○○と付き合ってるって言ったらテイオーはどうなるのだろうか 作:ししゃも丸
「……ねえ、お兄ちゃん」
「どうした。我が妹よ」
ある日の土曜日。もうすぐ親戚の子供からおじさんと呼ばれてもいいぐらいの年を迎えながらも、恥じることなく堂々と実家暮らしをしている俺に、義理の妹であるトウカイテイオーが面白くなさそうな顔をして言ってきた。
「こうしてお兄ちゃんと一緒に休日を過ごせることは、妹としてそれはとてもとても素晴らしいことだと思うんだ」
「ふむ。その割には不満そうだな」
「そりゃあそうだよ。だって……タキオンさんがいるからちっとも楽しくないんだもん!」
「おや、私のことかい? ああ、別に気にしないでくれ。折角の休日だ。兄妹で過ごす時間に水を差すほど私も空気が読めない訳じゃないよ。こうして本を読んでるだけだから、私に気にせずしたいことをすればいいさ」
「しないよ! ていうかできないよ! そもそもなんでお兄ちゃんに膝枕してもらってるのさ。元々そこはボク専用なのにィ!」
なるほど。テイオーが不機嫌なのはタキオンがいるからなのか。しかしだ。こうしてタキオンが一緒にいるのは今日が初めてじゃないのに、なんで今になってテイオーが騒ぐのだろうか。
ソファーじゃなくて、わざわざカーペットの上に座りながらテストの採点をしているが、テイオーのいうようにタキオンが毎度のごとく膝枕を要求してくるのでやりにくいったらありはしない。
「ねえお兄ちゃん。千歩譲って付き合っているのは渋々認めるけど、絶対にその先はダメだよ。絶対に碌な未来が待ってないって」
「聞き捨てならないね。まるで彼と結婚したら悲劇が待っていると言っているように聞こえるよ」
「言ってませーん。誰も結婚だなんて言ってませーん。まあ仮にだよ? 仮にそうなったとして、タキオンさん家事とかできるの?」
「ハーハッハッ。やれやれ。全くこのご時世にしては非合理的な考えだね。別に女だからと言って絶対に家事をする必要なんてないだろう? それに彼は料理が得意だが私は一切したことがない。つまり考えるまでもなく彼が家事を担当することは決まっているのだよ」
「……はあ。それでいいのお兄ちゃん」
実際に思っても聞かなかったことをテイオーがついに聞いてしまい、俺も改めてこれからのことについて今一度考える必要があるような気がしてきた。
しかし……なんで俺タキオンと付き合うようになったんだろうか。
あれは確か……。
トレセン学園で教師として務め始めてから早数年。新人教師という肩書がとれて、ようやく普通の教師になれはじめた頃だろうか。
学校には最低一人は問題児と呼ばれる生徒がいるものだ。授業態度に難があるとか、反抗的だとか、ストレートに言うならヤンキーとかだろうか。トレセン学園に在籍する生徒は2000人はいると言われているので、問題児が一人どころかもっとたくさん居てもおかしくはない。
現にここトレセン学園で一番の問題児筆頭はゴールドシップというウマ娘である。生徒問わず我々教師を通り越して学園全体で何かをやらかすことで有名である。彼女に目をつけられたら人生終わり、みたいな噂もあるらしい。
ありがたいごとに俺はまだ直接彼女に会ったことがないので被害はない。
ただ……俺は俺で問題児の一人の面倒を見ることになってしまった。
「なあ」
「……なんだ、アグネスタキオン」
「なんでフルネームで呼ぶんだい!?」
「耳元で叫ぶな。うるさくて仕事が進まないだろ」
俺の背後で騒いでいるのがアグネスタキオン。『超光速の粒子』なんていうかっこいい肩書もある凄いウマ娘でもある。
そんなアグネスタキオンであるが、こいつもこいつでトレセン学園では悪い意味で有名で、特に男性教師をモルモットして何かの実験に巻き込まれることで悪評が絶えない。
本人曰く、自称マッドサイエンティスト、として相応しい行いと言えるとも言える。
「キミの仕事なんてどうでもいいんだ。大事なのは私のお昼ご飯だろ!? はーやーく、今日のお弁当をだしたまえ」
「ちょっと待て」
「わくわく……わくわく」
彼女の期待に答えるため、俺は用意しておいた今日のお弁当であるカロリーメイトを渡した。それもフルーツ味だ。これが一番美味い。
しかし、タキオンは不服なのかさらに一段と騒ぎ始めた。
「なんだこれは!?」
「お前でいう所の、合理的で簡単に栄養補給できる食い物」
「ちーがーうーだーろー! なんで今まで散々やれ米を食え、ちゃんと野菜もとれとか言った張本人がこれを渡すのか理解に苦しむよ。それもフルーツ味だし。私はプレーンが好きなんだっ」
