○○と付き合ってるって言ったらテイオーはどうなるのだろうか 作:ししゃも丸
ボクにはお兄ちゃんとお姉ちゃんがいる。
お兄ちゃんとはママの再婚で兄妹になった。年が倍も離れた兄妹。でもそれを感じさせないし、血は繋がってないけど本当の兄妹のようにボクらは過ごしてきた。気づけばボクはブラコンになったし、お兄ちゃんもシスコンになっちゃうぐらいと言えば、ボクらの兄妹仲というのがわかると思うんだよね。
で、お姉ちゃんなんだけど。お姉ちゃんはボクがそう呼んでいるだけで、血が繋がった姉妹という訳でもないし、お兄ちゃんのような義姉妹関係でもない。お姉ちゃんと出会ったのはお兄ちゃんと今のような関係になり始めて少し経ってから……多分一緒に住むために引越してからだったと思う。
ボクが学校が終わって家に帰る頃にはいつもお兄ちゃんはボクを家で待っていてくれたんだ。もちろんその逆もあったけど、お兄ちゃんは仕事が忙しいはずなのにボクのために帰ってきてくれたんだよね。
家に帰ればお兄ちゃんがいつも待っていてくれる。再婚する前はそんな光景は中々なくて、ボクはそれがとても嬉しかった。きっとお兄ちゃんはボクのためにそうしてくれてたんだと、トレセン学園に入学してから気づいた。
で、そんないつものように家に帰ると、玄関にはお兄ちゃんの靴と見知らぬ靴があったんだよね。お客さんかなって思いながらボクはリビングに向かうと、そこにはお兄ちゃんとすごく大人っぽいウマ娘がいたんだ。
「ただいまお兄ちゃん。えーと、その人だれなの?」
「ああ、お帰りテイオー。彼女は俺の仕事の……パートナーのマルゼンスキーだ」
「仕事のって、それってお兄ちゃんの仕事ってトレーナーだったの!? どうして教えてくれなかったのさ!」
この頃のボクはカイチョー……シンボリルドルフと出会って、彼女のようなウマ娘を目指そうとしていた頃だったんだ。そんなボクのためにお兄ちゃんの指導を受けていたんだけど、幼いながらもその指導内容はよくできてるって思える程だったんだ。だからそれを聞いてボクは納得したし、同時にそれを隠していたことに怒りを覚えた。
「本当は言おうと思ってたんだけどちょっと恥ずかしくて。ごめんな」
「許してあげます」
「それでいいんだ。本当に仲がいいのね」
ボク達の兄妹喧嘩というのは意外なほどあっさりしている。普通ならもっと拗れるような感じらしいんだけど、友達に話すと目の前にいるお姉さんのような反応をされるんだ。
そこでボクはようやくその人のことに目がいった。
「あ、えーと、お兄ちゃんの妹のトウカイテイオーですっ。お兄ちゃんがお世話になってます」
「ふふっ。彼のお世話をしているマルゼンスキーよ。こうして会うのは二回目ね。テイオーちゃん」
「え、二回目?」
「あっそか。あの時はルドルフに夢中だったものね」
マルゼンスキーさんの話では、ボクがシンボリルドルフと会っている時にその場にいたらしい。ボクは彼女に夢中でどうやら気づいていなかったようだ。
そのことを謝罪しつつボクは話題を変えることにした。
「所で、どうしてマルゼンスキーさんがここにいるの?」
「ここ最近の彼ったらいつも仕事を早く切り上げて帰るから、どうしてって私が問い詰めたの。そしたらテイオーちゃんのためにって知ったから、じゃあそれなら私も一緒に行っていいかしらってなって。どうせトレーニングがないなら暇だし、自慢の妹さんを一目見てみたかったのよね」
「いやあそれほどでも」
「可愛いだろ。俺の妹は」
「ええ。あなたに似てね」
「フフーン。自慢の妹だからな」
「自慢の妹ですから」
「ホント、仲がいいわね……」
これがマルゼンスキーお姉ちゃんとの出会いだった。
それからというものお姉ちゃんは学園が休み以外の日は毎日ボク達の家にやってきた。勉強をみてもらったり、トレーニングを一緒にしたり、晩御飯を一緒に食べるようにもなった。だからボクがお姉ちゃんって呼ぶようになるのは必然だったのかもしれない。
お姉ちゃんはお姉ちゃんでもう寮生活ではなく一人暮らしを始めたようなので、時にはお姉ちゃんの家でご飯を食べたりすることもあった。
そんな生活を続けながらボクがトレセン学園に入学するようになって、ボクはいつもの感じでマルゼンスキーのことをお姉ちゃんと呼んだらちょっとだけ騒ぎにもなった。特にカイチョーが目を大きく開いて驚いていたのが印象的だったね。
