○○と付き合ってるって言ったらテイオーはどうなるのだろうか 作:ししゃも丸
「フンフフンフーン」
ある日の土曜日。俺は折角の休日だというのにどこにも行かず、ただ家で義理の妹であるトウカイテイオーと一緒に過ごしていた。テイオーもテイオーで、普段仕事でいない俺と一緒に居られるのがとても嬉しいのかとても上機嫌だ。
しかし、俺はその笑顔で楽しそうにしているテイオーにあることを告げなければならない。それは、とある女性と交際していることだ。
普通なら問題はない。義理の兄妹であるが兄に恋人がいることを普通は喜ぶなり、あるいは素っ気ない反応を返してくれるに違いない。
だけど、きっとテイオーは彼女の名前を告げたらきっとその反対の反応をするだろうと俺は思っている。
それはなぜか。
俺の彼女はテイオーも知っている女性で、かつそれなりの付き合いが長い娘だからだ。別に二人の仲が悪いという訳ではない。むしろ仲は良いし、親友と呼べるほどの間柄のはず。
だけど、いや、だからこそテイオーの反応はあまりいいものではないと予想している。
だが、ちゃんと彼女と交際していることを告げなければならない。どんな結果になろうとも、遅かれ早かれ言わなければならいことなのだ。
よし、行くぞ……。
「なあ、テイオー」
「ん? どうしたのお兄ちゃん」
「実はお兄ちゃん……付き合っている人がいるんだ」
「え、ホント! だれだれ!?」
目をキラキラさせて俺の腕に抱き着いてくるテイオーは、まさに年頃の女の子らしい反応だ。さて、問題はここからだ。
「その……マックイーンなんだ」
「──は?」
「ッ!!」
ゾクリと背筋が凍るような寒気が俺の体を襲った。それにテイオーが抱き着いている腕が痛いし、なにより目に光がない。
こ、こえぇぇ……。
こんなに恐ろしいテイオーを見たのは出会ってから初めてだ。だからこそ余計に怖いとも言うが……。
「ボクね、余程酷い人じゃなければ、お兄ちゃんが付き合う女性が誰であろうと心から祝福するつもりでいたんだ。だけどね、ダメだよ……ダメだ……ダメなんだ……マックイーンだけは」
思わず唾を飲んでしまうほど今のテイオーのプレッシャーに飲まれていた。
「ど、どうしてマックイーンはダメなんだ……」
「それは……その……」
「?」
さっきまでの冷たい雰囲気から一転、今度は胸の間でもぞもぞと可愛らしい仕草をしはじめた。
「マックイーンはボクの友達だし……それに……」
「それに?」
「……ボクだって……」
「なんだって?」
「と、とにかくっ! マックイーンはダメっ、ダメなのぉ!」
「うおおっ!?」
いきなり声を上げると俺の肩を掴んでは激しくゆするテイオー。普通なら大したことはないのだが、相手はウマ娘でその力は人間の比ではない。頭が上下に激しく揺れるので今にも取れそうないきおいだ。
だけど俺は負けるわけにはいかない。マックイーンとこれから歩む未来のために何とかテイオーを説得しなければ。
「お兄ちゃんはボクのお兄ちゃんなの! ぜっったいっにマックイーンになんか渡すもんか!」
前言撤回。俺一人では無理な気がしてきたよ……マックイーン。
「うわあああん!」
このあと、俺は何とかテイオーを説得して後日マックイーンと会うことを約束させることに成功した。
ある日の午後。俺はマックイーンをテイオーに紹介するべく彼女を迎えに行き、今は自宅の玄関の前に彼女と一緒に立っていた。ただ、俺の顔はきっといいものではないのは間違いない。
「大丈夫かなぁ」
「もう、あなたったらさっきからそればっかりですのね。そこはもっと男らしく堂々としてくださいな」
「でもよ、相手はあのテイオーなんだぜ」
「どのテイオーかはさておき。きっとちゃんと話せば私達の交際をきっと彼女も認めくださいますわ」
「マックイーン……うん、そうだよな。ちゃんと話せば大丈夫だよな!」
「ええ、その意気ですわ!」
まあ、ちゃんと話そうとして失敗したのが前回の有様なのだが……。
とりあえず、マックイーンの言葉を信じて俺は自宅の玄関を開けた。
「ただいま」
「お邪魔しますわ」
「あ、おかえりお兄ちゃん……と、いらっしゃいマックイーン。出口はすぐ後ろだよ、ぺっ」
想像していた以上の対応なんですけどぉぉぉ!? ていうか実際に吐いてなくても、唾なんて飛ばしちゃダメだっていつも言ってるだろ!
