

 お兄ちゃんは職人として何かの火が付いたのか、打倒オグリと声をあげて新たなメニューを作っては敗北。

 

 そして現在「オグリラーメン神」なるものを開発中。その構想段階のレシピを見たボクは絶句。

 

「これならあのオグリを倒せるに違いない!」

 

 とお兄ちゃんは意気込んでいるがボクは今回も敗北し、勝者の写真が飾られるに違いないと内心思っていた。

 

 

 

 〇月〇日

 

「実はお兄ちゃんトレーナーだったんだけど、この度活動を再開することになったんだわ。ということで、学園で俺を見てもお兄ちゃんお兄ちゃんって言わないように」

「ちょっと待ってよ!? 色々ありすぎで処理が追い付かないって!」

「つまり公私混同は控えるってことだ」

「ムリ!」

 

 ある日のこと。お兄ちゃんがいきなりトレーナーだったことをカミングアウトされた。それもトレセン学園の。

 とりあえずボクは色々問い詰めた。いつからトレーナーだったのか、以前は誰の担当だったのか、今は誰の担当をしているのかって。だけどお兄ちゃんは答えてくれなかった。

 

 トレーニングしている時もお兄ちゃんを探してみたけど、一体どこでトレーニングをしているのかわからず、いつしかボクは学園でお兄ちゃんを探すのを諦めた。

 

 

 

 〇月〇日

 ある日の休日。ボクは久しぶりにお兄ちゃんと食材調達という名のデートをしていた。必要な物を買い込んで一旦お店に置いた後、改めて普通のデートをしていたんだ。

 すると何やら視線を感じてボクはその視線の方へ目を向けた。

 

「あれ? ねえお兄ちゃん。あれってファインモーションじゃない?」

「……!?」

「遠目だけど、何だかすごく怒ってるように……お兄ちゃん? 汗がすごいよ?」

 

 反応がないのでお兄ちゃんに目を戻せば、額から汗がダラダラと流している姿があった。

 

 

 

 〇月〇日

 トレーニングの時間なので部室で着替えているとお兄ちゃんから連絡があった。

 

『今すぐトレーニングコースに来てくれ』

 

 とのこと。なんだろうって思ったけど、まあ目的地でもあるし、遂にお兄ちゃんが観念したかと思ってウキウキしながら足を運べば、そこにはターフの上で正座をしているお兄ちゃんの姿があった。そしてその目の前には仁王立ちしているファインモーションがいて、彼女はボクが来るなり言ってきた。

 

「本当にトレーナーの妹なんですか?」

「え、そうだよ。義理だけどね」

「ほら、だから言ったろ? 隊長さんだって間違ってないし、ファインが一人で勘違いしてただけなの」

「う~~! だ、だってさ、いくら兄妹だからってあんな腕組んで歩いたりしないよ! 隊長もそう思うよね!?」

「え、わ、私ですか!? そ、それはまあ……殿下の言うことも一理あると思いますが……」

「アレぐらい普通だよ。な、テイオー」

「うん。いつもあんな感じだよ、ボク達」

「む~~。なんか釈然としないよお!」

 

 なんでもファインモーションはお兄ちゃんとボクの関係を恋人だと勘違いしたらしい。いやあ、ボクとしてはそれはそれで構わないんだけどさ。

 

 つまりだ。ボクらをそう勘違いしてイラついていたってことは、ファインモーションはお兄ちゃんに好意をいだいているってことなわけでして。

 

 いやはや。お兄ちゃんも罪な人ですなぁ。

 

 

 

 〇月〇日

 

「私もここでウェイトレス? バイト? してみたい!」

 

 今日もお兄ちゃんが店を開くのでボクもお手伝いしに行ったら、ファインモーションがそんなことを言い出した。

 

『それだけは勘弁してください』

 

 と、ボクら兄妹は土下座をしてまで頭を下げた。ボクらだけじゃなくて隊長さんって言う人も止めに入ったんだけど。

 

「え~~いいのかな~~? 許可してくれないなら命令しようかな~~チラチラ」

『……』

 

 お兄ちゃん曰く。王族モードになった彼女は止められないとか。なので結論から言えば、ボク以外に看板娘が一人増えた。

 

 後日談になるけど、初めてバイト代を貰ったファインモーションはすごく喜んでいた。お兄ちゃんはお兄ちゃんで「王族にバイト代出すって、俺以外にいんのかな……」って言ってたよ。

