○○と付き合ってるって言ったらテイオーはどうなるのだろうか   作:ししゃも丸

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お兄ちゃんとアルダンお姉ちゃん

「やっぱり年をとるとさ、時間が経つのが早いって感じちゃうな」

「いきなりどうしたんですか?」

「アルダンの担当になって数年経ったなって」

「ああ……そうですね。こうしてゆっくりとあなた(・・・)と一緒にお茶会を楽しんでいる。改めて思い出すとあの頃よりも余裕ができた、ということなんでしょうね」

 

 担当でもありそういう関係でもあるメジロアルダンは、手入れが行き届いている立派な庭園を見ながら微笑んだ。

 彼女の担当になってもう数年が経った。アルダンは名門メジロ家のお嬢様だ。そしてここは彼女の屋敷内にある庭園で、そこで俺達はいつものようにお茶会をしている。

 最初は身体チェックをしていたのが今では顔パスで入れることを見れば、それだけ俺達の仲はもう周知の事実だし、十分信頼に値する男だと認定してもらえたということだろうか。

 

「それはいいことだよ。ま、俺は毎日怪我をしないかと気が気でないけどね」

「常にあなたが私を見ていてくださるから、私は安心してトレーニングに励めるんです。それに今になって私に愛想がつきてしまいましたか?」

「まさか。この先ずっとアルダンの傍にいるつもりだ。もちろんキミがイヤじゃなければね」

「あなたに出会うことができた私は、果報者です。だからこそ、この幸せを簡単に手放したくはありません。未来へと続く今を、あなたと一緒に永遠に刻んでいきたいんです」

「俺もキミと一緒だよ。だからこれからも二人で一緒に頑張っていこうな」

「はい」

 

 こんな恋愛ドラマみたいな台詞も今では普通に言えるあたり、アルダンと一緒に過ごすうちに慣れてしまっている。それにこんな会話も今日が初めてじゃないし、もう何回も似たようなことを言い合っている気がする。

 

 まるで互いの愛を確かめ合うかのように。

 

 

 

 

 

 

 メジロアルダンを知ったのは、義理の妹であるトウカイテイオーからだった。

 

「今度の休みにマックイーンと一緒に病院に行ってくるね」

「病院? 誰かのお見舞いでもいくのか?」

「うん。マックイーンのお姉さんのメジロアルダンさんの」

「へえ」

 

 マックイーンというのはテイオーのクラスメイトで親友のウマ娘だ。もう何度も家に来て遊んだり、どこかへ行くときは保護者として同行しているのでそれなりに自分とも交流があった。

 メジロアルダンとはそのマックイーンのお姉さんのような人らしい。なんでもマックイーンがテイオーのことを楽しそうに話すものだから、一度会ってみたいということなって今度一緒にお見舞いにいくことになったらしい。

 

「アルダンさんは体が弱いらしくて、何度も入退院を繰り返してるんだって」

「じゃあレースも?」

「うん。まだデビューできてないって。でもマックイーンが言ってたんだ。アルダンさんは素晴らしいウマ娘だって」

「姉想いだなマックイーンは。ところで、その病院って?」

「○○病院だよ」

「ふーん」

 

 この時は多分、ただ純粋にそのメジロアルダンっていうウマ娘が気になったんだと思う。何よりも彼女が入院している病院には、ちょうど友人が働いていたからというのもあったと思う。だからすぐに友人に連絡を取って、無理を言ってアルダンのことを教えてもらった。

 

『ウマ娘が脚を故障するのは、言いたくはないけど避けては通れない道だよ。ただ担当医に話を聞いてみたけど、彼女は特に何て言うか……繊細っていうのかな。何かをきっかけに簡単に割れてしまうガラスのように脆いって』

「ガラス、ね」

 

 それが一度ならまだしも、何度も入退院を繰り返していたらそう言われてしまうのは仕方がないと思った。

 

『本当ならレースはおろかトレーニングだってやめさせたいって話だ。それでも本人の強い意向でいまもトレセン学園にいるんだと。俺も遠目からしか見てないけどまさにお嬢様って感じで、そんな気が強い子には見えなかったけどな』

