○○と付き合ってるって言ったらテイオーはどうなるのだろうか   作:ししゃも丸

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お兄ちゃんとキタサト

 

 

 どうもこんにちは。トウカイテイオーの兄です。

 

 愛しのテイオーがトレセン学園に入学して早数年。時が流れるのは早いもので、ついこの間までランドセルを背負っていたテイオーが、今では日本のレース界で活躍するウマ娘になっているとは。

 

 まあ俺の妹だから当然だし? それに幼いころから秘密のトレーニングもしてきたから当たり前だよな? 

 

 とまあ妹自慢は一旦おいておくとして。

 テイオーが活躍している一方で、その兄である俺は最近になって仕事について悩んでいたのです。

 

 あの子には隠しているんだが、実をいうと俺の職業はウマ娘のトレーナーなのである。それもトレセン学園所属ね。そこで一体どの子を担当していたかというと、聞いて驚け。あの『皇帝』ことシンボリルドルフのトレーナーだったのである。

 

 いや、そこまで自慢することではないのだ。正直に言って俺自身の手腕というよりは、あの子──ルナ自身の能力とそれまでの努力があってのこと。だからあまり自分があの子を育てたと、大っぴらに話すのは好きではない。

 

 彼女の走りを一番近いところで見たい。そんな理由であの子のトレーナーになったわけだが……。そんなこと言える訳もなく、だからあまり話さないというのもある。

 

 ルナのトレーナーとなれば、今を考えればこれ以上ない勝ち組になるのだろう。なぜそれを捨ててまでトレーナーを辞めたのかと言えば、妹のテイオーのためである。かなり省くけど、まだ小学生で、両親は仕事の関係で家にいない時間が多いから、代わりに俺がテイオーを育てるためにトレーナーを辞めたのだ。

 

 辞めたと言っても少し語弊があって。いわゆる現場から離れて、今日までは裏方のような仕事をしてきたんだ。地方に査察にいったり、講習会を開いたりとか。可能な限り家にいられるような仕事を今日までやってきたのだが、それもテイオーがトレセン学園に入れば別の話に変わってくる。

 

「復職! そろそろこっちに戻ってきてもいいのではないか、と私は思っている!」

「その節は自分の我儘を聞いていただきありがとうございます」

「家族を優先するのは決して間違いではない。むしろキミの献身的な愛情があって、いまの彼女があると思えば、私の判断は間違っていなかったということだ!」

「自慢の妹ですから」

 

 と、トレセン学園の理事長にも声をかけてもらっている。

 

 それは、それはとてもありがたい話なのである。だけど、問題もあった。

 

 現場に戻るのはいい。では、一体誰と契約するのかということだ。

 

 再びルナのトレーナーになる。ある意味では元の鞘に収まるというやつなのだけど、ルナには別のトレーナーがいる。それも当時俺の後輩だった女性だ。それを仕事に戻るから返して、なんて言えるわけもない。むしろ彼女は俺以上にうまくやっている。それを壊したくはない。

 

 じゃあ妹のテイオーなら? いやいや。テイオーにはいまのチームのトレーナーがいるし、現に彼のおかげでいまのテイオーがある。まあ下地は俺が作ったけどね、とお兄ちゃん風をふかしたくもあるのだが、まあそれはいい。

 

 一番無難なのは、他のトレーナーと同じように選抜レースなどでスカウトするのが無難だろう。それも可能な限りあまり面識がない子がいい。じゃないと色々と大変なのである。ただでさえ顔見知りがいるので、交友のあった子をスカウトするのは非常に面倒なことになる。

 

 まあ、大半はもうチームに所属しているんだろうけど。

 

「困ったなあ。けど、時期的には丁度いいのか」

 

 いまは3月。そして来月は4月。4月といえば入学式。つまりは多くの新入生が入学するわけ。だから俺はそのタイミングでトレーナー業に復帰しようと考えた。

 

 だけど俺はこの時見過ごしていたのである。来月からトレセン学園に入学するウマ娘が二人も身近にいたことに。

 

 

 

「兄さん兄さん! 今日はどんなトレーニングするの? どんなトレーニングもバッチこいです!」

「お兄さま。今日のトレーニング終わったあと、三人で行きたいところがあるので一緒にいきませんか?」

「あ、あのな、二人とも。その……近い。ちょっと離れて」

「え、こんなの普通だよ。ね、ダイヤちゃん」

「うん。キタちゃんの言う通り昔からこういう距離感だったよ」

「むぅ」

 

