○○と付き合ってるって言ったらテイオーはどうなるのだろうか 作:ししゃも丸
ボクには血の繋がっていない兄と妹がいる。と言っても家族なのはお兄ちゃんの方だけで、妹は近所の子供、まあ俗に言う妹分みたいな感じかな。
お兄ちゃんは幼い頃ママが今のパパと再婚してボクのお兄ちゃんとなった。年の差はそこそこあって気まずいかなって最初は思ったけど、意外とボク達は波長が合うというかすんなりと打ち解けた。今ではボクの大好きで自慢のお兄ちゃんなんだ。
対してボク達の妹の名前はキタサンブラック。あの子はボク達家族がいま住んでいる所に引っ越してから出会った子だ。ボクよりも年下で通う学校も同じだから、お姉ちゃんとして面倒を見ることになったのがキッカケだったと思う。
ボクは一人っ子だから再婚したことでお兄ちゃんができたけど、ブラックに『テイオーお姉ちゃん』と呼ばれるのは悪くはなかった。そんなブラックもお兄ちゃんを『お兄さん』と呼んでいた。
傍から見ればボクとブラックは仲のいい姉妹ともとれなくはないけど、お兄ちゃんはどちらかと言えばボクらの保護者という場面が多かった気がする。朝の通学とか休日どこかに出かけるのもお兄ちゃんが付き添うのが当たり前だった。ボクだけならまあちょっと年の離れた兄妹で済むけど、ブラックがいる時は違ってくる。
そんなあの子の面倒も見ているものだから、お兄ちゃんはブラックのご両親からとても信頼が置かれていたりする。それもあって我が家とブラック家の仲は良好だ。
まあ、そんな生活もボクが中学、つまりはトレセン学園に入学することで変わったわけだ。トレセン学園は寮生活が強制されるので今までの関係のようにとはいかなくなった。一応休日は実家に帰宅してもよいという規則があったので、ボクは大事なレースがない時は毎週実家で休日を過ごしていた。
そんな学園生活を送って気づいたのはお兄ちゃんとブラックの関係だろう。今までボクがいた場所にボクがいなくなって残ったのは二人だけ。休日実家に帰ればお兄ちゃんから色々話を聞くことができたし、また三人で出かけたりもした。だけど、ボクには新しくできた友達と出かける日も多いから、休日家に帰っても三人で過ごす回数は段々と減っていた。
それでもボクにとって嬉しかったのは、二人がボクのレースを応援しに来てくれることだった。ボクにはウマ娘としての才能があるようで『無敗のテイオー』だなんて呼ばれたりもした。
そんなボクの走りを見てブラックが言ってくれたんだ。
「わたしもテイオーお姉ちゃんみたいなウマ娘になるっ」
そう言ってくれたのはボクとしては感無量の思いで、今日まで頑張って走ってきたよかった、と自分を誇らしく思えた。
ボクもカイチョーことシンボリルドルフに夢を与えてもらって、そんなボクがブラックに夢を与えることができたのは、何ていうか奇妙な縁を感じる。
だからきっといつか二人で同じレースに出たりするんだろうなあ。だけど、お兄ちゃんはどっちを応援してくれるんだろうか。やっぱりボクだよね、妹だし。
この時のボクは楽観的だった。きっといつまでもボクらの関係は変わらないだろう。だけど、いつか兄妹でなくて男女の関係になりたいと思っていた。
だけど、変化は常に起きるものだということをボクは気づけなかったんだ。
──数年後
4月〇日
「よろしくお願いしますね、テイオー”さん”」
「あ、うん。よろしくね、ブラック」
春。今年も多くの新入生がやってきた。そこにはボクの妹分であるブラックも当然いた。そして当然というか自然の流れで気づけばボクと同じチームに所属することになった。
それはいい。別に、それは何ていうか予想していなかった訳じゃない。問題はボクに対する接し方だ。
いつもだったらテイオーお姉ちゃんと呼んでくれたのに、学園に来てからはテイオーさんと呼ぶようになってしまった。ボクはそれが無性に寂しく思えた。
だから休日家に帰った時お兄ちゃんに相談すれば……。
「そりゃあアレだろ。あの子にとってお前は夢であり目標なんだ。いつまでも妹じゃいられないし、これからは先輩後輩でもありライバルなんだからさ。まあ、あの子は少しだけ大人になったのかもな」