「人は見かけによらないものだろ。それはウマ娘も変わらないさ」

『そうなんだろうな。でもどうしたんだよ急に。ああ、そういえばお前トレーナーやってるんだっけ? 彼女をスカウトするつもりなのか? 余計なお世話かもしれないけどやめておいた方がいいって。いざって時辛いぞ。お前も彼女も』

「忠告どうも」

 

 友人の言葉は尤もだと思った。

 だけど俺は友人の忠告を聞くことはなく、当日テイオーと一緒にアルダンのお見舞いに同行していた。

 最初は無関係な自分がいてもテイオー達の邪魔になると思い、二人が部屋を出てくるまで外で待機してから彼女と会うことにした。

 

 そしていざ彼女と対面したわけだが……。

 

「えーと、はじめまして。テイオーの兄です」

「あ、はじめまして。私、メジロアルダンと申します」

「「……」」

 

 まあ当然こうなるわけだ。テイオーはマックイーンから話を聞いていたからいいけど、俺はいきなり現れた見知らぬ男だ。

 だけど俺は初めて彼女を見た瞬間、何かを感じたんだ。それが何なのか考えているとアルダンが優しい笑顔を向けて言った。

 

「マックイーンから聞いていましたが、私が想像していた通りのお方で安心しました」

「それは悪い意味で?」

「とんでもございません! むしろいい意味です。マックイーンがいつも楽しそうに話すものですから。お兄さんのケーキは最高ですの、この間お兄さんとテイオーさんの三人でお出かけしましたのって。だからきっと優しくて素敵な殿方なんだろうって」

「保護者として当然のことをしたまでです」

 

 そうは言っても内心では年甲斐もなく照れてたりする。誰かに褒められたりするのは大人になると中々ないことで、それに褒められることはいくつになっても悪いことではない。

 

「だから今日、こうしてテイオーさんのお兄さまに会えたのはよかったです。マックイーンがあまりにも自慢げに話すので、一度お会いしたいと思っていたんですよ」

「それは……たいへん恐縮です」

「ふふっ。ところで、今日はまたどうしてここに? ただ私に会いに来た、というわけではないのでしょ?」

 

 どうやら彼女は想像以上に聡明な女性だとわかった。だから俺は包み隠さず、今日ここにきた要件を話した。

 

「単刀直入に言えば、キミをスカウトしにきたんだ」

「スカウト……? お兄さまはトレーナー、なのですか?」

「いまはちょっと事情で少し現場から離れてるんだけどね」

 

 俺の仕事はトレーナーだったりする。しかもテイオーにも秘密にしていた。どうして現場から離れているかと言えば、それはテイオーのためだった。親父が再婚する前は現役で活動し、とあるウマ娘の担当トレーナーとして働いていたが、再婚したことによって幼いテイオーのために学園側に事情を説明して、いまは講演会とか解説とかそういった現役を引退したトレーナー達のような仕事をしている。当時担当していたウマ娘にもちゃんと理由を説明していたし、担当してから3年経ったこともあってタイミング的にはよかった。

 

 当時あの子には色々と文句を言われたけど、別に喧嘩別れなどはしていない。今でもたまに連絡は取り合っているぐらいだ。

 

 そしてアルダンは俺の申し出に少し間を要し、答えを出した。

 

「その言葉は……きっと心の中で私が一番求めていたものなのでしょう。素直にとても嬉しく思います。ですが、その申し出を受けることはできません」

「理由を聞いても?」

「お兄さまもご存じのはず。見ての通り私はこうしてここにいます。本来なら普通のウマ娘達のようにトレーニングに励んでいるのにです。先程も申したようにお兄さまの申し出はとても、それはとても嬉しいのです。ですが、私は他のウマ娘とは違います。レースはおろか満足にトレーニングすら叶わないかもしれません。こういった事が何度も起こるかもしれません。その度に負い目を感じさせたくはないのです」

「つまり、同情からスカウトしたいと思ったのなら余計なお世話だと?」

「失礼なことだとは思いますが、その通りです」

 