 学園から宛がわれたトレーナー室で、俺はブラックとダイヤに言い寄られている。俺達を隔ているのは互いに身に纏っている衣服のみ。俺の胸板に柔らかい感触が伝わってくる中、ちゃんと目を見て話している自分を誰かに褒めてほしいぐらいだ。

 

 キタサンブラックとサトノダイヤモンド。二人とは幼い頃から交友があって、だからこそ二人のことはそれなりに知っている。去年……というか、つい数か月前までは小学生だったのに、今ではトレセン学園の一年生。

 

 ウマ娘というのは、一般的なヒトと比べると成長が早いと言われている。去年いや一昨年ぐらいからだろうか。身長が少しずつ伸びてきて、その時はテイオーより小さかったのが今ではテイオーを越してしまった。

 成長したのは身長だけではなく、身体も年相応……以上に大きくなった。

 

「んーなんか動きずらいなあ。また服があわないのかな」

「キタちゃんも? 私なんてこの間買った下着が合わなくて……」

 

 なんてことを何故か俺の前で話すものだから非常に困った。トレーナーじゃなかったらまともに目を見て話せなかっただろう。

 

「ほらほら。早く部室にいこうよ!」

「そうですそうです」

「……」

 

 右腕をブラック、左腕をダイヤに摑まれる。当然ウマ娘である二人に敵うわけがないので、二人の思うがままに歩かされる。

 

 耐えてる。俺、いま必死に耐えてます。だから、誰か助けて。

 

 平静をよそおいながら俺は救いを求めた。すると、耳を塞ぎたくなるような音が響いた。耳を塞ぎたくても腕が塞がれているから、耳を通して脳に響く。その音が、よく聞き覚えのあるホイッスルだということはすぐにわかった。

 

「ピィ──────! イエローカード! お兄ちゃんに直接触れていいのは身内だけ。よってお兄ちゃん条約に違反しているので強制解除!」

 

 ホイッスルを吹きながら現れたのは妹であるテイオーだった。テイオーは慣れた手つきで俺から二人を剥がすと、両手を広げて俺達の間に割って入った。

 

「て、テイオーお姉ちゃん!? そりゃあないよ!」

「異議ありです。私達もお兄さまの身内だと思います!」

「ボクとお兄ちゃんは家族。二人は戸籍上赤の他人。なので二人は違反してるんだよ」

「そんなことないよね!?」

「私達家族ですよね!?」

「……テイオーが正しい……と思います」

「ブーブー!」

「私達だって十分身内でーす!」

「うるさいなあ。お兄ちゃん大丈夫?」

「大丈夫だよテイオー。ありがとう」

「もちろんだよ。お兄ちゃんの妹だからね」

 

 俺はトレーナーとして再び活動を始めた。本当だったら面識がない子と契約している予定だった。なのになんで知り合いである二人のトレーナーとして活動してしまっているのか。

 

 それには深い、それもふかーい事情があったのだ。

 

 

 

 

 それは、ご近所さん──ブラックのおじいさんから突然の呼び出しを受けた日のことだ。

 我が家とブラックの家は比較的近くに位置していて、同じ地区に住んでいるということもあり、同じ学校に通うテイオーを通して関わりを持ち始めたのが俺とブラックの始まりである。そのことを抜きにしても町内会というか、そういう集まりで両親の代理で俺が出ていたので、ブラックの父親とは面識があった。

 

 特にブラックのおじいさんは有名な演歌歌手でもあるので、そちらに疎い俺でも名前だけは知っていたから当時はとても驚いたし、かなり怖じ怖じしていたと思う。

 

 詳細は省くけど、家族ぐるみの付き合いが始まってからは互いに良好な関係を築いてきたので、テイオーのみならず俺自身もかなり信頼をされていた。

 

 で、いざブラックさん家に赴けば、まるで身内のようにおじいさんの部屋に通されるわけで。道中案内してくれたブラックのお母さんには「大丈夫だからヘーキヘーキ」なんて軽く言われたけど、突然の連絡だったので内心は穏やかではなかったのである。

 

「あの……お話とはなんでしょうか」

「うちの可愛い孫のブラックが来月からトレセン学園に入学するんだ。いやぁ早いもんだよ。やっぱり年はとりたくないねぇ」

「あれ。もうそんな年でしたっけ?」

「なんだ。お前さん聞いてなかったのか」

「最近少しバタバタしてて。あ、そっか。そろそろ小学校の卒業式ですもんね」

 