 

 

 

 

 

 〇月〇日

 早いもので気づけばお兄ちゃんとファインの三年間が終わりを告げた。ファインの立場上帰国する際は色々あって、送別会は帰国の前日になってしまい、最後の最後で二人の時間というのはあまりなかった。

 

 だけど三年も寄り添った二人だから、あまりそういうのは関係ないのかなって思った。当然見送りにはいったけど、お兄ちゃんは最後までお兄ちゃんって感じだった。対してファインは悲しそうな素振りなんて見せなかったし、むしろ最後までいつも通りだった。でも、最後のアレは一体どういう意味だったんだろうか。

 

 ファインが帰国してからお兄ちゃんはかつての生活に戻った。つまりはトレーナー業をまた控えてお店に専念するんだとか。

 

「新メニューも出すし、暫く誰かの担当をするのはちょっと無理だわ」

 

 結局のところ。本人がどう誤魔化そうとお兄ちゃんはファインのことが好きだったってこと。ボクはそれとなくファインにも聞いてみたけど、笑いながらはぐらかされてしまった。

 

 まあ互いに立場がねってボクは察して一人で納得していた。そんなドラマみたいな都合のいい展開なんてありはしないってことか。

 

 

 

 

 

 ファインが帰国してから数か月後の休日。ボクが実家に帰ってリビングのソファーでくつろいでいるとインターホンが鳴った。

 

「お兄ちゃんお客さ~ん」

「やれやれ。お兄ちゃん使いが荒いんだから」

 

 ため息を付きながらお兄ちゃんが玄関に向かった数十秒後。玄関が何やら騒がしい。新手の勧誘だろうか。ボクも慌てて玄関に向かえば、そこには見知ったウマ娘がいて、向こうもボクに気づいて手を振ってきた。

 

「あ、テイオー! 久しぶり~」

「ふぁ、ファイン!?」

「えへへ。帰ってきました」

 

 もう日本には戻ってこないだろうと思っていたファインモーションが何故かうちの玄関に立っていた。なんでもアイルランドの親善大使の任に就きながら、これからもトレセン学園に通うらしい。ボクとしてもそれはとても嬉しいことなのだけれど、何やら理由もあって……。

 

「それにね? 一番欲しいものをまだ手に入れてないから」

「あ~なるほどね」

「……いや、流石に立場というか、釣り合ってないって言うか……」

「はあ。ねえファイン。もうさ、命令しちゃないよ。じゃないとお兄ちゃん、ずっとこんなこと言い続けるよ?」

「自分から言ってほしかったけど、これじゃあムリそうだね。……コホン。これから先ずっと私の傍にいてくれませんか?」

「──はい」

 

 お兄ちゃんは膝をついて、ファインが差し出して手をそっと掴んだ。

 

「いやあこれでお兄ちゃんの将来は安泰だね。よかったよかった」

 

 これでめでたしめでたしと思ったボクは一人で喜んでいたんけど、お兄ちゃんが悟りを開いたかのように言ったんだ。

 

「何を言ってるんだテイオー」

「へ?」

「今はいいけど、近い将来俺達はもう普通の暮らしに戻れないんだぞ?」

「……はい?」

「ふふっ。今まではキミが私にたくさんのことを教えてくれたけど、今度は私が二人に教えてあげなきゃね」

「教えるって……なにを?」

「え? そうだね……まずは言葉遣いとか作法とかかな?」

「え? え?」

「お手柔らかに頼む」

「えーどうしよっかなー。いままで散々厳しいトレーニングをさせてきたんだから、あなたにも厳しいトレーニングをすべきだと私は思うんだよね」

「それはそれだろ」

「じゃあこれはこれだよね?」

 

 ボクが放心しているのをよそに、二人でもう夫婦漫才というかイチャイチャしているお兄ちゃんとファイン。この時ボクは、事の重大さをあまり理解できていなかったんだ。

 

 

 そして数年後。ボクは故郷である日本を離れて、アイルランドで暮らすことになるとはこの時思ってもみなかったのである。

 

 

 

 

 

 結論──いつしかアイルランドのとある場所にラーメン屋があり、そこの品書きには「テイオーラーメン」と「殿下のラーメン」という二つの人気メニューがありましたとさ。

 




トレーナーが副業できるのかっていうツッコミはイケナイヨ。



とりあえず年内の更新はこれにて終わりですので、また来年お会いしましょう。

それではよいお年を。
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