「うるせえよ! 今日はちょっと寝坊して弁当を作るヒマがなかったんだ。だから我儘を言うな」
「それにしたってもっと他に選択肢があるだろ。コンビニで弁当を買ってくるとか、出前を頼むとか」
「弁当はね、最後の一個しか残ってないからここに来る前に……食べちゃいました」
「ひどいっ、あんまりだっ。散々餌付けしてキミの作る料理以外口に入らなくなってしまったこの私に、なんたる、なーんたる仕打ちなんだ……」
「文句を言うなら返せ」
「食べないとは言ってないだろうっ……もぐもぐ」
空腹には勝てないのか、タキオンは妥協してカロリーメイトを頬張りはじめるのを見ながら俺はため息をついた。
タキオンがこうして担当トレーナーでもない俺にここまで執着しているのは、俺がつい真面目な教師らしいことをしてしまったのが始まりだ。
まず第一に俺が担当しているクラスに彼女がいたこと。第二にタキオンは朝のHRどころか授業の参加率があまりにも酷かったからである。後で理由を聞けば研究優先だとか、このレベルの授業なら問題ないとかで。
現にアグネスタキオンはウマ娘でありながら科学者でもあるので、勉学についてはほぼ問題ないと言われれば反論できない。だからと言ってトレセン学園にいる限り彼女はここの生徒であるのだから、ちゃんと教室に来て、授業を受けるべきなのである。
で、担当授業がない時間にタキオンのラボこと研究室に乗り込んだ訳だ。最初は何かを言えばあーだこーだで言って全く聞き入れてはくれなかった。俺も諦めようと思ったとき、ふと彼女がやけに他の生徒に比べると少しやつれている……とまではいかないが、微妙な変化に気づいたのだ。
「なあ、タキオン。お前ちゃんとご飯を食べているのか?」
「一分一秒も無駄にできないのに、わざわざそんな手間のかかることなんてするわけないだろ」
「じゃあ普段何食べてるんだ、お前」
「サプリメントと栄養ドリンク。これだけで必要最低限の栄養はとれるからね」
まさか年頃の若い子が普段からサプリメントや栄養ドリンクで食事を済ませていることに俺は驚き、絶望した。こういう風に育てた彼女の両親に対して怒りが湧いたが、よくよく冷静に考えてみればこれもうタキオンの性分なのだろう。
だからなのか、俺は当たり前のように今日の食べる予定だったお弁当をタキオンに渡した。
自慢ではないがこれでも自炊はする方だ。テイオーのお母さんはちゃんと料理ができる人なのだが、生憎と仕事上家を空けることが多々あったので、あの人の代わりに俺がテイオーのご飯を作っていたのがキッカケだ。
なので味もテイオー好みになっているのはまあ仕方がないと思ってほしい。
とりあえずお弁当を渡せば──
「お箸を使って食べるなんて、そんな効率の悪いのは──むごぉ!?」
「黙って食え、この欠食ウマ娘が!」
ムカついたので無理やり食べさせた。
この時、ふと昔よくテイオーにあーんをしてあげたいたのを思い出したが、かわいさで言えばテイオーが上で、タキオンとは全く比べる気にもならないなと思った。
「いいか。今日からちゃんと食えよっ」
と、最後はそう言い残して俺は研究室を去った。
で。翌日のHRのことである。珍しくHRに参加していたので思わず感心していたのが、HRが終わるとこっちにやってきて何を言ってくるのかと思えば。
「ほら。今日の朝食をよこしたまえ」
「色々とツッコミたいがこれだけはまず言わせてくれ。ある訳ないだろ!」
「なにィ!? アレほど私に食事を摂れといいながら、何一つ用意していないのかい! まったく、それでもキミは私の担任なのかい!?」
酷い言草である。
確か俺は昨日ちゃんとご飯を食べろと言ったが、一言も俺が用意するとか、用意してくれなんて言ってもいないし言われてもいない。なので当然また口論に発展するのだが、まあ俺が折れて最終的にまたお昼のお弁当を渡す羽目になった。
今日のお昼どうしよ……。
そう思った矢先、明日からはあいつのお昼も用意しなければならないことに気づいて頭を悩ませる羽目になった。
それからアグネスタキオンにお弁当を用意する日々が続いた。最初はどうして俺が、とか思わなかったわけではないが、一人分追加するのはそこまで苦はなかったのでさほど問題にはならかった。
変化したのは俺だけではなく、彼女も毎朝HRには出るし、授業にもちゃんと出席するようになった。それでもたまに研究がーとか言ってサボる日はあるが。
また、理事長直々にこの事を褒められたりもした。
「賞賛! 彼女が授業にも出席するようになって私は嬉しい! なにより以前よりもトレーニングやレースにも取り組むようになったからな!」