 お恥ずかしながら、俺はこの時初めてブラックが今年で小学校を卒業することを思い出した。よくよく思い出せば、ブラックとダイヤが二人してはしゃぎながら何かに合格したと言っていたような気がする。

 その時は仕事が多忙な時期で、あとはトレーナーとして現場復帰するために色々と書類手続きやらなんやで、あまり二人と会う機会がこの頃減っていたというのも関係している。

 

「でだ。トレセン学園に入学すってことは、寮生活をするためにブラックが出ていくことになるわけだ」

「まあトレセン学園は入学したら特別な事情がなければ強制的に寮生活ですから。サブさんが心配するのも無理はないと思うけど」

「いや、心配なのはそっちじゃない」

「というと?」

「なあ坊。うちの孫は……可愛いよな」

「え、はい」

 

 空気が変わるのを俺は肌でそれを感じた。先程とは変わってなんか……重い。

 

「あの子は誰とでも仲良くなれるし、誰かを笑顔にすることに長けている。自慢の孫さ。だけどな? それを勘違いする……輩も出てくるってことだ」

「……えーと。つまり?」

「うちのブラックがどこの誰とも知らねぇ男にちょっかいかけられねぇか心配でならねえんだよ!」

 

 ドンっと畳を叩くと、思わず正座をしていた俺もその反動で浮いてしまうぐらい迫力があった。孫を溺愛している彼のことだ。その気持ちはわからないでもない。

 サブさんは続けて、これが普通の共学の学校なら年相応だからいい、とも言っていた。トレセン学園はウマ娘によるウマ娘のための学校だ。当然女の子しかいない。所属している男性はトレーナーと教師ぐらいなもの。

 

「トレーナーってそういうところは厳しいから、多分平気じゃないかなって……」

「うちのシマ(地区)ならいいが、トレセン学園ではそうはいかねえ。だから俺は、心配で心配で仕方ないんだ。わかるな、坊」

 

 わからなくはない。わからなくはないが、俺にどうしろというのだ。

 

「お、俺にどうしろと……」

「おめぇさんにブラックのトレーナーになってもらいてぇんだよ。確か前に何してるんだって聞いたら、トレーナーだって言ってただろ?」

「言ったかな……」

 

 そんなこと言ったっけと思わず首を傾げた。でも、その時はまだ仕事をしていたから、確かにそう言ったのかもしれない。

 

「そのことをご両親に相談したら、『あ、息子ならまたトレーナーに戻るって言ってましたよ』って、言ってたぞ」

「ふぁっきゅ……いや。そのですね。まだ現場に戻るか悩んでいて──」

 

 しかしすべてを言い切る前にサブさんに両肩を摑まれた。それも、ものすごい力で。

 

「頼む坊! おめぇにしか頼めないことなんだ。それに今すぐには認められないが、18になったらちゃんと認めてやるから。な! この通りだ! なんだったら色々と目を瞑っておいてやるから!」

 

 一体ブラックが18歳になったら何を認めてくれるのだろうか。色々と目を瞑るとはなんのことなのだろうか。

 

 結局俺はサブさんの頼みを断りきれず、それを承諾してしまった。さらにその日の夕食を食べて行けと言われて。

 

「じゃーん。キタサンブラックトレセン学園バージョンです。どうかな兄さん!」

「似合ってるよ」

「えへへ。やったぁ!」

 

 夕食後に突然着替えてきたブラックのお披露目会が行われ、素直に褒めたらいつものごとく抱き着かれた。

 すると。

 

「むぅ……やっぱり18まで待てねぇか?」

「無理じゃないかな」

「私は当分“は”平気だと思うわね!」

 

 後ろで家族そろって何やらこちらを見て話していたのだが。

 

 だから待ってるって何をなんですか……。

 

 

 

 そしてその翌日にはダイヤのお父さんからも呼び出しがあって。

 

「来てもらってすまないね。話というのは……娘のダイヤのことなんだ」

「……あの、もしかしてもしかしないかもしれませんが、トレセン学園に入学することに関してでしょうか」

 

 昨日の今日だから、ダイヤのお父さんの言いたいことは呼ばれた時点で察しがついていた。案の定話はその件についてで、彼は後ろで手を組んで窓の外を眺めながら話しはじめた。

 

「キミも知っての通り、あの子はああ見えて世間知らずだ」

「そうでしょうか」

「自分の立場は理解しているから、それなりに礼儀も作法も問題はないだろう。だが普通に世間に出れば違うのだ。キタちゃんやテイオーちゃん、なによりキミがいるから安心して私は過ごせているのだよ」