 優しい子だ。俺はそれを聞いてそう思った。体は弱くともその意思は鉄のように固く、鋼のように強い。決して簡単に自分の意思を曲げることはないだろう。

 

 だけど、同時に危ういとさえ思ってしまった。

 

 決死の覚悟、と言えばいいだろうか。たとえこの先どうなろうとも、今この瞬間さえよければいい。後悔はない、だからそのために今を諦めたくない。そのように感じた。それ程の覚悟をアルダンは持っている。

 

 人もウマ娘も体は鍛えられる。だけど心だけは鍛えられない。誰しもほんの些細なことでぽっきりと折れてしまうことだってある。俺にはアルダンもそうなるという確信があった。それも遠くない未来に。

 

 だからこそ支えてあげたいと思った。アルダンの願いを叶えてあげたいと思った。

 

 同時に彼女を見た際に感じたものが一体何なのかを理解した。

 

「覚悟ならある。そう言っても簡単には信じてはくれないのはわかってるんだ。でもね、それでも俺はアルダンのトレーナーになりたい。アルダンの覚悟は伝わったし、同時に危ういとさえ思った。だからこそ俺はキミの隣で支えたいんだ」

「……どうして、どうして初めて会ったばかりの私にこうまでしてくれるんですか」

「あーそれはまだ言えない」

「どうしてですか」

 

 アルダンからすればとても大切なことなのは重々承知している。だけど言える訳がない。いまこの場で言えるものか。

 だからその場しのぎの言い訳を咄嗟に言った。

 

「……その方が逆にやる気が出る、とかじゃダメですか」

 

 すると鳩が豆鉄砲を食ったとまではいかないが、口を開けて少しだけアルダンは放心していた。もしかしたら呆れていたかもしれない。それでも構わない。いや、構わなくはないのだがどうしても本当のことは言えなかったのだ。

 

「……ふふっ。覚悟はあるというのに、その真意は教えられないと。ほんと変わった人です」

「すみません」

 

 誤魔化せたと思ったのは束の間。アルダンの顔から笑みは消えて、再度真剣な眼差しを向けてきた。

 

「もう一度問います。お兄さまには私と共に歩む覚悟がありますか?」

「ある。そしてキミの──メジロアルダンの”今”を終わらせない、壊させないことを誓うよ」

「──っ! ……よろしくお願いします、トレーナーさんっ」

 

 差し出されたアルダンの手を俺は優しく掴み、頬が紅く染まりながら優しい笑みを浮かべているアルダンの顔を決して忘れることはなかった。

 

 

 後日、俺はアルダンが退院してから正式に彼女のトレーナーとして現場復帰。そしてアルダンと話し合った結果。メジロ家専属の主治医の了承を得て、今期の途中からトゥインクルシリーズに挑戦することを決意するのであった。

 

 

 

 

 

 アルダンのトレーニングは毎日が試行錯誤の連続だった。理由としては彼女の脚のことがあるのも当然だったのだが、まず彼女の限界というのを知らないことだった。なので何処まで攻めたトレーニングをしていいのか分からないので時間を要したこと。それはアルダン本人もそうだったので、ある意味では一から二人で少しずつ取り組むことになっていた。

 そしてその甲斐もあってか、俺は早期にアルダンのトレーニングメニューをつくりあげることができたのだと思う。

 

 ただトレーニングメニューが出来てからのアルダンは、最初の頃はかなりもどかしかったのだろう。まだトレーニングを続けられると思っていても俺はそれを許さなかった。心苦しかったけど、それは少しずつ成果が出て、日に日にトレーニングメニューが増えていった。その時のアルダンはとても興奮していたのを覚えている。

 

 そしてアルダンはデビュー戦を経て、初のG1である日本ダービーを勝利することができた。またその頃になると、かつて彼女に対して抱いていた印象など誰も口にすることはなかった。

 

 だけど同時にアルダンの中に恐れも生まれつつあった。

 