そして当然の如くボクはお兄ちゃんのチームに入るわけだよ。最初はお兄ちゃんに反対されたけど、お姉ちゃんの説得もあってボクは晴れてお兄ちゃんのチームに所属することができたんだ。
学園で一緒に過ごす中で気づいたのは、お姉ちゃんはたくさんの生徒に慕われているということだった。意外ってわけじゃなかったけど、ボクが知っているお姉ちゃんは何て言うか……二つの顔があるんだよね。
一つはボクに対して年上として振る舞うお姉ちゃん。それは学園にいる時や家にいる時も左程違いはない。でも、時折お姉ちゃんとかみ合わない時があるんだよね。ボクとは年は少ししか違わないんだけど、服のセンスが同年代とは少し違うし、紅茶とか好きそうだけど渋いお茶が好きだったり。あとたまにお兄ちゃんに内緒でお小遣いくれた時があるんだけど、その時袋を持ってなかったのか何故かティッシュに包んでくれたんだ。ボクはその時ママの実家にいるおばあちゃんと同じことをしてきたから、ついついお姉ちゃんからおばあちゃんみたいな雰囲気を感じてしまったぐらいだ。
で、もう一つの顔なんだけど、ズバリ言うと……女、だろうか。それもお兄ちゃん限定で。これは一見そこまで違いはないように見えるんだけど、子供だけどボクも女の子だからそういうのがわかる気がするのだ。
ただそんなお兄ちゃんとお姉ちゃんの関係というのは、これまた傍から見ると恋人同士に見えるんだけど当の本人らはただのコンビと言い張っている。ボクをはじめ周囲の人たちはそれで納得するわけもなく。
だからボクはお姉ちゃんに聞いてみた。
「私と彼の関係? えーと……うん、マブダチね!」
「まぶだち……ってなに?」
「え? うーん……あ! あれよあれよ、ズッ友!」
「ズッ友?」
「え、これも通じないの……? えーと、他には……」
「そこは普通に親友みたいなものでいいんじゃないか?」
「それはそうなんだけど! でも、そうじゃないっていうか……」
お姉ちゃんはたまにボクが知らない言葉で言い表すことがあるから難しいのだ。しかしだ。親友というのはお兄ちゃん達のような関係でも言い表すことができるものだろうか。
ボクとしては誰かがいったか、おしどり夫婦がよく合うと思うんだよね。普通に互いに一言言うだけで通じ合ってるし。これで親友はムリあるよねって思う。
まあその時はあまり追及しなかったんだけど、数年経ってもあまり関係が発展しないわけだよ。だからボクはついに言ったんだ。
「で、いつ結婚するの?」
って。
マルゼンスキーと出会ったのは選抜レースでのことだった。当時はトレーナーとしてトレセン学園に配属したばかりだから、他のトレーナー達と同様に担当を持つべく選抜レースを見に訪れていた。
そこで走っていたのがマルゼンスキーだった。
彼女は速かった。誰よりも速く走っていた。それは誰の目にもとまる光景だったし、我こそ先にと言わんばかりに彼女をスカウトしようとしていた。しかし当の本人はその誘いをすべて断っていた。
スカウトをしていたのはベテランから新人までいて、全員がっくしと肩を大きく落としていたのが印象的だった。俺はなんでだろうかと思いながらも、ようやくスカウトの嵐から解放された彼女に近づいて一言だけ言った。
「キミはすごく楽しそうに走るね」
「……キミにはそう見えたの?」
「え? うん」
「へ~。ふ~ん。なるほどなるほど」
そんな何気ない一言がきっかけにそのあとなんやかんやあり、気づけば俺はマルゼンスキーの担当になっていた。
マルゼンスキーというウマ娘は、年頃の女の子にしてはたまに俺の親父世代が言いそうなことを言う時が多々ある。他にも時代の流行が今とは違ったり、服のセンスも少しずれている。
だけど俺はそんな彼女といる時間がとても居心地がよかった。
これまた不思議なことにマルゼンスキーは年下って感じがしなくて。下手をすれば俺と同年代か少し上のような雰囲気というか暖かさがった。
そのことを以前本人に言ったこともあった。
「お前といるとさ、なんかこう……落ち着くんだよな」
「そうなの? 私は至って普通にしているだけなのだけれど」
「ん~それがいいのかな。マルゼンスキーは年下だけど周りの大人かそれ以上にお姉さんしてるし。あとはあれかな。俺って母親がいないから、余計にそう感じるだけかも」
「なるほどねぇ。……えい」
すると何故か俺はマルゼンスキーに正面から抱きしめられていた。胸の感触とかそういうのは突然のことで感じてはいなくて、むしろ頭の中が混乱してそれどころではなかったのだ。
「なにしてんの」
「ハグよハグ」