「きょ、恐縮です」

「何よりあの子は、目的のために無茶をすることも多々あるだろう。それも一族のため、私達のため故になんだろうが」

「そのことはダイヤから存じておりますが……」

 

 ダイヤというウマ娘は、意外と思われるぐらい強情なところがある。他の言葉で例えると『ジンクス』という言葉によく反応することがある。

 

 突き詰めれば、『努力すれば決して不可能なことはない』ということになるんだろうか。ああ見えてとても芯が強い女の子なのだ、ダイヤは。

 

「なら話は早い。だからこそ、キミにはダイヤのトレーナーになってもらいたいのだよ」

「その、自分はトレーナーでは……」

「ウソはやめたまえ。キミのことは疾うの昔に調べているよ。いくら過去の栄光と言えど、キミは間違いなくあの皇帝シンボリルドルフを育てたんだからね」

 

 あかん。やっぱり全部筒抜けだ。よくよく考えれば、ダイヤに近い人間は全員調べ上げられているに違いない。何より俺のことは公式にデータが残っているから、調べようと思えば簡単に情報が出てくる。

 

「そ、それはですね? 俺よりルドルフが凄かっただけで、別に俺なんて大したトレーナーでは……」

「謙遜は美徳とはいうが、キミはもっと自分に自信を持ちなさい」

「いやそうじゃなくて……」

 

 ダイヤのお父さんは笑顔で俺の肩を叩いた。そして、絶対に逃がさんという意思が伝わるぐらいに肩を掴まれ。

 

「だからうちのダイヤを頼んだよ!」

「……はぃ」

 

 だからは俺はそう答えるしかなくて。

 

「それとだね。私としては18歳までは清い関係を続けてほしいが……あの子のことだ。きっと無理だろう」

「無理って何が!?」

「だが安心してくれ。そうなっても決してキミを軽蔑したりなどしないよ。いや、むしろ早く孫の顔を見れると思えば些細なことだね、うん」

「孫ぉ!?」

「それと何か困ったことがあればすぐに頼りなさい。学園を通して援助はするから」

「け、結構ですぅ……」

 

 そしてその夜。ダイヤの卒業祝い兼入学祝いのパーティーに出席させられた。こういったパーティーに参加するのは今回が初めてじゃなくて、ダイヤの誕生日とか何故か関係のないパーティーにまで招待されたことがあったので、気づけば俺はこの上流階級の空気になれてしまっていた。

 

 またスポーツメーカーやレース関係者の人間も多いためか、一方的に俺のことを知っている人間も少なからずいて。これまたどういう訳か、一体どこから漏れたのか俺がトレーナーに復帰するという情報を知っていた。

 

「いやあ、ついに現場復帰ですか」

「あなたのようなトレーナーのウマ娘はさぞ幸運でしょうな」

「い、いえ。自分はそこまで大した者では……」

「どうです。実は来年知り合いのウマ娘がトレセン学園に入学するので是非契約を──」

「申し訳ございません。この方は私のトレーナーになのでご遠慮ください。……そもそもダメですっ」

 

 困ったところに挨拶周りをしていたダイヤが俺の腕を掴んで宣言した。相手の方はこれといった表情を見せず、むしろ笑っていた。

 

「これは失礼しました! もうすでにダイヤさんのトレーナーになっていたとは」

「ダイヤさんも隅に置けませんなあ!」

 

 こうして関係者各位に俺がトレーナーに復帰兼すでに担当を持つことが広まってしまう。終いには何者かによって関係書類一式が学園側に提出されてしまい、理事長から直接連絡が来た時にブラックとダイヤのトレーナーとして復帰することを知ったのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ブラックとダイヤ。二人のトレーナーとして再活動するにあたり、大変だったのは二人との接し方──ではなく、一部のウマ娘達による冷ややかな視線だった。

 

 当然その中には妹であるテイオーもいるんだけど、そこは何とか説得して事なきを得たのだが、彼女──シンボリルドルフだけは回避することはできなかった。

 

「……なんで戻ってきたのに、別のウマ娘の担当になるの?」

「今更ルドルフを返せなんて言えるわけないだろう。それにハナちゃんと今日までやってきたんだし、なによりこっちの都合で辞めたんだ。俺にそんなことを言える権利なんてない」

「……」

「あールドルフ?」

 

