○○と付き合ってるって言ったらテイオーはどうなるのだろうか   作:ししゃも丸

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ボクとお兄ちゃん 修羅場編 その2

 偶然出会ってしまったゴールドシップに突然手を引っ張られた俺は、それに逆らうこともせずに従って歩いていた。屋台の間を通ってそのまま人混みに紛れる。ゴールドシップ──ゴルシは正面からくる人などお構いなくずかずかと先導していく。それを見て彼女らしいなと思いながら、あの頃の懐かしい感覚が蘇ってくる。

 

「どこまでいくんだ」

「とぼけちゃって。本当はわかってるく・せ・に♡」

「……うえっ」

「オマエなぁ!」

 

 色っぽい声を聞いて思わず気分が悪くなった。久しぶりにこいつのこんな声を聴いたせいか、かつて持ち合わせていた耐性はなくなってしまったらしい。こんな俺の反応に対してもゴルシは特に怒鳴ることはなく、ただ目的の場所へと歩みを進めている。

 

 何分来場者が多いので分かりづらいが、校舎の方見れば何処に向かっているのかはだいたい察しがついた。最初はあれほどいた人集りも少しずつ減っていき、気づけば周りにはあまり人はいなくなっていた。

 

 ここまで来るのに、知り合いに誰一人遭遇しなかったのは偶然だろうか。まあ別に遭っても構わないんだけど、人によって……ウマ娘によってはちょっと面倒くさい。特にタキオンとか主にタキオンとか。

 そんなことを思っていると目的の場所についた。

 

「ここなら誰もこねぇだろ」

「だろうな」

 

 ここは所謂各チームの部室みたいなところだ。同じような建物がずらりと並んでいる。慣れてないと自分がどの場所なのかわからなくなるから、当時は不便だなあと愚痴を吐いたことを覚えてる。

 

 だけど記憶が間違ってなければ、ここはかつて俺がいたころの部室だったような気が……。するとゴルシはドアノブに鍵を刺して扉を開けた。

 

「お前、まだここの合鍵持ってたのか」

「もしもの時のための逃走経路にな」

 

 そうは言うが、ゴルシもゴルシなりに人並みの……未練みたいなものがあったんじゃないか。らしくない、そう思いつつもゴールドシップというウマ娘は掴み所がないやつだから、そう思うのは仕方がない。

 

 中に入るとそこは普通に物は置いてあるから、想像はついたけど俺が去ったあともそのままここを使っているようだ。ロッカーも変わってなければ、一番端にあるのがルドルフのロッカーだったはずだ。当時のことを思い出しながら部屋を見渡して、置いてあったパイプ椅子に座った。

 

 

「よっこいせっと。いやあよかったな、誰にも見つからなくて。ま、ゴルシちゃんには見つかっちまったようだけどな」

「むしろお前でよかったって思えてくるよ」

「どうしてだ?」

 

 誰とは言わないけど絶対に面倒な娘が数名はいて、その娘たちに見つかるよりもまだゴルシの方がマシなだけで。現にゴルシはここに俺を連れてきた。普通ならあの場で大声で叫びそうなのにだ。

 

 だけどそんなことを言ったら調子に乗るのは明白。

 

「深い意味はないよ」

「あっそ」

 

 もっと食いついてくるかと思ったけど、意外なぐらいあっさりした反応で肩透かしをくらった。こいつってこんな感じだっけ、そう思うぐらいには違和感を覚えた。でも久しぶりにこうし合えたのだから、もっと別の話題を振ろうとしたとき、ぐ~と腹の虫が鳴った。

 

「そういや何も食ってなかったっけ」

「ほれ。ゴルシちゃん特製焼きそばだ」

 

 売り子のはっぴを着ていたからもしやと思っていたが、一体その焼きそばはどこから出したんだこいつ。しかし背に腹は代えられないので遠慮なくいただくことに。

 