「ん~嬉しくもあり悲しくもある。何ていうか複雑だよ」
「その内お前にもそういう時がくるさ」
その言葉の意味をボクが理解するのはもっと後の事だ。
それからボクらの関係は時間が経つに連れて変化をしていった。ボクはあまり家に帰ることはなくなって、逆に友達と一緒に過ごす時間が増えた。それでもお兄ちゃんとは毎日のように連絡を取り合っていたからあんまり変わってないかもしれない。
対してブラックは毎週ではないけど、昔のボクのように休日は家に帰っているようだった。それを見て、「まだまだ子供だなぁ」、だなんて特大のブーメランが刺さるような事を口にしていた。
ただ、家に帰った翌週いつものように学園で会う時、ブラックはいつもにまして何かが変わったように見えた。言葉にするなら魅力とか雰囲気だろうか。
まあ私怨ってわけじゃないけど、ブラックは学園に入学する一年前ぐらいからものすごい成長期を迎えていたのがちょっと羨ましかった。ボクはちょっと背が伸びただけで胸もあまり大きくならなかったのに、ブラックは背は伸びて胸も大きくなって。何ていうか世の中不公平だなって思う。
またお兄ちゃんもお兄ちゃんでここ最近すごく調子がいいのか、仕事の方でも上手くいっているらしくまた出世したとか言っていた。それは実に良いことなんだろうけど、ボクを含め家族は何の仕事をしているのか全く把握していない。スーツを着ている仕事だから公務員かサラリーマンだとは思うんだけど。
〇月〇日
ブラックが学園に来てから数年、ボクが中等部から高等部になったある日のこと。ボクはブラックと同じチームメイトのサトノダイヤモンドのある会話を耳にしてしまった。
「ねえねえキタちゃん。この間はどうだったの?」
「どうって、別にいつものように出かけただけだよ。ダイヤちゃんも一緒にくればよかったのに」
「ん~流石に毎回お邪魔するのも悪いかなぁって」
「私もお兄さんも今更お邪魔だなんて思ってないよ」
「え~本当かな~。じゃあ私がお兄さんをもらっても悪く思わないでね」
「そ、それはダメっ!」
どうやらブラックには年の離れたボーイフレンドがいるらしい。それもダイヤも含めた三人でよく出かける仲でもあるようだ。
この時のボクはこれといって興味を抱くことはなかった。ブラックだって女の子だし、彼氏がいたとしてもそれは別に不思議なことじゃない。唯一気になったのは『お兄さん』という単語ぐらい。だけど、『お兄さん』なんて年上の男性に対してボクらの年齢の子供なら誰にだってそう言ってもおかしくはない。
「じゃあ早く付き合いないよ。じゃないと誰かに盗られてもしらないよ」
「だ、だって、その、歳の差もあるし……」
「まあそれは、ね……。だけど、キタちゃんのご両親は乗り気なんでしょ」
「私が引くぐらい……」
「じゃあ問題ないよ」
「そ、そんな簡単に片付けないでよぉ」
へえーとつい言葉が漏れた。ボクはブラックの家族とは面識があるから知ってるけど、うちのパパとママと同じくらい娘には過保護な両親だ。特にあの子のおじいちゃんがブラックをとても可愛がっていて、うちのお兄ちゃんも最初は敵視されてたけど、今では実の息子より目をかけられているらしい。
まさかうちのお兄さん以上の男が現れるとは……。
なので、ブラックの彼氏さんは相当のやり手なのだろう。あの家族に気に入られるのは相当なことだし、余程人間として立派なんだと思う。
ただこれ以上立ち聞きするのも失礼だし、ブラックの恋路を邪魔するわけにもいかないからボクは途中でその場を去った。
〇月〇日
最近お兄ちゃんと直接会う機会が減ったような気がする。一応連絡は毎日しているけど、それは文字や声だけの会話であって面と向かって会っているわけではない。
前は毎週のように会っていたのに、ここ最近は月に数回会うか会わないか。それはボクの都合もあるけど、お兄ちゃんも予定があるのか中々時間が合わない。長期休みの時はそうでもないんだけど、通常の休日では朝と夜ぐらいしか顔を合わせなくなった。