「トレーナーさんのお陰でここまで来れました。まだ夢を見ているようです。だけど……怖いんです。ここまで順調で、本当に出来すぎてるぐらいに。だからいつかまた急に私の脚が壊れてしまうんじゃないかと」

 

 レースが終わったあと控え室でアルダンは声を震わせながら教えてくれた。彼女の気持ちはわからなくもない。今までも選抜レースの前に何度も入院していから。

 だけど俺は、アルダンの震える手を掴んで言った。

 

「忘れたのかいアルダン。約束したろ。キミを壊させはしないって。だから俺を信じて走ってくれ。キミは一人じゃない。俺がずっと傍にいるよ」

「……そうでした。はい、そうでしたよね。私には……トレーナーさんがいつも傍に見てくれているんですよね」

「そうだとも」

 

 完全には恐怖をぬぐい切れたとは思っていない。でも、この日からアルダンは二度と弱音なんて吐かなかったし、むしろ以前にも増して自信を持って走っていた。

 

 

 

 そしてこの頃にはアルダンだけではなく、俺自身とその環境にも変化があった。

 

 それは妹のテイオーとマックイーンがトレセン学園に入学したからだ。予想していなかったわけではないのだが、意外だったのはテイオーよりもマックイーンの方が俺のチームに入りたがっていたことだった。テイオーはどちらかと言うと遠慮していたように見えた。

 

 俺自身それを受け入れたい気持ちもあったのだが、来年まではアルダンだけに集中していたかったので、追加で担当を持ちたくはなかった。それに一年目ならそこまで焦らずともいいのに、マックイーンがどうしてもといい、なによりアルダンが許してくれたので俺は二人の担当になることになった。

 ただ俺としてもマックイーンの気持ちもわからなくはなかったので、またアルダンも知り合いがいる方が精神面でもいいだろうと判断したのもあった。

 

 また俺自身にも変化があった。トレーナーの休日というのは普通の社会人のように休んでばかりではいられない。特に最初はアルダンのためにトレーニングメニューを考えそのための勉強をしたり、毎週のように主治医と相談したりしていたからだ。

 主治医からは脚のケアを怠らないようにときつく言われていたので、俺は昔からテイオーにもしていたように脚のマッサージをアルダンにしてあげるようにもなった。

 

 そこからアルダンのトレーニングメニューが少しずつ増え、レースにも出るようになった頃だっただろうか。彼女から誘われてよく一緒に出かけるようになった。

 

「二人分のチケットを貰いまして。一人で行ってもよいかと思ったのですが、折角ですからトレーナーさんも一緒にどうかと思って。ダメ……でしょうか?」

 

 多分…………それがきっかけで、それからもアルダンから誘われるようになったと思う。場所は美術館や舞台に演奏会と。場所が場所だけにやっぱりお嬢様だなあと改めて気づかされた。

 他にはアルダンの実家に招待されて二人でお茶会をしたりだろうか。そういうこともあってか、自分が上流階級の人間になったように思えてちょっと楽しかったのは内緒だ。

 そして気づけば一人で過ごしていた休日が、いつのまにかアルダンと過ごす日が増えていけば当然俺達の関係も変化していくのであった。

 

「今年も綺麗な花火だったな」

「そうですね。こうしてお祭りを楽しみながら、見上げる花火はやはり格別です」

「ところでテイオーとマックイーンはどこにいったんだ。さっきまでいたはずだけど」

「それだったらテイオーさんが先に宿に帰ってると言って、マックイーンを連れて行きました」

「そっか。じゃあ俺達も戻ろうか」

「はい」

 

 三年目の二度目の夏合宿。そこで近くに行われている夏祭りで、俺とアルダンは常に一緒に行動していた。最初は隣を歩いていたのが、今ではこうして腕を組んで歩いている。それに何の違和感もいまは感じてはいないし、むしろ二人で出かける時はいつもこうして一緒に歩くことが増えたと思う。

 

「あ、ふと思い出したのですれけど。トレーナーさんがスカウトしてくれたあの日の言葉……。いまなら教えてくださいますか?」

 