 開幕から皇帝の威厳などなくて、絶対に怒鳴られると覚悟はしていたのだが実際はその逆。むしろ最初から今にも泣きそうだ。

 

 それに名前を呼ぶたびに不機嫌になってる気がする。

 

「ルナって呼んでって約束した」

「そうだった。ごめん、ルナ。この埋め合わせは近いうちにするから、とりあえず機嫌をなおしてくれないか? その、色々と目立ってよからぬ噂が……」

「その方がルナにとって都合がいいもん。とりあえず誰にも邪魔されないところに行こ」

「ちょ!」

 

 無理やりルナに腕を組まれた俺は、そのまま誰もいない教室に連れていかれた。だが何とか彼女の機嫌をなおして脱出に成功。

 

 しかし、ルナといるところをブラックとダイヤに案の定見られてしまい……。

 

「なんでルドルフさんと腕を組みながら歩いてたの?」

「お兄さま、ちゃんと答えてください。私達はいま、冷静さを欠こうとしています」

 

 トレーナー室に戻れば目の光を失った二人に拘束されて尋問を受けることに。適度な痛みと柔らかな感触に挟まれながら、俺はなんとか理性を保っていた。

 

「せ、説明したろ? ルドルフは以前俺が担当していたウマ娘だって」

「それは聞いたよ。でも、それとこれとは話が違うもん」

「仲が大変よろしかったようにお見受けしますが?」

「そ、そりゃあ三年間一緒にやってきたんだから、こう……その……アレだよ。友情というか、俗にいうトレーナーとのウマ娘の絆? だって生まれるよ」

「……ふーん。絆、ねぇ。だってダイヤちゃん」

「そうだねキタちゃん」

 

 いかん。俺は二人が互いに顔を見合わせた瞬間、何かを察した。同時にグイっとすでに抱き着いているのに、さらに力を強めてきた。俺は首を伸ばして可能な限り目を下に向けないようにする。

 

「じゃあこれからは私達と絆を深めていかないとね……」

「さあ、さあさあ!」

 

 俺には、どうして二人がここまで自分に好意を寄せてくれるのかわからなかった。ただ今日まで接してきただけなのに。

 

 身体は成長しても心がまだ未熟だから。それとも何も変わっていないから。これが俺達の本来ある形なのか。 

 

 わからない。でも、二人をこんな風にしてしまったのは俺の責任なのだろう。だから、受け入れるしかないと思った。

 

 すべてを覚悟したその瞬間、トレーナー室の扉がはじけ飛ぶぐらいの勢いで開いた。いや、吹き飛んだ。

 

「お兄ちゃん警察だ! お前たちを拘束する!」

 

 俺を救ってくれたのは、誰でもない妹のテイオーだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ボクにとってお兄ちゃんを一言で表すとなるとやはり──『愛』だろうか。

 

 家族愛、兄弟愛、そして一人の女の子としての愛。

 

 ボクはお兄ちゃんが好き。大好き。正直に告白するなら、やっぱり付き合いたい。そう思ってしまうのは罪なことだろうか。お兄ちゃんに対する想いを胸に秘めたままでいるのは、やっぱり辛いし苦しい。それでもダメなんだって、そう何度も自分に言い聞かせてきた。

 

 だけどそんな大好きなお兄ちゃんでも、ボクにだって許せないことだってあるんだ。

 

 それは隠し事だ。別に兄妹だからってすべてを包み隠さずにとは言わないよ。だけど、ものには限度ってものがあるわけだよ。

 

 それが、まさかトレーナーだってことをず──っとボクに隠していたことさ! それもカイチョーのトレーナーだったってことをね! ボクは怒った。テイオー史上一番怒ったさ。

 でもボクは、そんなお兄ちゃんを許したんだ。

 

 どうしてかって? 

 

 それはね、愛だよ愛。

 

 ……まあそれ以上に許せないというか、それどころじゃなかったからなんだけど。トレーナーとして復帰したお兄ちゃんの担当が、まさかブラックとダイヤだったとは思いもよらなかったんだよ! 