「……もぐもぐ。相変わらず焼きそばだけはうめぇな。まあ他の料理なんて食ったことないけど。……ああ。そういえば刺身もあったな。ほとんど鯛だったけど」

「一言余計だっつうの。大人しくゴルシちゃんの有難みを味わいながら食えってんだ」

「はいはいありがとうございますぅ。……で、最近調子はどうだ?」

「あん? そうだなあ……界王拳さんべぇぐらいだな。うん」

「そりゃあよかった」

「アタシはいつでも絶好調だからな」

 

 こいつから元気とかやる気を抜き取ったら、残るのは綺麗なゴルシに違いない。まあそんなことは絶対に起きないとは思うが。

 ふとゴルシの視線が気になった。ゴルシはテーブルに肘を付きながらジッと俺を観察するように見ているのだ。

 

「なんだよ」

「ン~オマエさ、前より優しくなったよな。前はいつもこう……ムスってしたからな」

 

 そうだろうかと口に出しながら頭をひねった。当時を振り返ってみても、そんな鬼トレーナーと呼ばれるようなことをした覚えないと思うのだが。

 

「むしろお前の方が丸くなったろ」

「ゴルシちゃんの体重は常に一定を保っているから、その発言は納得できねぇぜ」

「そういう意味じゃない」

「じゃあコレか?」

「その……帽子? は元々丸いだろうが」

「いやいや。これの手入れは中々大変なんだぞ?」

 

 こんな疲れる会話をしていると、やっぱりこいつはゴールドシップなんだと痛感する。当時の苦労したことの半分ぐらいはこいつが原因なのを改めて思い出す。

 俺のトレーナー時代と言うのは、他のトレーナーと比べると異質というか、ぶっちゃけ変だった。最初に担当したのがルドルフでその次がゴールドシップ──なんか勝手にいついた──になるのだが、俺からは一切チーム追加の申請書類など出していないのに、何故か学園側ですでにチームのメンバーになっていたことが多々あった。

 

 実際のところは伸び悩んでいるウマ娘とか、些細なことで関わったウマ娘の面倒を見ていたら、どんどんその娘たちが集まってきただけなのにだ。多分それで誤解を与えたしまったのだと思い、当時もそのことについて意見したけど、結局無意味に終わった。

 

 そんなことを思い出してみても、当時の俺ってそんなに厳しかったとは思えない。仮にゴルシの言う通りだとすれば、それはやはり環境の変化による影響が大きいのだろう。

 

「きっと親が再婚して、テイオーが妹になったからだろうな。これでもいいお兄ちゃんになろうと必死だったから」

「理由は聞いてたけど、まさかその妹があのテイオーだとは思わなかったぜ。毎日毎日お兄ちゃん自慢するからどんな兄貴かと思えばオマエだし。久しぶりに会ったらシスコンになってるし。そりゃあ他のヤツらには言えねえよな」

「カフェは知ってたけどな」

「はあ!? なんでだよ!」

「そりゃあ休日にはよく行く喫茶店でいつも会っていたし。それとテイオーが学園に入学するときは色々とお願いもしてたりしてからな」

「……これさ。前から言おうと思ってたんだけどな?」

「おう」

「オマエさ、カフェにはすっげー甘いよな」

「そうか?」

「そうだよ」

 

 そのタイミングで焼きそばを食べ終えた。ごちそうさま、と手を合わせながらカフェとのことを思い出す。

 マンハッタンカフェ。俺はいつもカフェと呼んでいるウマ娘とは、学園から去ったあとは週に一度は会っていた。理由はゴルシにも言った通りで、いつも行く喫茶店でよく会うからだ。そこで同席して一緒にコーヒーを飲みながら、ちょくちょく学園での話を聞いてたりしている。

 

 カフェは所謂見える子で、彼女はその子をお友だちと言うのだけれど、当時もポルターガイストみたいな現象とか、よくわからん場所に連れていかれそうにはなった体験をしたことがある。

