○○と付き合ってるって言ったらテイオーはどうなるのだろうか 作:ししゃも丸
いま俺は会社でこの日記を書いている。男のくせになんて最初は思ったけど、昨日のことはあまりにも衝撃的すぎて、だけどそのことを誰かに話すわけにもいかないのでここにぶちまけることにした。
それは昨夜のことだ。俺は上司と社長と一緒にとあるパーティーに同席することになった。なんで俺みたいな一社員が同席することになったのかと色々考えた。社内では上司や同僚含め受けはいいし仕事もできるし、社長とも色々あって懇意にしてもらっているからだと考えた。だけど、わざわざこんなところに連れてくるものだろうかとまだ疑問は残った。
とりあえず上司と一緒に挨拶周りをして何とかその場をしのぎながら早くパーティーが終わることを念じていた。
すると、社長の友人でもある資産家のもとに挨拶をすることになった。何故かその人の隣には綺麗なドレスを纏った女の子がいた。その子の頭の耳を見ればすぐに彼女がウマ娘だと分かった。
俺は内心、こんなところにわざわざ自分の子供を連れてくるのかと思いながらその子を見ていた。彼女を見て気づいたのは、やけに若いなと思ったこと。多分、うちのテイオーより下なんじゃないかな。
だけど、その胸は年相応ではなかった。
テイオー、これが格差社会だよと思ってしまったことを許してほしい。
互いに挨拶も終わってこれで解散かと思いきや、先程からその女の子──サトノダイヤモンドが何故か俺の方をじっと見て、そして口を開いてこう言った。
「すみません。このあと一緒に見て回りませんか?」
その瞬間、俺はすぐに隣にいる社長と上司に目をやった。二人は、「お前何をしたんだ!?」と言っているのが目で分かったけど、何もしてないしむしろ今日が初対面でそんなことを言われる覚えがないのに。
不思議なことに彼女の父親は何故か何も言ってこないし、むしろニコニコして俺の方を見ている。これはあれだ、どっちなんだ。断ったら許さん的なやつと、それを受けたら許さん的なやつ。再度社長たちに目をやれば、もう違う方に顔を向けていた。
味方はいなくて、俺は悩みに悩んだ結果。
「じ、自分でよければ」
と、言ってしまい。
「──! では、まずは向こうに行きましょう!」
満面な笑みを浮かべながら腕に抱き着かれて俺は連れていかれた。胸の感触に浸る暇なんてなかったし、それからずっとパーティーが終わるまで俺は彼女と付き添っていた。
「今日はありがとうございました。またよろしくお願いいたしますね」
最後の別れ際に彼女は意味深なことを言って去っていった。俺も訳が分からなくて、帰りの車内で社長達に粗相はしてないかと言われたけど何もしていないし、なんでああなったのか俺が知りたいぐらいだ。
現に今日出社したら社長室に呼ばれて色々とまた同じことを説明した。とりあえず納得はしてはくれたみたいだけど、今のところは様子見ということに落ち着いた。
落ち着くも何も俺は何も知らないしやっていないのだから、そこは素直に納得するなりこちらの事情も察してほしいと思った。
今これを書いているのは午後の3時ぐらいだけど、今のところは特に呼び出しも何もないので問題にはなっていないようだ。
とりあえず何もないこと祈る。
4月15日
今日は平日最後でもある花の金曜日。仕事の疲れを癒すべく、どこか美味しいお店で夕飯を食べようと会社を出たらあの子がいた。
うちのテイオーと同じトレセン学園の制服を着て、両手で鞄を持って立っている姿は何ていうか様になっていた。なんでここにいるんだろうと同時に顔に冷や汗が流れるような感覚が伝わってくる。
向こうも俺を見つけると、テクテクと歩いてきてこう言ってきた。
「お疲れ様です。えーと、先日はどうもありがとうございました」
俺もそれに対して適当に返事を返し、同時に何故だろうと思った。なんでそれを言うためにわざわざ会社にやってきたのか。何よりも俺が定時に帰れるなんて保証はないのにだ。
永遠に解き明かされることのない謎を必死に考えている中、彼女は言った。
「いきなりのことで戸惑われるのは分かっているんです。でも、その……明後日の日曜日にレースがあるんです。私、頑張って勝ちます! だから、えーと……見に来てくださいっ」
そう言って彼女は去っていってしまった。取り残された俺に待っていたのは、背中に突き刺さる同僚たちの冷たい視線であった。
4月17日
休日最後の日曜日。俺は中山レース場に出かけていた。今日が日曜日ということもあったが、彼女の誘いを断るのも色々とアレだと思いここに訪れた。周りには多くの観客が居て、その熱気が直に伝わってくる。
それもこのレースが皐月賞で、三冠ウマ娘になるためのまず初戦だからだろう。まあ、それもテイオーに教えてもらったんだけど。
