○○と付き合ってるって言ったらテイオーはどうなるのだろうか 作:ししゃも丸
俺には二人の妹がいる。
一人は親父が再婚した母親の連れ子のトウカイテイオー。もう一人は再婚した際に引越したご近所さんちの子供であるキタサンブラック。
共通しているのは二人ともウマ娘だと言うことかな。
テイオーは義理の妹になったから仲が良くなるのはまあ不思議なことじゃないとしても、いくらご近所さんの子供とそう簡単に打ち解けるとは思えない。それも年齢がテイオーより下だから、ブラックからしたらおじさんと呼ばれてもおかしくはなかった。
どうして妹のように思えるぐらい仲が良くなったかといえば、それはやっぱりテイオーが間にいたからだろうか。
仕事上会社に出勤する時間が早いのだが、それが小学生が学校に行く時間と重なるので、それで俺が保護者として途中まで一緒に通っていたのが大きかったのだと思う。
ブラックはテイオーをまるで姉のように慕っていて、テイオーも妹ができたみたいですごく喜んでいたのが印象的だった。だからテイオーのことを『テイオーお姉ちゃん』と呼び、俺のことは普通に『お兄さん』と呼んでいた。
おじさんって呼ばれなくて本当に良かったと思う。いや、マジで。
テイオーの小学生時代は本当に二人の保護者という立場が多かったと思う。通学する時もそうだし、休日など大型連休の際に俺が二人をどこかに連れて行くという機会が多かったからだ。
そんな関係が続いたのはテイオーが小学校までで、あの子が中学……トレセン学園に入学する頃になると、今までの生活はがらりと変わった。
それも仕方がなかったんだ。トレセン学園に入学すると特例を除けばほぼ全員寮生活になるので、平日はずっと向こうにいることになるからだ。一応金曜の夜からは実家に帰ってもいいが、日曜日の帰宅時間までには帰らないといけない。
お兄ちゃん子だったテイオーは毎週のようにこっちに帰ってきていた。普段はちょっと騒がしいぐらいだと感じていたけど、いざいないとやっぱり静かすぎて物足りなかったぐらいだ。
俺はもう大人だからそれぐらいで済んだけど、まだまだ子供だったブラックがそれに慣れるには時間がかかった。一緒に通学するのも自然と俺と二人だけになって、最初のうちは本音を漏らすぐらい寂しかったようだ。
「ねえ、お兄さん。テイオーお姉ちゃん、休日にはかえってくるんだよね? そしたら、またわたしと遊んでくれるかな」
「何だかんだ言ってあいつも寂しいのか、毎日連絡が来るよ。ブラックのことも聞いてくるぐらいだからね」
「ほんと?」
「本当。だから、ブラックのことを忘れたりなんてしてないよ」
「お姉ちゃんもけっこうさびしがりやなんだね」
「結構、じゃなくてかなりな」
「あはは」
テイオーがトレセン学園に入学して一年ぐらい経ったぐらいだろうか。俺はこの一年、テイオーと過ごした時間よりもブラックと過ごす時間のが多かったことにふと気づいた。といっても朝一緒にいる時と休日のほんの数時間程度を一年続けただけなんだけど。
そのことで不思議なのはブラックだった。
普通ブラックぐらいの年の子なら同世代の友達と遊ぶのが普通だと思っていた。だけど、何故かブラックは俺と一緒にいる時間が多かった。
もしかして友達がいないんじゃ……。
そう思った矢先、いきなりブラックに友達を紹介された。
「紹介するね。親友のダイヤちゃん!」
「はじめまして。サトノダイヤモンドです。お兄さんのことはキタちゃんから色々とお話はうかがっています」
「……本当にブラックの友達なのか?」
「それどういう意味!?」
テイオーとブラックを見てきた俺からしたら、ダイヤちゃんはあまりにも出来すぎている子だった。まあそれもいいとこのお嬢様だと聞いた途端すぐに納得したんだが。