 それを聞いて思わず足を止めてしまう。まさかアルダンがあのこと覚えていたとは思いもよらなかった。

 突然のことに驚きながらも、俺は頬を掻きながら明後日の方を向いて聞いた。

 

「……あーどうしても、聞きたい?」

「はい。とっても」

 

 120点満点の笑顔を見せられては答えないわけにはいかない。いや、ちょっぴりアルダンが俺のことをからかっているのかとも。

 それでも俺は覚悟を決めて、あの時言わなかった言葉を告白した。

 

「一目惚れだったんだ──」

「……え」

「あの日、病室に入ってアルダンを見た瞬間に……惚れた。だから……惚れた女のために、アルダンのために、力になりたいと思った」

「え。その……えっ!?」

 

 突然の告白にアルダンも予想外だったのかとても慌てふためいている。ただそんな状態の割にはいまでも俺の腕に手を回しているし、空いたもう片方の手で紅くなった顔を隠そうとしている。

 

 かわいい。

 

 すっごくかわいい。

 

 実を言えば、このことは最後に伝えるつもりでいた。いまは三年目の、それも大事な時期でもある。このあと俺達には天皇賞(秋)の二連覇と今年度のURAファイナルズが控えているから。だから余計なトラブルは……避けたかった。

 

 でも、そんな心配をしていたのは俺だけだったらしい。まだ顔が紅く染まっていながらも落ち着いたアルダン。彼女は俺の方に顔を向けて、でも目だけは横を向きながら言った。

 

「私だって、何もなければこうして腕を組んだりして……ないんですよ?」

 

 そう言うとアルダンの腕に力が入るのを感じ、俺もそれに答えるように腕に力が入った。アルダンはそれ以上は何も言ってこなかった。いや、待っていた。

 

 このとき頭の中で色んな事を考えた。現役の、それも担当ウマ娘に手を出していいのかとか、控えめに言って俺って最低の屑じゃんとか。でも、アルダンもそれを望んでいるんだから、それに応えなきゃいけないとか等々。

 

 でもまあ、結局のところ。

 

「付き合っちゃおっか……もちろん内緒だけど……」 

「二人だけの、秘密……ですね」

「うん」

「じゃあ……改めまして、これからも末永くよろしくお願いします──あなた……って、私ったらなにを言って。き、気が早いですねっ。あはは……はは……ぅぅ」

「そんなことは、ない。アルダンの好きなように呼んでくれていいから。も、もちろん二人だけの時だぞっ」

「は、はいっ。じゃあ……戻りましょうか。あ、あなた……」

「う、うん」

 こうして俺達は晴れて恋人同士となったわけだが。このあと宿に戻るのにかなりの時間を有したことは言うまでもない。

 

 また付き合ったことによる影響か、それとも日々のトレーニングの成果だろうか。アルダンは二度目の天皇賞(秋)を勝利し、URAファイナルズも見事制覇した。

 こうして俺達の三年間は最高の形で幕を閉じた。

 

 ただ、これは余談なのであるが……。

 

「お兄ちゃんさ。アルダンさんと付き合ってるでしょ」

「なんで知ってるんだ!?」

「フフーン。お兄ちゃんの妹だからね!」

 

 夏合宿から戻ってから数日後。まさかテイオーにアルダンと付き合っていることがバレるのであった。

 

 

 

 

 

 〇月〇日

 今日はマックイーンのお姉さんであるメジロアルダンさんのお見舞いにいった。経緯としてはマックイーンがアルダンさんにボクのことを話したらしく、そしたら一度会ってみたいということになったので、お見舞いついでに挨拶することになったというわけなのだ。

 

 当然出かけるので、昨日の夜にお兄ちゃんにそのことを伝えたんだ。そしたら何故かお兄ちゃんもついてくることに。すぐにマックイーンにも聞いてみたんだけど、「是非お兄さんも連れてきてくださいねっ」と口酸っぱく言われた。

 

 まあマックイーンの私情は置いておいて、ボクは今日初めてアルダンさんと会うことになったんだ。見た瞬間に目を奪われたね。

 

 ザ・お嬢様って感じで。思わずマックイーンを二度見したぐらいには、こうまで違うのかと。まあマックイーンもお嬢様だけど、アルダンさんの方がお嬢様ぽかったね。

 

 ボクとの話が終わったあとにマックイーンと一緒に病室を出てお兄ちゃんと交代することに。そして少ししてから戻ったら、何故かお兄さんとアルダンさんが何やら話をしているのが聞こえたんだ。ボクらは思わずそっと部屋をのぞいた。そしたらお兄ちゃんとアルダンさんが握手をしていたんだけど……なんで? 