 

 そんなカフェだけど彼女とはコーヒー飲み友達で、あとはまあ一緒にいて落ち着けるし、信頼もしているからテイオーのことも頼んだりする程度の関係だ。なのでこれといって彼女を特別扱いしているわけではない。

 

「カフェには甘いっていうけど、俺は十分お前らに対しても甘かったよ。お前の我儘に付き合ってやったり、オグリとかタキオンのためにお弁当作ったり」

「アレはもう介護だろ……」

「それは言わない約束だ」

 

 子供の頃から料理をしてきたから、今時の若い子には負けんと自負はしていたと当時は思う。オグリキャップことオグリは弁当というかおやつみたいなもので、実際に弁当を求めていたのはアグネスタキオンだった。タキオンは俺の弁当以外は食った気がしないとか言い出すし、一回忘れたら「ごーはーん。はーやーくーだーせ」と駄々をこねたのがキッカケで毎日作ってあげたはず。

 

「オマエがいなくなったあとは色々と大変だったんだぜ? ま、アタシは面白おかしく眺めていただけだけど」

「それはルドルフやカフェからも聞いたよ。お前らに教えていた連絡先は仕事用のやつだったからな」

 

 プライベートの電話番号を教えていたのはルドルフ一人だけ。今思えば我ながら不思議である。カフェとはそのあとも交流があったから、まあ自然の流れで教えた。

 

 ただゴルシだけはどういう訳か知っていたようだ。突然知らない番号から連絡がきたと思えば、「アタシ、ゴルシちゃん。いまあなたの家の近くにいるの」なんて言うからビビった。

 

「じゃあルドルフとはよく連絡取り合ってたのか」

「最初はな。でも、だんだんだと連絡は来なくなった……ていうよりも控えたのかな。あの子の性格を考えると」

「てっきり毎日連絡取り合ってると思ってたから意外だな」

「まあここ最近……って言っても数年か。いまの仕事の関係で月に数回は学園に来ててさ、その時会ってたりしてたからってのもあるんじゃないかな」

「アタシは知らないぞ、それ!」

 

 ゴルシは机を叩きながら身体を乗り出してきた。そんなに自分が知らないところで来ていたのが気に食わないのだろうか。

 

「お前らに知られると面倒だからだよ」

「照れちゃって。この恥ずかしがり屋さんめ」

 

 俺は包み隠さず本心を伝えた。が、ゴルシの反応は薄い。するとゴルシは何かを閃いたようにポンと手を叩くと、他に連絡先知ってるやついるのかと聞いてきた。

 

「なんで教えなきゃならん」

「成程。知ってるヤツがいるのか」

 

 嵌められたので思わず舌打ちしてしまう。こうまでされては話すしかないので素直に白状する。

 

「と言ってもそんなにいないがな。えーと、マックイーン経由でアルダンだろ」

「ふむふむ」

「家電屋に行ったら、新商品の布団乾燥機みたあとに巨大なビーズクッションに寝転んでいたところをたまたま見つけたベガだろ」

「めっちゃ詳細に語るじゃん……」

「お前のチームメンバーにテイオーが俺を紹介したときに、ダイワスカーレットにカレンチャンとかと連絡先交換もしたな」

「それは知ってる」

「他にはよくスーパーで会うタマに、行きつけのラーメン屋で会うファイン。たまたま会った時に教えたブルボン。あとは似たような状況で他多数」

「本当にたまたまなのか。ゴルシちゃんは訝しんだ」

「残りはそれなりに付き合いの長いマックイーン、ブラック、ダイヤぐらい?」 

「そこはまあわかる。でもアルダン、アヤベ、ファインの三人とそこまで親しかったっけオマエ」

「まあ普通かな。よく相談に乗るぐらいの関係」

 