「それはわかる。だからなんで」
「だってお母さんがいないっていうから。あとちょっと落ち込んでるような感じがしたから、これで元気ハツラツになるかなって思って」
「……」
「……」
「ファイトー」
「いっぱーつ!」
抱きしめられながら何を言っているんだとさらに混乱し、あとでマルゼンスキーのアレがうつったと頭を抱えた。
さて。俺も含めみんなのお姉さんでいるマルゼンスキーだが、そんな彼女にも悩みがあったようで。
「え、なんだって?」
「だからね? 他の子みたいにもっとちゃんとした理由が必要なのかなーって。レースに勝ちたいとか、三冠ウマ娘になりたいとか」
走るのが楽しい。楽しいから走る。確かにマルゼンスキーは他のウマ娘達とは走る理由が違うが、大事なのは自分がどうしたいかなのだから、そこまで気にする必要ないと俺は言った。だけど、みんなが真剣に夢に向かって努力しているのにそんな子達が自分を目標にしているとか、参考になりますとか言われて、もっと自分も彼女達に相応しいお手本にならなければいけない、これではみんなに失礼だと思ったらしい。
そんなマルゼンスキーに俺は咄嗟に言った。
「じゃあ俺のために走ればいい」
「……え!?」
「マルゼンスキーが楽しく走れて、かつレースに勝ったら俺はすごく嬉しい。つまりは一石二鳥だな。……いや待てよ。自分で言ってなんだが、これは誰かに言えないな……」
自分で言っておきながら恥ずかしいセリフを吐いたもんだと思いながら彼女を見えば、顔がどことなく赤く見えるのは気のせいだろうか。すると彼女は何かに納得したのか自分で答えを出していた。
「そ、そうよね。うん、だってマブダチなんだからなんら不思議なことじゃないわよね……? それになんだかドラマみたいでいいかも」
「ま、まあお前がそれでいいならいいんだけど」
悩みを解決できて一安心とは思いつつも、流石にそのことを誰かに言いふらすのは勘弁してほしいと思った。
それからマルゼンスキーの担当になってとある年に俺の親父が再婚。その際に義理の妹ができた。その子の名前はトウカイテイオー。結果から言えば俺は重度のシスコンになるほどテイオーを可愛いがることになるわけ。
ただ再婚したことで問題もあった。それはテイオーはまだ幼くて、親父も新しい母さんも多忙な人で。だから俺は自ずとあの子の面倒を見るために動いていた。当然その被害を一番受けるのは担当ウマ娘であるマルゼンスキー。
最初は俺も家庭の事情ってことで彼女には誤魔化していたんだけど、流石に一年以上も同じことしていていればイヤでも気づくわけで。
で、洗いざらい話したら……。
「どうしてそんな大事なことを私に相談しないのよ! まだ小さいんだし、そこはあなたより私の方が力になれるでしょ!」
と、正論で怒られてしまった。まあマルゼンスキーの言うことも間違いはないんだけど、現に今日まで年の差なんて関係なく本当の兄妹のようにテイオーと仲良くやってきたから心配事なんてなかったんだけど。
そんなこともあって実際にテイオーにマルゼンスキーを紹介してからというもの、持ち前の包容力というかお姉さんパワーですっかりテイオーに気に入られていた。それからは彼女と一緒に家に帰っては夕ご飯を食べて、彼女を寮に送り届ける生活が続いた。
それが彼女が18歳を迎えて車の免許を取り、一人暮らしを始めたことでちょっとだけ変わったのだ。
トレセン学園……というか、ウマ娘というのは世間一般とは少し違っており、三年間経ったから卒業というわけではない。中高一貫ではあるが普通にマルゼンスキーのように18歳を超えても在籍している子は多い。また寮生活が義務付けられているトレセン学園だけど、マルゼンスキーのように一人暮らしをしている子も少なくはない。
なので一人暮らしをしてからは俺の家と彼女のマンションを行ったり来たり。そんな生活を送っていれば自然に互いの家に私物も増えて寝泊まりもするようになる。テイオーは「お泊りだー!」って喜んでたっけ。
同期にそのことをぽろっと話したら、「お前らの関係ちょっとおかしくね?」と言われた。はて。何がおかしいのだろうか。俺とマルゼンスキーの関係は健全だし、卑しいことなど一切ないというのに。
暫くしてテイオーもトレセン学園に入学することになった。これまた当然の如く俺のチームに入るの一点張り。正直に言えば身内贔屓というか甘さが出るため、あまりテイオーの担当になることに気乗りしなかったんだ。