 

 ブラックとダイヤがお兄ちゃんに対して好意を持っていることは、当然ボクにだってわかっていたさ。だけどそれは俗にいう敬愛とか親愛というかLikeの方で、Loveだとは思ってもみなかったんだ。人のことは言えないけど、よくある近所の年上の異性に憧れる程度だと思いきや、まさかここまで一目惚れしているとは……。

 

 恋は盲目とも言うけれど、愛ゆえに感情をうまくコントロールできなくなった二人はブレーキを忘れてしまって、ついには強引にお兄ちゃんに迫るようになってしまったのだ。

 

 そこで無敵のテイオー様の登場なんだ。

 

 身長差はあれど、ボクは二人からお兄ちゃんを救い出すことに成功するんだ。ま、経験の差ですな。

 ボクは二人の姉として同じ人を愛しているからこそ、心を鬼にして説教をしたんだ。

 

「さすがのボクもこれ以上強引にお兄ちゃんに迫るようだったら……怒るよ?」

「でもそうでもしなきゃ兄さんが誰かに盗られちゃうんだよ!? そんなの私……耐えられないよ」

「テイオーさんだって、私達の気持ちは知っているはずです」

「わかるよ。それも痛い程にね。だけどさ、よく考えてみなよ。こんな風にお兄ちゃんを手に入れたって、お兄ちゃんを苦しめるだけだってわかるでしょ」

 

 そう言うと二人は目を逸らした。自覚はある、ということだ。ボクは続けて言った。いくら身体は立派に成長しても、心が子供のまんまだって。お兄ちゃんは今でも二人のことを、ただの可愛い妹ぐらいにしか思ってないって。

 

「それは……そうかもしれないけどっ」

「でも、それでもお兄さまのこと好きなんです!」

「それはわかってるって。だからボクが言いたいのは、ちゃんと時間をかけてお兄ちゃんと健全な関係になれってことなんだ。お兄ちゃんは優しいからさ、きっと受け入れちゃってたと思う。でも結局それってさ、いつまでもお兄ちゃんにとって二人は可愛い妹のような存在のままなんだよ。二人だって妹じゃなくて、ちゃんと一人の女性として見てほしいでしょ?」

『……』

 

 二人は無言で頷いた。ちゃんとボクの言いたいことは伝わっているようだ。

 

「だったらちゃんとそこらへんの分別はつけなきゃね。とりあえずはさっきのことをお兄ちゃんに謝ってから考えようね」

『……はい』

 

 我ながらうまく説得できたと思った。このあとちゃんとお兄ちゃんに謝罪して、色々と約束を決めるために話し合った。

 

 それがお兄ちゃん条約なんだけど、まあ内容は察してね。

 

 

 

 

 先の一件以来、二人はちゃんとお兄ちゃんとうまくやれていると思う。兄とその妹分じゃなくて、ちゃんとトレーナーとウマ娘として。お兄ちゃんもお兄ちゃんでちゃんと二人のことは考えていて、だからこそこれからが大変だった。

 この先二人が卒業するまでずっとこの関係を保つことなんて無理だし、そのことはボクも含めて十分理解していたんだ。だからどこかでちゃんとした答えを出さなければいけないとは分かっていた。

 

 それでもボクらの想像以上に二人はお兄ちゃんと健全な清い距離感で過ごしていたと思う。時にはレースに勝ったご褒美にデートなんて時もあった。ただこれは仕方のないことだったんだけど、二人が出るレースはかなり重なっていて、まさに必死でレースに挑んでいたんだ。

 

 ブラックが勝てばブラックがデートに。ダイヤが勝てばダイヤがデートに。そしてボクは、デートをしている二人の邪魔をしないよう、負けた方に付き添ってひたすら足止めをしていたりもした。

 また、時には二人がレースに負ける日もあるわけで。

 

「じゃあ代わりにボクがお兄ちゃんとデートってことで!」

『BOOOOOO!』

 

 納得しない二人だけど、ボクは二人の面倒を見ているんだから、たまには癒しがほしい時だってあるんだよ。

 

 ま、役得だとは思ってるけどね。

 

 しかし、そんな生活も数年しか持たなくて。いや、むしろ数年は持ったというべきだろうか。これも若さなのか、たまに突拍子もない行動を取るときもあって。

 

「テイオぉ……お兄ちゃん、がんばったんだよ。必死に鋼の意思で耐えたんだよぉ……」

「よしよし。お兄ちゃんはがんばったね~えらいね~」

 

 トレセン学園は7月になると早い所では夏合宿が行われるんだ。ここ数年はお兄ちゃんもボクを頼ってか、ボクのチームと同じ日にちに合わせて合宿を行っていた。

 だけど今年は違っていて…………。

 

 まさかダイヤの別荘で合宿をするとは。さすがのボクも見抜けなかった。お兄ちゃん曰く、最低限の使用人はいるけど、家事洗濯とかは自分達でやったとか。ただ掃除だけはトレーニングなどに時間を割いているから、そこだけは使用人がやったとのこと。