それからはダイヤちゃんも加わって三人で過ごす機会が増えた。ただ……どこかに行く際はいつも誰からの視線を感じるし、車を走らせている時は黒のSUVが毎回近くを走っているのが目に入った。
理由は……考えるまでもなかった。
そして、二人の生活に変化が起きる年があった。それはテイオーがレースに出るようになったことだ。
本人曰く。
「ボクは天才だからね。無敗の三冠ウマ娘だって夢じゃないよ!」
と言っていた。
あの子は勉強の方はちょっとアレだけど、走りに関しては群を抜いて速かった。だからきっとトレセン学園に行っても余裕で通用するんだろうなって思っていたら、本当にテイオーは強かった。
デビューからずっと無敗で勝ち続けてついに夢だった三冠ウマ娘にもなった。そのレース、菊花賞にはもちろん三人で応援しに行った。
それを目の当たりにしたブラックは目を光らせながら言ったのだ。
「お兄さんっ。わたしも、お姉ちゃんみたいなウマ娘になる! だから応援してね!」
「ブラックならきっとなれるよ」
ちなみにダイヤはテイオーと同じチームにいるメジロマックイーンのファンらしい。なのでブラックはテイオーのレース、ダイヤがマックイーンのレースがある度に俺が付き添いで連れて行ってあげていたのは余談だったりする。
ブラックがテイオーを目指すようになってからあの子は時間がある時はいつも走るようになった。それはダイヤもで、ブラックと同じようにマックイーンを目標にしているから二人の行動の変化は当然であった。
俺はと言えば怪我をしないように見張りつつ、ネットや本などを参考に二人に年相応のトレーニングを指導してあげることぐらいだった。
それにしても二人が一生懸命走っているのを見て、ついつい昔を思い出してしまう。懐かしいなあ、ハー〇マン軍曹式トレーニングをやっていたあの日々……。
そんなトレーナーの真似事をしながら時が流れて。ついに二人がトレセン学園に入学することが決まった。入学するほんの少し前、ブラックは届いたばかりの制服を直接俺の所に見せに来たんだが……。
「ねえお兄さん。どうかな、変じゃない?」
「よく似合ってるよ」
「ほんと!? えへへ、まずはお兄さんに見せたくて急いできたんだよ」
「うっ」
笑顔で胸に飛び込んでくるのはブラックの癖みたいなものだ。何かあると「お兄さ~ん」って言いながら抱き着いてきたからだ。
ただ、それも昔ならよかったけど、今は非常にマズイ。
「な、なあ、ブラック。お前ももう中学生なんだからこうやって男の人に軽々しく抱き着いたらダメだよ」
「え? 私、お兄さん以外にこういうことしないよ」
はっきり言って、最近の子供の成長というのは驚かされる。我が妹のテイオーはちょっと背が伸びただけであまり変わっていないのに、ブラックと言えば背は伸びるは胸も年に似合わず大きくなるわで……。あと、ダイヤちゃんもすげぇんだよな……。しかもブラックより大きいし。
て、テイオーはきっとこれからだから……多分。
成長するのはいい。大きくなるのはいいことだ。だけど、そのことを本人があまり自覚していないのがよくなかった。
「それはそれでいいんだけど。ほら、いくら長い付き合いだからって、俺みたいなおじさんにこんなことをしてたらよくないだろ? おじさんとおばさんに怒られるって」
「え? お父さんとお母さんは早くお兄さんを捕まえなさいって。だからこうして捕まえてるんだけど」
二人とも何言ってんの!?
そりゃあ引越してから近所付き合いはちゃんとしてたし、ブラックの保護者という形で挨拶したり、学校行事にも一緒に参加したり、二人の代わりに授業参観にも何故か出たりしたけどさあ!