そのテイオーには内緒で俺は中山に行った。時間もずらして場所も隅っこで俺はレースを見ていた。多分テイオーも会場のどこかにいたと思うけど、あれだけの人間がいれば流石に見つかることはないだろう。
俺はあまりレースに関心がなくて、テイオーのレースがある時ぐらいしか興味を抱かなかった。だから会場に来ている人達とは少し違った印象を受けていたと思う。
彼女……サトノダイヤモンドのレース前人気投票は1番だった。1番ということは、彼女は速いウマ娘なんだろうか。素人の俺にはこれぐらいしか言葉が出なかった。
で、そのレース結果だけど、残念ながら彼女は3位で終わってしまった。3位だけでも普通は凄いと思うけど、やっぱり勝負の世界では1位以外はあまり意味がないのだと思った。
でも、彼女の場合はそれだけじゃないことは分かっている。遠目からだけど彼女は……必死に泣くのを堪えているような気がした。
テイオーも負けたときあんな風に泣くのを我慢しているのを思い出した。あんな時どういう言葉をかければいいのだろうか。テイオーの時は抱きしめて背中を叩いてやったけど、それを彼女にするのは無理な話だ。
何か言葉を送ろうにも連絡先は知らないし、テイオーに伝えてもらう訳にもいかない。だから俺はウイニングライブを見ずに家に帰ることしかできなかった。
4月2〇日
皐月賞のあと俺にはどうすることもできなくていつも通りの日常を送っていた。第三者が見ればきっと俺の評価は最低なものになるだろう。流石の俺も向こうあんな形で誘われておいて、この終わり方は何とも後味が悪いと思いどうにしかしようと考えている時、また彼女が会社の出口で俺を待っていた。
その顔色は最初の出会ったときと比べて暗いものだった。それでも俺は何とか平静を装って声をかけた。
「えーと、こんばんはになるのかな」
「あ、お疲れ様です……」
何とかしようにもその後は無言になってしまい、会社の前でずっと立っているわけにはいかないから、彼女を家に送ると言って一緒に歩くことになった。
傍から見ればいけない関係なのは間違いない。サラリーマンと制服を着ている女の子……どうみてもアウトだ。まあ結果から言うと、どういう訳か何も起きることはなかった。
「あんな事を言っておいて負けちゃって……その、ごめんなさい」
無言で歩いていると、先に口を開いたのは彼女だった。
「謝る必要なんてありませんよ。当日会場であなたの走りを見ました」
「……え、本当に来てくれたんですか」
「ええ。お世辞にしか聞こえないと思いますが、あなたの走りが誰よりも印象に残りましたよ」
下手なことは言えず、かと言ってこのようなお世辞しか言えないのが俺の限界だった。もし何か傷つくことを言って、それがこの子の父親からうちの社長に話が言ったらまず終わりだ。正直に言えば、この時の俺は保身のためにそう言っていた。
「お世辞でも嬉しいです。あなたにそう言ってもらえて」
だけど、零れそうになっていた涙を指でふき取りながら笑顔を見せる彼女に俺は魅了されていた。
それから空気が変わり、他愛のない会話が続いた。多分彼女は俺に合わせて話をしてくれたんだと思う。年の差もあるし、今の子の話題はテイオー経由で何となく分かるだけで、すべてを把握しているわけじゃない
お嬢様だから育ちの良さは何となく察することはできたけど、想像している以上にこの子は年に対して不釣り合いなぐらい気が利く子だ。ほんと、申し訳ないと口に出したい気分。
それからある場所で別れることになったんだけど、最後に連絡先を教えてほしいと言われた。ぶっちゃけ男としてはその提案を素直に呑みたいが、一人の社会人としてはそこは超えてはいけない一線だと頭の中で警笛が鳴っている、
ただ……。
「ダメ、ですか?」
「あ、うん、いいですよ」
涙目で言われてしまえば、誰だってこうなる。
「えーと……」
「くすっ。ダイヤです、サトノダイヤモンド」
「ああ、すみませんサトノダイヤモンドさん」
「ダイヤでいいですよ」
「ダイヤさん」
「無理して敬語じゃなくても大丈夫です。お兄さんの方が年上なんですから」
「じゃあ……ダイヤちゃんで」
「はいっ」
笑顔で答えたダイヤちゃんの顔に思わずドキッとしてしまった。
いかんいかん。いくらなんでもそれはマズイだろっ。
俺はダイヤちゃんと別れて一人で帰りながら必死に胸のときめきを抑えるのに必死だった。
そして、今後彼女と続く奇妙な関係のはじまりでもあった。
6月〇日
アレから俺とダイヤちゃんとの関係はまだ続いていた。連絡先を交換してからと言うもの、週に何度かはLineやら電話などで連絡を取り合っていた。
また、俺にもちょっとした変化があった。
それはレースを見に行くようになったことだ。
皐月賞の1カ月後に開かれた日本ダービーに出走するダイヤちゃんのレースを見にも行った。結果は惜しくも2位だったけど、前回と違って悲しい顔はせずに笑っていたのをよく覚えている。