 

 

 

 〇月〇日

 

「お兄ちゃんな。これから仕事に戻るから、もしかしたらいつもの時間に家にいないかもしれない。でも、親父も母さんもようやく仕事が落ち着くっていうから安心してくれ」

「仕事ってなあに?」

「ウマ娘のトレーナー」

「え゛!? そんなの聞いてないよ!」

「そりゃあいま言ったからな」

 

 今日家に帰ったらお兄ちゃんにいきなりカミングアウトされたよ。そりゃあ素人の割にはボクのトレーニングの仕方が上手だなあって思ってだけどさ。

 

 それでボクは言ったんだ。誰のトレーナーになるのさって。

 

「メジロアルダン」

 

 それを聞いたとき、ボクは自分でも驚くぐらいすんなりとそのことを受け入れたんだけど……。ん~なんでなんだろう。よくわかんないや。

 

 

 〇月〇日

 お兄ちゃんが仕事に復帰してからというものの。休日は中々ボクと一緒に遊んでくれなくなった。ボクはそれに腹を立てたり、ふて腐れたりしてばかり。

 

 でも、仕事部屋を覗いたときに見たお兄ちゃんが、一生懸命に何かに向かって頑張ってる姿を見て、ボクはそれ以来我儘を言うことはなくなった。

 

 

 〇月〇日

 今日はレースを見に行ったんだ。そう、メジロアルダンさんのデビュー戦だよ! まあボクよりもマックイーンのが興奮していたんだけどね。

 

 で、結果はなんと一番! マックイーンはそれを見て泣きながら喜んでたんだ。

 

「よかった……ほんとうによかったですわ……」

 

 そりゃあそうだよね。だってアルダンさんは体が弱くてまともに走れた機会なんてなかったんだから。泣いてるマックイーンに釣られてボクも泣いちゃったよ。

 

 お兄ちゃんは別に泣いてなかったけど、ボクにはわかった。お兄ちゃんも本当は泣きたいぐらいアルダンさんの勝利を祝いたいけど、そこは大人だからなのか、それともトレーナーの意地なのだろうか。お兄ちゃんは平静を装いながらアルダンさんの勝利を喜んでいた。

 

 よかったねアルダンさん。

 

 

 

 〇月〇日

 月日は経つもので。今日からボクもトレセン学園の生徒になったよ。ということはだ、ボクもどこかのチームに入らなきゃいけないわけだ。

 

 当然お兄ちゃんがここでトレーナーをしているから、本心としてはお兄ちゃんのチームに入りたいとは思ってるんだよね。だけどちょっぴり躊躇ってるっていうか、もう一年待ってからでいいかなとは考えていた。

 

 だってボクはまだ一年目だからそこまで焦らなくてもいいというのもある。何よりもお兄ちゃんの性格からみて、三年経つまではアルダンさんに集中したいだろうし。

 

 あとはまあ……二人の邪魔をしちゃいけないかなって。

 

 だけどマックイーンが言うんだ。

 

「アルダンの応援も出来て、お兄さんのチームに入れば一石二鳥ですわ!」

 

 実を言うと、マックイーンはお兄ちゃんのことが好きなんだよね。それなりの付き合いだからマックイーンの気持ちも分からなくはないんだけど、今回ばかりはボクはマックイーンの味方にはなれそうにないよ。

 

 ただ結果から言えば、ボクらはお兄ちゃんのチームに入ることができた。予想通りお兄ちゃんにはやんわりと断られたんだけど、アルダンさんが口添えしてくれたおかげで入れたんだ。

 

 結果はどうであれ、ボクとしては近くで二人のことを見られるからいいんだけどね。

 

 

 

 〇月〇日

 最近お兄ちゃんとアルダンさんは二人でよく出かけるようになった。話だとアルダンさんから誘われてるらしい。

 

 アルダンさんからってことは、つまりはそういうことだよね? 