あの性格からして当然チームには所属していなかったのだが、色々あってどこかのチームに所属したらしい。
それはそれで良いことなのだが、やれ栄養バランスがどうとか、メニューはアレがいいとか文句を言い出したので、俺からすれば悩みの種が増えただけだった。
一応トレセン学園で働いているのでレースには興味がないわけではない。なのでレースがある日は応援しに行こうかと聞けば。
「そんなこと別にしなくていいさ。別にキミが来たからってレースで勝てるわけではないしね」
と、言われたので当日は家で過ごした。結果はネットニュースで見ればすぐにわかった。意外にも1位だったのは驚いたが、勝った割にはその顔は不服そうなのが謎であった。
そしてその翌日。
「昨日はレースに勝ったんだってな。おめでとう」
「その言い草だと、キミは当日見に来なかったのかい」
「だって来なくていいっていっただろ?」
「なーんーでっ、そうなるんだっ! 私はしなくていいとはいったが、来なくていいとは言っていないだろ!」
「えぇ……」
何故か逆切れされた。
それからと言うもの。現地で応援しにいかないと怒り、ちゃんと褒めないと拗ねるようになった。
関われば関わるほどすげえ面倒なウマ娘になっていった。
そんな彼女との関係が数年も続いた。
こんなめんどくさい生徒……まあ言ってしまえば女性と数年も関係が続けば、俺もなんだかんだいって色々想うところも出てくるわけである。
顔良し。スタイル良し。ただし性格に難あり。
そんなこと実際に口にしたら炎上ものであるが、事実であるのだから仕方がないではないか。
タキオンを意識し始めるようになったふとある日のことである。彼女が怪しい液体が入ったビーカーを渡してこう言った。
「キミのために作った新作の栄養ドリンクだ。さあ遠慮せず、ぐいっと逝きたまえ」
科学者でもある彼女は研究と称して色んな実験をしている。で、その成果を俺で試すことが多々ある。特にこのよくわからない栄養ドリンクの実験台にされるのが多かった。
味は最悪だが効果は絶大なのが憎めないことだろうか。
「今日はやけにピンク色だな」
「散々不味いと言うからキミが飲みやすいように桃味にしておいたのさ」
「お前にしては気が利くな。……スンスン、今回は甘い匂いがする……」
「ソワソワ……」
何やらいつもにまして期待した目で見てくるタキオンに目が行くのだが、気にしてもしょうがないので一気にソレを飲み干した。
「……」
甘い。ちょっと甘すぎるぐらい甘かった。だけど、今までのモノに比べて味は断然こっちの方がいい。
飲み終えてタキオンの方を見ると、何やら目を光らせながらこちらを見てくる。それ程まで今回のは自信作なのだろうか。
「ど、どうだね。何か変化は起きたかいっ」
「そんな簡単に現れないだろ」
「い、いや、こう……私を見て、胸がときめいたりするだろっ」
「……おい」
「イタイイタイ!」
痛がるタキオンなどお構いなく、俺は彼女の頭を掴む手にさらに力を入れる。
タキオンが度を越えてよからぬことをしでかした時のために鍛えていたのが、ついにこういう形でついにお披露目することになった。
流石にウマ娘とは比較するのも恥ずかしいが、こうしてお灸をすえるぐらいの握力は鍛えてきたし、現に痛がっているのでかなりの効果があるようだ。
「正直に話せば離してやる。一体何を飲ませた!」
「……ほ、惚れ薬……」
「は?」
「だーかーら、惚れ薬をキミに飲ませたんだよっ」
「はあー」
あまりにも突拍子ないことを言うので、つい掴んでいた右手を離してしまった。
「うぅ……おかしい。計算ではちゃんと私に惚れるはずなのに」
「お前、実はバカだろ」
「バカっていうなっ。私は天っ才なんだぞ! すごいんだぞ!」
「あのな。本当に惚れ薬なんて作れる訳ないだろ。仮に出来たとしても、俺には絶対に効果はないぞ」
「どうしてそこまでハッキリと言い切れるんだね。説明を要求するっ」
「もうお前に惚れてるからだろ」
「……え。い、いま、何と言ったんだねっ」
「あ、このあと会議なんだわ。じゃあな」
「もう一回、もう一回言ってくれたまえ! ねーねーねーっ」
てなことがあって、そのあとも色々あって気づいたら付き合い始めたんだっけ。教師と生徒という禁断の関係なので、世間的には非常にマズイ。
しかし、俺の太ももで寝ているコイツはスリルがあっていいとか、新しい実験のはじまりだっ、なんて言う始末で。
改めてタキオンとこの先の未来のことを考えると、確かにテイオーの言うように何だか不安になってくる。
特に俺の身が。