いや、ブラックのことは嫌いじゃないです、はい。
だけど、まだ早いっていうか年の差がえぐいって。
こうなったらあの人の名前を出して納得してもらうかない。
「サブさん……おじいさんもきっと泣いちゃうって」
「あ、おじいちゃんがね。最近お兄さんと会えなくてつまんないって」
ブラックのおじいちゃんは、俺でも知ってる有名な演歌歌手だった。初めて会った時の威圧感半端なかったけど、誠実に接してたら何故か気に入られて今に至る。
どうやらサブさんの名前を出しても無理らしい。ほんと、きついんです。嬉しいけど辛いんです。
「わかった。抱き着くのはいいけど、人前じゃ絶対にダメだからな」
「うん!」
笑顔が眩しくて、こんないい子を泣かせたらそれこそ罰当たりだと俺は思ってしまった。
トレセン学園に入学してからのブラックは、何ていうか同じく入学した頃のテイオーと似た感じだった。平日会えなくなるので学校が終わると連絡が来ていたり、休日は毎週のようにこっちに戻ってダイヤと三人で出かける日が多かった。
小さい頃とは違って女の子ではなく、女性として意識してしまうぐらい綺麗になった二人と出かけるのは……やっぱり男しては嬉しくもあり、下手な気を起こしてはいけないと何度も自分に言い聞かせるのに苦労する。
それもブラックのおじさんやおばさんがあんな事を言ってきたからだ。
「流石にまだああいうことは早いけど、付き合うだけなら全然いいのよ?」
「お父さんも急かすから早くしろ」
もう包囲網が出来上がっていた。
さらにダイヤもダイヤで空気を読んでいるのか、ブラックと二人で出かけるわけで。昔と違うのは大きくなったブラックと出かけるのは、傍から見ればデートにも見えなくはないってことだ。ただ、ちょっと怪しい関係だと思われるのは仕方がない。
何よりもブラックが両親の願いを叶えるべく積極的になっていて、俺も俺でそれを受け入れていたのもまた事実であった。
「ねえお兄さん」
「ん?」
「手……繋いでもいいかな」
「……あ、うん。いいよ」
「えへへ」
昔は当然のようにこうして手をつないで歩いていたけど、今はあの時とはまったく別の感情を抱いている。その感情は抱いてはいけないものだと分かっていても、俺の目と心は無意識に隣にいる彼女に向いているんだ。
つまり俺は、ブラックのことが好きなんだと思う。
だけど、その言葉を口にしていいのかまだ悩んでいた。
ブラックがトレセン学園に入学してから数年経ち、テイオーが高等部に上がったころ。俺とブラックの関係は知っている人間が見れば、誰もが恋人同士だと思われても仕方がない関係にまで発展していた。
だけど、未だに正式に交際をしているわけではなかった。ここまで来ればブラックが俺に抱いている気持ちにだって気づいてるし、あの子もあの子で俺の事も理解していた。両親の同意があっても今日まで恋人の関係になっていないのは、年の差というのと俺が未だに好きだと口に出せずにいたことが原因だ。
向こうの両親の同意については、まあ……ありがたいことなんだけど、結局のところ俺はヘタレってことになるんだと思う。
けれど理由は他にもある。それはブラックのことだ。あの子にとって今が一番大事な時だから、レースの方に集中していてほしいっていうのもあった。
ブラックもダイヤもデビュー戦から今日まで素人目線だけどいい成績を残してきた。そしてブラックに至ってはそれがようやく実り、ついにテイオーと同じレースに出ることになったんだ。
レースの前日、ブラックが今までに見たことない真剣な顔で俺に言ったんだ。
「お兄さん。私ね、明日のレースでテイオーお姉ちゃんに勝つ。私達を応援しているお兄さんからしたら複雑なことなのは分かってる。それでもね、見ててほしいんだ。そして、もし私が勝ったら……伝えたいことがあるの。聞いてくれる?」
「……うん」
「ありがとう、お兄さん」