だけどマルゼンスキーの説得とテイオーの駄々をこねる攻撃のコンボで俺は首を縦に振るしかなかったのである。
それから暫く経ったある日のこと。
まるで何かの痺れを切らしたか、少し怒り気味で言われた。
「で、いつ結婚するの?」
それを言われて俺とマルゼンスキーは固まった。互いに目を見合わせては首を傾げた。
「いきなり何を言っているんだテイオー」
「そうよ。私達付き合ってすらいないわよ」
「それにトレーナーと」
「その担当ウマ娘だからそんな関係じゃないしね」
「そう思ってるのは二人だけだよ! 普通一緒に寝泊りするトレーナーとウマ娘なんていないよ!」
「だってその方が彼も一々家に帰らなくていいし、学園にも近いから通勤も楽だし。それに女の一人暮らしは危ないっていうし……ね?」
「ね? じゃないよ! どう見たって同棲してる恋人でしょ!」
それから俺達はその場に正座させられてテイオーに説教というか、さっさと結婚しろと催促された。そのあと俺の家に一緒に帰宅して、二人でテイオーに言われたことを真剣に話し合うことに。
「俺達って……周りから見れば付き合ってるように見えてたんだな」
「そう……みたいね。至って普通の関係だと思ってたんだけど」
「休日はお前の運転でドライブするのも普通だと思ってた」
「ねー」
「「……」」
改めてマルゼンスキーのことを考えてみれば、俺は彼女のことが好きなのだと思う。それはきっと彼女も同じで、ただそのことが互いにいつしか普通、当たり前のことだと思い込んでいたから、テイオーにハッキリと言われるまで自覚できていなかった……と推測する。
多分だけど距離感がとうにわからなくなっていたんだろう。互いに止まることなく、時間をかけてどんどん距離を縮めていた結果が今の関係になった。そう考えるとしっくりくる。で、いざ足を止めて互いの距離感を認識。顔には出してないけどマルゼンスキーも俺も多分すごーく内心ドキドキしてると思われる。
マルゼンスキーを見れば俺と同じように色々と考えているように見える。俺の視線に気づいたのか、彼女は俺の顔を見てすぐに顔を横に逸らした。初めて見るマルゼンスキーの顔に俺はとても意識していた。
あれ? マルゼンスキーって可愛いのは知っていたけど、こんなにも可愛く見えたっけ。
そんなことを思うぐらいには俺もおかしくなっているらしい。いや、これが正常なのか。
結局その日は会話にならず、またテイオーに言われて意識したのかマルゼンスキーは家には泊まらずに自分のマンションへ帰り、俺もそれを止めることはしなかった。
「ねえ、ちょっとドライブにいかない?」
その翌日の午後。マルゼンスキーからいつものようにドライブに誘われた。別にそれはいつものことで不思議なことではないけど、昨日のこともあっていつもとは少し違うように思えた。現にいつもだったら道中何気ない会話があるのだが、今日は目的地に着くまで会話が不思議なくらい続かなかった。
着いたのはとある海岸で、気づけば太陽が海の向こうに沈みかけていた。何て言うかタイミング的に映画みたいだなって思っていた。
とりあえずこれまた無言で浜辺を一緒に歩いていた。俺は歩きながらどうしてマルゼンスキーがここに連れてきたんだろうって考えてみた……まあ考えなくても導き出される答えは一つしかないのだが。
なのでその場に足を止めて、真っ赤になっている顔を見られたくないので夕日を見ながら言った。
「なあ」
「うん」
「結婚……するか」
「しちゃおっか」
それを聞いて今日初めてマルゼンスキーの顔をまともに直視した。そこには俺と同様頬を赤く染め、満面の笑みを浮かべている彼女がいた。
ふと、よくよく思えば告白を通り越してプロポーズしているなと思ったけど、まあ俺達はもう付き合っているらしいので問題はない、のか?
「ねえ」
「どうした」
「折角海に来てるんだし……アレしない?」
「あれ?」
「ほらアレよ。浜辺で追いかけっこするやつ。一度やってみたかったのよね」
最近は見ないが昔よくあったアレか。しかし俺はそこであることに気づく。
「それどっちの立場でも俺ムリじゃね?」
「……」
「……」
互いに無言。そしていきなりニコッと笑みを浮かべたマルゼンスキーは背中を向けて走り出した。
「ほーら。私を捕まえてみなさーい!」
「ちょ、無茶言うなって!」
そうは言っていながらも俺は彼女を捕まえるべく走り出しているのであった。
結論 後日テイオーに報告したら「遅い!」と怒鳴られるのであった。
アルダン天井しました()
なので次回はアルダン。