 

 それに最近二人の距離が以前にも増して近いし……。

 

 

 

 8月某日

 昨日まで夏合宿だった。最終日には近くでやっていた夏祭りにみんなで行ったんだけど、マックイーンは屋台に夢中なのに対し、アルダンさんは常にお兄ちゃんの隣にずっといた。それも手と手が今にでも触れ合いそうな距離だった。

 

 なので宿に戻ってからマックイーンが寝たあと、こっそりとアルダンさんの布団に潜り込みボクは聞いた。

 

「ねえアルダンさん」

「どうかしましたかテイオーさん」

「アルダンさんって……お兄ちゃんのこと好きでしょ」

「はい──い、いや、違います! いまのは言葉の綾で! トレーナーとして、お慕いしているという意味で!」

「大丈夫だよ。お兄ちゃんもアルダンさんにほのじだから」

 

 つまりは両想いだってことを教えてあげると、アルダンさんは真っ赤になった顔を隠しながら聞いてきた。

 

「そう……でしょうか」

「いや、そうじゃなかったらいつもアルダンさんと一緒にいないって。で、どこまで進んでるの? チューした?」

「ちゅっ──!? い、いえ。まだ、その……ここに戻るときにですね? 少しだけ……手をつなぎました……は、はずかしいですっ」

「おお!」

 

 ボクも年頃の女の子なわけだから? やっぱり恋バナになるとエンジンかかっちゃうよね! 

 

 寝ているマックイーンを他所に、ボクはアルダンさんから根掘り葉掘り聞き出して、陰ながら二人の恋を応援することにしたのだ。

 

 

 

 

 1月2日

 年が明けて早速アルダンさんとマックイーンが我が家に遊びに来た。パパとママは近所の新年会に行ったので、このときはボク達しか家にいない。

 

 ボクとマックイーンは炬燵でくつろいでいる中、お兄ちゃんは台所に立っていた。もちろんアルダンさんも一緒に。

 

「アルダンって料理はできるのか?」

「あら。これでも人並みに作れる自信はあるんですよ」

「ならお手並み拝見だな」

「ふふっ。まあ見ていてください」

 

 見るからにいちゃいちゃしていた。

 一方マックイーンは親戚からもらったリンゴをパクパクと一人で食べていた。ボクも台所の二人を見て、流石のマックイーンも気づくだろうと思って話を振ってみたんだけど。

 

「マックイーンはあそこの二人を見てどう思う」

「どうって。仲睦まじいですわね」

「それだけ?」

「他に何かありますの? それにしてもこのリンゴ美味しいですわね……ちらり」

 

 気づけばリンゴが全部マックイーンのお腹に消えていた。ボクは自然とお兄ちゃんに向かって叫んだ。

 

「お兄ちゃーんリンゴ~」

 

 

 

 5月某日

 今年でボクも晴れて世間でいう中学二年生。そしてお兄ちゃん達にとってトゥインクルシリーズ三年目になる。

 

 一年も経てばボクにも多くの交友関係ができているので、試しに何人かに聞いてみた。

 

「うちのトレーナーとその担当のアルダンさんって、みんなにはどう見えたりする?」

「え、付き合ってるんじゃないの……?」

「私はもう婚約してるって聞いたよ」

「遅れてるなあ。私はすでに入籍してるって聞いたわ」

 

 まあいまの二人ならこうなるよね。

 

 

 

 8月某日

 二度目の夏合宿の最終日。今年も最後は夏祭りにいくという予定だったので、ボクは早めにマックイーンを連れて宿に戻ることにした。

 

「二人きりにするからあとはがんばってね」

「えええ!?」

 

 ボクとしてはですよ。別にいまの関係でもいいんだけど、そろそろお互いの気持ちをハッキリとさせたがいいと思ったわけです。はい。

 