そして今日も神戸新聞杯というレースを見に兵庫県にある阪神レース場まで訪れた。結果は見事に1位を勝ち取った。俺は明日も仕事ということでウイニングライブは見れなかったけど、メッセージだけは送っておいた。
すると、ライブが終わった後で彼女からたくさんメッセージが届いて、結局彼女が止めるまでずっと連絡をとり続けていた。
7月〇日
今日はダイヤちゃんとデートをすることになってしまった。なんでそうなったかと言えば、前回のレースで1位を取ったご褒美をあげるよなんて言ったのがキッカケ。それがまさかのデートだとは思わなかった。
別にデートは初めてではないから特に問題はないのだが、ダイヤちゃんみたいな年頃の女の子はどういう所に行きたいのか、どんな場所で食事をしたいのか、そういうのが全く分からない。なので出かける前にテイオーにアドバイスを貰うことにした。
で、肝心のデートはテイオーのアドバイスもあって何とかなった。ありがとう、我が妹よ。だけど、途中からほぼダイヤちゃんに手を引っ張られてあっちへ行ったりこっち行ったりしていただけのような気がする。
気づけばダイヤちゃんとこうすることに抵抗がないのは何故だろうか。ただお話をして、レースを見にいくだけの関係だったのにこうしてデートをしている。普通だったら断るのに、現に俺は彼女とデートをしている。
俺は……ダイヤちゃんが好きなのだろうか。
自信をもって答えを出せない。彼女は確かに魅力的だ。ウマ娘だかというのもあるけど、女性として俺が知っている誰よりも目を奪われる。
だけど、そんな彼女がどうして俺なんかにこうまでしてくるのか。それが一番の疑問だった。
そんな事を思いながらも俺はデートを楽しんだ。
だけど、最後にふと気になって年齢を聞いたら、忘れかけていた常識が帰ってきた。
まさかテイオーより年下だとは思わないじゃん……。あ、どこを見てそう判断したとは言わないけど。
12月25日。
今日はクリスマス。どこも彼処もカップルたちが腕を組んで歩いている。そこには何故か俺とダイヤちゃんも含まれていたりする。
なんでこうなったんだろう。
いや、それは分かり切っている。それは今日がクリスマスであると同時に今年最後のレースである有マ記念があったからだ。当然今日も俺はレースを見に行った。テイオーの時も思ったけど、やっぱりG1レースとなると熱気が一倍違うのがよくわかる。
まあ、それはいいんだ。なんでクリスマスをダイヤちゃんと過ごしているのかと言えば、彼女が有マ記念で見事勝ったからだ。俺も他の観客と一緒に喜んでいたんだけど、ダイヤちゃんは俺の方に向かって手を振っていた。
えっ、と思いながら俺も手を振ると、ニコッと笑った。どうやら見えているらしい。まさかコースから俺を見つけるとは思わなかったが、つくづくウマ娘というの脚力もそうだが視力もすごい。
そんなこともあって、ウイニングライブを見てそのあとこうしてダイヤちゃんはそのご褒美としてデートをいつものごとく要求してきた。別にデートというか、二人で出かけるのはもうあれ以来何度か行っているのでそこまで抵抗ない。
ただ今日がクリスマスということもあって余計に意識してしまう。それに俺は私服だけどダイヤちゃんはコートを羽織ってはいるものの、その下は当たり前のごとく制服を着ている。
これは、マズイ。ひじょーにマズイ。下手をすれば警察案件なのでは? と、思いつつも今日までこれといって警察に職質されたことはないので、俺は警戒はしつつもそこまで大事にしてはしていなかったりする。
さて、これからどうしようかと考えていると、ダイヤちゃんが何やら真剣な顔をして大事な話があると言うので、少し人が少ない場所まで歩くことに。
一体何だろうか……いや、こんな状況で大事な話とはアレぐらいしかないだろう。俺はそれに気が付きながらたただ黙ることを選んでいた。
そして、人気のない場所を見つけるとダイヤちゃんは俺に告白してきた。
「私、お兄さんのことが好きですっ。年の差とか色々あるかもしれないけど、それでも私はお兄さんが好きなんです。だから、私とお付き合いしていただけませんか」
「……こんな俺で良ければ、ぜひ付き合ってください」
「ッ!!」
嬉しさのあまりダイヤちゃんに正面から抱き着かれた。かつてない感触に理性が飛びそうになった。だけど、それは一瞬にして正常に戻ることとなる。
「じゃあ、行きましょう!」
「行くって……どこに?」
「決まってるじゃないですか。だって今日は……クリスマス、なんですから」
「……」
そんな言わせないでくださいよ、みたいな顔をしないで欲しい。
「もうっ。女の子に言わせる気ですか? ふふっ。お兄さんはえっちですね」
「……」
いや、言わなくても知ってるよ。知ってるけど、その意味も分かるよ? だけど手は出さないよ。出しちゃダメなやつだよ、それ!