 そう言うとゴルシは渋い顔をした。

 ベガとは現役時代から少しだけ交流があって、別に俺のチームにいた訳じゃないけど、見るからに危うい感じがしたからちょくちょくアドバイスをしていたのがはじまりだったはず。アルダンとファインはトレーナーを辞めてからで、アルダンはマックイーンから話を聞いてアドバイスをするようになって。ラーメン屋で出会ったファインとは、彼女の事情は聞いてたからちょっとだけ口を出してからだったはず。

 

 三人や他の娘達もそうだけど、連絡を取り合っていたのは最初だけで、いまはたまに連絡が来てやりとりするぐらいだ。ただブルボンは機械音痴で、練習を兼ねているのか毎日日記風にメールが来る。なので一言だけだけど律儀に返信してる。

 

「で、話は戻すんだけどさ。連絡取り合ってるならよ、今日オマエが来ることルドルフも知ってたのか? いやあ悪いことしたなぁ。てっきりアタシは何も知らないと思ってたからさ、つい逃げちまったぜ」

 

 ああ、それでか。それを聞いてやっとゴルシが俺をあの場から連れ出した理由が分かった。ただ結果的にはよかったのだけど。

 

「ルドルフには教えてない」

「マジで?」

「いや、行くかもって濁してはある。ほら、ルドルフといると目立つから」

「テイオーといても目立つだろ……ああ。テイオーは兄貴がいるって言いふらしてたからなぁ」

 

 俺は無言で肯定した。テイオーにはお兄さんがいるという話はそれなりに知れ渡っている、とカフェ経由で聞いていた。なので俺が一緒にいても別に不思議ではないと思ったから、今年は感謝祭に来れた理由の一つでもある。まあそれでも目立つから、最悪の事態も覚悟もしていたけど。

 ただルドルフと一緒にいるのは非常に目立つ。七冠馬だし生徒会会長でもあるので、どこに行っても人々の視線は彼女に向けられる。で、その隣にいる男は誰だって感じになるのがイヤだから、彼女にもハッキリと行くとは伝えてない。

 

 一応カフェには伝えてはあるんだよね。タキオンのストッパーとして。ただそれを言うとまたゴルシに何か言われるので黙っとくことにする。

 

「しかしどうしたものか。テイオーには悪いけどそろそろお暇するかな」

「え~もうちょっと遊んで行けよぉ」

「気持ちは分かるんだがな。今まで離れていた分、再会したらその分だけ反動が恐ろしくてな……」

「自業自得だろ」

 

 そう言われると何も言い返せないのが困る。トレーナーを辞めてからの俺の生活は、なんていうか専業主婦みたいなもので。朝を起きたらテイオーのご飯を作って、午前中に洗濯や掃除を済ませて、あとは理事長のご厚意で紹介してもらった仕事をしたり夕飯の準備をしたり。今もそんなような生活をしていて、昔と違うのは今の方がそれなりに自由な時間が多少増えたってことかな。

 

「悩んでいてもしょうがないし帰るよ」

「ちぇっ。つまんねーの。ま、アタシは優しいからな。そこまで送ってや──」

『ん。誰かいるのか。ちっ、少しサボるつもりだったのに当てが外れたな』

 

 声が扉の向こうから聞こえ、俺とゴルシは無意識にそちらに目がいった。そのウマ娘は、文句を言っていながらも立ち去ることはなく、むしろドアノブが回して部屋に入ってくる。

 

「で、誰だ。私と同じようにここでサボ……少し休もうと考えたヤツは──」

 

 ゴルシの行動は速かった。彼女が入ってくると同時にその娘の背後に立つと、両腕を背中に回して拘束してみせた。

 

 いや、そこまでする必要なくね? とは思ったが。

 

 ただ彼女──ナリタブライアンは、自分が拘束されていることよりも目の前に俺の方に意識が向いていた。

 

「あー……久しぶりだな。ブライアン」

 

 そんな中、俺は彼女に戸惑いながら挨拶をするのであった。

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