 で、ボクのお節介が功を奏したのか、二人が宿に戻ってくるのは大分遅かった。帰ってきたアルダンさんの様子を見れば一目瞭然だったので、ボクはこれ以上追及はしなかったんだけど、あとでアルダンさんから報告を受けた。

 

「私、トレーナーさんとお付き合いすることになりました。これもテイオーさんのお陰です。本当にありがとうございます」

「いやぁめでたいめでたい。じゃあこれからはお姉ちゃんって呼ぼうか?」

「そ、それはちょっと気が早いですっ」

「じゃあいつになったら呼んでいいのさ」

「え? それは……その……」

 

 とりあえず二人きりの時はお姉ちゃんって呼んでアルダンさんを弄ることにした。でも、アルダンさんだけじゃ不公平なので、お兄ちゃんにはボクからいうことにした。お兄ちゃんは珍しく挙動不審というか、めっちゃ落ち着きがなくて見てて面白かったね。

 

 

 

 1月〇日

 先日のURAファイナルズでお兄ちゃんとアルダンさんの三年が幕を閉じた。結果はアルダンさんが病弱だったなんてウソみたいな結果だった。

 

 二人の目的を無事達成したこともあって、ようやくひと段落した二人は……なんか今まで以上にいちゃいちゃするようになった。学園内でも一緒にベンチに座って時間を潰したり、トレーニングが終わったあとなんて普通にデートしているしさ。なんかもうブレーキが壊れた感じだよね。

 年末年始に至っては普通にボクらの家で年を越して、お兄ちゃんなんてそのままアルダンさんの家に新年の挨拶をしに出かけてさ、戻ってきたのなんてその日の夜だよ夜。

 

 こりゃあそろそろ本当の意味で年貢の納め時かなって思っていると、ボクは何となくマックイーンのことをふと思い出した。

 なので新年早々我が家に押し掛けてきたマックイーンに、ボクは流石に気づているだろうと思いつつ聞いてみたのだ。

 

「ねえマックイーン」

「なんですのテイオー。私は炬燵でぬくぬくとくつろぎながらみかんを食べるのに忙しいんですの」

「お兄ちゃんとアルダンさんが付き合ってるの知ってるよね」

「もちろん知ってますわよ……ぶぅうううう! ええええ!? あの二人つ、つつ付き合ってますの!?」

「やっぱり知らなかったんだ」

「い、いつからですの!?」

「去年の夏合宿から」

「そ、そんな前から……」

「まあ正式に交際したのはそのときからで。もっと前からそんな風に周りから見られてたけどね」

 

 真実を知り混乱するマックイーンだったけど、みかんを口に入れてる手だけは正常に動いていたのは流石だと思ったよ。

 

 で、最終的に。

 

「つまりお兄さんが身内になるのですから、結果的には全然よいのでは!?」

「それは同時にボクとも身内になるってことだよ」

「当たり前ではありませんか。何を言ってますの? テイオーは変なことを言うんですから……もぐもぐ」

 

 先程とは打って変わっていつも通りにいうので、ちょっとだけイラっとしたのは秘密である。

 

 

 

 

 ちなみにこれはとても余談なんだけど。

 

 お兄ちゃんが婿入りするか、それともアルダンお姉ちゃんが嫁入りするかについては相当揉めたんだよね。そりゃあパパとママがそれなりの立場でも、お相手はあのメジロ家のお嬢様のわけで。

 じゃあ答えは決まってるじゃんと言えばそうなんだけど、それについて反対していた人物がいたから話が大袈裟になっちゃって。

 

 けど最終的に向こうが折れて、本人の意思を尊重するってことになったわけで。

 

 そんなこんなで今では我が家にお姉ちゃんが住むようになりまして。

 

 つまりはそういうことなのである。

 

 え、マックイーン? 

 

 の、ノーコメントで。

 

 

 

 

 結論 「二人の作るご飯は最高ですわ!」

 

 

 

 

 




もしアニバがキタサトだったらセットで書こう。

いつ結婚したかについてはご想像にお任せします
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