恐る恐る隣にいるマックイーンに目を向けると……彼女は平然とし、いつものようにニコニコしていた。
「はい、では上がらせてもらいますね」
「……ちっ!」
「すげぇよマックイーンは」
彼女の態度に驚きつつ、玄関から場所を移動してリビングに。俺とマックイーンが一緒にソファーに座り、その前にテイオーが座っている。
ただ、その態度はこれまたすごいものであった。
足を組みながら顎を手に乗せて、ポッキーをボキッと鳴らしながら食べていた。どうみても彼女を紹介云々以前に、客人に対する態度ではなかった。
「とりあえず自己紹介はいいからさ、どういう経緯で二人は付き合ったわけ?」
見るからに仕方なく話だけは聞いてやるみたいな言草であったが、当の俺達はそれを聞いて頬を赤く染めながら照れていた。
「いや、その、な? 俺から……マックイーンに告白したんだ」
「この人ったら中々告白してくださらなかったんですよ」
「おい、それは言わないでくれよ」
「だって、あの時のあなたったら年甲斐もなく緊張してて、本当に可愛かったんですもの」
「ギギギ!」
ものすごいスピードで歯ぎしりをしているが、歯が削れてしまわないだろうか。
俺も俺で調子が出てきたのでついつい口が動く。
「実は、お前がマックイーンを初めて連れてきたときにな、俺……一目惚れしてたんだ」
「え、そうでしたの!?」
「……ロリコン」
「うん。ほんと、初めて見たとき目を奪われてさ。年も離れてるっていうのに、すげえ惹かれたんだよ」
「も、もう、あなたったら……」
「この機会だから言うけど、マックイーンはどうなんだ」
「私ですか? 私は……その、身近な男性と言いますか、家族を除けばあなたが一番近い男の人で。やはり年上の男性というのは、惹かれるものあって少しずつ意識していました。何よりも、私が怪我をしたとき、あなた毎日お見舞いに来てくれて」
「え、それボク知らない……」
「その時から私は自分の気持ちに気づいたんだと思います」
「あ、ボクは無視ですか……」
「マックイーン……」
「あなた……」
こんな事を言われてついキスをしたくなる雰囲気になってしまい、マックイーンの手を取ってそっと顔を近づけようとしたその時、テイオーがテーブルをひっくり返して暴れだした。
「うがあああ! ダメったらダメ! お兄ちゃんとの交際をボクはぜっったいに認めてあげないんだから!」
「ここまで語ったのにか?」
「そうだよ! ていうかお兄ちゃんロリコンじゃん!」
「あ、わかりましたよテイオー。あなた、私をお義姉さんと呼びたくないんでしょ」
「そうなのか?」
「違うよ! ていうか、マックイーンは知ってるよね!?」
「え、そうなの」
「ええ。ですが、約束は約束ですよ」
約束とは一体何のことなのか俺にはさっぱりだ。でも、二人の間に何かあるのは間違いないようで、テイオーはそれを言われて頬を大きく膨らませている。
我が妹ながら可愛いヤツめ。
「ボクより胸ないくせに」
「それを言ったら戦争でしょうが!」
「とにかく、ダメなものはダメなの!!」
「往生際が悪いですわよっ!」
──結論 テイオーは認めてくれなかった?
〇月〇日
突然お兄ちゃんから付き合っている女性がいると聞かされた時は、一体どんな人なんだろうってすごくわくわくしていたけど、まさかその相手がマックイーンだとは思わなかった。
メジロマックイーンはボクの親友でもありライバルだ。
ボクはよくマックイーンをうちに遊びに連れてきたことがあって、その時にお兄ちゃんを紹介したのが最初の出会い。
マックイーンはよく「いいお兄さんですね」と言っていたけど、ボクはそれをよくあるお世辞だと思っていた。
だけど、ある日からマックイーンからよくお兄ちゃんのことを聞かれるようになった。趣味とか好きな食べ物は何かとか、普段はどうしているとか。それを聞いてマックイーンがお兄ちゃんのことを好きになったんだとすぐに分かった。
ボクもお兄ちゃんが好きだ。兄ではなく一人の男性としてボクはお兄ちゃんが好きだった。だから、ボクは正直にマックイーンに抱いてはいけない想いを告白した。すると、彼女も本当の気持ちを打ち明けてくれたんだ。
だからボク達は約束した。もし仮に二人のどちらかとお兄ちゃんが付き合うことになっても、絶対に泣かないっていう約束を。
でも……そう簡単に納得なんてできるわけないじゃん!
なので、何とか妨害工作を考えなければならない。
別に約束したのは泣かないってことだけで妨害や嫌がらせ、負けを認める、なーんて約束してないんだから問題はないんだ。
〇月〇日
今日お兄ちゃんがマックイーンをうちに連れてきた。今日まで何とかしようとしたけど、やっぱりダメだったよ。
とりあえず話を聞くだけ聞いていたら、まさかお兄ちゃんがマックイーンと初めて会ったときに一目惚れしていたと聞いて耳を疑った。
そりゃあマックイーンはお嬢様だから綺麗だし可愛いよ? だけど、相手はそれなりに年の離れた妹の友達なんだよ。そんな子に一目惚れするとか、もうロリコンじゃん……。
ていうかマックイーンが怪我をしたとき、ボクも頻繫にお見舞いに行っていたんだけど、まさかお兄ちゃんが毎日も通っていたことは知らなかったし驚いた。そりゃあ好きな子が入院してたら通うよ……だけど不自然過ぎない?
あと、マックイーンをおねえさんと呼びたくないとか言われたけど、当たり前じゃん。なんで親友のことをおねえちゃんなんて呼ばなきゃいけないんだ!
それに胸はボクのがちょっぴり大きい。つまり、ボクの方が女として”上”ってことだよね。
とりあえずなんとか今日は有耶無耶にしてやったけど、きっとこの先はもう通じない。
こうなったら……やるしかない。
もう手段は選べないんだ。ここまで来たら妹だとか家族だとか関係ない。
待っててね、お兄ちゃん。ボク、頑張るから……。