○○と付き合ってるって言ったらテイオーはどうなるのだろうか 作:ししゃも丸
俺には自慢の妹がいる。
その子の名前はトウカイテイオー。血は繋がっていないが実の妹のように今日まで俺達は一緒に暮らしてきた。
だけど、そんな愛しのマイシスターにもずっと秘密にしてきたことがある。本当ならもう少し黙っているつもりだったのが、もう隠し通すことができなくなってきた。
我慢の限界というか、ぶっちゃけ自慢したいのが本音。
なので色々と報告兼ねてテイオーに告白することにした。
「テイオー。実はお兄ちゃんはお前にずっと隠してきたことがあるんだ」
「いきなり何なのさ。それも酷いくらい真面目な顔をして」
「ああ、俺はすごく真面目だ。だから心して聞いてくれ」
「お兄ちゃんがそう言うんだから、きっと大切なことなんだね。わかった、ちゃんと聞いてあげるよ」
寝っ転がっていたテイオーは起き上がると正座をして俺の言葉を待っていた。滅多に見ない真面目テイオーだ。
ならばこそ、俺もそれに答えなければならない。
「お兄ちゃんはな、実は……ウマドルのスマートファルコンと付き合っているんだ!」
「……どえええええ!? あのファル子先輩とぉ!?」
「ああ。ファンのみんなも知らない俺と彼女だけの秘密なんだ」
「ちょっと待ってよ、お兄ちゃんとファル子先輩に接点なんて……。ん? もしかしてさ、数年前にいきなり仕事を辞めたのって……」
「彼女のために仕事を辞めて、あの手この手を使って俺はアイドル事務所を立ち上げて社長兼プロデューサーになったんだよ!」
「某大企業で出世街道まっしぐらとか言ってたのに、まさか辞めた理由がファル子先輩のためだったのか」
「俺は彼女の夢を叶えてあげたかったんだよぉ!」
そうだ。俺は数年前までとある大企業に勤めていた。成績優秀で上司からの評価も高く、出世は間違いなかったんだ。
でもある日の事、偶然彼女──スマートファルコンと出会い俺は彼女に一目惚れした。だからウマドルして夢を目指す彼女の夢を叶えてあげたくて、俺はすべてを捨てたんだ。地位も名誉も全てだ。
そしてありとあらゆる手段を使って俺はアイドル事務所を立ち上げたのだ。今でも所属しているのはファル子一人だけだけど。
「で、でもさ、ファル子先輩って今はウマドル専業だけど、卒業する前まではレースにも出てたよね?」
「ウイニングライブをするためにはレースに勝たなければいけない。だけど、アイドルとしてのトレーニングもしなくちゃいけない。だから俺は……」
「ま、まさか」
「ああそうだよ。俺はファル子のためにトレーナー資格も取ったんだよ!」
「お兄ちゃんはまさに行動力の塊みたいな人だね」
「ふっ褒めるな。照れるだろ」
「褒めてないよ」
そこは素直に褒めてくれてもいいではないか。
トレーナーになるためにはクソめんどくさい試験を突破しなければらないというのに、俺は会社経営をしながらトレーナー資格を取ったんだぞ。
それに最後の面接の時、俺の履歴書を見た全員が驚いてたのは今でも記憶に新しい。
「それに大変なことだってたくさんあったんだぞ」
「大変って言われても。例えば何が大変だったのさ」
「URAとか学園と“交渉”してなんとか学園に在籍しつつ、事務所所属のウマ娘としてレースに参加させたりとか」
「……ちなみにトレーニングとかはどうしてたの」
「そこは企業秘密」
そう言うとテイオーはぶー垂れ始めた。まあ気になるのも無理はない。学生時代は誰もが学園でトレーニングをするのが当たり前なのだ。だけど、そこはまあ交渉して特別な場所でファル子に指導していたのだ。もちろんウマドルとして両方のトレーニングをだ。
「所でさ。付き合ってるっていうけど、どこまで手を出したの?」
「大事なウマドルに手を出すわけないだろ!」
「えぇ……。だって付き合ってるんでしょ……。だったらキスぐらいしててもおかしくは──」
「社長兼プロデューサーでファン1号である俺がそんなこと出来るわけないじゃないか……」
「ある意味でそれはいいことなんだろうけど、彼氏としてそれはどうなの……」
「これでも必死に我慢してるんだよぉ」
テイオーの言うことは最もだ。だけど先程言ったようにファル子は大事な存在。俺は彼女の夢を叶えるために徹底しているだけなんだ。
それにそういう所を撮られてしまうと後々活動に響くし、処理をするのも些か面倒なのだ。だから俺は清い交際を続けている。