 この件に関して二人はお兄ちゃんに言ったそうだ。

 

「これも将来を見据えたトレーニングです!」

 

 と、ダイヤが言い。

 

「結婚生活のトレーニングもできるなんて一石二鳥だね!」

 

 と、ブラックが言ったそうな。

 

 

 話を聞く限り二人はちゃんとトレーニングに励んでいたし、料理に関しても二人とも──特にダイヤはあまり得意ではない──お兄ちゃんに教わりながら毎日一緒に料理を作っていたそうだ。

 

 しかし、洗濯だけは地獄だったようだ。

 

「お風呂はさ、絶対に俺が最後に入ってたんだよ……色々と怖いから。だけどバスケットにさ、二人の脱いだ服の上にわざとらしく下着が置いてあるんだよっ。洗濯は二人に自分でやるか使用人さん達に頼んでくれって懇願したけど、ダメで。……あれは地獄だった」

「お兄ちゃん、ボクので慣れててよかったね……。それはそれとして、二人はかなり攻めていたようだね」

「うん……。トレーニングを休んだ日なんて二人してビキニの水着着てきてオイル塗ってとか言うし、さらには一緒に泳ごうよって……」

「……それはよかったねっ」

 

 ボクの手は無意識にお兄ちゃんの頬っぺたを抓っていて、お兄ちゃんも思わず声をあげた。

 

「ごめんなさい」

「二人ともおっぱい大きいもんね。お兄ちゃんはそういうのが好きなんだね」

「……お兄ちゃんはテイオーも大好きだよ」

 

 否定も肯定もしなかったけど、ボクは笑顔でまた頬っぺたを抓った。

 

 ボクは話を聞いて、お兄ちゃんもだけどブラックとダイヤも頑張ってるなと思った。まあ二人に関してはギリギリのところを攻めながら、お兄ちゃんをそれとなく誘惑……誘惑してるのかな? 

 

 だけどあの時から比べれば、幼かった二人の心は少しずつ成長しているのがわかる。ボクとしてはそろそろいいのではないかと思っていたんだ。お兄ちゃんもこれ以上我慢する必要はないし、却っていまのお兄ちゃんには毒だし。なにより二人の年齢がもうすぐ18歳だから、ボクとしては清い交際という前提ならお付き合いしてもいいんじゃないかなって考えてる。

 

 なんでボクがそんな上から目線で語れるかって? そりゃあボクが二人の実家に定期的にお兄ちゃん達のことを報告してるし、将来のことについても話し合っているからなんだ。

 今のところ両家の反応としては、予想以上に良好な関係を築けていること。なによりお兄ちゃんがすごく頑張ってることに色々と同情してたってことかな……。

 

 まあそういうお兄ちゃんだから認めているし、二人のことを任せたいと思ってるんだろうけどさ。

 

 しかし肝心なのはお兄ちゃんだ。

 

 だからボクはお兄ちゃんの気持ちを確かめるべく訊ねた。

 

「ねえお兄ちゃん。ボクはそろそろいいんじゃなかって思ってるんだ。ブラックもダイヤは今日までよく耐えてきたと思うし、世間的にはもう高校生だから交際ぐらいはいいんじゃない? 普通はダメなんだろうけど。お兄ちゃんは二人のことどう思ってるの?」

「……最初は怖かったんだ。なんであんなにも俺に対して好意を抱くんだろうって。年も倍以上離れているのに」

「でも、いまは違うんでしょ?」

「うん……。俺は、ブラックとダイヤの気持ちに応えようと思う」

 

 それに俺だって男だから独占欲だってある、とお兄ちゃんは続けて言った。それを聞いてお兄ちゃんもやっぱり男なんだなって知った。あの二人を誰かに盗られるぐらいなら、自分のモノにしたいと思うのは、男なら普通の反応だと思うし。

 

「じゃあその気持ちを二人に伝えなきゃね」

「……怒られないかな」

「大丈夫だって」

 

 二人と交際すること自体は両家公認。口で言わなくてもそのことについてはお兄ちゃんも薄々感づいているとは思うけどね。

 

「わかった。いまから二人に会って伝えてくる」

「ファイトだよお兄ちゃん!」

 

 こうしてお兄ちゃんはブラックとダイヤに想いを伝えるために二人の元に向かった。一人残されたボクはスマホを取り出して、両家に連絡をするのだった。

 