「テイオーの言うように、何だか不安になってきたな」
「ほらね。やっぱりお兄ちゃんに相応しいのはボクしかいないわけなのだよ」
「じょ、冗談だろ。なあ、冗談だよね……な? な?」
「でもなあ。コイツを放置するのも色々と問題あるし、やっぱり俺が面倒みてやらないといけないし」
「ふぅ……ハーハッハッ。キミと私はもう切っても切れない関係なんだから当然さっ。そ、それに、私にあんなことをしておいて、す、捨てられたら私はどうしたらいいんだ……」
「エ゛。うそでしょお兄ちゃん! タキオンさんともうそういう関係なの!? 穢された! ボクのお兄ちゃんがこんな女に穢されるなんて!」
「こんなとはなんだ、こんなとは! 私はテイオーより年上で天っ才で、近い将来キミの姉になる存在だぞっ。さあ、おねえさんと呼んでみたまえ!」
「誰が呼ぶもんか!」
人の太ももで寝ていたタキオンもテイオーの言葉に反応して起き上がり、人が仕事をしているのにお構いなく口論を始める二人。
うるさくて仕事に集中できるわけもなく、つい右手が拳を作りぷるぷると震え始まめる。まさに雷が落ちる三秒前と言った時、スマホにメッセージが届いた。
──今日もコーヒーがおいしいです。
その一文で俺の怒りはどこかへ行ってしまった。そうだ、こんな五月蠅い場所にいるから仕事に集中できないなら、静かな所に行けばいいだけではないか。
何という機転。
メッセージを送ってくれた彼女には感謝せねばなるまい。
俺はせっせと道具をバックに詰め込んで彼女がいるであろう喫茶店に向かうことにした。
「ちょっとコーヒー飲みながら仕事してくるわ」
『……え?』
「じゃあタキオン。今のうちにテイオーと仲良くしておけよー」
「え、ちょ……」
そう言って俺は家に二人を残して一人出かけるのであった。
〇月〇日
ママが再婚してからボクにお兄ちゃんができた。年が大分離れているけど、意外なことにボクとお兄ちゃんはすぐに打ち解けて、今では本当の兄妹のように仲がいい。
そんなボクはお兄ちゃんが作る料理が大好きだ。
ママは仕事の都合で多忙だから、それを知ったお兄ちゃんがボクのために料理を作るようになって、今ではどこに行っても恥ずかしくないレベルにまでなった。
しかし、ボクとしては大好きなお兄ちゃんをそこら辺の女にあげるつもりはないのである。やっぱりお兄ちゃんに相応しいのはボクだよね。
〇月〇日
お兄ちゃんの仕事は学校の先生なんだけど、それがまさかボクが通っているトレセン学園なのはみんなに内緒にしている。
学園では寮生活で家に帰れないけど、学校では会えるからお兄ちゃん成分は何とか足りている。
二日しかない休日ではもちろん家に帰るんだけど、ボクの楽しみは当然お兄ちゃんの手料理だ。これを毎日食べられないのがとても残念だけど、ボクのお弁当まで作ってもらうのは流石に忍びない。
だけど、最近お兄さんの料理に変化が出来たんだ。
何ていうか、今までの味とは何か違っていて。美味しいんだけど、やっぱり何か変なんだ。だからお兄ちゃんに聞けば。
「ちょっと味付け変えたんだよ。イヤだったらお前のは今まで通りに作るよ」
と言っていたので、きっと新しいことに挑戦しているんだと思い、ボクはその提案を断った。
味は変わったけど、お兄ちゃんの料理が美味しいのに変わりはないからね。
〇月〇日
休日家に帰ったら、いつもいるお兄ちゃんがいなかった。メッセージを送ってみれば、
──いま○○場にいる
なんと、お兄ちゃんはレースを見に行っているらしい。ボクのレースには応援するために見に来てくれるけど、それ以外には興味がなかったお兄ちゃんにしては珍しい。
いや、トレセン学園で働いている人間にしては、レースにそこまで興味がない方が珍しいのかもしれないけど。
とりあえずお兄ちゃんには、ボクのグッズを買っておくようにと返信しておいた。
〇月〇日
最近お兄ちゃんがよくとあるウマ娘と一緒にいるのを遠くから見る。その人はアグネスタキオンさん。面識はないけど、ボクの先輩に当たる人だ。
タキオンさんはうちのゴールドシップとは別の意味で問題児で有名だ。そんな人がなんでお兄ちゃんと一緒にいるんだろう。お兄ちゃんは教師であってトレーナーじゃないのに……。
気になったボクは情報を集めた。
なんとお兄ちゃんはタキオンさんのクラス担任らしい。
成程、それなら別に変じゃない。
……いや、変だよね。なんで腕を組んでるのさ。なんでお兄ちゃんの背中に抱き着いているのさ。
お兄ちゃんもお兄ちゃんで満更じゃなさそうな顔をしているし。これは一体どういうことなの!?