それが一体何を意味しているのかなんて考える必要もなかった。
だけど、ブラックのいう通り俺の立場からしたら複雑だ。妹であるテイオーにも勝ってほしい。でも、大事なブラックにも勝ってほしい。
きっと俺は明日、「二人とも頑張れよ」なんて言うんだろうなんて考えた。それしか言えないと言えばそうだけど、それしか多分思いつかないと思う。
でも、心の中ではブラックに勝ってほしい。テイオーには悪いけどそう思っていた。
「よく頑張ったな」
「……うん」
翌日。俺はレースに負けたテイオーを労いながら頭を撫でていた。テイオーは負けた、つまり勝ったのはブラックだった。
二人とも必死に走って、走りぬいて、最後に勝ったのはあの子だった。
そしてウイニングライブが終わった後、俺とブラックは二人っきりでとある場所で彼女から告白された。
「ずっとお兄さんのことが好きでした。だから、私と……付き合ってくださいっ」
女の子に、それもかなり年の離れた子に言わせるなんて俺は最低だなって思いながらブラックの手を取った。
「本当は俺から言うべきことなんだけど……ごめん」
「ううん。お兄さんだってたくさん悩んでたの、私知ってるから」
「ありがと。だからこれだけは言わせてくれ。……ブラックが18歳になって、学園を卒業したら結婚しよう」
「……え!?」
「今までの埋め合わせってわけじゃないけど、これからは今まで出来なかったことを一緒にやっていこうな」
「うん!」
こうして俺とブラックは晴れて恋人同士になった。当然すぐに互いの両親に結婚を前提としてたお付き合いすることを報告した。まあこれに関しては向こうは驚くことなく、ようやくかと言った感じだった。とりあえずはこれで問題ない。
ただ一つ、これからテイオーに伝えることを除けば。
ブラックと付き合い初めて数週間後の休日。今日は珍しくテイオーと一緒に家で過ごしていた。テイオーもいつからか家に帰ってくることが少なくなって、こうして一緒にいるのも久しぶりだった。
だからこそ、テイオーにブラックと付き合っていることを言うには絶好の機会だった。
「なあテイオー。ちょっと大事な話があるんだけど聞いてくれるか」
「うん、いいよ」
「実は、付き合っている人がいるんだ」
「やっとお兄ちゃんにも遅い春が来たんだね。よかったよかった。で、相手は誰なの」
「驚かないで聞いてくれ。実は……ブラックと付き合っているんだ」
あの子の名前を出すと、笑顔だった顔が一瞬にして消えた。見るからに信じられない、予想だにしなかった反応だった。
それも当然だと思った。テイオーからすれば妹のように可愛がっていたブラックが、気づけば俺と付き合うことになったのだ。そう簡単に受け入れられるはずもない。
「ウソ……」
「信じられないかもしれないけど、本当のことなんだ」
「……いつからなの」
声に覇気がなくて心配になるぐらいだった。それでも俺は話を続けた。
「付き合い始めたのはこの前のレースのあとだ。でも、そういう関係になっていたのは随分と前からだったと思う」
「……そう、なんだ……」
「ブラックの両親やサブさんもこの交際を認めてもらっている、あの子が18歳になって、学園を卒業したら入籍する予定なんだ」
それからテイオーが次の言葉を発するのに少しだけ時間を置いた。混乱しているのは見てわかる。いきなりこんなことを伝えたのも悪いと思っている。だけど、いつかは言わなきゃいけないことだし、誰よりもテイオーに祝ってほしかった。
俺にとってもブラックにとってもテイオーは大切な家族だから。
そしてテイオーはゆっくりと下を向いていた顔をあげて、再び笑顔で祝福してくれた。
「うん、いいんじゃないかな。ボクも……ブラックが本当の意味で家族になるのは……うれしいよっ」
「……そう言ってくれると嬉しいよ、テイオー」
「おめでとう、お兄ちゃん」
――結論 テイオーは笑顔で祝福してくれた。