 いまお兄ちゃんが二人に告白しに行った、と。

 

 

 

 

 

 

 

 〇月〇日

 テイオーに背中を押された俺は、ついにブラックとダイヤに告白することを決めた。二人を呼び出して、生まれて初めての告白した。昔告白されて付き合ったことがあるけど、自分からしたことはなかったのだ。

 普通は二人の女性に告白するなんて最低な行為だけど、この場合はそれがベストだと思った。

 

 ブラックとダイヤに想いを告げると、二人は涙を流しながら受けいれてくれた。

 

「……俺って最低だろ。どちらかを選べなくて、でもこれしか思い浮かばなくて」

「ううん。そんなことないよっ」

「きっと……これが私達にとって、正しい選択なんですっ」

 

 二人はそう言うと抱きしめてくれて、俺も二人を抱きしめた。あの時とは違って確かに暖かいモノを感じた。

 

 

 〇月〇日

 二人と付き合うことになり、俺は彼女との関係をハッキリとさせなければならかった。

 

 ルナ──シンボリルドルフに俺は、正直に話した。当然俺は彼女を泣かせてしまったし、胸をたくさん叩かれた。付き合っていた訳じゃない。だけど、俺とルナの関係は言葉では言い表せないものだったはずだ。

 ケジメをつけるということは、覚悟と痛みが伴うことを身をもって知った。

 

 

 

 

 〇月〇日

 ブラックとダイヤと交際することになって、俺はすぐに両家に報告した。ただ二人と付き合うことに関しては、どうもどちらの家も黙認というか公認しているような雰囲気があった。特にテイオーも大丈夫というので、多分色々とこちらの事情を知っていたのだと思う。

 

 で、どういう訳かうちの親父達を交えた三家で会談することになった。場所はなんかすごい所だった。誰が用意したかなんて言わなくてもわかる。

 

 俺はご両親らに頭を下げて二人と交際すること報告し、責任を取るとハッキリと告げた。結果からは言えば、それは別に問題なかった。

 

 うちの娘を頼んだよと任されるところまではつつがなく話が進んだんだ。

 

 だけど……親父達が爆弾を落としやがった

 

「ところで……どっちが正妻になるんだ?」

「それも大事だけど、この場合どういう立場になるのかしらね。私としてはうちに来てほしいんけどなあ」

 

 それで真っ先に反応したのは二人の両親ではなく、ブラックとダイヤの二人であった。親友という関係だというのに、二人は笑顔で向き合って言った。

 

「ダイヤちゃん!」

「キタちゃん!」

『正妻は私だよね!』

「……」

「……」

「私の方が先に兄さんに出会ってるから、私が正妻だもん!」

「ここは経済的にも私の方が都合がいいもん!」

「そんなの関係ないよ!」

「じゃあおっぱいが大きい私が正妻でいいよね!?」

「ダメに決まってるじゃん!」

 

 あーだこーだと論争が始まり、言い出しっぺの親父達をはじめ二人のご両親はとうに避難済み。あとは若い子たちに任せます、みたいな感じで出てきやがった。

 

 年相応にかわいい口論をしている二人を他所に、一人残された俺は頭を抱えた。一難去ってまた一難とはまさにこのこと。そんな時である。何故かこの場にもいたテイオーが服の裾を引っ張りながら、自分のことを指で指しながら言った。

 

「お兄ちゃん。間を取ってボクが結婚して正妻になっちゃおっか?」

『ダメえええええ!!』

 

 俺が何かを言う前に二人がハモりながら俺とテイオーの間に割って入った。

 

「別にいいじゃん。今更一人増えたぐらいでさ。誤差だよ誤差」

「ダメったらダメ! お姉ちゃんはダメぇ!」

「だってその方が話がすんなりとまとまるし」

「テイオーさんは正妻に相応しくないですっ」

「……一応聞くね。なんで?」

「なんでって。それは……ね?」

「そうだねキタちゃん。テイオーさんじゃあね……」

 

 何を、どこをとは言わない二人。だけどそれは俺にだって分かってしまうぐらい簡単なことであった。

 

「久しぶりにキレちゃったよ。改めてその身に教えてあげる。お兄ちゃんに相応しいのはボクだってことをね!」

 

 そのあとのことはよく覚えていない。唯一ハッキリと分かっているのは、俺の知らないところで話が纏まったということだけだ。

 

 




おかしいな。当初はキタサトが甘えるだけの話だったはずなのに。
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