お兄ちゃんの仕事の付き合いっていうのもあるんだと最初は思ったけど、そのわりにはお洒落なんかしてるし。それもお兄ちゃんが自分で選ばなそうな感じの服を着て。
もしかして彼女でも出来たのかな。
お兄ちゃんもいい年だし、彼女が居てもおかしくはない。むしろ今まで彼女を作ってこなかったのが不思議なくらいだ。だけど、妹のボクにはちゃんと教えてほしいものだ。
〇月〇日
今日、ついにこの日がやってきた。
それは、ボクとブラックがあるレースで一緒に走るんだ。トレセン学園にやってきてからというもの、あの子と一緒に走る機会が意外となくてそれがようやく叶った。
ボクもブラックもチームメイトでもましてや姉妹という間柄ではなく、同じレースを走るウマ娘として挑んでいる。当然ボクは負ける気なんて毛頭ないし、ブラックもそのつもりだろう。
そしてこの会場はお兄ちゃんも応援に来ている。
「二人とも頑張れよ」
それがお兄ちゃんの精一杯の言葉だということはボクらには分かっている。どちらか片方だけを応援するなんてお兄ちゃんにはできないし、ボクもブラックもその言葉だけで十分だ。
ボクは負けない。妹分だろうと、同じチームメイトだろうと、ボクは負けない。お兄ちゃんが見てるんだ。だから負けるわけにはいかないんだ。
〇月〇日
ボクは負けた。ブラックに負けてしまった。悔しい、だけど同時に嬉しくもあった。いつもボクの後ろを歩いていたブラックがついにボクを追い抜いた。
姉として、一人のウマ娘として、それはとても喜ばしいことなんだと思う。
お兄ちゃんもブラックの勝利を喜び、ボクには優しく頭を撫でながら褒めてくれた。なんだろう。こうして撫でてもらうのも久しぶりな気がした。当たり前のことだったのが随分遠い昔のような気がする。
それとある事に気づいた。
お兄ちゃんとブラックが話している姿を見て、何だか遠いような、ボクだけ違う所にいるような気がしたんだ。もっと言えば、二人の顔は昔のような兄とその妹ではなく、もっと別のような……だめだ、ボクにはそれが何なのかよく分からない。
とりあえずブラックおめでとう。
これだけは本当の気持ち。
〇月〇日
ある日の休日。久しぶりに兄妹水入らずで過ごしていた。何ていうか、すごく久しぶりな感覚だった。昔はこれが日常だったのに、いつのまにかボクはこの感覚を忘れていたようだ。
するとお兄ちゃんが大事な話があるんだと言ってきた。
ああ、もしかして彼女がいることかな。
「実は、付き合っている人がいるんだ」
ボクの予想は当たった。で、相手は誰と聞くと、ボクの頭の中が真っ白になった。
「驚かないで聞いてくれ。実は……ブラックと付き合っているんだ」
「ウソ……」
「信じられないかもしれないけど、本当のことなんだ」
「……いつからなの」
掠れるような声でボクは聞いた。暴れもせず、叫びもしなかったのはボクも驚いた。
「付き合い始めたのはこの前のレースのあとだ。でも、そういう関係になっていたのは随分と前からだったと思う」
「……そう、なんだ……」
予兆はあった。それを知るキッカケもあった。だけどそんなはずはない、まさかそんな、なんて考えていた結果がこれを招いた。
「ブラックの両親やサブさんもこの交際を認めてもらってる。あの子が18歳になって、学園を卒業したら入籍する予定なんだ」
それは言うのはボクに何かを言ってほしい……いや、ボクだからこそ祝ってほしくてそう言っているんだということは分かっていた。お兄ちゃん一人で伝えたのも、お兄ちゃんなりにボクに配慮してくれたからだと思う。
だけど、そんなすぐに割り切れるものじゃないんだ。ボクだってお兄ちゃんが好きなんだ。でも、ボクは何もしなかった。しようとすらしなかった。
だから……ボクにそれを反対する権利なんてありはしないんだ。
「うん、いいんじゃないかな。ボクも……ブラックが本当の意味で家族になるのは……うれしいよっ」
「……そう言ってくれると嬉しいよ、テイオー」
最後まで泣かずに笑顔でボクはお兄ちゃんを祝った。
「おめでとう、お兄ちゃん」
ボクは、ほんの少しだけ大人になった。
前後編のが書きやすいんだけど、形式としてはそれ前までのがタイトル的にはいいんだよね……。