するとテイオーが深いため息を付きながら言ってきた。
「じゃあなんで付き合ってるのさ」
「つい本音が漏れちゃって。そしたらファル子も俺のこと好きだって言ってくれて……」
「へー。ちなみにそんな状態だからデートとかもしてないんでしょ」
「仕事で常に一緒にいるからそれがデートみたいなもんだろ」
「……それでいいの?」
「よくはない……かも」
「はぁ。そもそもさ、なんで今更ボクに教えてたのさ」
「そりゃあ大事な妹であるお前には知ってほしいのと」
「うんうん」
「あとは誰かに自慢したかったから」
「……ボク、怒っていいよね? いや、怒る」
満面の笑顔から一転してテイオーは俺を押し倒すと、痛いようで痛くない力加減でお腹を殴り始めた。
それからテイオーの気が済むまでサンドバッグになり、結局話はこれ以上進展することないので後日事務所に来てファル子と直接会って話をすることになった。
「まさか社長さんの妹さんがテイオーちゃんだなんてビックリだよ!」
「それはボクの台詞でもあるんだけど。ファル子先輩、お兄ちゃんに夢を叶えてあげるとか言われて変なことされてたりしてない?」
「ううん。社長さんはとてもいい人だよ。だって、いまのファル子があるのは社長さんのおかげなんだからっ!」
「え~。本当はセクハラとかされてるんじゃ──」
「ふざけてもそんな事を言うんじゃない!」
「いたっ!」
近くにあった紙屑をテイオーの頭に向けて思いっきり投げつけた。まったく、いくら冗談と言えど本人の前で言う言葉でない。
「まあテイオーちゃんがそう思うのも仕方ないと思うよ。でも、本当に社長さんは私のためにやってくれているの。だからあまりそういうこと言ってあげないで。ね?」
「いやあただお兄ちゃんをからかっただけだから、そこまで心配しなくても大丈夫だよ」
「本当に二人は仲がいいんだね。ほらほら、美味しいお菓子を食べながらお話しよっ。社長さん仕事で忙しいから」
「わーい」
さすがファル子だ。忙しい俺に気を使ってくれている。ウマドルとしても、一人の女性としてもなんと素晴らしいんだろうか。
対してテイオーにはいい加減もうちょっと大人になってほしいと思いつつも、それは俺がいるからそういう態度をしていると思えば可愛いものだ。
それにしてもテイオーの様子を見れば中々の好感触のように見える。ファル子もファル子で知らない仲ではないし、会話がとても弾んでいるようだ。
対して俺は書類やらスケジュールを確認しながら仕事をしている。事務所を立ち上げてからほぼ俺一人で仕事を進めてきたが、流石にファル子にも事務員を雇った方がいいと言われてしまった。
最初は何となっていたし、現在も所属しているのもファル子一人なので一応どうにかなっているので、俺としてはこのまま二人のままでいいと思ってる。
(じゃないとここでファル子とイチャイチャできないし)
しかし、ファル子に心配をかけるわけにいかないので募集はかけていたりはする。一応候補というか、事務員にピッタリな人材は過去にいた。
それはトレセン学園の理事長秘書をしていたあの女性だ。交渉しに訪れた際に初めて会ったのだが、如何にも事務員として逸材な存在だと思って勧誘はしたのだが丁重にお断りされてしまった過去がある。
まあいつでも今の仕事を辞めたくなったらうちに来てくださいとは言っておいたが。
そんな昔のことを思い出していると、何やらあちらでは気になる話をしているのが耳に入ってきた。
「そう言えばテイオーちゃんってダンスがとても上手かったよね!」
「うん。よくみんなからテイオーステップとか言われてたよ」
「テイオーちゃん、今からでもファル子と一緒にウマドルにならない!? きっとテイオーちゃんならすぐにトップウマドルだよっ!」
「いやいや。ボクには無理だって!」
「そんなことないよ! ね、社長さんもそう思うよねっ!?」
ファル子に問われる前には、すでに俺はテイオーのアイドル化計画について脳内会議を行っていた。
テイオーがアイドルになることに対して。これは──アリ、だ。ビジュアル面では問題ないし、何よりも老若男女問わずみんなから好かれそうな印象が我が妹にある。歌やダンスについても今までさんざんやってきたからこれも問題ない。
何よりも大事な妹であるテイオーがアイドルになるというのは、兄として社長としても最高なことなのではないだろうか。
それに大好きなテイオーとも一緒に居られる時間が増えるし、これは一石二鳥なのでは?