だけど俺が抵抗する前にダイヤちゃんに手を引かれて、何故かその先にはリムジンがあって、当然のようにそこに乗ってどこかへ連れていかれて、多分高速に乗って暫く予断を許さない状況が続いて最終的にたどり着いたのは、まあ見るからに豪邸と言わんばかりの場所。
「り、立派なお家ですね……」
「これ私”の”別荘なんです。名義はお父様ですけど」
「へ、へえー。やっぱりスケールが違いすぎる……」
「さ、行きましょう。ここには私専属のメイドさんが数人いるだけですから、遠慮しなくて大丈夫ですから」
「いや、大丈夫とか以前にね? こう清い交際を……」
しかし俺の抵抗とも言えない虚しい行動はダイヤちゃんによって無駄に終わり、玄関でメイドさん達に迎えられながら俺の部屋の倍以上はあるような寝室に案内されて……。
──あとは語るまい。
「そう言えば前から聞きたかったんだけど」
「なんですか」
「いつから俺のこと好きになったの? 初めて会ったのってあのパーティーでだよね」
腕の中にいる
「実はあの時は二回目なんです。と言っても一回目は私が一方的に知ってるだけなんですけど」
「え、いつ?」
「少し前にキタちゃん……あ、私の親友なんですけど、彼女と一緒にレースを見に行ったんです。キタちゃんはトウカイテイオーさんの大ファンで、テイオーさんが出るレースはいつも一緒に見に行ってて。そこで偶然お兄さんが目に入って……その、一目惚れだったんです」
まさかそんなことを言われる日が来ようとは思わなくてついつい俺も照れてしまった。
「しかし、テイオーのやつは人気があるんだなあ。よくファンレター貰ってるって言ってるし」
「えっ。お兄さんテイオーさんと知り合いなんですか?」
「知り合いも何も。あいつは俺の妹だよ。義理のだけど」
「えぇえええ!?」
すごく驚かれた。思わず起き上がったので彼女の豊満な胸が激しく揺れているのが目に入る。
「私、テイオーさんと同じチームなんですけど」
「マジか……せ、世間は狭いね……」
「……あれ? これってつまりテイオーさんが私の……」
ちょっと気が早くない?
と、言いたいが言ったらなんか面倒なことになるので沈黙を貫いた。
そして翌朝。俺は生まれて初めて食べた気がしない朝食を頂き、いつの間にか用意された高級そうなスーツと何故かある俺の鞄を持って、リムジンで会社に出社するという体験をしたのであった。
それからのことを語ろうと思う。
大晦日の前。お互いに長期休みに入ると同時に俺はダイヤのお父様にご挨拶に向かった。絶対によくない対応をされるかと思いきや、何故かすんなりと話が進むことにこっちが驚くばかりであった。
一応ダイヤのお母様からは、うちの娘をどうかよろしくお願いします、とこれまたどういう訳か受け入れられていた。
とりあえず正式な交際が認められたわけであるが、あちらの立場というのもあってか俺はうちの社長から紹介されたお見合い相手で、そこから正式なお付き合いを始めたという筋書になることに。
で、当然向こうのご家族に挨拶したのだから、うちの家族にも紹介するわけで。俺は先に親父と母さんには伝えたんだがまあこっちはどうでもよくて。問題は妹のテイオーである。
そしていざテイオーにダイヤを紹介すれば──
「改めまして。彼とお付き合いしているサトノダイヤモンドです。よろしくお願いします、テイオーさん」
「うそだぁあああああ!!」
案の定想定していた……いや、それ以上の反応をされた。それからはテイオーはあまりのショックに半ば放心状態で、ちゃんとこちらの話を聞けているのかどうか怪しかった。
それも当然だろう。まさか兄の恋人が自分の後輩だとは思いもよるまい。まして年の差が十以上も離れていれば尚更だろう。
すると混乱中のテイオーが俺に向かって叫んできた。
「お兄ちゃんもどうしてこうなったのさ!?」
「俺もなんでこうなったのか上手く説明できないんだけど、まあ……なるべくしてなったんじゃないか? あとは責任取らなきゃいけないし……男として」
「責任ってなんなのさぁあああ!」
「それはもちろん私の──」
「うわぁあああん!」
──結論 テイオーは錯乱してしまった。
一目惚れした人に最初は親の力でキッカケを作り、あとは自分の力で勝ち取りにいく。
これは純愛ですね。