〇月〇日
ボクはついにお兄ちゃんにタキオンさんについて問いだした。
そしたらお兄ちゃんは特に驚きもせず、
「俺、アイツと付き合ってるんだよ。ちなみに内緒な、これ」
何ていうか悟りを開いたようにあっさりしていた。むしろ驚いているボクがバカみたいに思えたよ。
だからと言ってそう簡単に納得できるわけもないので、ボクはタキオンさんをちゃんと紹介しろと言えば、
「……タキオン? うん、俺だけど。ちょっと俺の家に来てくれないか……ああ、じゃあまた。……今から来るって」
まさかその日に会うとは思わなかった。
そして1時間もしないうちにチャイムが鳴ってボクは玄関のドアを開けた。
「いやぁ、ま、まさかキミから家に来てほしいだなんて。やれやれ、まだ明るいというのに情熱的だねぇ。ま、まあ、私は全っ然構わないんだけけどねっ! ……で、なんてここにトウカイテイオーがいるんだい」
「どうも。うちのお兄ちゃんがお・世・話になってます、タキオンさんっ」
「え゛」
これがボクとタキオンさんのファーストコンタクトである。
〇月〇日
憂鬱だ。
折角の休日をお兄ちゃんと過ごせる貴重な兄妹の時間が、タキオンさんの登場で台無しになってしまった。
なにより一番ショックなのが、お兄ちゃんの料理の味が変わったのは全部タキオンさんの所為だということだ。
くそぉ、今までボク専用だったのに、いつのまにボクはタキオンさん用の料理を無自覚で食べていたなんて。こんな屈辱はないよぉ……。
それにボクの特等席だったお兄ちゃんの膝枕まで盗られるし。タキオンさんはタキオンさんでお姉ちゃんって呼べってうるさい。
そんなお兄ちゃんはボク達を放り出してどこかへ行っちゃうし。
タキオンさんはタキオンさんでなんかいじけちゃうし。そしたら絡み酒ならぬ絡みウーロン茶で、お兄ちゃんとのイチャイチャ話と愚痴を聞かせられるし。本当に今日は散々な日だよ。
ただタキオンさんがお兄ちゃんが好きなのは伝わった。でも、お兄ちゃんはどうなんだろうか。だから夜にボクはお兄ちゃんに聞いたんだ。
「ねえ、お兄ちゃんはタキオンさんのこと本当に好きなの?」
「好きだよ」
「その割には扱いが雑だよね」
「そう見えるのは仕方がないとは思ってるよ。だけど、アイツは甘やかすとすぐ調子に乗るから。それに好きじゃなかったら、毎日弁当作らないし、アイツ好みの味になんかしないよ。それに」
「それに?」
「イジられてるタキオンって可愛くてな。ついイジメたくなるんだよね」
「あーね」
ボクはそれを聞いて奇妙なぐらい納得してしまった。確かにイジられた時のタキオンさんは可愛い。いつも余裕そうにしている彼女が、そのペースを崩されてあたふたしている時なんて特に可愛いのだ。
しかしだ。ボクには一つだけ引っかかっていることがある。
「ちなみにさ。マンハッタンカフェさんとはどういう関係なの」
「え、友達」
本当だろうか。もしかしてタキオンさん最大の障害は彼女では、とボクは訝しんだ。
──結論 きっと二人はいい姉妹になれそうだ。
しっとり成分が足らない。