なので──
「テイオー。今日からウマドルデビューだ!」
「えええええ!?」
──結論 テイオーがウマドルデビューした。
〇月〇日
ここ最近多忙な日々を送っているお兄ちゃんが貴重な休みを使って真面目な話をしてきた。一体何だろうと思ったら、まさか現在トップウマドルとして活躍しているファル子先輩と付き合っていることを伝えられた。
ファル子先輩と交際していたことにも驚いたんだけど、何よりも彼女のために以前勤めていた仕事を辞めて、まさか自ら事務所を立ち上げていたとは驚きだ。
その時のことは今でもよく覚えていて、ボクを含め家族総出でそれに反対したけどお兄ちゃんは頑として意見を変えることはなかったんだ。
仕事を辞めてから最初の一年は本当に忙しくて、ボクと一緒にいてくれる時間も減ったのであまりいい思い出ではない。
だけど、それがまさかファル子先輩のためだったとは驚きだ。
それにしても、いくらウマドルだからといってキスもしていないのはどうかと思った。なので今度実際にファル子先輩に会って色々と聞いてみようと思う。
あとついでにサインでも貰っておこうかな。
〇月〇日
今日初めてお兄ちゃんの事務所を訪れ、そこで久しぶりに生でファル子先輩に会った。ここ最近は雑誌やテレビでしか見ていなかったけど、ファル子先輩はボクが知っているファル子先輩のままだった。
本当だったら色々とお兄ちゃんとの関係について聞くはずが、気づいたら何故かボクの話になって、どういう訳かウマドルデビューすることになってしまった。
どうしてこうなった!?
いや、まだライブできるのは嬉しいけど、流石にウマドルはちょっと行き過ぎじゃないだろうか……。
〇月〇日
ウマドル候補生として少し経ったけど、よくある普通のアイドル候補生と違ってライブも経験はあるし、レッスンも慣れたものなのでそこは至って問題はなく進んでいた。
あとはいつウマドルデビューするかということで、それに関してはここ最近お兄ちゃんが色々と動き回っているみたいだ。
空いている時間に今まで聞こうと思って聞けなかったことをファル子先輩に聞いてみると、一緒に過ごしていく内にお兄ちゃんのことを好きになっていったらしい。
ボクが仕事を辞めてまでファル子先輩の夢を叶えようとしたんだよ、と言ったらすごく驚かれた。まあ、お兄ちゃんからすればわざわざそのことを言う必要もないなとボクは思った。
なんだかんだ言っても、自分のためにここまでしてくれたのがお兄ちゃんが初めてで、今日までやってこれたのは誰でもないお兄ちゃんが傍で応援してくれたからとも言ってたから、やっぱり好きになるのは分からなくもない。
ただウマドルだし、相手が社長兼プロデューサー兼トレーナーでもあったから、告白したくても中々できなくて、ついお兄ちゃんが本音を漏らした時を好機と見てファル子先輩も想いを伝えたようだ。
うーん、何ていうか二人して奥手だなぁって思う。
聞いたところによるとキスとかデートもしてないけど、事務所にいる時はたまに抱き合ったりとかしてたらしい。
いや、そこまでするならもっとやるところまでやりなよ!
とりあえず、今後の二人がどうなるのか見物である。
〇月〇日
久しぶりに日記を書いた気がする。
それも仕方ないか。だってウマドルデビューしてからはあまりにも忙しくなって、日記を書くことすら忘れてしまったんだから。
仕事も入るようになったし、ライブもかつてのように歌って踊れるのはやっぱり楽しくて、ウマドルになったのはある意味正解もしれない。
それに大好きなお兄ちゃんと以前より一緒に居られる時間が増えたのはもっと嬉しい。
ただファル子先輩との関係はちょっとしか進展していない。やっとボクがあの手この手を使ってキスまで持ち込んだぐらいだ。
果たしてその先はいつになることやら。
〇月〇日
世の中些細なことが、とんでもない事に発展するということを自ら体験してしまった。
昔からよく歌っていた『はちみー』を久しぶりに歌ったら、偶然お兄ちゃんに聞かれてネットにあげられてしまった。そしたら一日で83万再生も動画が再生されるという異常事態が発生。
まさかこれがボクのデビュー曲を差し置いて、代表曲になるとは夢にも思わなかったよ……。